ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 耳鳴りがコレでもかというほどに響いている。僕の鼓膜は、僕自身の心臓の鼓動を聞き取るだけで精一杯のようだ。

 

 ドドドドドドドドドドドド・・・・・・!

 

 全身を血液が勢いよく流れていく音だけしか聞こえない。

 

 だが、僕の心臓の鼓動の激しさとは裏腹に、僕の心は冷静に、冷徹に、冷酷に、温度を失っていくのがわかる。

 

 怒りで、目の前が真っ赤になる。

 

 目の前の青いツナギを着た清掃員に対する冷淡な怒りが、僕の胸の中を占有していた。

 

「これは・・・」

 

「・・・・・・?」

 

「この事態は、アンタの仕業か・・・!」

 

 僕の声音に怒りが含まれているのが自分でもわかる。もはや、僕を掴んでいるジュディさんの肉体に力はない。最初こそ凄まじい力で僕の体を押さえつけていたジュディさんだったが、頭が潰れてしまった反動か、脳が体に正常な命令を下せていないようだ。

 

 ジュディさんの身体が唐突に、糸を失った人形のようにズルリと崩れ落ちる。ドシャッという音を立てて、『ジュディさんだったもの』は床に転がった。

 

 僕は咄嗟に『スタンド』の手を彼女に伸ばした。

 

 だが、わかる。わかってしまった。

 

 目の前のジュディさんの体には、もう、魂は宿っていない、という事を。

 

 僕は唇を強く噛み締め、目の前の清掃員を睨んだ。

 

「答えてくれよーが、くれまいが、どっちだろうと構わない。最早、僕の中でアンタを徹底的にブチのめすのは決定事項だ。アンタは自分の事を『敵じゃあない』とか抜かしていたが、罪のない一般人を巻き込んだ時点で、アンタは僕の敵だ。・・・言い訳はしてくれてかまわない。僕は聞く耳を持たないと心に決めたがな」

 

「ジョルノ・ジョバァーナ。素晴らしい。いいぞ。冷静だな。お前の『兄弟たち』は肝心なところで『折れる』性格をしていたが、お前からはそういった『甘え』を一切感じない。素晴らしい精神力だ」

 

 清掃員が青いツナギのジッパーを下ろす。その下から出てきたのは、教会で神父様が着るような法衣。

 

「聖職者、のつもりか?お前には全く似合わないがな」

 

「私の価値を私が決めてはならない。また他人が決めてもならない。私の価値は天の国に召された時において、初めて下されるものだからだ」

 

「話が通じないらしいな。天国に行く権利があるとでも思っているのか?お前のような人間に・・・!」

 

 僕は一歩踏み出す。作戦も何もない。ただ目の前のコイツをぶちのめしたいという衝動のままに足を踏み出していた。

 

「きみは『引力』を信じるか?人と人の間には『引力』があるということを・・・・・・」

 

 僕は目の前の神父もどきの声を無視し、キャットウォークを駆け出した!

 

「お前がこれから何を宣おうが!僕がお前をこの場で『始末』することに変わりはない!」

 

「ジョルノ・ジョバァーナ・・・」

 

 目の前の神父もどきが、ため息を吐きながらキャットウォークの手すりに足を掛ける。ふざけた態度だ。僕は構わず目の前のクソ野郎に向けて突進していた。

 

『C-MOON』

 

 神父もどきが謎の言葉を発した瞬間だった。

 

 その途端、僕は、とても奇妙な事だが、真横に向けて『落下』していた。

 

「!!?」

 

 僕は咄嗟にキャットウォークの手すりを掴んだ。と同時、僕は今起こった事象について考察する。そして同時に混乱していた。

 

(重力!?重力の向きが変化しているのか!?いや、まだ分からないが、なぜ、僕が水平に『落ちる』!?なにより──、)

 

 今、目の前で起こっている奇妙な現象。僕の目の目で、クソ神父はキャットウォークの手すりに『水平に立っている』という事実!

 

 それだけじゃあない!僕の周りのあらゆる物体、それが『水平に向かって落ちていく』!ジュディさんの死体はもちろんのこと、エヴァンゲリオン四号機はケージに固定されているがゆえになんとか持ち堪えているが、それ以外の備品やあらゆる物体が『水平に落ちていく』という謎の現象に、僕は驚きを隠せない!

 

 だが!

 

 それ以上の怒りが、僕の胸中を埋め尽くしているんだ!

