ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
そこからの三日間は、怒涛の連続だった。
今までの訓練もそうだったが、シンジ君とラングレーは四六時中一緒の行動を取り、ツイスターゲームのような訓練は勿論のこと、起床時間や食事のタイミング、朝の歯磨きやなんやらと、「なんだコイツら、付き合ってんのか?」と思うほどの協調ぶりを周囲に見せつけていた。
もちろん、ラングレーが訓練に対して妥協する事は一切ない。シンジ君がミスをすれば思い切り蹴り飛ばすし、力関係で言えばラングレーの方がシンジ君を尻に敷いているといった様相ではある。
・・・・・・あるんだが、なんというか、シンジ君はそれを持ち前の包容力で全て受け入れているようにも見える。もちろん、お互いに相手に対してキレるタイミングというのはあったんだろうが、はっきりいって傍から見れば、それはただイチャイチャしているようにしか見えなかった。
なんでこの二人はくっつかないんだろう。この三日間の、僕の純粋な疑問だ。
四六時中一緒に行動して、テレビ番組の奪い合いなんかも見させられたが、今までシンジ君と共に行動していた僕からしてみれば、シンジ君がここまで『自分』を出して『異性』と接しているところは見たことがない。それは、僕と同居している綾波さんや、シンジ君と同居している葛城さんに対しても見せたことのない態度だ。
もっとも、綾波さんは完全に僕(というか僕の料理)に依存しているので、そういった隙を見せない、というのもあるとは思うんだが。・・・いや、逆に綾波さんの場合は隙だらけ、なのか?
そんな僕といえば、ネルフの仕事で家を空け気味の葛城さんに代わって、シンジ君とラングレーの食事の世話などをしているワケで。その度に、ラーメンやパスタを同じタイミングで啜り合う二人の姿を見せ付けられているワケで・・・・・・。
なんだ?僕は何を見させられている?もうお前ら、はっきり言ってそのまま結婚でもすればいいんじゃあないか?と思うほどのシンクロっぷりを見せ付けられて、ため息を通り越してゲップが出そうなほどだ。
昨日なんかは洗濯物を干しながら、二人して一つのカセットテープを聴き、全く同じタイミングで指を動かしてリズムまで取っている場面を見せつけられた。その瞬間の二人の表情は真面目そのものなのだが、傍から見れば「なんでこの二人はここまで同じタイミングでリズムを取り合えるんだろう」と本気で不思議に思った。
だんだんと、僕の中でも「コイツら爆発しないかな」と思う気持ちが強くなってきたので、3日目の夕食に激辛パスタを用意してやったのだが、その時の辛さに身悶える様子すらシンクロしている様を見せつけられて、僕のお腹はいっぱいいっぱいになってしまった。
もう、なんだ。本当に君たち、なんなんだ。
マジでもう、なんていうか──、
「君たち、付き合ってんのか?」
思わず聞いてしまった僕の疑問には、二人して「はぁ!?」とガチのキレ気味に問い返されてしまい、僕の中でも「もう勝手にやってくれ」と匙を投げる状況だったと言わざるを得ない。
そして、第7の使徒との決戦前夜。
僕とシンジ君とラングレー、そして綾波さん(彼女の分だけ三人前だが)の夕食に軽めのリゾットを用意して、四人で遅めの夕食を済ませた後のことだった。
「・・・・・・今日、ミサトは?」
ラングレーが唐突に、しかしその声音はとても緊張した様子でそんな言葉を発した。
「仕事。今夜は徹夜だって。さっき電話があったよ」
シンジ君はそんな機微に一切気付かず、穏やかな声でラングレーに返事をする。
「・・・・・・じゃあ、今夜は二人きりってわけね」
・・・・・・随分と、間を持たせてラングレーはシンジ君に返答した。
僕と綾波さんはそんな二人を尻目に、食べ終わった後の食器の後片付けをしている。まあ、この三日間、葛城邸でシンジ君とラングレーのお世話をしていた習慣というべきか。いうべきなんだが・・・・・・。
はっきり言うぞ?
ラングレーの奴、今夜一線を越えるつもりだな?
