ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 SDATの電源を入れて、イヤホンを耳に当てる。アスカとのキス騒動の後、僕は自室のベッドに横になったまま、ジョルノ君がいなくなってからのこれまでの出来事を思い返していた。

 

 つい先日の事だった。僕たちエヴァンゲリオンのパイロット3人が、なぜか裸でテストをさせられた日があった。確か新しいシステムの実験とか言われたけれど、結局なんだったんだろう?

 

 その実験を行った日のことだった。僕たちは最後まで関わらなかったけれど、どうやら使徒がネルフのかなり奥深いところまで侵入したらしいんだ。

 

 第11の使徒。それはエヴァンゲリオンを使わずに退治された初めての使徒。使徒を倒したのは技術部、というより、リツコさんだったみたいだ。まぁ、そんな話を聞いたのは、使徒が倒されて、僕たちが強制排出されたエントリープラグから救助された後の事だったけど、ね。

 

 とにかく、ネルフが使徒に侵入された後の数日間、恐れていた次の使徒が現れる事もなく、僕たち3人はエヴァのテストをずっと受けさせられていた。

 

 僕が零号機に乗って、エヴァのパイロットの互換性のテストを受けたのは、そんな時だった。僕の当時の記憶は曖昧なんだけど、どうやら僕の乗っていた零号機が暴走したらしい。

 

 暴走。それはエヴァンゲリオンによるパイロットへの侵食だと、後からミサトさんに教わった。僕は記憶が曖昧で、実感が湧かなかったってのが本音だけど。

 

 それを聞いた僕は一瞬エヴァの事が怖くなってしまったけれど、ジョルノ君の手紙を思い出して心を落ち着かせた。

 

 大丈夫、エヴァは味方だ。なぜなら、エヴァには僕の母さんの魂があるんだから。

 

 でも、と、気を失う直前の事をぼんやりと思い出す。

 

 綾波・・・そう、たしか綾波が、僕の頭の中に入ってきた気がした。漠然とした記憶の中で、綾波レイという女の子の記憶が、零号機から僕の頭の中に直接訴えかけてきたような、そんな気がする。

 

 朝食や夕飯の時にウチを訪ねてくるような、いつもお腹を空かせている綾波レイ。そんな側面とはまた違う、綾波の記憶を垣間見たような気がするんだ。

 

 僕は自室のベッドの上で身を捩らせる。僕やジョルノ君たちと関わってきた綾波。それと、テストの時に頭の中に入ってきた綾波の記憶。そこに僕は小さな違和感を覚えていた。

 

 たぶん、違和感の原因はジョルノ君。彼の存在なんだと思う。僕たちのウチを訪ねてきた綾波は、ジョルノ君との生活で少しずつ変化していった。というより、本当の綾波を知ることができた、って言った方がいいのかな。

 

 本当の綾波は幼い少女のように純粋で、人に甘えられる、そんな一面を持った不思議な女の子。

 

 でも、あの時、頭の中に流れ込んできた綾波は違う。まるで『人ではない何か』のような、そんな感覚。

 

 きっとあの記憶は、綾波がジョルノ君と出会う前の綾波の記憶なんだ。そう思っていないと頭がおかしくなりそうだよ。なぜなら、あの零号機の中の『綾波』は、僕の事を──。

 

「ふう・・・・・・」

 

 何を考えているんだか。自分でも笑っちゃいそうになった。だって、僕の知る本物の綾波レイは、ジョルノ君と一緒に住み始めてから少しずつ心を開いてくれたんだからね。彼女が僕に敵意に近い何かを抱いているなんて、とてもじゃないけど思いたくない。

 

 そう考えると、綾波も、ジョルノ君に救われていたのかもしれない。彼と一緒に生活を送る事で、彼女自身の心の奥底に『自我』が目覚めた。そんな感じだと、僕は思っている。

 

 僕はSDATから流れてくる音楽を聞き流しながら、今日という日に起こった出来事を整理する事にした。

 

