ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
「えーっ!?手で、受け止めるぅ!?」
「そう。落下予測地点にエヴァを配置。ATフィールド最大で、あなたたちが直接、使徒を受け止めるのよ」
プラグスーツに着替えた僕とエヴァンゲリオンのパイロットたちは、改めて葛城さんから作戦の説明を受けている。
いるんだが、まぁ、ラングレーの反応が一番妥当だろうな。シンジ君も声には出さないだけで「そんな無茶な」と言いたそうな顔をしている。
その横で綾波さんはというと、特に感慨もないように事の成り行きを見守っているように見える。
さて、作戦を伝えにきた葛城さんだが、この人、何故か今回は使徒殲滅に異様に執着しているような気がする。目がいつも以上にマジだ。
『サードインパクト』が発生する可能性とか、そういった事情とは関係ない、個人的な事情が絡んでいる。そんな気がしてならない。
「・・・・・・使徒がコースを大きく外れたら?」
「その時はアウト」
「機体が衝撃に耐えられなかったら?」
「その時もアウトね」
シンジ君とラングレーの質問にも、淡々と即答する葛城さん。やはり、どこかいつもの葛城さんと違う気がする。
「ちなみに、勝算は?」
「神のみぞ知る、と言ったところかしら」
「さっき赤木博士にも聞いてみたんだが、MAGIの計算だと万に一つも無いそーだ」
僕の補足を受けた回答に、シンジ君とラングレーが同時に肩を落とした。おかしいな。ユニゾン訓練はもう終わったはずだが。
「これでうまく行ったら、まさに奇跡ね・・・」
「奇跡ってのは、起こしてこそ初めて価値が出るものよ」
「つまり、なんとかして見せろ、ってこと?」
「すまないけど、ほかに方法がないの。この作戦は」
「作戦と言えるの!?これが!?」
言えないよな。ラングレーが正しい。以前までのこの『世界』の事情を知らない僕であったなら、躊躇なく殴りかかっているところだ。
「ほんと、言えないわね。だから嫌なら辞退できるわ」
む・・・・・・その言い方は少し、いや、かなりイラッとくるものがあるな。
「葛城さん」
「何?ジョルノ」
「ここでもし、僕たち全員が辞退を願い出たら、どうするつもりだ?」
「・・・・・・・・・」
「黙り込む、ってことは『手が無い』、という事だよな?」
「・・・・・・その、場合は・・・・・・」
「諦める。そーいう事か」
僕の追及に、葛城さんは思わず目を逸らした。
そこなんだ。僕のイライラする点は。
「有るようで実は無い。そんな選択肢を提示されたって時間の無駄だ。そんな回りくどい言い方をされるより『頼むから乗ってくれ』と、一言でいい。なぜそれが言えないんだ?」
この『世界』の大人は皆そうだ。どいつもこいつも人に『お願い』するやり方がわかっていない。今の葛城さんや、初めて会った時の碇ゲンドウもそうだ。どーして人の上から物を言う事しかできないんだ?
いざという時に・・・・・・本当に心から誰かを頼らなくてはならない時に、人を動かすのは理屈じゃあない。
もっと熱い、『何か』、だ。
なのに、ここまで言ってもダンマリを決め込むんだな?葛城さん。
「葛城さん・・・・・・貴女、『僕たちがエヴァに乗っていればそれが一番安全だ』、とか考えてますね?」
「ッ!」
図星、だな。
「ATフィールドが僕らを守ってくれる。最悪の場合、僕たちエヴァパイロットだけでも生き延びる事ができると、そう考えている。違うか?」
「・・・だったら、何よ」
・・・・・・あのな、葛城さん。
「あんまり僕たちを舐めないでよ、ミサトさん」
僕の心の声は、シンジ君が代弁してくれた。
「し、シンちゃん・・・・・・?」
「ミサトさんが言ったんじゃないか。僕たち、『家族になれないか』って。『家族になりたい』って。僕はミサトさんやアスカ・・・・・・それに、お隣さんだけどジョルノ君や綾波も家族だって思っている。一緒に住んでるんだ。僕たち、家族じゃなかったんですか?」
「あ、あの、あのねシンちゃん、それは・・・・・・」