 

 そんな怒り心頭の僕を無視し、目の前の神父もどきは僕を諭すような口調で語り掛けてくる。

 

「まずは説明が必要だ。私がなぜ君に会いに来たのか?この運命的な出会いを、『引力』が齎した奇跡の説明を、君に理解してもらわねばならない。そこから全てが始まるのだが・・・」

 

「聞く耳を持たない!お前はジュディさんの魂を侮辱した!それだけだ!お前が今もたらした事はそれだけの『事実』でしかない!」

 

「それは逆だぞ?ジョルノ・ジョバァーナ。彼女の魂を侮辱するな。ジュディ・ハンクス。彼女は敬虔なクリスチャンだった。彼女の魂はその役割を全うしたのだ。彼女の魂を侮辱する事は、何者にも、もちろん君にも許されていない」

 

「貴様!何様のつもりだッ!!」

 

 僕はキャットウォークに足をかけ、そのまま駆け出した!奇妙な事だが、僕は『水平』に傾きながらも落下する事はなかった。目の前の神父同様、僕はキャットウォークの手すりを水平に走りながらも、その姿勢を崩す事はなかった。

 

 だが。

 

「全ては主の思し召しのままに・・・」

 

 目の前の神父は再びキャットウォークの上に降り立った。その瞬間、僕を襲っていた『重力の変化』は元通りとなり、僕はキャットウォークの手すりから足を滑らせてしまった!

 

「!!」

 

 僕は再びキャットウォークにしがみ付く。しがみ付いていなければ、僕はケージの遥か奥底までバランスを崩して落ちていただろう。

 

「き、貴様・・・!これは貴様の『スタンド能力』か!」

 

「重ねて言うがジョルノ・ジョバァーナ。私は敵ではない。私がもし悪意を持って君を襲っていれば、すでに『2回』、君は私の手によって天に召されていた」

 

「この状況で!僕が冷静でいられると思っているのか!?」

 

「私と君の出会いが理想的ではなかった。それは否めない。だが君は聞く必要があるのだ。この出会いが『運命』であるという事を」

 

 僕はキャットウォークから立ち上がり、再び神父もどきに向かって突進する。相手の言う事を聞く必要はない。奴はすでに、僕の怒りの沸点を超えた行動をしているんだ!それが『事実』だ!

 

 なのに!

 

「くだらない義侠心は身を滅ぼすぞ。『C-MOON』!」

 

 神父の目の前に、薄気味悪い人型の『スタンド』が姿を現す!その拳がキャットウォークを殴ったかと思った瞬間、キャットウォークがバキバキと音を立てながらグインッと『裏返った』!

 

「なに!?」

 

 僕の行く手は、裏返ったキャットウォークによって阻まれた。裏返った通路の向こう、姿は見えないが、神父もどきは僕を再び諭すように優しく声を掛けてきた。

 

「私の事を、まずは話さなければならない。改めて、私の名前はエンリコ・プッチ。神に仕えるものであると同時に、君の父親であるディオ・ブランドーと共に、この世の天国を目指した者だ」

 

 キャットウォークの向こうでプッチ神父が優しい声音で語りかけてくる。それが余計に僕の神経を逆撫でする!

 

 僕は『裏返った』キャットウォークを回り込み、敵に近づけないか思案する。だが、敵の能力の全貌が掴めない。自然、僕の動きは慎重にならざるを得なかった。

 

「君の父親であるDIOは、この世の『天国』に到達する術を見つけた。それは『時を加速させる能力』。その先に待つ新世界こそが『天国』だ。その能力の取得を私が成し遂げ、私はこの地、ケープ・カナベラルにて因縁であった『ジョースターの血統』を始末した。ここまではいいかね?」

 

「知るか!」

 

 僕は裏返ったキャットウォークを乗り越えた。自然、僕の立ち位置は裏返ったキャットウォークの向こうにいた神父を見下ろす形となる。

 

「私とDIOは『運命における宿敵を滅した』という事だ。そして私は神によって与えられた力を使い、すべての魂に幸福を与える『天国の時』を全人類に齎すはずだった。それは『逃れられぬ運命』に対し、『覚悟することこそ幸福である』と説く世界だ・・・・・・」

 

「WRYYYYYYYYYYYYAッ!!」

 

 僕はキャットウォークの壁を飛び降りると、スタンドを繰り出して神父に蹴りを見舞う!

 

「話の途中だぞ?ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 その蹴りを、神父の目の前に現れた『スタンド』が掌で受け流す。

 

 途端──、

 

「ッ!?うぐああああああああ・・・!!?」

 

 蹴りを繰り出した右足が、体の内側から『裏返った』!右足の皮膚を破いて内側から筋肉が、次いで骨が飛び出してくる!

 

「『天国の時』は成ったはずだった。だが、ここで私の想像もしない自体が起きた。『一巡した宇宙の先』のこの世界で、私は『ゼーレ』という存在に目をつけられた。私が辿り着いたのは、私の知らない歴史を辿った地球だったのだ。私のスタンドは『ゼーレ』によって封じられ、私はグリーンドルフィン刑務所に収監される事となった・・・・・・」

 

 僕はあまりの痛みに地面をのたうち回る!その僕に追撃を仕掛けず、ただ淡々と話を続けながら僕を見下ろす神父!