 母さんの墓参りに行って、そこで父さんと数年ぶりに会話をする事ができて、『ああ、この人は僕の父さんなんだ』って改めて気付かされた。母さんを思い、悼む気持ちが、父さんの口から聞けたから。

 

 その父さんの気持ちは、本物だった。だからこそ、僕はソレを聞けた事を嬉しく思ったんだ。

 

 帰宅後のアスカとのドタバタは一旦横に置いておくとして、本当に色んな事が起きた日だったと思う。

 

 零号機の実験。父さんの本音。酔い潰れたミサトさんを送ってきてくれた加持さんの印象も、いつもと違った。

 

 胸の内側で、何かがザワザワするような嫌な感触があった。

 

 何かが、動き始めている。使徒ではない、人間サイドの裏の方で、何かが起きている。そんな、『嫌な予感』が胸をよぎる。

 

 ジョルノ君。君は今、どこにいるんだろう。

 

 彼の考えを聞きたい。早く、会いたい。

 

 そんな事を考えながら、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 京都の夏は暑い。盆地としての京都は、夏暑く冬寒い厳しい気候の土地であったが、セカンドインパクト以降、冬という季節を失った日本において、京都は屈指の猛暑地となっていた。

 

 加持リョウジは着ていたベージュの上着の裾を捲って汗を拭った。彼がいるのは京都の外れにある、ある廃屋。倉庫として使われていたであろうその建物内は埃っぽく、もう何年も人の出入りがされていないのは明らかだった。

 

「16年前、ここで何が始まったんだ・・・?」

 

 加持が周囲に気を配った途端、建物のドアがぎぃぃっと開く。咄嗟に懐の拳銃に手を伸ばした加持だったが、加持の懸念とは裏腹に、ドアから誰かが入ってくる様子はない。

 

 加持は慎重にドアに近付くと、ドアの隙間から外に視線を向けた。

 

「私だ」

 

 ドアの向こうから聞こえてくる声。その声を聞いた瞬間、加持はため息とともに緊張を解いた。

 

「ああ、あんたか」

 

 ドアの向こうにあったのは、どこにでもいるような普通の主婦。それが野良猫たちに餌をやっている姿だった。

 

「シャノンバイオ。外資系のケミカル会社。9年前からここにあるが、9年前からこの姿のままだ・・・マルドゥック機関と繋がる108の企業のうち、106がダミーだったよ」

 

「ここが107個目、というわけか」

 

 加持はつい懐からタバコを取り出したが、自分の痕跡をできる限り残したくない加持は、タバコをそのまま懐にしまった。

 

「この会社の登記簿だ」

 

 主婦がおもむろに書類を取り出して、ページをめくる。

 

「取締役の欄を見ろ、だろ?」

 

「もう知っていたか」

 

「知ってる名前ばかりだしな。マルドゥック機関。エヴァンゲリオン操縦者選出のために設けられた、人類補完委員会直属の諮問機関。組織の実体は未だ不透明・・・・・・」

 

「貴様の仕事はネルフの内偵だ。マルドゥックに顔を出すのはまずいぞ」

 

「ま、何事もね、自分の目で確かめないと、気が済まない質だから」

 

(そう、それがジョルノ・ジョバァーナを見殺しにした俺の、せめてもの罪滅ぼし・・・・・・)

 

 加持は主婦の横を通り過ぎて、そのまま京都の街並みへと歩き出した。

 

(俺と同盟を結んだ彼との約束に従って、俺は俺なりにネルフに隠された真実を掴み取る。そうでもしなきゃ、俺は・・・・・・)

 

 加持は今度こそタバコを取り出すと、口に咥えて火をつけた。

 

 煙は苛立つほどに透き通った空に、ゆっくりと登っていく。

 

 ゆらゆら、ゆらゆら、と。

 

 それは加持の今の心境と、これからの行先を暗示しているかのようであった。

 

 

 

つづく

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