そう思ってしまった僕の直感は間違いでは無かったはずだ。
この数日、葛城さんとシンジ君とラングレーがリビングで川の字で寝ていた事を僕は知っている。間に葛城さんがいた事で間違いは起きなかったようだが、その葛城さんが居なくなればどーなるか。
僕、と一応食器洗いを手伝ってくれる綾波さんを横目に、ラングレーは自分の寝具を、リビングの隣のツイスターゲームの特訓用の部屋に持っていく。
「これは決して崩れる事のないジェリコの壁!!」
ラングレーは「なんでそんな大声で宣言するんだ?」と言うほどの大声でシンジ君に宣言した。
「はぁ・・・」
うぉい!!シンジ君!その反応はあまりに淡白すぎるんじゃあないか!?
思わずツッコミたくなる衝動を、僕は必死で殺した。殺したんだ。殺しきれていることを祈る。
「この壁をちょっとでも越えたら死刑よ!!子供は夜更かししないで、早く寝なさい!」
その言葉と共に、ラングレーはリビングの襖をピシャンと閉める。
「・・・どうして日本人は床の上で寝られるのかしら。信じらんない」
襖の向こうからラングレーの呟きが、僕だけでなくシンジ君や綾波さんにギリギリ聞こえる程度の声量で聞こえてくる。
それを聞いた瞬間、僕の中で何かがキレたんだと思う。
「綾波さん」
「なに?ジョルノ?」
「食器、手伝ってくれてありがとう。あとは僕がやるから、先に部屋に戻ってくれないか?」
「・・・・・・?わかった」
綾波さんが純粋で助かった。綾波さんは静かに部屋を出ていき、僕たちの部屋に帰っていった。
さて。
僕としても、はっきり言って我慢の限界だった。それは許してほしい。というか、無理だろう。ここまで見せ付けられては。
シンジ君は僕に対して「いつもありがとうね」なんてふざけたお礼を言ってくるが、無視する。はっきりいって、僕は限界だった。
「ジョルノ君・・・?」
シンジ君が何かを察したように声を掛けてくる。
だがな!
ここまでフザケたラブコメを見せられて、冷静で居られるほど僕は大人じゃあないんだ!!
僕はラングレーが締めた襖の前まで静かに近付くと──、
「いい加減にしてほしいんだがな」
殺意を込めた声で、閉じられた襖をズパァンッと開け放った。
「・・・・・・・・・え?」
襖を開けた先で、なぜか四つん這いで俯いていたままのラングレーが間抜けな声を上げる。それを僕は、特に気にする風でもなく見下ろしていた。
ラングレーの顔が僕を見上げる。その顔は、最初、何が起きたかを理解できずにいたが──、
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
その顔は一気に真っ赤に燃え上がり、あまりの恥辱に身を捩らせたいかのような仕草を見せた。
それを!僕は右足で踏みつける事で動きを封じる!
「ちょ!?何すんのよ、ジョバァーナ!!?」
「うるさい。黙れ。あぁ、すまないが今の僕は冷静ではない。そこだけは先に謝っておく」
そこまで言うと、僕はラングレーの首根っこを掴んで、シンジ君の布団に投げ込んだ。
「うえぇ!?」
「うきゃん!?」
シンジ君と、シンジ君へと投げつけられたラングレーが悲鳴を上げるが知ったことじゃあない。ここまでキレたのは本当に久々だ。彼らがこの後どうなるのかはまでは知った事じゃあないが、どうせなるよーになるんだろ?
「ごゆっくり」
僕は精一杯の皮肉を込めて、葛城邸を後にした。まあ、もしも隣の部屋から嬌声なんて聞こえようもんなら、綾波さんの情操教育に良くないからな。今夜は早めに、しかもリビングで寝るように綾波さんに勧めたが。
まぁ、綾波さんからしたら意味がわからないだろーからな。彼女には可哀想な事をしたと思うが、そこは親心と思って納得してくれる事を願う。
もっとも、本来であればそこまで僕が気を使う様なことでもないんだがな。
僕は冷蔵庫で冷やしておいた赤ワインをグラス一杯仰いだあと、早々に寝床についた。
酒!飲まずにいられない!!
