ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
飛行機の旅はすこぶる快適だった。いや、ほんと。想像していた以上にマジに快適だった。
ネルフもこういうところは太っ腹なんだな。日本の飛行機のビジネスクラスってのには初めて乗ったが、このレベルが本当にビジネスクラスなのか?なかなかサービスが行き届いているじゃあないか。
付き添いの加持さんとは席が離れてしまったが、問題ない。この僕一人の自由時間を、精々のんびりとさせてもらうさ。
しかし、飛行機の中にリクライニングシート、それも完全に横になって眠れるくらいのシートがあるなんて思いもしなかったな。あの『七日間』のときに乗った、アバッキオが操縦していたプライベートジェットでも、こんなのは無かったぞ。
映画が見放題なのは勿論のこと、出てくる料理もどこかのレストランのシェフが作ったようなフルコースが出てきた。もちろん足りなければおかわりだって出してくれるし、なんならアルコールまでサービスで出してくれる。
本当に快適な旅だ。順調すぎるくらいに。
もしもの話だが、いま、この旅客機で『ゼーレのスタンド使い』が襲ってきたらどうするべきか。考えなくてもいい事柄なんだが、この快適すぎて順調な空の旅を味わってしまうと、どうしても嫌な予感が頭をよぎってしまう。
結果として、僕の飛行機の旅は極めて快適ではあったものの、極めて精神的に負荷をかけるものだった、という事だけを述べておこう。
さて、僕の乗っていた飛行機だが、とりあえず無難にアメリカ大陸の東海岸に着いたとだけ言っておくか。正直セカンドインパクトの後の世界的な地理や地形がどーなっているのか?わかるワケがない、というのが僕の本音だ。
一応ニューヨークにたどり着いたってことにはなっているが、それが日本でいうところの「第三新東京市」と似たような経緯を持って生まれた「ニューヨーク」と呼ばれている土地なのか?そんなことまではわからないんだ。まぁ、どうでもいい事ではあるんだが。
それでも、僕はアメリカ大陸に足を下ろした。それだけは覆しようのない真実だ。
そういう意味では地域不明の謎の空港にたどり着いた僕であったが、飛行機を降りた所で、同行していた加持さんから衝撃的な言葉を貰うことになる。
「んじゃ!悪いな、ジョルノ君。俺が同行できるのはここまでだ。君の旅路の幸運を祈ってるよ!」
マジか。この男、僕との同盟関係を目の前で破棄しやがった。
・・・・・・いや、破棄は言い過ぎか?だが、それにしたって、だ。ゼーレやネルフのここまでの指示の裏を読み解けば加持さんがここで離脱するのも致し方のない事と理解できなくはないが、しかし、それにしたって切り方が一方的に過ぎる。
僕は大きくため息を吐くと、加持さんの両肩にがっしりと手を置いて、『凄み』を持たせた視線で以って返答した。
「借りはデカいですよ?」
コレでビビってくれるなら話は簡単なんだがな。加持さんはどこ吹く風というように僕の両手を払って、日本に帰る便に軽やかに乗って帰った、というワケだ。
・・・・・・まぁ、それ位の胆力を持っていなければ同盟関係としては役者不足なんだが。
とは言え、一回、ゴールド・エクスペリエンスでボコボコにしておくか?そう思うくらい、ムカつくほどに潔いのよい退場の仕方であったのは確かだ。
さて、そんな加持さんと別れてからの行程だったが、僕はいくつかのバスを乗り継いで、今に至る。
かつて『ケープ・カナベラル』と呼ばれた場所。アメリカのNASAによって開発された、アメリカ国防総省の宇宙ロケット打ち上げ基地である。
「・・・・・・・・・・・・」
日本でも味わった事はあるが、本当にムカつくほどに快適な青空だ。雲一つなく、その爽やかさはどこか潔さを感じずにいられない。
『今にも落ちてきそうな空の下で』。そんな言葉が似合うほどの、清々しいまでの青空だった。
「ここが、ネルフのアメリカ第二支部か。NASAの跡地とは、随分と思い切った場所に建てたもんだな・・・・・・」
そんな僕の独り言を聞き取る人間は居ない。いや、居ないと思っていた。
「ケープ・カナベラルは初めてですか?」
不意に、女性の声が僕にかかる。僕はゆっくりと声のした方向に振り返ると、そこにはネルフの制服を着た、若干ふくよかで人の良さそうな女性が立っていた。
「失礼。私はジュディ・ハンクスと申します。ネルフ米第二支部の局員です。以後、お見知り置きを」
年齢は葛城さんよりもいくつか上だろうか。女性がそう言って差し出してきた手に、僕も握手で返した。
「ジョルノ・ジョバァーナです。なにぶん、突然の異動なもので右も左もわからないのですが・・・」
「ふふ。いえ、お話は伺っております。なんでも、日本のネルフ本部ではかなりのやり手だったとか」
