ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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「碇さ〜ん!来てくれはったんですか!?」

 

 トウジに連れられてお宅にお邪魔した僕は、サクラちゃんの抱擁、というか体当たりにお出迎えされた。

 

「こぉら!サクラぁ!お兄ちゃんは許さへんで!?」

 

「はっ!別にお兄ちゃんに許されようなんて思っとらんわ!」

 

「なんやと!?このガキぃ!」

 

「ま、まあまあ・・・!サクラちゃん、久しぶり。元気にしてた?」

 

「え〜、全然元気やなかったですぅ。碇さん、全然会いに来てくれへんのやもん」

 

「あ、あはは・・・・・・」

 

「ぬぅ〜・・・!ええか、サクラ!大人しゅうしとけよ!?今から晩飯作るからな!」

 

「んべぇ!」

 

 サクラちゃんが舌を出してトウジをからかう。随分前に初号機のせいで怪我をしたみたいだけど、ジョルノ君が怪我を治したおかげか、後遺症みたいなのはないみたいだ。

 

 改めて、僕は安心したようにため息を吐いた。

 

 

 

 

「ふー!食った食った!」

 

 僕はトウジのお宅で夕飯をご馳走になった。トウジとサクラちゃん、それに、トウジのおじいさんが一緒だったから、なんだかいつもより賑やかな食卓だったと思う。

 

「どや!結構いけたやろ?ワイのオリジナルカレー!」

 

「うん!」

 

「まぁまぁやんな。お兄ちゃん、もっと腕磨きぃや」

 

「お前は何様やねん!」

 

 トウジとサクラちゃんの掛け合いが面白い。本当に、仲の良い兄妹なんだな。

 

 ぶつぶつと文句を言いながら食器を片付けるトウジに、僕は何気なく聞いてみた。

 

「ねぇ、聞きたいことって、まさかカレーの感想?」

 

 それを聞いたトウジは、一瞬だけ顔を歪ませたように見えた。

 

 目の錯覚かな。トウジはすぐにいつものあっけらかんとした表情に戻ったみたいだけど。

 

「なんやったかな?忘れてもうた」

 

 ?

 

 なんだろう。トウジは何かを隠している気がする。

 

「・・・・・・片付けるの、手伝うよ」

 

 僕はそう言ってまとわり付いてくるサクラちゃんを剥がすと、トウジと一緒に台所に立った。

 

「あぁあん!もう、碇さんのいけずぅ」

 

 ・・・・・・サクラちゃんはどこに向かおうとしてるんだろう。僕に好意を持ってくれてるのは、なんとなくわかるんだけど。

 

 まだ、小学二年生だったよね??

 

「すまんなぁシンジ。皿洗い、手伝ってもろて」

 

「いいんだよ。ミサトさんの家でやり慣れてるし」

 

「なんやソレ。自慢か?」

 

「ち、違うよ!」

 

 そんな冗談を言い合いながら、僕たちはお皿を洗い上げていく。カレーって一品料理だから、お皿を洗うのも簡単だ。

 

「あんた・・・・・・」

 

「はい?」

 

 居間のほうから、トウジのおじいさんが僕に声を掛けてきた。おじいさんは新聞を広げたまま、僕に話しかけてきたみたいだ。

 

「うちの人が心配しとるんとちゃうの。連絡も無しにこんな遅うまでおったらあかんよ」

 

 あ!言われて思い出した。アスカとミサトさんのご飯、どうしよう。

 

 まぁいいや。ここまで来たら仕方ない。帰ってから超特急で何か作ればいいだろ。

 

「はい。これ洗ったらちゃんと帰りますから」

 

「・・・・・・おおきに」

 

 おじいさんは小さく礼を言うと、そのまま新聞の続きを読み始めた。

 

 

 

 

「じゃあもう帰んないと、ミサトさん、うるさいから」

 

「ああ、遅うまで引き止めて悪かったな」

 

 僕は夕飯のお礼をトウジに述べて、玄関を出る。

 

「また明日、学校でね」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

 結局、トウジの聞きたかった事ってのがなんなのか、わからずじまいだったな。

 

 まぁいいや。明日にでも聞き出せば。本人も言い出すタイミングとかあるんだろうしね。

 

 そう考えてトウジの家を出た瞬間、

 

「シンジッ!」

 

 突然、後ろからトウジの声が聞こえてきたかと思うと、僕は後ろからトウジに肩を掴まれていた。

 

「うわ!?・・・・・・トウジ?どうしたんだよ」

 

 追いかけてきたトウジの顔は、どこか切羽詰まったような、鬼気迫るものを感じさせる表情だった。

 

 なんだろう。トウジは僕に何を伝えたいんだ?

 

「・・・・・・シンジ」

 

「ん?」

 

「・・・・・・初めて、初めてエヴァンゲリオンに乗ったとき、どないやった・・・?」

 

 え・・・・・・?

 

「なんで?」

 

「どんな感じやった?怖かったか?」

 

「なんで、そんな事聞くんだよ?」

 

 僕の問いかけに、トウジは真っ直ぐに視線をぶつけてきた。

 

 それは、何かに縋るような表情で。

 

「ワイ・・・・・・今日・・・・・・」

 

 ゴクリ、とトウジが唾を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「ネルフの人来て──、パイロットになれ、言われたんや」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・は?