▼△▼△▼△▼△
床に敷かれた布団の上でアスカを抱き止めたシンジは、この状況をどうしたらいいか全く分からず、ただ、硬直していた。
腕の中にある、女の子特有の柔らかい感触。いけない、と頭ではわかりつつも、理性が上手く働いてくれるはずもなく。
シンジの腕の中にいるアスカも同様。男の子特有の適度に引き締まったゴツゴツとした体の感触に、身を凍らせていた。
しかし、嫌、ではない。
むしろこの三日間、常に隣にいた存在とここまで近付いて、身を寄せ合うという行為に、たとえそれがジョルノによって齎された事態であっても、どこか甘い気持ちが芽生え始めているのをアスカは感じていた。
この瞬間を、もう少し味わっていたい。
そんな気持ちを先に振り払ったのは、アスカだった。
「ご、ごめんシンジ・・・・・・今、どくね?」
そういって離れそうになるアスカを、シンジは優しく抱きしめて引き留めた。
アスカの心臓がどきんと跳ね上がる。
「し、シンジ・・・・・・?」
「ごめん、アスカ・・・・・・でも、もう少しだけ、このまま」
シンジの腕がアスカの背中に回される。アスカは顔を赤らめさせたが、そのままシンジの腕を受け入れた。
だが、部屋の照明がついたままだ。そんな状態でお互いの顔が至近距離にあるという状況は、なんとも言えない恥ずかしさがあった。
「ねぇ、シンジ・・・・・・電気消していい?」
「え、なんで?」
あまりのデリカシーの無さに、アスカの額にビキィッと青筋が立った。
「い!い!か!ら!電気消してきてよ!バカシンジ!」
「うわ!?ご、ごめん!」
アスカの背に回されていた腕が離れ、シンジが照明を落とそうと立ち上がる。たったそれだけの動作で、アスカは「あ・・・」と声を上げる。その胸にはわずかだが寂しさが去来していた。
シンジが部屋の電気を消す。それを、布団の上で座り込んだまま見つめるアスカ。月明かりが部屋の窓から漏れて、室内は仄かに明るい。
「シンジ」
アスカは座り込んだまま、両手を広げる。
「おいで。甘えん坊さん」
「はは、なんだよそれ」
シンジは苦笑いしながらも布団に戻り、アスカの背に再び腕を回した。お互いを抱きしめ合いながら、二人は布団に横になる。
アスカは今の状況が少しだけおかしくなったのか、ふふっと笑みを溢した。
「アスカ?」
「ん・・・・・・なんでも無いわ。ところでさぁ、シンジってファザコン?」
「うぇ!?い、いきなりなんだよ・・・?」
「だってあんた、いつも碇司令の事を気にしてるじゃない?」
「まぁ、それは気にはするよ。一応僕らの最高司令官だし、その人が僕の父さんってのも、なんだかいまだに実感わかないんだけど・・・・・・」
シンジはそこまで言うと、クスリと笑みを浮かべた。
「何よ」
「いや。でも、もう最初にネルフに来た時ほど気にはしてないよ。ジョルノ君が居てくれた、からね」
「・・・・・・そう。ジョバァーナが、ねぇ」
シンジを抱きしめながら、アスカはなんとなくジョルノの事を思い出す。
「アイツ、はっきり言って気に入らないけど、なんか不思議とアイツの言ってる事が真実っつーか、核心を突いていたりすんのよね・・・そこがまた、気に食わないんだけど・・・・・・」
「アスカもジョルノ君と付き合っていけばわかるよ。彼は良い人だし、なによりスーパーマンなんだ」
「はぁ?スーパーマン?何それ、どういう意味?」
「ふふ、そのうちわかるよ。アスカも・・・・・・」
「ふーーーん・・・・・・?」
アスカはそう言うと、さらにシンジにしがみつく。というより締め上げるといった力具合だったが。
「ち、ちょっとアスカ?痛いよ?」
「この状況で、他の男の名前出すなんて、本当にデリカシーがないのね?このバカシンジ」
「ええ・・・・・・」
困惑するシンジの胸に、アスカは顔を埋めた。そして甘えるように顔をすりすりと擦り付ける。
「・・・・・・アスカだって、甘えん坊さんじゃないか」
シンジが笑う。その顔を見逃してしまった事を残念に感じたアスカは、シンジの胸から顔を離し、シンジの顔を見つめた。
二人の顔の距離はこれ以上ないほどに近付いていた。もう少しで互いの額がぶつかるのではないかと思えるほど、近くに。
