ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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73.

 

 ネルフ管轄の病院の一室。僕はそこでゆっくりと目を覚ました。どうやら第12の使徒との戦いのあと、僕は気を失っていたらしい。

 

 知ってる天井だ。2回、いや、3回くらいはお世話になった事のある病院の一室。いい加減見飽きてきた天井だけれど、なんて思いながら、僕は体を起こした。

 

「ん、綾波・・・?」

 

 体を起こしてようやく気が付く。僕のベッドの横で、綾波が椅子に座って静かに本を読んでいた。

 

「今日は寝ていて。後は私たちで処理するわ」

 

 綾波が僕に視線を向けずに、本を読みながら僕に必要事項を伝える。なんだけど・・・、

 

 ぐぅ〜〜〜・・・・・・。

 

 静かな病室に、綾波のお腹の音はとても大きく響いた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 僕たちの間に流れる沈黙。それを破ったのは、別段恥ずかしいとかそう言った感情とは無関係の表情の綾波だった。

 

「今日の、夕飯は、なに?」

 

「え!?僕が作るの!?」

 

「他に誰がいるの?」

 

「いや、だって、さっき、今日は寝ててって・・・」

 

「碇くんが帰って来ないと、一人の少女が飢え死にするわ」

 

「なにその脅し文句!?」

 

「冗談よ」

 

「半分以上本気だったよね!?」

 

 そこまで僕が言ったところで、綾波がふっと笑う。別に嘲笑とか、そういうんじゃない。ただただ、僕の体調を気にかけてくれた微笑みだったみたいだ。

 

「体、問題、ない?」

 

「え?・・・・・・あぁ、うん。大丈夫だよ」

 

「そう。よかったわね」

 

 ・・・・・・え?

 

 その声音を、僕は聞いたことがある。それは、僕が母さんの魂を感じ取った、先のエヴァンゲリオン初号機の中で──、

 

「わたし以外にも、あなたを心配している人はいるわ」

 

 僕が咄嗟に伸ばした手をすり抜け、立ち上がった綾波はスタスタと歩いていくと、そのまま病室のドアを開けた。

 

 その向こうにいたのは、両手を胸の前で組んでいるアスカ。

 

 アスカは扉が開いたことに気付き、次いで僕の視線がアスカに注がれている事に気付くと、シャッと病室の影に隠れた。

 

「うう・・・・・・」

 

 開きっぱなしの病室のドアの影から、アスカの戸惑ったようなうめき声が聞こえてくる。

 

 僕はそれがとてもおかしくて、

 

「ふ、くくくくくく・・・・・・」

 

 つい、笑いを堪えてしまった。たぶん、すぐそこにいるアスカには聞こえているだろうけども。

 

 こうして、ジョルノ君のいない初めての使徒戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

 それから、ほんの数日が経って。

 

 僕は学校で、いつもの日常を過ごしている。

 

 使徒との戦いは、激しさを増してきている。というより、人智を超えた戦いになってきたって言うんだろう。本当に、今この場にジョルノ君が居てくれたらとつくづく思う。

 

 でも、僕は僕でやれる事があるはずだ。たとえ、ジョルノ君が居なくても。彼からはもう既に、沢山のものを受け取っているから。

 

 それに、一人じゃない。仲直りしたアスカがいる。お隣さんの腹ペコ娘の綾波がいる。ちょっとだけ頼り無いミサトさんだっている。

 

 そんな普段の日常の中で、僕は使徒とは何か。エヴァとは何なのか、という事をずっと考えていた。

 

 記憶──。

 

 ガラスの向こうの微かな記憶。

 

 手を伸ばして引き寄せようとすればするほど、深く深く、沈んでいってしまう。

 

 母さんが目の前で消えてしまった、あの日の記憶。

 

 僕は呼び起こしたいのだろうか。それとも、このまま封印してしまいたいのだろうか。

 

 あの機械油と血の混じり合ったような匂い。

 

 警報ブザーの音。人々の叫び声。

 

 それきり会えなくなった母さん。

 

 それきり語る事のなかった父さん。

 

 エヴァ。新しく出会った人たち。

 

 使徒。

 

 真実。

 

 僕にとっての真実とはなんだろう。

 

 全ては、掌から砂のように溢れ落ちてしまうような気がするのに・・・・・・。

 

 最後に僕の手の中に残るのは一体、なんなんだろう。

 

 そんな事を考えていたからかな?

