ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
どれほどの『時』が流れたのだろうか。
幾つもの宇宙が生まれては消え、生まれては消え、数えきれないほどの銀河の終わりをこの目にした。
僕の周りにいた魂達、おそらくはネルフ・アメリカ支部の人たちだったんだろう。その魂達はすでに自分の元の姿を忘れるほどに擦り切れ、『加速』する『時』の中で溶けて、消えていった。
宇宙の誕生と死が幾十にも重なる様は壮大の一言で、それらが消える様は泡沫の夢のようで。
そんな中で、僕とプッチ神父は戦いを、いや、『鬼ごっこ』を続けていた。
『加速した時の中を自由自在に動ける』プッチ神父。それを叩きのめそうと、僕の『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の繰り出した攻撃が幾度となく空を切る。
これは、マジにヤバいかもな。
もはや宇宙が何巡したのかもわからない。わからないが、ここで僕とプッチ神父が戦い続ける以上、『シンジ君たちのいた地球』との時間のズレがどんどんと広がる事は確実だ。
負ける気はない。コイツに負けるなんて事だけはあってはならない。僕は全身全霊を賭けて、この『敵』を始末するつもりだ。
だが。
ここまで来たら、もう、僕が元の『世界』に戻れる事はきっとないだろう。
悪いな、シンジ君。なるべく早く戻るなんて言ってしまったが、すまん。ありゃウソになりそうだ。
もちろん、諦めるなんて事はしない。だがその一方で、万が一の事を考えてしまう僕も確かに存在する。
「よかった・・・・・・」
僕の口にうっすらと浮かぶ笑み。
「手紙を渡すことができて、本当によかった」
少なくとも、伝えなくっちゃあいけない事だけは、伝わってくれるだろう。
あとはシンジ君が僕の意志を引き継ぎ、これからの人生を強く生きてくれる事を強く願う。
ほんのちょっぴり、ちょっぴりだけ、寂しいが。
僕の目に、熱いものが浮かぶ。
そんな僕の様子を目ざとく見つけたプッチ神父は──、
「諦めるかね?」
勝ち誇ったように嗤う。
「まさか」
僕は勝ち誇ったように笑う。
「これは友達を想ってのものだ・・・!」
僕のスタンドが、ヤツの姿を捉えた!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァーーーッ!!」
『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』で攻撃を繰り出しながら、僕の目尻から一粒の涙が宙に舞って消える。
アリーヴェ・デルチ、だ。
シンジ君──。
◇
ミサトさんの家にもどってきた僕とアスカ、綾波の3人は、ジョルノ君から受け取った手紙を読んでみる事にした。
封を開けると、中からは便箋が2枚。とても拙い日本語で書かれた手紙が出てきた。
僕は何か嫌な予感を抱きながら、その手紙を読み上げる。書かれていたのは、ジョルノ君が掴んだ『真実』。つまり、エヴァンゲリオンに宿っている『魂』についてだった。
「そんな・・・・・・」
手紙を持つ僕の手が震える。エヴァ初号機に宿っている『魂』。それは僕の母さん、『碇ユイ』のものだった。
「そんな、事って・・・・・・」
金属バットで頭を殴られたような、ぐあんとした衝撃が僕を襲った。だけど僕はその一方で、僕の記憶の奥底に仕舞われていた『秘密』の蓋が開く音を聞いた。
「そうだ。僕は・・・あの時、母さんを・・・」
見ていた。そうだ。僕は確かに、その『光景』を確かに見ていたじゃないか。
「僕が知ってる母さんは、科学者なんかじゃなかった・・・・・・普通の母さんだった・・・父さんの被験者にされて、そして死んだって・・・・・・」
僕の口から自然と漏れ出てくる否定の言葉とは裏腹に、僕の脳裏にある『光景』が浮かぶ。
(碇、なぜここに子供がいる?今日は大事な実験の日だぞ)
(ごめんなさい、冬月先生。私が連れて来たんです)
母さんがエヴァの素体の中に入り、冬月副司令と会話をしている。
(この子には、人類の明るい未来を見せておきたいんです)
暴走するエヴァ。騒がしくなる実験室。そうだ。僕は知っていた。
「僕は、エヴァを知っていた・・・!?」
溢れ出してくる記憶が、僕の心を蝕んでいく。耐えきれない程の辛い記憶を前に、僕の両手が顔を覆う。
「シンジ!!」
その上から、柔らかい感触が覆い被さってきた。
「アスカ・・・・・・?」
「無理に思い出さないで!あんたが苦しむ必要なんてない。ゆっくり、ほら、息をして・・・」
