ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 エヴァ初号機の背をビルの影に預けて、僕は初号機の手の中にある拳銃の具合を確かめるように握り直した。

 

 拳銃なんかより、殴った方が早いのに・・・。

 

 いや、それじゃあダメだ。

 

 相手はまだ正体不明の使徒もどき。下手に殴りに行って返り討ちにあったら、第4の使徒の時と変わらないじゃないか。それじゃあダメだって、ケンスケの件で学んだはずだろ?

 

 僕はエントリープラグの中で大きく深呼吸をする。大丈夫、僕は冷静だ。今の僕は一人じゃない。綾波やアスカもエヴァに乗って出撃している。大丈夫なんだ。だから、落ち着いて・・・・・・。

 

 頭の中で必死に自分に言い聞かせてはいるものの、どうしようもなく逸る僕の心臓が胸をざわつかせる。

 

『みんな聞こえる?目標のデータは送った通り。今はそれだけしか分からないわ』

 

 通信を通してミサトさんの声が聞こえてくる。

 

『慎重に接近して反応をうかがい、可能であれば市街地上空外への誘導も行う。先行する一機を残りが援護。よろしい?』

 

 ほら、やっぱり慎重に行くべきなんだ。僕の考えは間違ってない。間違ってないんだ。

 

 だから、ちょっとは落ち着いてくれよ・・・!僕の心臓!

 

 そうやって、僕が自分の中の自分と戦ってるっていうのに──、

 

『はーい、先生!先鋒はシンジ君がいいと思いまーす!』

 

「はぁ!?」

 

 何を言い出すんだよ、アスカは!

 

『そりゃもう、こういうのは、成績優秀、勇猛果敢、シンクロ率ナンバーワンの殿方の仕事でしょう?』

 

 なんだよソレ!昨日の夜は殊勝に謝ってきたくせに、また蒸し返すような事を言って!

 

『それともシンちゃん、自信無いのかなぁ〜?』

 

 あ、やばい。

 

 頭の中で、何かがプチンとキレる音がした。

 

「行けるよッ!お手本見せてやるよ、アスカ!!」

 

『んな!?な、なんですってぇ!?』

 

『ちょっと、あんたたち・・・』

 

「言ったでしょ、ミサトさん?ユーアーナンバーワン、って!」

 

『あ、いや、アレは・・・』

 

「戦いは男の仕事!」

 

 そうだよ・・・結局、アスカは僕を馬鹿にしたいんだ・・・何かにつけて、僕を下に見たいんだ!

 

 いいよ。だったらやってやろうじゃないか。僕一人で使徒を倒して、僕の方がアスカより上なんだってハッキリさせてやる!

 

『前時代的~!弐号機、バックアップ!』

 

『零号機も、バックアップに廻ります・・・・・・』

 

 アスカと綾波がバックアップに入ってくれるみたいだ。

 

 でも、いいんだ。そんな事しなくったって。だって使徒は、僕一人でもやっつけられるんだから!

 

 僕は初号機のケーブルを左手で手繰り寄せつつ、第三新東京市のビル群をゆっくりと進んでいく。

 

 目標は、あの空中に浮かんだ白黒模様の球体。第12の使徒。

 

 アレを撃ち落とせば、今日の仕事は終わりだ・・・!

 

 初号機をビルの影に隠しながら、僕は第12の使徒にジリジリと近付いていく。ビルを挟んだ向こう側には、もう使徒の姿が眼前まで迫っているはずだ。

 

「綾波、アスカ!そっちの配置はどう?」

 

『まだよ』

 

『そんなに早く移動できるわけないでしょ!・・・ちっ』

 

 ・・・・・・いま、舌打ちした?

 

「ちっ」

 

『!』

 

 僕もわざと大きく、アスカに聞こえるように舌打ちを返した。ざまぁみろ、だ。やられた方の気分を、アスカも味わったらいいんだ。

 

『・・・・・・』

 

 アスカのイラついた息遣いだけが通信を流れる。それを聞いている僕の方も、なんだか無性にムシャクシャしてきた。

 

(まだか・・・・・・?)

 

 僕は初号機が手にした拳銃を握り直す。

 

(足止め・・・・・・そうだ、足止めだ。こっちで、足止めだけでもしておく!)

 

 僕は大きく息を吸うと──、

 

「ふっ!!」

 

 ビル影から半身だけ覗かせて、第12の使徒に向けて発砲した!

 

『んな!?』

『え・・・?』

『バカ!まだ早い!!』

 

 通信からミサトさん達の声が聞こえてくる。けど、構うもんか。とにかく、今の僕でやれるところまで戦って・・・・・・って──、

 

「き、消えた!?」

 

 そんな!?

 

 今の今まで、僕の目の前にいたはずなのに!

 

 途端にプラグ内に響き渡る警告音!これって・・・・・・、

 

『なに!?』

『パターン青!使徒発見!初号機の直下です!』

 

 使徒!?いや、それより、初号機の真下!?

 

 僕の視線が足元に落ちる!途端──、

 

「は!?か、影が!?」

 

 初号機の足元に、巨大な影!?その影に、初号機の足がズブリと沈んだ!

