ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・と空気がうねりを上げていき、ピィンと張り詰めていく。
「・・・・・・ふ、ふふくくく!オメェよぉ〜」
僕は両手で目の前の男の右手を強く握りしめている。決して離してなるものか。今この場で、この敵は確実に始末しなくっちゃあならない。
「『健気』じゃあねぇか・・・えぇ?おい。今の攻撃、流石のオラもかなり度肝を抜かれたが、わかってんだろぉ〜?今の一撃、『全力で打てなかった』ってよぉ〜・・・・・・」
先ほど、僕の『守護霊』みたいなのに顔を殴られたせいで、男は鼻血を垂れ流している。だが、その顔に恐れや、驚愕といった感情はもはや無い。恐るべき持ち直しの早さだ。
確かにヤツの言う通りだ。僕の『感覚』でしかないが、本来の『力』があったならば、さっきの一撃でコイツの意識を刈り取れるハズだった。だが僕が思っていた以上に、パンチに威力が乗っていなかったのも確かだ。
何かをされている。具体的にはまだわからないが、恐らく僕の『守護霊』は弱体化されている・・・!
僕に右手を掴まれたまま、男は左手で自分の鼻を掴み、ブッと鼻血を吹き飛ばした。吹き飛ばされた鼻血が、ビチャッと音を立てて水族館の床を汚す。
(コイツ・・・戦い慣れているな?この程度のダメージ、どうって事ないってワケか)
男は左手を鼻から外すと、まるで僕を見下すような視線を向けてきた。
「『同情』するぜぇ。『能力の三分の一』と『記憶』を失ったまま、それでもオラと戦うことを選んだオメェによぉ〜。『欠陥』は悲しい事だ。物凄く、辛い事だぜ」
「同情?」
その単語に、僕の眉毛がピクリと震える。
「お前に『同情』される事なんて何も無いな。むしろ僕の方こそ、お前に『同情する』よ。もはやお前の行き着く先は決まってるんだから、な」
「ふひりッ!すげぇ強がりだなぁ!だが気に入ったぜぇ〜!小僧だと思って舐めてたがよ・・・物凄く失礼な行為だった、なぁ!!」
至近距離で男の膝蹴りが飛んでくる!だが僕もそれに合わせて蹴りを放ち、敢えてぶつける事で衝撃を相殺した!
ギリギリと、互いの蹴足で鍔迫り合いをしながら、目の前の男が優しげに囁く。
「『公平さ』が大事だぜ・・・オラはオメェに『敬意』を表したい。コレほどの精神力の持ち主は中々いねぇ・・・。その上で、オメェが『欠陥』を抱えたままでは、オラのプライドが『納得』しねぇ」
「なんだ。返してくれるっていうのか?『記憶』を」
「いいや。だがオラの能力は教えてやる。『あと2回』だ。オラの能力が発動したら、オメェは次に『名前』を、その次には『全て』を失う!」
男が空いた左手で殴りかかってきた!それを、僕は『守護霊』の右腕で防ぐ!
「『記憶』を失ってんのによぉ!まるで『身体が戦い方を覚えてる』っつー感じだなッ!」
「無駄ァッ!!」
僕の『守護霊』がお返しとばかりに拳を叩き付ける!だがそれを、男は軽く身を捩ることで躱した。
「!?」
「ふひり!さっきよりも『遅ぇ』!そんなんじゃあ俺を仕留めるのは夢のまた夢だなぁ〜!」
男が掴まれている右手を捻り、僕の両手を外そうともがく。だが、逃しはしない!この至近距離!どんなに身のこなしが素早くても、僕の『守護霊』の拳のラッシュを躱すのは至難のハズだ!
「無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!」
ラッシュが男に襲い掛かる!
「躱す必要はねぇーッ!オメェの──」
バギィッという打撃音!顎に来る強い衝撃と共に、僕の視界が強制的に上を『向けさせられた』!
「がっ、ふッ!?」
「──攻撃なんぞよぉ!この距離だ!簡単に潰せるぜッ!!」
こ、コイツ・・・下から僕の顎を蹴り上げたのか・・・!この至近距離で!腕を掴まれている状態で!
思い切り揺さぶられた僕の脳!再び僕の意識が暗闇に落ちかけたが、ここは歯を食いしばって耐えるしかない!