 

「妹・・・、うちのサクラな。シンジとジョルノが治してくれたやんな」

 

「いや、あれはジョルノ君のおかげで・・・」

 

「それ、ホンマは有り得へんのやって。ジョルノの技術は世界的にも希少で、本来なら一般人が受けられるもんやないって」

 

「だ、だとしたらどうなのさ」

 

 

 

「治療費を、請求されたんや」

 

 

 

「は?」

 

「妹の本来の治療費。それを、パイロットになったら融通してくれる言うねん。それで・・・」

 

 な、なんだよ!それ・・・!?

 

「そんなのッ!」

 

「それで、ワイ、引き受けてもうた」

 

「な、何やってるんだよ!トウジ!そんなの、ただの脅迫じゃないか!なんでそんなの引き受けて・・・」

 

「それだけやないんや!!」

 

 トウジが、僕の両肩を掴んで叫ぶ。

 

「ワイ、シンジとジョルノにめっちゃ恩感じとんねんで!どうにかしてお前らに恩を返したかったんや!」

 

 はぁ!?

 

「そんな、そんなの、友達なら当たり前だろ!?友達の妹を助けるなんて普通の・・・」

 

「頭やで!?サクラは頭を打っとったんや!下手したら一生植物人間やったんや!それを救ったんがお前らなんや!こんな恩、どうやって返したらええねん!!」

 

「と、トウジ・・・・・・」

 

「治療費の話が出た時は、ワイも頭に来たわ!せやけど、これはチャンスやって思うてん!ワイもエヴァに乗って、お前らと一緒に戦って、ほんの少しでもええから恩を返したかったんや・・・これがワイの本音やッ!心からの本音やッ!!」

 

 トウジ。なんで、そんな事・・・。

 

 そんな事、感じなくたっていいのに。

 

 だって、僕の肩を掴むトウジの腕は、

 

「なのに、この様や」

 

 こんなにも、震えてるじゃないか・・・!

 

「怖い、ごっつ怖いんや。最初は大したことあらへんて自分に言い聞かせとったんやけど、見てみぃ。震えとる。震えが止まらん」

 

「それなら・・・」

 

「それでも!止めろなんて言うてくれるなや!お前らに感じとる恩義はホンマもんや。エヴァに乗って、お前らと一緒に戦いたいっちゅーんもホンマや!でも、怖いんや!」

 

 トウジはズルズルと、僕の肩から両手を離してしまい、そのまま、トウジはうずくまってしまう。

 

「なぁ、シンジ。ワイはやりたい。エヴァのパイロットとしてお前らの力になりたい。でも、勇気が足りんねん。だから、頼む。ワイのこと、勇気付けたってくれや」

 

 トウジの顔は地面を見つめている。その両拳は強く握りしめられている。そしてその拳は、ガタガタと震えている。

 

「トウジ・・・・・・今から僕がミサトさんに言って」

 

「それはアカン!ちゃうんや、シンジ!ワイは、勇気が欲しいんや!お前らに恩を返すための、その絶好のチャンスをものにするための勇気が欲しいんや!!」

 

 トウジは顔を上げると、僕の目を真っ直ぐに見つめてくる。その意思は、これでもかと言うほどに凝り固まっていて。

 

 僕じゃ、解けそうにない。

 

「トウジ・・・」

 

「なんや!」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

「礼を言うのはこっちや。そんなんいらんから、教えてくれや。お前が、初めてエヴァに乗ったときの事を・・・・・・」

 

 それを聞いた僕は、一瞬だけ目を瞑る。トウジの覚悟は本物だと、目の前のトウジが全身で訴えかけてきている。

 

 それを否定する事は簡単だ。だけど、それは目の前の友人のためになるんだろうか。

 

 僕にはわからない。この時の僕にはきっと、勇気が足りなかったんだと思う。

 

 友達の願いを真正面から否定してでも、友達を止める勇気が。

 

「大丈夫、だよ・・・・・・」

 

 だから、こんな軽い言葉が出てくるんだろう。

 

「心配いらないよ。最初は怖いけど、すぐ慣れる。・・・・・・確かに、直接戦うのは僕らだけれど、スタッフが全力でバックアップしてくれるし・・・・・・」

 

 なんて、なんて軽い言葉なんだろう。そこに僕の実感は一切ない。ただの事実を舌の上に乗せる奇妙な感覚。

 

「それに、エヴァの中は案外安全なんだ」

 

 なんて薄っぺらい言葉なんだろう。今並び立てたのは確かにエヴァ運用における事実だ。けれど、僕は決してその事実に安堵した事は一度もない。

 

 だって、僕の隣にはいつも、最高の友人が、ジョルノ君が居てくれたんだから。

 

 それがいない。僕の時とは全く違う状況。トウジの事を思ってはいるにも関わらず、僕の薄っぺらな励ましは止まらない。

 

「トウジなら大丈夫。できるって。僕がやってるくらいなんだから・・・・・・」

 

「シンジ・・・・・・」

 

 トウジが俯きながら、それでも僕に抱きついてくる。それはまるで幼子が母親に抱きつく事で安心を得るような行動だと、僕は感じていた。

 

「すまん・・・、すまんかったな、シンジ。ワイ、お前の気持ちも知らんと、偉そうに殴ったりして・・・・・・」

 

 やめろよ、トウジ。

 

 僕は、そんな高尚な人間じゃない。

 

 今の慰めの言葉だって、本当にトウジの慰めになっているかさえわからないんだ。

 

 だから──、

 

 そんな、泣きそうな顔をしないでよ。トウジ。

 

 

 

つづく

 

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