 

「なんだよ、これ!おかしいよ!?」

 

 僕は手にした銃を影に向けて乱射した!でも・・・・・・!

 

「はああああ!?」

 

 銃弾は全て、コンクリートに弾かれて──、

 

『シンジ君、逃げて!シンジ君!?』

 

『碇くん・・・!』

 

『バカ!何やってんのよ!!』

 

 ダメだ!初号機の足がズブズブと影に飲み込まれていく!まるで、底無し沼のように・・・!!

 

「ミサトさん!どうなってるんですか!?ミサトさん!アスカ!綾波!援護は!?ミサトさん!聞こえてます!?ミサトさん・・・!」

 

『プラグ射出!信号送って!』

『ダメです!反応ありません!』

 

 そんな!?

 

 ダメだ!初号機が、飲み込まれるッ!!

 

「ミサトさん!ミサトさぁん!!」

 

『シンジ君ッ!!』

 

 ミサトさんの声が最後に聞こえて、

 

 僕は影に飲み込まれた・・・・・・。

 

 

 

 

 眠ることがこんなに疲れるなんて、思わなかったな・・・・・・。

 

 僕はゆっくりと瞼を開ける。目に映るのは、真っ暗なエントリープラグ内。

 

 アレから、どれだけの時間が経ったんだろう。最初こそ初号機でどうにかできないかと色々足掻いてみたけど、残り少ないエヴァの内部電源を消費するわけにはいかなかったから・・・。

 

 僕は操縦桿をカチッと鳴らす。途端にエヴァに電源が入り、周囲の風景をプラグ内に映し出した。

 

「やっぱり真っ白か・・・レーダーやソナーが返ってこない。空間が広すぎるんだ・・・」

 

 僕はもう一度操縦桿を操作してエヴァの電源を消すと、手首に表示された時間を確認した。

 

「生命維持モードに切り替えてから12時間・・・僕の命も後4、5時間か・・・」

 

 お腹空いたな・・・・・・。

 

 

 

 

 もう、どれだけの時間が経ったのかわからない。

 

 助けは、まだ来ない・・・・・・。

 

「は・・・っ!?」

 

 なんだ、コレ・・・・・・息苦しい!

 

「水が濁ってきてる!?浄化能力が落ちてきてるんだ!」

 

 うっ!・・・・・・生臭い!

 

「血・・・?血の臭いだ!」

 

 嫌だ・・・・・・ココは嫌だ!!

 

 僕は咄嗟に、プラグ内のハッチに手を伸ばした。ここから出るために。

 

 なのに・・・・・・!

 

「なんでロックが外れないんだよッ!?」

 

 LCLが濁ってきているのがわかる・・・・・・このままじゃ、死ぬ・・・!?

 

「開けて!ここから出して!ミサトさんどうなってるんだよ、ミサトさん!アスカ!綾波!リツコさん・・・父さん・・・・・・」

 

 お願い、誰か、助けて・・・・・・。

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・誰?

 

 誰?

 

《・・・・・・碇シンジ》

 

 それは、僕だ。

 

《僕は君だよ。人は自分の中にもう一人の自分を持っている。自分と言うのは常に2人でできているものさ》

 

 2人?

 

《実際に見られる自分と、それを見つめている自分だよ。碇シンジと言う人物だって何人もいるんだ》

 

 ・・・・・・?

 

《君の心の中にいるもう一人の碇シンジ、葛城ミサトの心の中にいる碇シンジ、惣流アスカの中のシンジ、綾波レイの中のシンジ、碇ゲンドウの中のシンジ・・・・・・みんなそれぞれ違う碇シンジだけど、どれも本物の碇シンジさ。君はその他人の中の碇シンジが恐いんだ》

 

 他人に嫌われるのが怖いんだよ!

 

《自分が傷付くのが怖いんだよ》

 

 ッ!

 

 悪いのは、誰だ?

 

《悪いのは父さんだ!僕を捨てた父さんだ!》

 

 悪いのは、自分だ。

 

 何もできない、自分なんだ。

 

(そうやってすぐ謝って!ほんとに悪いと思ってんの!?)

 

 アスカ・・・・・・。

 

(何もできないと思っている自分でしょ?)

 

 ミサトさん・・・・・・。

 

(お父さんの事、信じられないの?)

 

 綾波・・・・・・。

 

 もういい。もう、わけわからないよ。

 

 結局、悪いのは全部、僕で・・・・・・。

 

 こんなの、最初から無理だったんだ。

 

 最初から、『できるわけがなかったんだ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『君の言う通りだ!シンジ君!!』

 

 

 

 

 

 

 !!

 

 ジョルノ、君?