「無駄ァッ!!」
「ご!?ふぅッ!?」
『守護霊』の拳を脇腹に叩き込んでやった!いわゆるボディブローってヤツだ!
互いの攻撃の衝撃で、僕と男の距離が再度広がろうとした。それを防いでいるのは、お互いに握りしめた手と手。衝撃に任せて、僕と男の両腕がびぃんと伸びて止まった。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
「はぁッ!はぁッ!ふ、ふひりッ!面白ぇぜ、ジョルノ・ジョバァーナ!オメェの精神力、並のスタンド使いには決して出せねぇ!」
ぐいんっと、僕の腕が引っ張られる!体勢を整えきれてなかった僕の額に、ガシャンッと大きな衝撃!
ず、頭突き、だと・・・ッ!?
「チェーンデスマッチ、ならぬシェイクハンドデスマッチってヤツだなぁ?」
再度揺らされた脳が、僕の足から力を奪う。グラグラと足元が揺れる感覚を我慢する事ができず、僕は思わず床に膝をついてしまった。
「膝をついたなぁ。教えてやるぜジョルノ・ジョバァーナ。今オメェは崖っぷちだぜ?オラの能力の発動条件を、あと少しで満たしちまうからなぁ?」
!!
この、姿勢か!?僕が跪いている状況・・・という事はッ!
「地面か!貴様の能力の発動条件は!」
「いいねぇ!70点くれてやる!だが、そこまでわかったところで・・・・・・」
目の前の男が足を持ち上げる。その足は、踵を僕に向けていて──、
「無駄なんだヨォーーーッ!!!」
蹴りのラッシュが僕を襲う!
「ぐっ!うぐぁ!?」
マズい!跪いた状態では反撃もままならない!ヤツの蹴りに、僕の体はどんどんと地面に押し付けられていき・・・・・・、
「うおあッ!?」
「着いたな!?『地面に右手を』!!オメェは再び奪われるぜぇーーーッ!!」
ヤツが勝利の雄叫びを上げた途端、僕の中から『大事なもの』が抜けていく感覚!
僕の魂から、『僕の名前』がごっそりと抜かれていった!
(な、『名前』が抜かれるという感覚ッ!これは、デカい!僕という人間の人生は『名前』と共にあった!根底にあったと言ってもいい!それがごっそりと抜ける感覚は・・・!)
僕の意識を飛ばそうとするには十分な威力だった。
だがッ!!
「うぐううううううう!!」
僕は制服の内側に入れていたボールペンを咄嗟に取り出すと、『敵』と繋いだままでいる左手に深々と突き立てていた!!
「な!?」
「驚いている暇があるのか?随分と余裕を見せてくれたが!!」
僕は一気に立ち上がり──、
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!」
僕の持つ全霊で以て、拳のラッシュを叩き込んだ!
「ぐ!?ぐっぱああああああ!?」
男がラッシュに耐えきれずに吹っ飛ぶ!
「ご、コイツ!なんだ、オメェは!?ここまで『奪われておいて』!なんで怯まねえ!?」
「怯む暇はない!お前と違って僕は忙しいからな。お前如きに使う時間なんて無駄なんだ。さっさと終わらせてもらおう!」
咄嗟の攻撃に僕の手は男の手を離してしまったが、些細な問題だ。ラッシュを叩き込めたなら、僕の『勝利』だからな。
「お前の能力の発動条件。完璧に掴んだ。『地面に手をつく』事で発動するスタンド。だが、そうとわかれば大したことはないな」
「お、オメェよ〜〜〜!!」
殴り飛ばされた男がよろめきながらも立ち上がる。
「調子に乗ってるなぁ〜!オメェの『スタンド』は残り三分の一だ!残ってるのはそれしかねぇ!その程度のパワーで、俺を仕留めたつもりになってんならよぉーーーッ!」
男は吹き飛ばされた先で、先程から水族館の『床に倒れていた男』を両手で掴んで抱き起こす。
「オメェに記憶はねぇだろーがなァ!!コイツはオメェにとって『重要な人物』だぜ!?今この場で、始末して欲しくなけりゃあ『スタンド』を仕舞いなぁ!!」
・・・・・・おいおい。ウソだろ?コイツ。追い詰められた途端、いきなり小物に成り下がったぞ。さっきまでの強者の風格は何処に行ったんだ?もしかして、今までの人生で誰かに追い詰められたって事がないのか?
