ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第八章 四人目の適格者
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「ねえ、シンジ。キスしようか?」

 

 なんの脈絡も無しに、僕に放り投げられたアスカのセリフ。きっとアスカは、そんなに重い意味を持たせて言ったんじゃないんだと思う。

 

 けれど、それを口にしたアスカの表情は真剣そのもので。僕はそれ以上に、その言葉から受けた衝撃に対して余裕がなくて。

 

 潤んだ瞳をしたまま僕を見つめるアスカに、僕の心臓がどきんと高鳴ったのを感じた。

 

 アスカの悪ふざけだ。それはわかっている。けれど、アスカのその日の出来事が、僕の心を大きく揺さぶっていたこともまた大きな事実で。

 

 気がつけば僕は、アスカの肩に両手をかけていた。

 

 

 

 僕の名前は碇シンジ。2001年の6月6日生まれ。血液型はA型の、どこにでもいる普通の日本人中学生だ。

 

 好きなものは、特にない。将来の夢も、特にはない。夢とか希望のこととか、考えたことがなかった。14歳の今までなるようになってきたし、これからもそうなるだろう。

 

 だから、何かの事故やなんかで死んでしまっても別に構わないと思ってた。

 

 でも、本当の僕はそうじゃ無いって事を、僕は最近気づき始めている。原因は、僕のお節介な日系イタリア人の友人のせいだ。

 

 いや、おかげ、というべきなんだろうね。僕の友人、ジョルノ・ジョバァーナ君に出会った事で、僕の人生は一変した。それも、僕にとっての良い方向に。

 

 彼が居なかったら、僕はとっくに逃げ出していただろう。彼の存在無しに、僕の過酷な運命に立ち向かう事は無理だった、と切実に思う。それくらい、彼は僕の事を助けてくれていた。

 

 僕は『エヴァンゲリオン』という巨大ロボットに乗って、『使徒』と呼ばれる怪獣と日夜戦っている。それに一緒に乗り込んで戦い、僕を導いてくれたのがジョルノ君だった。

 

 だけども、彼が今はどこに居るのかわからない。彼は突如として、僕たちの前から姿を消してしまったから。

 

 次に会えるのがいつになるのか、それはわからない。・・・・・・はは、思い返してみれば、彼に対してわからない事だらけだな、僕は。

 

 でも、これだけは約束したんだ。彼は必ず僕と再会する。その時までに、僕は4回だけ『できるわけがない』と言っていいという事。そして『Lesson4 敬意を払え』。僕を取り巻く全ての事柄に対し、自分の味方であるという事を認識して、敬意を払う事。これが、僕とジョルノ君との約束だ。

 

 そんな僕だけど、実はすでに1回、「できるわけがない」という言葉を使ってしまっている。ジョルノ君が行方不明になってしまったあの日。彼を思って、彼のいないこれからの人生に想いを馳せて、僕は『できるわけがない』と口にしてしまった。

 

 そして、いま、僕は、『できるわけがない』というセリフをまた言おうとしている。

 

 父さんと、母さんのお墓参りに行ってきた帰りの事だった。僕がミサトさんの家で一人まったりと過ごしていると、委員長のお願いでデートに行ってきたアスカが予想より早く帰ってきたんだ。

 

 そのアスカは僕の見慣れない他所行きの服を着たまんま、僕の事を真剣に見つめていた。

 

 僕はミサトさんの家に誰もいない事を良いことに、部屋で昔から習っていたチェロを弾いていた。それを、いつの間にか帰宅していたアスカに聞かれていたみたいだ。

 

「結構いけるじゃない?そんなの持ってたの?」

 

 アスカにしてみれば掛け値なしの賞賛の言葉。アスカを知る僕からしてみれば、ちょっと驚きの言葉だった。僕はなんとなく気恥ずかしくて──、

 

「5歳の時から始めてこの程度だからね・・・才能なんて別にないよ」

 

 つい、アスカを突き放すような言い方をしてしまった。だけどアスカは笑顔で僕に近づいてきて、

 

「継続は力か。少し見直しちゃった」

 

 はにかむように、笑った。僕はなんだかソレが嬉しくて、ニヤついた顔のままチェロをしまった。

 

「早かったね。夕飯食べて帰ってくるんだと思った」

 

「退屈なんだもん、あの子。だからさ、ジェットコースター待ってるあいだに帰ってきちゃった」

 

 僕はその言葉を聞いて、どこかホッとしていた。どこかで、今日のアスカのデートに嫉妬していたんだと思う。僕は、アスカと、心のどこかで繋がっていると思っていたから。

 

 だから、アスカが見知らぬ男とデートをすると聞いたとき、僕の心はズキリと痛んだんだ。

 

 それを、アスカは途中で切り上げたという。それが僕には、少し、いや、心の底から嬉しかった。

 

 家の電話が鳴る。出てみれば相手はミサトさんで、今日は遅くなるから先に寝てて、というものだった。

 

 それを僕がアスカに伝えた瞬間だった。

 

「ねえ、シンジ。キスしようか?」

 

 僕の思考が止まった。

 

 僕はアスカを見つめる。アスカの顔は悪戯っぽく笑っているけれど、その目は真剣そのものだった。

 

「キスよ、キス。した事ないでしょ?」

 