 

『シンジ君、胸を張るんだ。「できるわけがない」!それは全くもって正しい!葛城さん、何のためにここまで来たかって?父親から逃げちゃあダメだって?違うッ!シンジ君は「逃げないために」ここに来たッ!!』

 

 これは、初めてジョルノ君と会ったときの・・・・・・。

 

『シンジ君!君は「父親と対峙するためにここに来た」!!あの手紙とも呼べないような「こい!」の一言しか書いてないメモを前に!君は、父親の真意を確かめるために来たッ!そうじゃあないのかッ!?碇シンジ君ッ!!』

 

 そう。あの時、君は。

 

『君は「勇気」を出してここに来た!何のために?父親の真意を確かめるためだ!逃げちゃあいけない?違うッ!これは『見限る』と言うんだ!シンジ君!君が父親を見限っちゃあいけない事なんてないんだッ!』

 

 そうやって、僕を鼓舞してくれた。

 

『君が乗れるわけがない!軍の人間が動かせなかった兵器が、訓練も受けてない君に動かせるはずがないッ!君が言ったとおりなんだシンジ君!君の答えは、何も間違っちゃあいないんだ!帰れ、だって?上等じゃあないか。君の父上が『帰っていい』と言ってるんだぜ?だったら何も後ろめたく感じる必要はない!ここからすぐにでも、僕とシンジ君で帰らせてもらおうッ!!』

 

 結局、僕は帰らなかったけれど。

 

『『覚悟』とは!!暗闇の荒野に!!()()()()()()()()()()()()()!』

 

 君はそう言って、僕の道を切り開いてくれた。

 

 いや──、

 

『君が決めるんだ。誰かに強要されてじゃない。君の心が、決めるんだ。はっきり言って、君が進むべき道は暗闇に満ちている。それに君の心の炎を照らして、道を切り開くのは君なんだ』

 

 僕が──、

 

『君がどんな道を選んでも、僕は君を信じる』

 

 君のおかげで、選べたんだ。

 

『信じよう。そして君が『覚悟』を決めたなら、僕は僕のやり方で『覚悟』を示さなくっちゃあならないな』

 

 あの時、君がいてくれたから。

 

《その喜びを反芻して、これから生きていくんだ?》

 

 ・・・・・・ふ、ふふ。僕。いや、もう一人の僕、とでも言えばいいのかな?

 

《・・・・・・?》

 

 保温、も。

 

《・・・・・・何を笑ってるの?》

 

 酸素の循環、も。どうやら、切れたみたいだね?

 

《・・・・・・どうして、笑っているの?》

 

 寒い。ダメだ。スーツも限界みたいだ。

 

 だけどね。

 

(もう、いいの?)

 

 僕は、忘れていない!

 

(そう・・・よかったわね)

 

 このエヴァには!母さんの魂が宿っているということをッ!!

 

 

 

『Lesson4・・・・・・』

 

 

 

 敬意を、払えッ!!

 

 

 

 

 

 

 夕暮れの第三新東京市の上空に、第12の使徒が佇んでいる。

 

 その眼下には、影に沈んだビル群の姿があった。

 

『エヴァ両機、作戦位置』

『ATフィールド、発生準備ヨシ』

『了解』

 

 その上空に、幾つもの飛行機雲。

 

『爆雷投下、60秒前』

 

 幾つものミサイルが描き出した飛行機雲が、夕空を彩っていた。

 

 だが。

 

『!?』

 

 その場に居合わせた全員が目を剥いた。

 

 影に、赤い亀裂が走っていく。地面が隆起し、赤い血飛沫が溢れ出す。

 

『何が始まったの!?』

 

 戦場に響き渡るアスカの悲鳴。その答えを知る者はこの戦場にはいない。

 

『状況は!?』

『わかりません!』

『全てのメーターは、振り切られています!』

『まだ何もしていないのに!?』

 

 戦場にネルフの面々の状況報告が飛び交う中、上空の使徒、いや、正確には使徒の『影』に異変が起きた。

 

 『影』の一箇所に巨大な亀裂が走り、そこから鮮血が噴水のように噴き出した。

 

 使徒の『影』を引き裂き、そこから現れるのは、取り込まれたはずの初号機。

 

『おお・・・・・・!』

 

 ネルフのオペレーター陣が、畏怖を込めた歓声を上げる。

 

 使徒の『影』の傷口をさらに広げて、エヴァンゲリオン初号機はその上半身を現した。

 

 それは正しく、血に濡れた鬼神の如く。

 

 使徒の鮮血が悲鳴のように噴き上がり、『影』の亀裂はとうとう『影』全体に及んだ。それはまるで、果実が引き裂かれ、握りつぶされているかのようにも見て取れた。

 

 使徒の『影』から這いずり出てきた初号機が大地に立つ。

 

 ネルフの面々がその恐ろしい光景に息を呑む中、赤木リツコの声だけが通信を流れた。

 

『なんてものを・・・なんて物をコピーしたの?私たちは・・・・・・』

 

 その恐れ慄く声に、応える者がいた。

 

「大丈夫ですよ、リツコさん。それにミサトさん。アスカ、綾波も・・・・・・」

 

 それは初号機と共に、使徒に飲み込まれた少年の声。

 

「Lesson4、敬意を払え。・・・母さんが、助けてくれました」

 

 碇シンジの、この場にそぐわない明るい声だった。

 

 

 

つづく

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