女性の向けてくる無邪気な笑顔に、僕は戸惑ってしまった。いったい、どういった内容で僕の素性はアメリカ支部に伝わっているんだか。
「そんな事はありませんよ。まぁ、碇司令からはかなり目をつけられていますが」
「ふふふ!碇司令から目をつけられて、ですか。それはさぞ大変だったでしょうね」
目の前の女性、ジュディさんは悪意の無い笑顔で僕と接してくれた。これが演技でない事を祈るばかり、だが。
「遠いところ、ご苦労様です。旅の疲れもあるでしょう。まずはジョルノ君・・・・・・あ」
そこまで言いかけたところで、ジュディさんは口に手を当てて言葉を詰まらせた。どうやら、僕が希少なエヴァンゲリオンのテストパイロットである事を思い出したらしい。そんな子供に、失礼な態度を取ったのではないかとジュディさんの目が泳ぐ。
そんなの、僕からしてみたら大したことじゃあないんだがな。
「気にしなくていいですよ?僕は貴女よりもずっと歳下ですし、ジョルノでもジョバァーナでも好きに呼んでください」
僕の砕けた態度に安堵したのか、ジュディさんの顔が綻んだ。
「そう、ですか・・・・・・そうね。じゃあ、一応の礼儀としてジョバァーナ君、て呼んでいいかしら?」
「もちろん。気を使わせてしまってすみません」
「謝らないで。貴方をどう扱うべきか・・・正直、アメリカ支部でも判断に迷ってたところなの。こんな好青年だって知ってたら、悩んだだけバカバカしい話よねぇ!」
「ええ。そのくらいの気持ちでいてくれた方が、僕としても気が楽ですよ」
僕はジュディさんの笑みに微笑みでもって応える。それを見たジュディさんの雰囲気が、幾分か柔らかくなった気がした。
「そう。じゃあ、改めて・・・・・・ようこそ、ネルフアメリカ第二支部へ!私達は貴方を歓迎するわ!ジョルノ・ジョバァーナ君!!」
女性が両手を広げ、僕に歓迎の意を示してくれた。彼女の後ろには巨大(といっても、ネルフ本部には敵わないが)な建物が建っており、その向こう側にはスペースシャトルまで設置されているのが見える。
ネルフ本部とはまた違った趣向の建物に、僕は違った意味で興奮を覚えていた。なんせスペースシャトルだから、な。実物を見るのは初めてだ。
「さて、これからのスケジュールなんだけど、とりあえずジョバァーナ君を自室に案内させてもらうとして、今日のスケジュールはとりあえず白紙よ。今日はそのまま休んでもらっても構わないんだけど、どうしようか?」
そこまで言われて、僕は少しだけ考え込む。うん、このまま休ませてもらうのもいいんだが、せっかくだから、な。
「もし良ければ、エヴァンゲリオン四号機を見せてくれませんか?あ、もし整備中とかで忙しいんなら構わないんですが・・・」
「ふふふ!貴方、なかなか仕事熱心なのね。良いわよ?今日は簡単な清掃があるだけだし、部屋に荷物を預けたら案内してあげるわ」
ジュディさんはそういうと、僕の荷物をあっという間に持ち上げて、スタスタと先を進んでしまった。
・・・まあ、そんなに重い荷物ではないとは思うが、女性に荷物を運ばせるのも、な。とはいえ、本人が気にしてないようなので、ここは好意に甘えておくとするか。
まあ、とりあえず、だ。ネルフアメリカ第二支部の空気は、僕が思っていたよりもだいぶフレンドリーな感じだ、という事だけはわかった。
これから、どんな無理難題を吹っかけられるかは、わからないけど、な。
◇
さて、部屋で一息をついた後、僕はエヴァンゲリオン四号機の納められている第一ケージに足を向けていた。もちろん、ジュディさんの案内を伴って、だ。
「銀色、なんですね。エヴァンゲリオン四号機は。なかなかスマートじゃあないですか」
僕の心からの本音だ。エヴァンゲリオン四号機の収められているケージのキャットウォークを歩きながら、僕はエヴァンゲリオン四号機をじっくりと眺める。
キャットウォーク上には僕とジュディさん、それと青い繋ぎを着た清掃員のおじさんだけがいる。おじさんの仕事の邪魔をしているようで、少し申し訳ないな。
「いやいや、気にしないでくれたまえ。これも私の仕事の内なのだから」
清掃員のおじさんは気さくにそう言ってくれた。有難い話だ。
それはそうと、件のエヴァンゲリオン四号機だが、そのデザインは僕の好みにガッチリとあったものだった。
角のないエヴァ初号機というべきか、そのデザインは実にスマートだ。銀色という無駄に派手すぎない色合いも好印象だ。目立ちすぎず派手すぎず。これくらいのカラーリングが、僕は結構好きだ。
「しかし、エヴァ四号機、ですか?参号機とかもアメリカ支部にあるんですか?」
僕は何気なくジュディさんに質問を投げてみる。
「そうねぇ。デザイン的には四号機とほぼ変わらないのだけど、カラーリングが参号機は黒を基調としているの。あ!ここにはないわ。参号機は第一支部にあるから」