シンジ君からの思わぬ反撃に、葛城さんがたじろぐ。普段は大人しい人ほど、キレた時のショックはデカいからな。
「僕はミサトさんの家族ですよ?少なくとも、僕はそう思ってる。僕は家族を、ミサトさんを守りたい・・・!」
シンジ君の怒りに満ちた真っ直ぐな瞳が、葛城さんに突き刺さる。
「僕たちの安全性の事を、そこまで考えてくれて、凄く嬉しいよ。・・・・・・なのに、僕たちパイロットは安全な所で、失敗したらみんなが死んじゃう作戦なんて、認められないよ!だったらミサトさん達抜きで良い!僕たち四人で、使徒はなんとかするッ!」
「──ッ!?あんたねぇ!私たちのバックアップも無しに一体どうやって・・・・・・」
「理屈じゃないんだ!ミサトさん達に死んでほしくないんだよ!ミサトさん達は何処かに避難して、ここは僕たちに任せてくれてもいいじゃないかッ!!」
「ッ!ふざっけんじゃないわよ!ガキのくせにッ!!」
キレたシンジ君の胸ぐらを葛城さんが掴んだ。しかし、どちらも相手から決して目を逸らさない。今この場で、絶対に逸らすわけにはいかないんだろう。
なぜなら、お互いに決して譲れないものを賭けているからだ。
「あんたがエヴァを操縦するのは決定事項よ!だけどねぇ!私たちがいつもどんな気持ちであんたらを送り出してるのか分からないの!?本当は子供を死地になんて送りたくはないわよ!だけど、悔しいけど、私たちにはそれしか出来ないから!せめてアナタ達の近くでアナタ達のバックアップをしたいっていつも思ってるの!どぉしてそれがわからないの!?」
「わからないよ!そんな事、一言だって口にした事ないじゃないか!僕はミサトさんを家族だと思ってるから言ってるのに、ミサトさんは僕たちの事を家族じゃないと思ってるから、だから何も・・・ッ!!」
バチンッ!!と。
シンジ君の頬を張る音がケージに響いた。
はぁ、はぁ、と葛城さんの荒い息遣いが聞こえる。その目は震えていて、なぜ今、自分が手を出してしまったのか分からないというように。
葛城さんの目に涙が浮かぶ。
「・・・・・・昨日、聞いたわよね?シンちゃん。私が何のためにネルフに入ったかって」
葛城さんは涙を拭い、その瞳に憎しみを宿らせてシンジ君を睨みつけている。
「私の父が・・・セカンドインパクトで死んだからよ!私の身代わりになって、私を庇って死んだからよ!大嫌いだったわ、あんな親!でも、それでもやっぱり私の家族だったのよ!もう、私だってわからなくなってんのよ!使徒に復讐したいのか、父に復讐したいのか、もうわからないのよ!」
けどね、と口にしながら葛城さんが再度、シンジ君の胸ぐらを掴む。
「だけどね、もう2度と私の目の前で、家族は死なせないわ・・・・・・ッ!例え仮初の家族だったとしても、絶対にッ!!」
シィン・・・と、場の空気が静まり返る。
その沈黙を破ったのは、やはりシンジ君だった。
「それが、ミサトさんの本音、なんだね?」
「えぇ!そうよ!?悪い!?私のエゴよ、こんなのは・・・・・・!」
「いや・・・・・・話してくれて嬉しいよ。痛い程にね」
シンジ君は笑顔で、張られた頬をさすった。
「僕も同じ気持ちなんだ。ミサトさんを、家族を失いたくない。だから、もっと僕を、僕たちを信じてよ。ミサトさん」
「・・・・・・シンちゃん?」
「ったく!なんの三文芝居見せられてるんだかわかりゃしない!・・・・・・ミサト!こーゆー時はね、『頼むわ』って一言添えて肩でも叩いてくれりゃあソレでイイのよ!そんな事もわかんないワケぇ?」
「あ、アスカ・・・・・・」
「葛城三佐は死なないわ。みんなとの絆は、わたし達が守るもの」
「レイ・・・・・・」
三者三様に、葛城さんにかける言葉。しかしそれらには、等しく優しさが込められていた。
まったく。
「そーいう事だ、葛城さん。貴女は軍人毅然としているよりも、ありのままの貴女の方が『らしい』。そして、その方が僕たちの心に『響く』。そして、貴女が『頼む』と一言言ってくれたのなら──」
僕は3人のチルドレンの後ろに立ち、彼らと共に葛城さんを見つめる。
