ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
ジオフロントを走るモノレールに、ネルフ最高幹部2名の姿があった。
「街。人の作り出したパラダイスだな」
「かつて楽園を追い出され、死と隣り合わせの地上と言う世界に逃げるしかなかった人類。そのもっとも弱い生物が、弱さゆえ手に入れた知恵で作り出した自分達の楽園だよ」
一人は冬月コウゾウ。もう一人は碇ゲンドウ。二人の会話は他愛のない哲学のやりとりのようであった。
「自分を死の恐怖から守るため、自分の快楽を満足させるために自分達で作ったパラダイスか。この街がまさにそうだな。自分達を守る、武装された街だ」
「敵だらけの外界から逃げ込んでいる臆病者の街さ・・・」
「臆病者のほうが長生きできる。それも良かろう。第三新東京市、ネルフの偽装迎撃要塞都市、遅れに遅れていた第7次建設も終わる。いよいよ、完成だな」
そこまで言って、冬月は手にしていた新聞をパサリと折り畳む。
「四号機の事故、委員会への報告は済んだのか?」
「ああ。事実の通り、原因不明。強いて言えば・・・」
ゲンドウはそこまで口にして、その口の端を僅かに上げた。
「ジョルノ・ジョバァーナ。奴が消息を絶った事は、報告済みだ」
「なんとも壮大な『厄介払い』だな」
「我々は一切手を下していない。あれは正真正銘の事故だよ」
「そうだな」
冬月は深く息を吐きながら、モノレールのシートに体重を預ける。その前に座る碇ゲンドウは腕を組んだまま、外を眺めるばかり。
「しかし、ここにきて大きな損失である事は確実だな」
「四号機と第2支部はいい。S2機関もサンプルは失ってもドイツにデータが残っている。・・・ここと初号機が残っていれば十分だ」
「しかし、委員会は血相を変えていたぞ」
「予定外の『事故』だからな」
「ゼーレも、慌てて行動表を修正しているだろう」
「死海文書にない事件も起こる。老人にはいい薬だよ」
二人の会話はここで途切れる。あとは心地の良い静寂と、モノレールが夕刻のジオフロントを走る音のみが残されていた。
◇
「センセぇ!頼む!数学の宿題見せてんか!」
目の前で拝み倒すように絡んできたトウジに、僕は冷たい視線を向けた。
「ねぇ、たまには他の人に見せてもらえば?」
「は?それって、たとえば誰やねん?」
「たとえば・・・・・・」
僕の視線が泳ぐ。といっても、行く先は決まってるんだけどね。
さっきからこっちを、いや、トウジを気にしてこっちを見てくる委員長だ。
まぁ、僕と目があった瞬間、恥ずかしそうに目を逸らしちゃったけど。
「例えば、委員長とか・・・」
「アホか!あんな堅物ドケチが見せてくれるわけないやろが!」
「誰が堅物ドケチですってぇ!?」
ああ。始まっちゃった。二人の他愛のない夫婦喧嘩みたいなやりとり。
(もう一生やってなさいって感じ?)
僕は暴れる二人を視界の端にやり、軽くため息をついた。
その時だった。
「鈴原!鈴原トウジはいるか?」
先生が教室に入ってきて、いきなりトウジを呼び出したんだ。
なんだろう?まだ休み時間なのに。
「至急、校長室まで来なさい」
・・・は?校長室?
「あんた、なんかやったの?」
委員長が僕の心の声を代弁してくれる。
「アホ。心当たりないわ」
まぁ、そうだよね。トウジが何かやらかしたって雰囲気でもないし。
「ほな、なんか知らんけど、行ってくるわ」
トウジはあっけらかんとした態度で教室を出ていく。それを心配そうに見送る委員長。
その後ろから、いつの間にか接近したアスカがぬぅっと顔を出した。
「ヒ〜カ〜リ〜・・・・・・」
「きゃあ!?」
「ダメじゃ〜ん。今のまんまじゃ何の進展もないわよ?」
アスカがチッチッチッと指を振る。その視線は僕にも届いていて。
(いいわね?シンジ!)
(OKだよ!アスカ!)