 

「こりゃシンジ!お掃除キチンとしなさい!」

 

「い・・・っ!?」

 

 後ろからパコンとチリ取りで殴られていた。

 

「ったいな!いきなり後ろから叩くなよ!」

 

 僕は背後の友人、鈴原トウジに向かって文句を言った。

 

 それを受けたトウジ本人は心からの呆れ顔で、

 

「アホやな、お前。スケベすんならもっと上手い事せぇよ」

 

 訳のわからない言葉を口にした。

 

「は?スケベ?」

 

「こっから女の子のスカート覗こうと思ってたんやろ?」

 

 ここは僕の通っている学校。その階段の踊り場だ。確かに、女子が頻繁に登り降りしているけど・・・。

 

「何アホなこと言ってんだよ。トウジじゃあるまいし」

 

「しー!騒ぐなって。例えばこー雑巾がけするフリをしてやなぁ、ちらっと・・・・・・」

 

「すーずーはーらー?」

 

 トウジがちらっと覗いた先にいたのは、我らが学級委員長、洞木ヒカリさんだった。

 

 あーあ・・・・・・。

 

「今日という今日は許さないから!」

 

「わーーーッよりによって一番危険なパンツ見てもうた!」

 

 トウジはとっさに立ち上がると、あろう事か僕を盾にし始めた。

 

「ちょっ!トウジ!?」

 

「シンジ、助けろ!」

 

「待ちなさい!こらぁッ!」

 

 な、なんで僕を盾に・・・ってぇ!?

 

「「うわぁッ!?」」

 

 僕とトウジは、ものの見事に階段から転げ落ちてしまった。

 

「いてててて・・・・・・」

 

「だ、大丈夫?二人とも・・・って碇君、血!」

 

 あ、本当だ。肘のあたりから血が流れてる。

 

「モップの角が当たったかな」

 

「保健室行かなきゃ・・・」

 

「え?いいよ、これくらい・・・」

 

 エヴァの操縦による怪我じゃないんだし、大袈裟だな。

 

「ダメよ!ちゃんと消毒しなきゃ!」

 

「あの〜ワイも全身打撲なんやけど・・・」

 

「あんたはさっさと掃除しなさい!」

 

 委員長の一喝を受けたトウジを背に、僕たちは保健室へ向かった。

 

 本当に大した事ないのになぁ。

 

 

 

 

「ごめんね、半分は私の責任だわ」

 

「いいよ、そんなの気にしなくて」

 

 保健室で、委員長が僕の腕の傷に消毒液をちょんちょんと当てていく。

 

 んー、これがアスカだったならどうなんだろう。きっと消毒液をバシャッとぶっかけるんだろうな。十中八九。

 

「・・・・・・碇君てさ」

 

「ん?」

 

「鈴原と仲良いよね。なんであんなバカと仲良くしてんの?」

 

「え、なんでって・・・」

 

「バカが移るわよ?」

 

 意外と委員長もズケズケ言うんだなぁ。

 

「バカじゃないよ?トウジは。ちょっとお調子もんだけど、僕よりしっかりしてるし、すごく良いやつだし」

 

「・・・・・・・・・私も、そう思う」

 

 ん?なんだろう。委員長、なんだか嬉しそうだ。

 

「鈴原、私のこと、なにか言ってない?・・・・・・あ、深い意味はないのよ!口うるさいとかお節介とか言ってないかなぁー、なんて。別に何も言ってないなら、いいんだけど!」

 

 んんん?なんだろう、さっきから委員長の様子がおかしいな。妙に早口だし、妙にトウジの事を気にしているし。

 

 もしかして・・・・・・、

 

「鈴原ってさ・・・アスカの事好きなのかな?」

 

「それはない」

 

「え?」

 

「それは、ない」

 

「そ、そう?」

 

 これだけは断言できる。トウジとアスカは似たもの同士だけど、好き嫌いの感情は絶対ない。

 

 というか、それだと僕とトウジは恋敵になるって事だ。それはなんか、嫌だな。

 

「トウジはもっと家庭的な子が好みだと思うし・・・・・・」

 

「そ、そう!?・・・・・・そうよね、ふふ♪」

 

 あ、やっぱりだ。

 

 きっと委員長は、トウジの事が好きなんだな。

 

 家に帰ったあと、アスカに相談してみたら、やっぱり委員長はトウジの事が好きだ、という結論に達した。

 

 アスカは委員長が言っていた「トウジがアスカを好き」発言を本気で嫌がっていたけど。

 

 まぁ、ここで僕とアスカの波長が合っちゃったのがまずかったんだと思う。

 

 僕とアスカは委員長の恋を叶えるため、ミサトさんが帰ってくるまで幾つもの作戦を馬鹿みたいに考えていた。

 

 

 

つづく

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