ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
「二分前に突然現れました・・・!」
第二発令所は、蜂の巣を突いたかのような騒がしさだった。そんな中でも、オペレーターである日向さんの声はよく通る。
今日はネルフの生体部品製造スタッフとしてのアルバイトをしていた僕は、突然の警報とアナウンスに、仕事を放り出して発令所に急いだわけだが、そこにはすでに、ネルフの首脳陣が勢揃いしていた。
僕はオレンジ色のツナギのファスナーを下ろしながら、額に浮かんだ汗を拭う。
使徒。第10の使徒の出現だった。とうとう2桁の大台に乗ったワケだな。
『第6サーチ、衛星軌道上へ』
『接触まであと2分』
「目標を映像で捕捉」
青葉さんの報告と共に、発令所のモニターに巨大な使徒の映像が映し出される。それを僕は、皆の邪魔にならないように、発令所の入り口脇で眺めていた。
「「おお・・・・・・」」
職員の間で驚きの声が上がる。
無理もないな。まるで紅くて巨大な目玉だ。使徒ってヤツは、僕たちの常識に則った形態を取るって事をしてくれないらしい。
「こりゃすごい・・・!」
「常識を疑うわね」
流石の葛城さんも呆れ気味に驚きの声を上げていた。
まぁ僕としては、使徒がどんな形をしていようが興味はない。問題は、この目玉のオバケみたいな使徒がどんな行動を取るのか。それだけが気掛かりなのだが・・・・・・。
「目標と、接触します」
青葉さんの言葉と共に、映像内に、使徒を挟み込むようにして二つの人工衛星が映し出された。
『サーチスタート』
『データ送信、開始します』
『受信確認』
人工衛星の通信がやり取りされ、ネルフ本部の発令所にデータが送られているようだ。
だが。
『解析開始』
その言葉を最後に、映像はプツンと途切れた。最後に映ったのは、人工衛星がなんらかの力によってひしゃげて潰れる瞬間。
「ATフィールド!?」
「新しい使い方ね」
なるほどな。絶対領域であるATフィールド。僕たちは普段「無敵のバリア」として使っているが、攻撃にも転じることが可能というワケだ。
巨大なモニターに砂嵐が流れる。
「観測と解析を継続して!使徒が現れて、何もしないなんて事ないはずよ!」
腹から出した強い葛城さんの言葉に、発令所は再び蜂の巣を突いたかのような騒ぎになった。
◇
「ジョルノ。あんたは先に帰って休んでてもいいのよ?」
「そうはいかない。どーせこの後、出撃命令が出されるんでしょう?だったら一度帰るより、ここで待機していた方がマシですから」
葛城さんの気遣いの言葉を、僕は優しく否定した。今の僕は、作戦会議を行なっている皆さんにコーヒーを配るお茶汲み要員だ。
「まぁ、あんたがそれでいいなら構わないけど。ところで砂糖ある?」
「ありますけど、太りますよ?」
「今は糖分が必要なのよ。これから脳をフル回転させなきゃなんないからね。それにしても──、」
葛城さんは、作戦室の中央に置かれた巨大なテーブル。そこに映し出された写真を食い入るように見つめる。写真はどこかの海に着弾した、使徒の爆撃の結果を映し出していた。
それは、まるでサークル状のサンゴ礁を思わせる形状をしていたが、実際のところは使徒の爆撃によって出来たクレーター内部に海水が侵入したような、巨大な爆撃跡だった。
「大した威力ね・・・さっすが、ATフィールド」
「落下のエネルギーをも、利用しています。使徒そのものが爆弾みたいなものですね」
伊吹さんの補足が入る。要は今回の使徒は、自分の身体を少しずつ切り離して、衛星軌道上から落下させているらしい。
まさしく、爆弾だな。
「とりあえず、初弾は太平洋に大外れ。で、2時間後の第2射がそこ。後は確実に誤差修正してるわ」
赤木博士が僕の入れたコーヒーを飲みながら、テーブルに映し出された写真を指でスライドさせていく。赤木博士の言う通り、爆撃跡は徐々に日本へと近付いてきており、最新の爆撃跡はとうとう日本に命中していた。
「学習してるってことか・・・」
葛城さんの呟きと共に、テーブルの映像が切り替わる。衛星軌道上の使徒を映し出したものだったが、どうやら人類側が反撃をしている写真らしい。夥しい数の爆炎が一緒に映り込んでいた。
もっとも、そんな程度で使徒がやられるワケはないと、僕たちはすでに知っているが。
「N²航空爆雷も、効果ありません」
「以後、使徒の消息は不明です」
日向さんと青葉さんの報告を受けた葛城さんは、顔に薄く笑みを貼り付けている。隣の赤木博士も同様だ。
「くるわね、多分」
「次はここに、本体ごとね」
「その時は第3芦ノ湖の誕生かしら?」
「富士五湖が一つになって、太平洋とつながるわ。本部ごとね」
だろーな。使徒の一部を落としただけであの威力だ。本体そのものが落ちてくるとなると、この周辺なんて、ひとたまりもないだろう。
「南極の碇司令は?」
「使徒の放つ強力なジャミングのため、連絡不能です」
「MAGIの判断は?」
「全会一致で撤退を推奨しています」
そりゃあそうだろうな。落ちてくるとわかっている爆弾を、わざわざ受けてやる必要はない。
ただ、一つだけ気掛かりな事がある。それはネルフの地下深くにあるかもしれない、『アダムと同等の何か』の存在だ。
この使徒が、勝手に落下してきて勝手にくたばってくれるなら問題ない。だがもし、落下後もこの使徒が生きているとしたら。
それは、加持さんの言っていた『サードインパクト』を引き起こす可能性がある。それだけは避けなくてはならない。
だがそーなると、厄介だな。
僕の背筋に冷たい汗が流れる。
「どうするの?今の責任者はアナタよ?」
赤木博士が葛城さんに問い掛けた。それに対し、葛城さんは一切の迷いなく即答した。
「日本政府各省に通達。ネルフ権限における特別宣言D-17。半径50キロ以内の全市民は直ちに避難。松代にはMAGIのバックアップを頼んで」
「ここを放棄するんですか?」
日向さんの質問に対して、葛城さんは首を振った。その瞳には、何かの強い意志が宿っているようにも見える。
「いいえ・・・・・・ただ、みんなで危ない橋を渡る事はないわ」
危ない橋。やっぱりな。葛城さん、今回もかなり無茶苦茶な作戦を口にしそーだ。
「葛城さん。貴女の意見を聞く前に一つだけ確認したい。使徒落下中の狙撃は可能なんですか?」
「わかりきった答えだけど、MAGIはなんて言ってる?」
「全会一致で不可能と出てるわね・・・・・・そもそも、エヴァパイロットの技量の問題よ。超高速で落下してくる対象を狙撃する腕、アナタたちにあるかしら?」
無いな。確実に。あるとしたら軍属経験のあるラングレーくらいだろーが、アレはどちらかと言うと近接格闘向きだからな。
と、なると──、
「葛城さん。貴女の考えは・・・・・・」
「決まってんじゃない」
強い意志を宿した葛城さんの瞳が、この場の全員を見回した。
「受け止めんのよ。エヴァの両手で、ね」
やはり、か。
いや、言ってくるだろーな、とは薄々勘付いていたが、全く。
だが、今回は僕もそれ以外の手段が思いつかない。狙撃が不可能、退避も『サードインパクト』の可能性がある限り許されないとなると、手段は自然と限られてくる。
だが、とは言え、だ。
今回の作戦も、ちょっとヘビーなものになりそうだな。
つづく