僕は抱きしめてくれているアスカの声に従って、大きく息を吸う。ゆっくりと吐く。呼吸に合わせて、僕の心がゆっくりと落ち着いてくるのがわかる。
「・・・・・・ありがとう。アスカ。もう、大丈夫」
僕はアスカを抱きしめ返してから、ゆっくりとアスカの手を剥がした。
「そうだ・・・そうだよ。僕は知っていた。確かに母さんが、エヴァに乗って、そして、消えてしまったのを『見ていた』・・・・・・」
だけど。
「まぁ、僕の、知った事じゃあないがな」
僕は僕の友達の口調を真似てみた。それだけで、僕の心がすぅっと軽くなったのがよく分かる。
僕は再び、手紙を手に取った。その肩に、アスカがことんと頭を乗せてくる。
手紙の続きを読む。そこには初号機以外のエヴァ。つまり、零号機と弐号機の中にも、きっと誰かの魂が宿っているだろうって事が書かれていた。
「アタシたちの・・・・・・」
「エヴァにも?」
アスカと綾波も、手紙の内容に驚いているようだ。
「もしかして、ママ・・・・・・?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。わからないけど、ジョルノ君は『魂が、きっと君たちを守ってくれている』って書いてる。それはきっと・・・・・・」
「ATフィールド、ね」
綾波の答えに、僕は強く頷いた。
そうだ。きっとそうなんだ。僕たちは一人で戦っている気になっていた。エヴァに乗っているとき、戦っているのは自分一人だと、勝手に思い込んでいた。
もちろん、僕はジョルノ君と一緒に戦ってきた。でも、それだけじゃあなかったんだ。
「母さん達が、僕たちを守ってくれていた」
その言葉を口にした瞬間、僕の胸に込み上げてくるものがあった。
手紙の最後にはこう書いてある。『Arrivederci』。イタリア語で『さようなら』を意味する言葉。
「ジョルノは・・・・・・」
綾波の純真無垢な赤い瞳が、僕をじっと見つめてくる。
「ジョルノは、もう、帰ってこないの?」
その言葉に、僕が応えようとした時、家の電話が鳴った。
僕は少しだけ戸惑ったけど、綾波への答えを返さずに電話に出る。
「もしもし・・・・・・」
『シンちゃん!大変よ!アメリカ支部が!ジョルノが・・・・・・ッ!』
・・・・・・ああ。やっぱり、そうだったんだ。
『・・・・・・シンちゃん?』
「はは・・・・・・ミサトさん。ジョルノ君て、意外に馬鹿ですよね?」
僕の口が、震える。
「馬鹿だよ、本当に・・・・・・ジョルノ君は本当に、馬鹿なんだから・・・・・・」
ジョルノ君の最後の言葉が甦る。
(忘れないで欲しい。君の周りには、君の味方になってくれる者達があるということを。全ての事柄が、君の味方であるという事を。『Lesson4 敬意を払え』。この世のあらゆる事に、だ。この言葉を忘れないでほしい)
僕の目から、涙がこぼれ落ちる。
「できるわけが、ないよ・・・・・・」
ジョルノ君と交わした最後の約束。4回だけ言っていいと言われたあの言葉を、僕はここで初めて使った。
「う、ううう・・・・・・ぐす・・・・・・」
『シンちゃん・・・・・・』
涙で前が見えない。僕の心に、ぽっかりと大きな穴が空いたような気分だ。
だけど、僕はもう、一回使ってしまったから。
(君はこれから僕と再会するときまで、『できるわけがない』というセリフを4回だけ言っていい)
ジョルノ君との約束なんだ。彼は『再会するときまで』って言ったんだ。
彼は、スーパーマンなんだ。だから、絶対帰ってくる。
僕はそう信じてる。
僕の空いた左手をアスカが。僕のズボンの端を綾波が、きゅっと握りしめてくる。
それだけで、勇気が湧いてくる。
『Lesson4。敬意を払え』。この世のあらゆる事に。全ての事柄が、僕たちの味方だと言ってくれた彼の言葉が甦る。
「ミサトさん・・・・・・」
『シンちゃん?』
「教えてください。僕たちはこれから、何をすればいいんですか?」
だから、前を向いて歩こう。
いつか君との約束を果たす、その時まで。
僕の名前は碇シンジ。
僕は僕の物語の、この物語の主人公なんだから。
To Be Continued…
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
これにて第七章は終了です。
ジョルノの退場は書き始めていた当初から考えていたものです。四号機の実験と共に、ジョルノは退場する予定でした。プッチ神父との戦いは、私の予想外でしたが笑
ここから先は作者自身、手探りで進めていく感じになります。更新速度が遅くなるかと思いますが、気長にお待ちいただければ幸いです。
これからも拙作をよろしくお願い致します。
それでは、次回お会いするまで、アリーヴェ・デルチ!!