ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 トウジが四人目のチルドレンだった。その事実を受け止めきれないまま、僕はミサトさんとアスカのいる家に帰ってきた。

 

「ちょっと!バカシンジ、どこほっつき歩いてたのよ!ファーストがお腹空きすぎて白目剥いて倒れてんのよ!?あんた、なんとかしなさいよ!」

 

 玄関では大変ご立腹のアスカが帰宅したばかりの僕を慌てたように煽るけど、僕はそのアスカをスルーして廊下を通り抜け、リビングで一人ビールを煽っているミサトさんの前に立った。

 

 その横で綾波が本当に白目を剥いて倒れてたけど、今はそれどころじゃない。

 

「知ってたんですか?」

 

 僕はミサトさんに問い掛けた。

 

「・・・・・・なんのことぉ?」

 

 ミサトさんがすっとぼけるけど、これでもほぼ毎日顔を合わせてるんだ。家族なんだぞ、僕らは。ミサトさんがトボけてるかどうかなんて、一目でわかるんだ。

 

「トボけないでください」

 

「・・・・・・」

 

 ミサトさんを睨み続ける僕に対して、ミサトさんはビールを一口だけ口に含むと、ふぅとため息をついた。

 

「本人から聞いたのね?」

 

「はい・・・・・・卑怯ですよ、あんなの。ただの脅迫じゃないですか・・・・・・」

 

「ごめん、私も今日まで知らなかったの・・・・・・いや、ごめん。嘘だわ。鈴原君がチルドレンってのは知ってた。知らなかったのは、鈴原君への誘い文句のほうね。まさかジョルノがいないのを良いことに、リツコがそこまでやるなんて思わなかったの」

 

 へぇ、そうか。悪いのはリツコさんか。

 

「どこ行く気?」

 

「リツコさんを殴りに行きます」

 

「無駄よ。私が先に殴っておいたわ。まあ反省してるかどうかは微妙だけど」

 

「・・・・・・・・・・・・そう、ですか」

 

 それじゃあ意味がない。殴ったところで反省する気配がないんじゃ、こっちの手が無駄に痛くなるだけだ。

 

「残念だけど、彼もパイロットを引き受けてくれた。今更ネルフの下した決定を覆せないわ」

 

「わかります、わかってますよ!そんなの!でも・・・・・・」

 

 こんなやり方、あんまりじゃないか!

 

「・・・・・・どうして、トウジなんですか?」

 

 せめて、それくらいの理由は聞かせてもらわないと、僕の気が済まない。

 

「・・・決まってしまった事をとやかく言ったって仕方ないわ。彼には適性があって、彼もそれを引き受けた。・・・やり方はサイテーだったけどね」

 

 ・・・・・・そうか。ミサトさんも知らない側なんだな。

 

 ホントだよね。こんなの最低も最低だ。

 

 僕は踵を返すと、自分の部屋のドアを開けて、そのままベッドに飛び込んだ。

 

 ダメだ。腹が立ちすぎて頭の中もぐちゃぐちゃになっている。どうしようもなく疲れたよ。今更どうしようもない事にどれだけ腹を立てたって、意味なんかないのはわかってる。

 

 でも、僕の怒りは収まらないんだ。理屈じゃないんだ。これ以上喚き散らかしたって、無駄だとはわかっているんだけれど。

 

 もう、疲れた。

 

 このまま、眠ってしまおう。

 

 夢の中なら、誰も追いかけてこない。煩わしい事も嫌な事も何もない世界。

 

 そんな世界が本当にあれば、どれだけ素晴らしい事だろう。

 

 そんな有り得ない夢物語みたいなことを考えながら、僕は瞳を閉じて眠りについた。

 

 

 

 

 

「ちょっとぉ!?シンジ!ファーストが本当にヤバいんだってば!泡吹いてビクンビクンて痙攣してんのよ!本当になんとかしてよぉバカシンジ!!」

 

 

 

 

 翌朝。僕は眠い目を擦りながらベッドから起き上がった。

 