「そうなんですか。いや、落ち着いたデザインで気に入りましたよ。もっとも、僕が動かせるのかはまだ分かりませんが・・・」
「そんな事言って!聞いてるわよ?貴方、サードチルドレンと一緒に初号機を動かしてたんでしょう?シンクロ率は脅威の70%超え!それだけの素質があれば、四号機を動かすくらいワケないわよぅ」
「そうだと良いんですがね」
僕は思わず苦笑してしまった。ジュディさんにはまだ言っていないが、僕の個人的なシンクロテストの成績はボロカスのミソっかすだ。正直言って、僕一人で四号機を動かせるとはとても思えない。
「まぁ、なるようになりますよ」
「いいのよ、それで。ケ・セラ・セラ!なるようになるわ。私の好きな言葉なの」
「なるほど。良い言葉ですよね」
微笑むジュディさんに、僕もどこか安堵したように笑みを返す。なんだろうな、この人。ネルフ所属ではあるが、だいぶ話しやすい人だ。どこかイタリアの街のどこにでもいそうな普通のおばさん、という感じを彷彿とさせる。話していて、どことなく安心感があるんだ。
「まぁ、シンクロテスト自体は明日からスタートだけど、とりあえずジョバァーナ君が気に入ってくれて何よりだわ。何をするにも、まずは第一印象!これが良ければ、大抵の事はうまく行くからね」
「ええ、本当。そうですね」
僕はキャットウォークの手すりに腕を乗せながら、改めてエヴァンゲリオン四号機を見上げる。うん、初号機や弐号機、零号機のド派手なカラーリングを見ていたからか、やっぱり銀色というどこか落ち着いたカラーリングは僕の趣味にピッタシはまった。
もしコレを僕が乗りこなせたなら、エヴァンゲリオン四機での作戦なんて場面も出てくるんだろうか。初号機にシンジ君と乗っていた時とは別のやり方で、彼を助けることができるのかもしれない。
そんな妄想を、頭の中に描く。今までとは違うアプローチでシンジ君を助けることのできるシチュエーションに、僕の胸も僅かに昂った。
「さってと!今日はコレくらいにしときましょうか。いくら眺めてても、今日は四号機に乗る事はできないからね」
「そうですね。まぁ、僕の体力的には全然余裕なんですが」
「そう言っていられるのも今のうちよ。どうせこれから、この四号機に嫌というほど乗せられるんですからね。まぁ、お披露目、という意味では、今日は良い日だったわね!」
「ええ。本当に」
僕は改めて四号機を見上げた。このエヴァンゲリオンも、僕のスタンドである『ゴールド・エクスペリエンス』の力を使う事ができるのだろうか。だとしたら、どんな戦術が使えるだろうか。妄想に近いシミュレーションだが、捗って仕方ない。
とは言え、ジュディさんの言う通り、今日はこれ以上は何もできないだろう。僕は清掃員のおじさんに軽く会釈すると、その場を立ち去ろうと踵を返した。
「ジョバァーナ君て礼儀正しいわねぇ〜」
「こういうのは大事ですからね。いつ、どこで、こういった日頃のやり取りが活きてくるかわかりませんから」
「本当、その通りよ!そういう点では、ジョバァーナ君は日本人ぽい?ていう事なのかしら。細かいところまで気が利くわね!」
ジュディさんが笑顔で僕の肩を叩いてくる。この人との距離感も、この短期間でだいぶ縮まったな。
「まぁ、僕は半分は日本人ですからね。そーいった面が出てきてもおかしくはないんですよ」
「あら、そうなの?それは殊勝な事だわぁ」
そう朗らかに笑いながら、ジュディさんは僕の手を握ってくる。
「本当、ジョバァーナ君が良い人でよかったわぁ。私、実は今度来るチルドレンが不良だって聞いてて、ドキドキしてたのよ?」
「ふふ。不良、という点は否定できませんがね」
「あらヤダ!貴方、やっぱりそうなの?」
「それはコレからの活躍次第って事で」
僕は手を握ってきたジュディさんの手をそっと引き剥がす。仲良くなれたのは何よりだが、この女性、ちょっと人との距離感が近すぎるようだ。
そう思って何気なく手をかけたジュディさんの手が、力強く握られる。
「・・・・・・?ジュディさん?」
「ん?何かしら?」
「いや、その、手、なんですが」
「ん?あら、嫌だ!私ったらつい・・・若い子だからって、ねぇ?あ、別に下心は無いのよ?本当よ?」
戸惑うジュディさん。だが、ジュディさんの手は離れない。
それどころか、どんどんと手を握る力が強くなっているような・・・・・・。
「え?・・・・・・あれ?変ね?やだ。本当に違うのよ?なんでかしら、手が離れてくれないわ?」
「・・・・・・ジュディさん?」
「やだやだ!違うのよぅ!そんなつもり微塵もないわ?でも、なんでかしら──」
「貴方を、『離しちゃダメ』なんですって」
「!!」
僕は咄嗟にジュディさんの手を振り払おうとした。
だが、この握力!いつの間にかギリギリと締め付けられるように、僕の掴まれた手が握り潰されていく!