無言のアイコンタクトで、委員長の両腕を拘束して屋上に連れていくのだった。
◇
「鈴原トウジ君、ね?」
「は、はぁ」
「ネルフ本部技術一課所属、赤木リツコです。以後、よろしく」
◇
さて、一通りアスカと一緒にトウジ攻略作戦を委員長に伝授したところで、僕は今、ネルフ本部に来ていた。道中、リツコさんから言伝を預かった僕は、広いネルフ本部内でミサトさんを探してたんだけど・・・。
「あ、いたいた!ミサトさん!」
ミサトさんがいたのは自販機コーナーで、隣では加持さんがコーヒーを飲んでいるところだった。
「なに?シンジ君」
「リツコさんが、明日からの出張の打ち合わせだって」
「分かったわ、ありがとう。・・・・・・また今度ね」
ミサトさんは横でコーヒーを飲んでいる加持さんに軽く声をかけてこの場を後にする。
残されたのは僕と、実はあまり面識のない加持さんのみ。
「じ、じゃあ、僕はこれで」
「待った」
この場を後にしようとした僕に、加持さんが声をかけてきた。
「たまにはどうだ?お茶でも」
「僕、男ですよ?」
「男同士だって語り合えるさ。今、この場にはいないジョルノ・ジョバァーナ君みたいに、ね」
!?
ジョルノ君!?
「まぁ、大した話じゃあない。少し君とも友好を深めたいだけさ」
加持さんのニヤケ顔に一抹の不安を抱きながらも、僕は加持さんの後に付いて行った。
◇
「加持さんって、もっとまじめな人だと思ってました」
「安心してる相手だと、遠慮がないな。碇シンジ君」
「そりゃあ、こんなことさせられたら文句の一つも出ますよ」
僕が今いる所。それは、加持さんが(きっと無許可で)栽培しているスイカ畑だった。僕はその畑で雑草抜きと水やりをやらされていた。
「可愛いだろう?俺の趣味さ。みんなには内緒だけどな。・・・・・・何かを作る、何かを育てるのはいいぞ。いろんな事が見えるし分かってくる。楽しい事とかな」
「辛い事も、でしょ?」
「辛いのは嫌いか?」
「好きな人、いるんですか?」
「まぁ、普通はいないな」
加持さんはそう言って大きく笑った。
「楽しいこと、見つけたかい?」
うわ。そう返してくるか。僕はその質問に対して口ごもってしまう。
「それもいいさ。けど、辛い事を知っている人間のほうがそれだけ他人に優しくできる。それは弱さとは違うからな」
それは、そういう事なら。
「大丈夫です」
「ん?」
「それができる友人が、僕には居ますから」
「・・・・・・はは。ジョルノ君は本当にすごい奴だよな?」
「ええ、本当に。僕を助けてくれる、スーパーヒーローです」
「否定できないのが、彼のすごい所だよ」
「僕もそう思います」
僕と加持さんの視線が交差する。でも、その視線に嫌な感情は一切無くて。
「早く、戻ってきてくれるといいな」
「・・・・・・本当に、心から思います」
僕はジオフロントの天井を見上げる。今は夕暮れ時。人の作ったビル群が、ジオフロントの地下に顔を覗かせている時間帯だ。
人の作った街。それはきっと、人の作り出した幻の都だ。だけど僕は、それを否定する気にはなれない。
それはきっと、諦めなかった人たちの作り出した街だから。
「シンジ君、葛城から伝言だ。この後シンクロテストをするんだと」
「わかりました、加持さん。ありがとうございます」
僕はネルフ本部へと向かう。加持さんと過ごした時間は短いけれど、それでも、ジョルノ君を通して、この人の事が少し見えた気がした。
◇
そんなこんなで、シンクロテストを終えたネルフの帰り道だった。
「・・・・・・・・・トウジ?」
「シンジ」
トウジが、僕を待ち構えていた。
「どうしたの?こんなとこで」
「ちょっと、買い物・・・」
嘘だ、と思う。トウジは買い物袋の一つもぶら下げてやいない。
きっと、僕を待っていたんだろう。
それに気付かないふりをして、僕は会話を続けようと試みる。
「あれから教室に戻ってこなかったから、少し、心配してたんだよ」
僕のセリフを受けたトウジが頭をガシガシと掻く。
「ああ、大した事じゃあらへんかった。けど、ちょっと教室に戻るのがかったるかったんでな」
そう言って、トウジは黙り込んだ。歩道のガードレールに腰掛けるトウジを、夕暮れが優しく照らす。
その様子は、なんだか、儚さを伴って僕の目に映った。
「なぁ、シンジ」
トウジの小さな声が、僕の耳に届く。
「今日、これからウチ来ぃひんか?」
「・・・・・・え」
トウジは少し黙りこんで、意を決したように僕に言った。
「ほんまは、お前のこと待っとったんや。聞きたいことあんねん」
そのトウジの表情が真面目そのものだったから。
僕は、黙って頷くしかなかった。
つづく