ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
「あれ?シンちゃん、お出汁変わった?」
ミサトさんがビールを片手に、僕の作ったお味噌汁を一口含む。
「ええ、カツオ出汁。リツコさんのお土産」
僕はお味噌汁の鍋を持ちながら、にっこりと微笑んだ。ミサトさんは僕の顔を見ると、これまたニッコリと笑ってビールを口に含んだ。
「きゃぁ~あ!あっつぅ~いぃ!」
「え!?」
アスカの突然の悲鳴。僕は何があったんだろうと急いで風呂場のアコーディオンカーテンを開けた。
「アスカ!だいじょう──」
ぶ、と言うまえに、風呂桶が僕の顔にガツンと当たった。
「い、いったぁ!?」
「バカシンジ!覗いてんじゃないわよ!」
「ご、ごめん!」
顔を押さえながら見てみれば、アスカは真っ赤なバスタオルで体を覆っているところだった。僕の視線に気付いたのか、アスカがもう一つ風呂桶を投げつけてくる。
「危ないよ、アスカ!」
「ううっ!そうやってすぐ謝って!ほんとに悪いと思ってんの!?」
「な、なんだよ・・・ちゃんと謝ってるじゃないか」
「シンジってなんだか条件反射的に謝ってるように見えんのよねぇ!人に叱られないようにさ!」
「ご、ごめん」
「ほらぁ!内罰的すぎんのよ、根本的に!」
「まぁまぁ、それもシンちゃんの生き方なんだから・・・」
「シンジの生き方を容認するなんて甘い!最近ミサト、シンジに甘すぎるんじゃない!?」
「そぉ?」
「加持さんとヨリが戻ったからって、他人に幸せ押し付けないでよね!」
「そのセリフ、そっくりそのまま返しとくわ」
「ぬぁんですってぇ!?」
あ、マズい。これはアスカ、本気でキレる一歩手前だ。
「あ、アスカ!お風呂の事は悪かったよ。今度からもう少し温くしておく・・・それより早くお風呂入らないと、料理まで冷めちゃうよ?」
「うううううーーーっ!バカシンジ!アタシが上がるまで、あんた待ってなさいよ!?」
そう言い残すとアスカはアコーディオンカーテンをビシャリッと閉めた。
・・・・・・ふう。なんだか最近、アスカの機嫌が悪いな。息が詰まっちゃうよ、まったく・・・。
「シンちゃんも大変ねぇ。将来尻に敷かれるわよ?」
「別に敷かれるのは構わないんですけど、最近アスカの機嫌悪いじゃないですか。大丈夫かなぁって・・・・・・」
「うわお・・・こりゃご馳走様って感じだわ。ところで、明日もシンクロテストあるんだから、今日は早く寝なさいね?アスカとの逢引きはほどほどにするよーに!」
「な、何言ってんですか、ミサトさん!?僕たちはそんなんじゃ・・・!」
「はいはい。本当にごちそうさま。私も歯ぁ磨いて寝るわねぇ〜」
ミサトさんはそう言うと食器を流しにも戻さず、洗面所へと行ってしまった。
なんだよ・・・・・・僕、なにか変な事言ったかなぁ?