「な・・・・・・!?」
「変ねぇ?私、夫も子供もいるのよ?敬虔なクリスチャンなの。浮気なんて考えた事もないわ?なのに何故かしら?貴方だけは『離してはいけない』って思っちゃうのののののののののののののののののののののののの・・・・・・!!」
ジュディさんの手に、どんどんと力が込められていく!その力は・・・!
ビシリ・・・・・・ッ。
「うっぐううう!?」
僕の手の骨が、砕けるほどに強力で!!
「ジュ、ジュディさん!?」
「ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメなのよよよよよよよよ、アナタを捕まえなくちゃあ、逃がしちゃあダメなのよよよよよよよよよよようごきゃっ」
僕の腕を掴んでいるジュディさんの顔が、みるみるうちに変形していく!
「な、なにぃぃいいいいいいいいッ!!?」
「アナタは逃さなイイイイイイ・・・!アナタは天国への『鍵』、カギカギカギカギカギカギカギカギギギギ・・・・・・」
バカな!一体、これは!?
「ジュ、ジュディさん!?貴女は!?」
「ああああああああ、助けて、ジョバァーナ君、私、私じゃない、私じゃない何かが頭の中にィィイイイイ・・・・・・!!」
途端、ジュディさんの頭がグシャリと潰れた。
「馬鹿な!!何が起こっているんだぁぁああああああッ!!?」
目の前で潰れたジュディさんの頭。その頭から、何かが飛び出してきた!
それは──、
「な、なんだコレは!?『DISC』!?」
そうとしか形容できない物体だった。
「ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・」
「はっ!?」
僕とジュディさん、その向こうにいた、清掃員が僕に話しかけてくる。
青いツナギを着たその『肌の黒い男性』は──!!
「始まりには『壁』があり、その『壁』を取り除くことから人は繋がっていく・・・・・・ジョルノ・ジョバァーナ。会いたかった。君は、『私が最も会いたかった者』だ」
「な、なんだと!?貴様は・・・!」
「『DIOの血統』。そして『ジョースターの血統』。その最も濃い『運命を宿した御子』よ。会いたかった・・・・・・私の望んだ世界で、遂に出会えなかった『運命の子』よ・・・・・・」
ドドドドドドドド・・・・・・!!と心臓が、早鐘を打っているのがわかるッ!!
コイツは!初めて会ったが、コイツは!!
「貴様は、ゼーレの・・・・・・!」
新手のスタンド使い!!
「『始めに言葉があった』。自己紹介が必要だ。私の名は『エンリコ・プッチ』。ようやく会えたな。私は敵ではない。私は、君の父親と共に、この世の『天国』を目指した者だ。そして今、最後の『ピース』は出揃った。真の『天国の時』だ。本当に会いたかった・・・・・・」
『ゴールド・エクスペリエンス!!』
僕はジュディさんを振り解き、スタンドを叩き込まんと『敵』に迫る!
だが!
「うぐ!ジュディ、さん!?」
「あがががごがががごごごがごがごた、助け、ててててててててててててて・・・・・・!」
ジュディさんの半ば崩壊しかけた肉体が、僕の体に纏わりついて雁字搦めにして封じ込めている・・・!
くそ、これは、なんだ!?普通のスタンド使いではない。底知れぬ『邪悪さ』を感じる・・・!
コイツは、いったい・・・・・・!?
つづく
プッチの描写を修正しました。まだまだ勉強不足でした!ご指摘ありがとうございました!