そもそも『記憶』も『名前』も失った僕に対して、人質だと?ハッキリ言って、僕にとってはそんな人質、なんの価値もない。
『記憶を失う』前の僕が、そんな人選をするわけがないと確信できる。僕にとって本当に重要であるならば、『人質に取られて交渉材料にされる』。そんな間抜けな事態を引き起こす人間なんてハッキリ言って要らないんだ。
目の前の床に倒れていた『男』。今この時点で僕にはなんの価値も見出せない男だが。
「『スタンド』?とかゆーヤツは仕舞ってやる。だが、それでお前は満足なのか?」
「あぁ!?何を言ってやがる!?」
「別に、大した意味は無い。ただ、物事はとても簡単なんだ。僕がその『スタンド』ってヤツを仕舞った程度で、お前は満足するんだな?」
「・・・・・・は?うおぉッ!?」
目の前の人質に取られた『男』は──、
「ぐへぇ!?」
今し方、自分を『人質』に取った男を背負い投げして、地面に叩きつけていた。
「・・・・・・んぁ〜〜、何が何だかわからんが、お前さん、『敵』だな?俺を拘束しようとしてたって事は、よく分からんがとりあえず敵だ。合ってるよな?」
僕の『敵であった男』を地面に叩き付けた無精髭の『男』は、僕にとても軽い調子で問いかける。
「さっぱりわかりませんが、合ってるんじゃあないですか?」
「オーケィ。物事はそれくらいシンプルがいい。金髪少年。お前さんのことはさっぱり記憶にないが、信用できると思っておこう」
「ぐ、ぐふ!?テメェらッ!!」
地面に叩き付けられた男は、僕が思ってたより頑丈なようだな。悪態をつく余裕くらいはあるようだが、今しがた『敵』を投げ飛ばした『男』の余裕には敵わないだろう。
「だらしない格好の貴方。貴方は敵ではない。そこは良いですね?」
「知らん。ただ、コイツをぶちのめすってんなら、とりあえず同意だ」
「や、ヤロウ!!『フェアーグラウンド・アトラクション!』」
「無駄ァッ!!」
僕は地面に倒れ込んだ『敵』に向かって拳を叩き付ける!
「ぐぺ!?」
「無駄なんだ。ここまで来たら、お前の抵抗なんてものは。それとも、もっと拘束すべきだったか?なら・・・・・・」
僕は、僕の『守護霊』の名前を咄嗟に声に出す。
『ゴールド・エクスペリエンス!!』
合っているかは分からないが、僕の感覚が叫んでいる。これで『正解』だと!
その僕の叫びを聞いた瞬間──、
「ぐ、ぐええええ!?」
すでに生命を与えておいた『敵』と思われる男の衣服が、途端にその姿を変える。
シマウマをも締め殺して飲み込む、巨大なニシキヘビに!!
「ぐああああああ!?ち、ちくしょう!?」
「チェックメイトだ。お前が何の目的で僕達に近付いたのか、そこら辺はサッパリわからないが──」
「ぐ、ぐえッ!?」
「お前が『再起不能』になる未来は、変わらなかったな!!」
ニシキヘビが、地面に倒れた『敵』を締め上げていく。
『敵』の意識は飛ぶ寸前だが、トドメはキッチリ刺したいからな。
「あ〜、貴方。名前はわからないが・・・」
「ん?」
「とりあえず、蹴りますか?」
「お!そいつは良い!なんか知らんが、無性に鬱憤を晴らしたい気分でな!」
「それはよかった。では──、」
「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアアアッ!!」」
僕たち二人の蹴りのラッシュによって、男は完全に意識を失った。
コイツのスタンドもボロボロになって崩れていく。間違いなく、再起不能になっただろう。
・・・・・・ああ。ようやく思い出した。たしかこの敵、『グレしん』とか名乗ってたな。まぁ、記憶を失ってたぶん、だいぶ印象は薄いが。
まぁ、もう2度と思い出す事もないだろーがな。
つづく