「信じて欲しい。貴女が導いてきた僕たちの『覚悟』が、必ず貴女の頼みを聞き届ける、と」
僕たちの真っ直ぐな視線を受けた葛城さんの顔がくしゃりと歪む。それを見た3人のチルドレンの肩が、笑いを堪えるように少しだけ震えた。
「さて」
僕はシンジ君の肩を軽く叩く。
「『Lesson3』だ、シンジ君。確か、多分。『チームを信じろ』。僕たちは『チーム』として成長してきている。今回の作戦、3つのエヴァの心が一つにならなければ、恐らく達成する事はできないだろう。だからこそ・・・」
「チームの一員として、『チームを信じる』、だよね?ジョルノ君。わかってる。今の僕は、みんなを信じられているよ」
「ベネ。それじゃあ後は、いつも通りだな。・・・・・・葛城さん」
「・・・・・・何よ、ジョルノ・・・」
おいおい、そんな涙目で睨まないでくれよ。まるで僕らが悪い事をしているようじゃあないか。
「いつかの約束、覚えてるか?」
「・・・・・・?なんの話?」
「マジか?第5の使徒の時に約束したじゃあないか。『無事終わったら、葛城さんが何か奢る』。そういう約束だったろ?」
「はぁ!?一体いつの話してんのよ!?大体あんた、私の家で普通に飲み食いしてたんじゃないのよ!時効よ時効ッ!!」
「おいおいおいおい、その飲み食いはシンジ君か僕が料理したものだろう?葛城さんから何処かの店でおごられたって事はなかったハズだがな」
「ぐぅ〜〜〜・・・相変わらず揚げ足ばっかり取る子ね、あんたはッ!!」
「なになに?ジョバァーナとそんな約束してたの、ミサト?それじゃあアタシ達も乗っかっちゃおうかしら」
「アスカ!?」
「ねぇ?ファーストは何が食べたい?ちょうどココに・・・・・・じゃーん!イイもんがあんのよねぇ〜」
ラングレーは僕の案に乗っかると、脇に置いてあったカバンの中から雑誌を取り出して物色し始めた。それを横からふんす!ふんす!と鼻息荒く覗き込む綾波さん。
「肉は嫌い。でもソレ以外なら、なんでもいけるわ・・・・・・」
「あら、あんたベジタリアンだったの?」
「魚は好き」
「あら、そう?じゃあ寿司、とかもイイかもね!」
「嘘でしょ!?このご時世、寿司なんて超高級品なのよ!?」
葛城さんが思わず悲鳴をあげた。だが、悪いな。もう既に、僕らの腹は決まっている。
「観念するんだな、葛城さん。もう彼女達の中では、寿司は決定事項らしいぞ?」
「〜〜〜〜ッ、えぇい!こうなりゃヤケよ!寿司でもステーキでもなんでも来ぉい!!」
「わぁーい!」
横で聞いていたシンジ君も、寿司と聞いて目を輝かせている。僕も正直、ちょっとだけ楽しみだ。
子供達の喜びようとは裏腹に、葛城さんはがっくしと肩を下ろした。その肩に、僕は優しく手を添える。
「そーいう仕草の葛城さんの方が、僕は似合っていて良いと思いますよ」
「・・・・・・はぁ、バカジョルノ。これで失敗したら一生恨んでやるからね・・・・・・」
恨み言を宣う葛城さんだが、その顔はどこか憑き物が落ちたようにスッキリとしていた。
「はいはいはいはい!これにて作戦通達は終了!あんたらはさっさとスタンバって!使徒の墜落までもう時間は無いわ!さっさと散った散った!」
まるで追いやられるように、僕たちはケージを移動する。それぞれのエヴァに乗り込むために。ネルフ史上1番の、無茶苦茶なオーダーを叶えるために。
「まぁ、結局のところ・・・・・・」
「いつも通りだよね?ジョルノ君」
隣のシンジ君も朗らかに笑う。
その通りだ、シンジ君。そして、今回僕たちが使徒に見せつけてやるのは──、
「三つの力が一つになれば、一つの正義は100万パワー・・・・・・」
「そういう事だが、綾波さん。そんな古い歌、どこで覚えた?」
「テレビ」
「・・・・・・そうか」
そんな古い番組もやってるんだな。再放送か?
だが、何はともあれ、
「よし、行こう!みんな!!」
シンジ君の声と共に、僕たちの心は静かにゆっくりと束ねられていく。
やるべき事は結局のところ、いつも一つ。
『使徒をやっつける』だけの、簡単な仕事だ。
つづく