「・・・・・・うん」

 

 僕の喉が、キュッと締まる。

 

「じゃあ、しよう?」

 

「!!・・・・・・どうして?」

 

「退屈だからよ」

 

「退屈だからって、そんな・・・」

 

「お母さんの命日に、女の子とキスするの、嫌?天国から見てるかもしれないからって」

 

「別に・・・・・・」

 

「それとも怖い?」

 

 アスカのその問い掛けに、僕の中の何かがプツンとキレた。

 

「・・・・・・怖い」

 

「・・・え」

 

「怖いよ、キスするの。それも、アスカとキスするのは、怖い・・・」

 

「なんでよ!意気地なし!」

 

「違う!そうじゃない!」

 

 気がつけば僕は、アスカの両肩に手を掛けていた。

 

「!!」

 

「アスカとキスしたい!でも、僕はきっと止められない・・・キスしたら、もう僕は止まれないと思うんだ。だから・・・!」

 

「バカシンジ!」

 

 息の荒くなった僕を、アスカが詰め寄って止める。

 

「我慢、しなくていいよ?」

 

「!!」

 

「ねぇ、シンジ。キス、してくれる?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕の理性の糸がブツリと切れた音を聞いた。

 

 僕はアスカを力強く抱きしめる。僕の背に、アスカの手が回される。

 

 僕とアスカの瞳が見つめ合う。お互いに目を逸らしはしない。これから起こることに対する期待感だけが、抱きしめ合った鼓動の大きさで伝わってくる。僕もアスカも同時に目を瞑った。触れ合いそうになる唇が、お互いの期待を高め合っていた。

 

 自惚れかもしれない。でも、確かに感じる。僕とアスカの間にある絆は同じだ。

 

 きっと、この唇が触れ合ったら、もう止まらない。止められない。

 

「アスカ・・・・・・」

 

「シンジ・・・」

 

「止められないよ。『できるわけがない』。アスカとキスしたら、僕は止まることができない。・・・・・・それでもいいの?」

 

「シンジ」

 

 アスカの腕が、僕の首に回される。

 

「キス、して」

 

 その一言が、僕の理性を焼き切った。

 

 僕がアスカを強く抱きしめ、アスカの唇に僕の唇を押し付けようとした瞬間──、

 

「碇くん?」

 

 ここにいるはずの無い、綾波の声が聞こえてきた。

 

 瞬間、僕とアスカは抱き合ったまま、声のした方向に振り返る。

 

「あ、綾波!!?」

「ちょ!?ファースト!?なんでここに!」

 

「・・・・・・わたし、邪魔、だった?」

 

 僕とアスカは咄嗟に離れた。それを残念と思う気持ちはあったけれど、今はソレよりも取り繕うものがある。

 

「じ、邪魔じゃないよ!少し、ビックリしたけど」

 

「そ、そうよ!あんたお隣さんだもんね!ジョバァーナがいないんだし、ウチに顔出すくらいフツーよ、フツー!」

 

 そんな僕たちの取り繕いに気付いたのかいないのかはわからないけど、綾波は純真無垢な赤い瞳で僕らを見つめる。

 

「そう?」

 

「そ、そうだよ!ねぇアスカ!?」

 

「え!?そ、そうね!ジョバァーナも居ないんだし、ご飯、一緒に食べましょーか!」

 

 明らかにその場を取り繕った言葉。けれどそれは綾波にとっては些か傷付く言葉だったようで。

 

「いいの。碇くんとセカンド。二人が仲良ければそれで・・・」

 

「「ちょっと待ったーーーッ!!」」

 

 僕とアスカの言葉が、馬鹿みたいに重なり合った。

 

「大丈夫!綾波が思ってるような事はないから!」

 

「そうよ!ファースト!ところで今日食べたいものとかある!?シンジが腕によりをかけて作るから、楽しみにしてなさいよね!?」

 

「アスカ!?」

 

 唐突なアスカの無理難題に対して、僕はただソレを実行するしかなくなった。逃げ道がなくなったわけだね。

 

「そう。じゃあ、今日はオニオングラタンスープが食べたいわ」

 

 うぐ!微妙に面倒な料理を提案してくるあたり、普段の綾波とジョルノ君の食生活が垣間見える!しかしここで断るという選択肢はない。僕は素直に、綾波のリクエストに応える事にした。

 

 ああ、ジョルノ君。

 

 君は、毎日こんな苦労をしていたんだね。

 

 僕はアスカと綾波をキッチンテーブルに備え付けられた椅子に座らせて、しっかりじっくりとオニオングラタンスープを作ることにした。

 

 アスカとの関係が、一歩進むかと思われた瞬間の綾波の出現。

 

 それに僕は、言いようのない不満を抱えたままキッチンに立つ。

 

 そんな僕の耳元に近付いてくるアスカの吐息の混じった一言。

 

「次は絶対、するわよ」

 

 その決意の籠った言葉は、僕のやる気を最大限にするのであった。

 

 まぁ、オニオングラタンスープが焦げついたのはご愛嬌ということで、一つよろしくお願いします。

 

 それにしても綾波のお世話って大変だ。身が持たないと、痛感した日でもあった。

 

 ジョルノ君。早く戻ってきてよ、ね。

 

 

つづく

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