結局、アスカがお風呂から上がるまで、僕はご飯を前にして「待て」の状態だった。犬じゃあるまいし・・・せっかく美味しくできたと思ったのに、これじゃあ台無しだよ、アスカ・・・・・・。
◇
翌日のシンクロテストはすこぶる調子が良かった。リツコさんのお出汁のおかげかな?自分でもとても上手くエヴァとシンクロできていると感じた。
『聞こえる?シンジ君』
「はい!ミサトさん、今のテスト結果どうでした!?」
『はぁ〜い!ゆーあーナンバーワン!』
やった!僕のシンクロ値が一番高かったんだ!僕は嬉しくて思わずガッツポーズを取った。
そこに水を差すように、プラグ内にウィンドウが開かれる。嫌な予感がした。相手は予想通り、アスカだった。
『はぁ〜い?ナンバーワン。どうよ、今の感想は?』
「やめてよ、アスカ。そんな絡み方されたら何も言えないよ」
『参っちゃったわよねぇ。あっさり抜かれちゃったじゃない?ここまで簡単にやられると、正直ちょっと悔しいわよねぇ』
うう・・・本当、めんどくさい絡み方だ。これ、内心ではかなり怒ってるな、アスカ。
『すごい!すばらしい!強い!強すぎる!あ~無敵のシンジ様ぁ!これであたし達も楽できるってもんじゃないの。シンジしか勝たん!』
「なんだよ、それ。褒めてんのか貶してんのか」
『褒めて貶してんのよ!あんた、ちょっと最近生意気よ?』
「僕のテストがちょっと良かったからって、なんでそこまで言われなきゃならないんだよ!」
『はいはぁ〜い!二人ともそこまで。これはあくまでもテスト結果。あんまし一喜一憂して喧嘩なんてするんじゃないの!夫婦喧嘩は犬も食わないのよ?』
『「誰が夫婦ですか!」』
『ほらぁ。息ぴったし。じゃ、3人とも上がっていいわよ?ご苦労さま』
『お腹空いたわ・・・・・・』
なんだろう。せっかく褒めてもらえたっていうのに、釈然としないや。アスカとぼくの間に、何というか嫌な空気が漂う事が最近多い。
ちぇ、僕だって、一位になりたいじゃないか。アスカばっかりでずるいよ、そんなの。
・・・・・・わかってる。こんなの、子供っぽい感情だ。僕が大人になればいい。それはわかってるんだけど・・・・・・。
なんだろう。最近のアスカ、僕は嫌いだな。
◇
ミサトさんの家に帰ってきた僕らは、今日は簡単なペペロンチーノを作って夕食にした。綾波が3人前も食べるもんだから忙しかったけど、夕食の間、(食べるのに夢中な綾波は当然として)僕とアスカには会話が無かった。
綾波が夕食のお礼を言って帰った後も、僕たちの間には気まずい空気が流れている。BGMとして流してるだけのテレビの音声が、部屋に虚しく響いている。
「ごめん、シンジ・・・・・・」
「・・・・・・え?」
唐突に出てきたアスカの謝罪に、僕は面食らってしまった。え?一体何がゴメンなんだ?
「ここ最近、アタシ、焦ってんのよ。使徒のキルスコアはあんたの方が多いし、シンクロ率まであんたに抜かされちゃった。アタシのこれまでの頑張りが、エヴァに乗って数ヶ月も経ってない男の子に抜かされるのが、すごく嫌で・・・・・・」
「アスカ・・・・・・」
「シンジの事は好き。でもそれとは無関係に、腹も立って・・・・・・何かに八つ当たりでもしてないとやってらんないのよ、今のアタシ」
「そう、だったんだ・・・・・・なんか、ごめん」
「謝らないでよ。すぐそうやって謝るの、あんたの悪い癖。謝られる事でこっちが傷付くの、あんたわからないの?」
「え?いや、そんなつもりじゃ・・・・・・」
「・・・・・・ごめん。めんどくさいよね、アタシ・・・・・・先に寝るわ。おやすみ」
「あ・・・・・・」
僕の伸ばした手をするっと抜けて、アスカは自室に戻って行った。
「そんな事言われたって、僕だってどうすればいいか、わかんないよ・・・・・・」
僕は胸に変なつかえを抱いたまま、これから何かをする気にもなれず、歯を磨いて布団に入った。
なんなんだ。本当に。僕の中に、イライラが溜まっていくのがわかる。
何かで憂さを晴らしたい。そんな気持ちだけが、強くなっていった。
そんな鬱々とした翌日の事だった。僕たちの前に、第12の使徒が現れたのは。
ジョルノ君のいない初めての使徒戦。僕の気持ちは、「とにかく憂さを晴らしたい」「思い切り暴れたい」というものが強い。どうにかして目の前に現れた使徒を、徹底的に完膚なきまでにやっつけたかった。
それが、使徒との戦闘に於いて致命的なモチベーションだと気付かぬまま、僕はエヴァ初号機に乗り込んでいた。
つづく