 

「私には足りなかったのだ。DIOのスタンドと私のスタンド、それだけでは『ゼーレ』に抗う何かが足りなかった。そんな時だ。お前という『DIOの血統』の最高傑作がいたという事実を知ったのは。そして、『スタンドの先に行き着く矢』という存在を知ったのは!」

 

『ゴールド・エクスペリエンス!!』

 

 僕は『スタンド』を使って自身の右足を切り落とす!くそ、めちゃくちゃ痛い!だが、僕は自分で切り落とした右足を『ゴールド・エクスペリエンス』で殴りつけた!途端、生命を与えられた僕の右足は『裏返る前の』元の右足に戻る!

 

 僕はその新しい右足を手に取ると、右足の傷口に押し付けて『治療』した。なんとか切り離した足はくっついたようだが・・・。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」

 

「ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・『天国』とはなんだと思う?人の幸福はどこにあると思う?それは『覚悟』なのだ。覚悟する事こそが『幸福』なのだ」

 

「はぁ!はぁ!・・・ッ!貴様の言っている事は、悪いがさっぱりわからないし、興味もないッ!『一巡した宇宙』だとかなんだとか抜かしているが、僕には全く関係のない話だ!」

 

「本当にそう思うのか?ではなぜ、『君はこの世界に来れたというのだ』?」

 

 ・・・・・・!?

 

 なに?

 

「私の最後のスタンド能力は『メイドインヘブン』。『時を加速させる』能力。それにより、宇宙には無限の可能性が生まれた。数ある銀河系が生まれては死に絶え、その先で、私がかつて暮らしていた『地球と同じ歴史を辿った星が生まれた』。それが『宇宙の一巡』だ。だが・・・・・・そういった『星』が、この広大な宇宙で一つしか生まれなかったとなぜ言い切れる?」

 

 神父が腕を組みながら僕を見下ろす。

 

「『星は複数あったのだ』!そのうちの一つであったこの星に私は到達したわけだが、この星の歴史は『私の知る歴史とは異なった』歴史の上に成り立っていたのだ。私の元の世界にはなかった『ゼーレ』という存在。そして、『使徒』を初めとした『神に近しい存在』の有無!それが私の唯一の誤算であった」

 

 なにを・・・・・・何を言っているんだ・・・!

 

「君は宇宙に数ある『地球と同じ歴史を辿った星から』!『この星になんらかの方法で辿り着いたのだ』!私とは違った方法で!それが何に因るものなのか、私にもわからないが・・・・・・」

 

 神父は僕に無造作に近寄り、僕の頭を思い切り踏みつけた。

 

「これはまさしく『運命』だ!私の世界では出会えなかったDIOの息子の最後の一人!それが今こうして、目の前にいる!そしてお前のスタンドと記憶、そしてお前の持つ『矢』は!私の『メイドインヘブン』を更なる高みへと押し上げてくれるだろう!」

 

 神父の指が、僕の頭にゆっくりと伸びてくる。

 

「私の第一の能力『ホワイトスネイク』によって、お前の記憶とスタンドはすでにDISCとして出来上がっている!私の指がちょいとお前の頭をこすれば、DISCはお前の頭から飛び出て私の手に渡る。そしてお前が隠し持っているであろう『レクイエムの矢』!それを手に入れて、私は更なる次元に進むのだ!『ゼーレ』ですらが届かない高みへと!!」

 

 神父の指が、僕の頭に優しく触れてくる。その柔らかい感触を、ある意味で受け入れながら──、

 

 

 

 

 

「やれやれ、だな」

 

 

 

 

 

 僕は思いっきりため息を吐いた。

 

 コイツの言っている事だが、悪いが最初から最後まで何を言っているのか全く理解できない。というか、コイツの話なんてどーでもいいんだ。

 

 僕が感じる、コイツへの感情は!!

 

『無駄ァッ!!』

 

「むッ!?」

 

 ゴールド・エクスペリエンスの拳が空を切る。神父野郎はとっさに身を引いて躱したようだな。

 

 だが、物事はとてもシンプルなんだ。コイツがイカれているだとか吐き気を催すような邪悪だとか、言いたいことはたくさんある。あるが、それらをまとめて一言で言うのなら!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタは僕を怒らせた・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言。たった一つのシンプルな答えだ。

 

「アンタの出自も経歴も何も僕には関係ないな。アンタの話はもしかしたら聞いてやる価値がある、のかもしれない。だが再三言うとおり、僕にはなんの興味もない!アンタはせいぜい、自分のしたい事を淡々と講釈垂れてろ。僕の気持ちは変わらず、アンタをぶちのめす!それしか無いんだからな!!」

 

 僕と神父の激しい鼓動が、ドドドドドドドド・・・!と空間を満たす。

 

 初撃はプッチ、だったか?してやられたってのが本音だが。

 

 ここから、第二ラウンドだッ!!

 

 

 

つづく

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