シンジの心臓がどきんと跳ね上がる。
しかし、シンジの淡い期待とは裏腹に、アスカはニッコリ笑って再びシンジの胸に顔を埋めた。
「確かに、アタシ、甘えん坊かもね。まさかバカシンジに抱きしめられて・・・・・・その、なんか、そのぅ・・・・・・」
「ん」
「・・・・・・嬉しいって、思ってる」
「アスカ」
シンジは優しくアスカの頭を撫でる。一瞬だけビクンと跳ねるアスカであったが、やがて慣れたのか、シンジに撫でられたまま、シンジの胸の中で嬉しそうにみじろいだ。
「・・・・・・・・・・・・バカシンジ。アタシ、ね」
「うん」
「ママが・・・・・・死んじゃったの。もう本当に、小さい頃だったけど」
「・・・・・・え」
「ママに認めてもらうため、アタシは頑張ってきた。いつかママがアタシの頭を撫でてくれる。そう思って、エヴァの訓練もめちゃくちゃ頑張ったわ。そして、エヴァパイロットとして認められて、アタシは急いでママのところに走っていったの。そこではママが、笑顔で迎えてくれるって、期待して・・・・・・」
アスカの頭を撫でていたシンジの手が止まる。腕の中のアスカは、微かに震えていた。
「でも、たどり着いたママの部屋で、ママは首を吊って死んでたわ・・・・・・もう、アタシを褒めてくれる人はいないんだって分かって、アタシは途方に暮れてた・・・・・・」
「アスカ・・・・・・」
「あのムカつくジョバァーナの言う通りなのよ。本当のアタシはママっ子。ママの姿を、今でも探し続けてる・・・・・・」
アスカの目から、小さく涙が溢れた。
それを、ゆっくりと優しい手つきで拭ってやるシンジ。
「シンジ・・・・・・?」
「ごめんね、アスカ。ありがとう。僕に教えてくれて」
「・・・・・・ハッ!なんであんたなんかに、こんな話してんのかしらね、アタシ」
アスカは顔を上げて、シンジの額に自らの額をコツンと当てた。
「この6日間、本当に楽しかったわ。ムカつくこともいっぱいあったけど、あんたとユニゾン組めて、アタシ、楽しかった」
「そ、それは僕の方もだよ。楽しかったし、嬉しかった。なんだか、僕の心の隙間をアスカが埋めてくれたような気がして」
「ふふ・・・・・・、アタシたち、なんだか似たもの同士なのかしらね」
「そうかもしれないね」
二人して、声を忍ばせながら笑う。
その二人の目が、唐突にばちっと合った。
「・・・・・・ねぇ、シンジ」
「・・・・・・なに?アスカ」
「・・・・・・アタシのこと、嫌い?」
「なんでさ」
シンジがアスカの瞳を見つめたまま、優しく微笑む。
アスカはその向けられた瞳が嬉しくて。
愛おしくて。
「ねぇ、シンジ」
「キス、しよっか」
目に涙を溜めながら、アスカがシンジに言葉を投げかけた。
それを受け取ったシンジは驚いたように目を見開いたが、ゆっくりと、その顔をアスカに近付けていく。
アスカはそれを受け入れるように目を閉じた。
二人の距離が、ゆっくりと、確実に近付いていく。
二人の唇が触れ合う瞬間──、
「ふふふふ。あんた、本気にしたの?」
アスカの人差し指が優しくそれを遮った。
「ん?え?えぇ!?ご、ごめん!そんなつもりじゃ・・・・・・」
「じゃあどういうつもりだったのよ、バカシンジ」
「えと、それは、うぇっと、その・・・・・・」
「シンジ」
困り果てたシンジの頬に柔らかいキスの感触。それを認識した途端、シンジの体が固まった。
「今日はここまで。続きは、明日の使徒を片付けたら、考えたげる」
イタズラっぽく笑うアスカに、シンジの毒気も抜かれた。シンジはお返しとばかりにアスカの頬に軽くキスをする。
「〜〜〜〜ッ!?」
「お返しだよ。続きはまた、だよね?」
「・・・くぉの!バカシンジ!!」
アスカはあまりの恥ずかしさに、シンジに思い切り抱きついて、その顔をシンジの胸に埋めた。
「明日、ミスしたら承知しないから」
「大丈夫。僕たちなら、きっと」
「・・・・・・続き、忘れないでよね」
「忘れないよ。絶対」
そう言って、二人は目を閉じる。
抱きしめ合いながら、ゆっくりと眠りにつく二人。
その二人を、窓から溢れた月光が、優しく包み込んでいた。
つづく