 あの後、結局僕は綾波のためにカップラーメンを3人前作ってあげて、そのままシャワーを浴びて寝た。ミサトさんには悪いことをしたけど、まともな夕飯を作る気には、とてもなれなかった。

 

 1番の被害者はアスカだったけどね。今度、とびきりのハンバーグを作るからって約束したら許してくれた。

 

 それよりも、アスカはトウジがチルドレンになったって事に酷く憤慨しているらしい。「なんであんな猿が!?」とか言ってたけど、僕からトウジの現状も含めて説明したら、渋々納得してくれた。それも本当に、渋々ではあったけど。

 

 僕は部屋から出ると朝食の用意に取り掛かる。簡単な油揚げのお味噌汁にご飯と漬物だ。今日はそれ以上のものを用意する気にはなれない。

 

「おはよう、シンちゃん」

 

「あ、おはよう。ミサトさん・・・」

 

 僕の声には元気がない。振り向けば、そこにはネルフの軍人としての正装姿のミサトさんが立っていた。

 

「ご飯、できてますけど、食べます?」

 

「ん、ありがと。お味噌汁だけもらうわ」

 

「はい」

 

 ミサトさんのお椀に、出来たばかりのお味噌汁をよそう。

 

「どうぞ」

 

「ありがと。いただきます・・・・・・そういやリツコから貰ったお出汁だっけね。美味しいわ」

 

「ご飯もいるんじゃないですか?よそいますけど」

 

「んーん。大丈夫。昨日飲みすぎてね、ちょっと二日酔い気味なのよ。お味噌汁くらいがちょうどいいわぁ」

 

 ミサトさんはそう言って、お味噌汁をぐぐっと飲み干した。その顔はどこか安心したように柔らかくて、ミサトさんは小さく息をふぅっと吐いた。

 

「ごちそうさま。美味しかったわ」

 

 席を立ち上がったミサトさんが、大きな荷物を肩にしょって玄関に向かう。僕も見送りのため、後に続いた。

 

「じゃあ、4日ほど留守にするけどよろしくね。何かあったら加持に連絡して」

 

「──ミサトさん」

 

 一抹の不安が胸をよぎる。アメリカの四号機、ジョルノ君のこともある。もしまた、エヴァが暴走してトウジやミサトさんに何かあったら・・・・・・。

 

「大丈夫」

 

 それを察したかのように、ミサトさんが僕の肩を叩いた。

 

「私もリツコもついてるんだから、そんなに心配しないで。今回はただの起動実験だし。じゃあ、行ってくるわね」

 

 ミサトさんはそう言って、笑顔で家のドアをくぐり抜けた。

 

 その背を見送った僕は、なんとも言えない気持ちを抱いたまま、床に視線を下す。

 

 大丈夫、か。・・・うん、大丈夫だと、思うことにしよう。シンクロテストなら僕だって嫌っていうほどやってるし、大きな危険はないはずだ。

 

 そうだよ、トウジもミサトさん達も大丈夫だ。トウジが四人目のパイロットになってくれたら、僕が一生懸命フォローに回ればいいんだ。アスカと綾波。僕とトウジ。男女の割合もちょうどいいじゃないか。

 

 うん、なんだかそうやって物事を前向きに考えると、心が軽くなってきた。そうだよ、トウジと一緒に使徒と戦う。仲間が増える。それは素敵なことじゃないのかな。

 

 使徒を倒して、この四人で人類を守るんだ。

 

 最初の頃にジョルノ君が言っていたっけ。『一緒にあの怪物を倒す!こう考えれば、少しはワクワクしてこないか?』って。その気持ちが少しだけわかったような気がする。

 

 僕の視線は、いつの間にか前を向いていた。

 

「シンジぃ〜?お腹すいたぁ〜。朝ごはんはまだぁ?」

 

「あ。おはよう、アスカ!すぐに用意するね!」

 

「・・・?なんかあんた、今日はやけに機嫌がいいわね?」

 

 眠い目を擦りながら、アスカがそんな言葉を僕にかけてきた。アスカが言うくらいなんだから、今の僕はかなり上機嫌なんだろう。

 

 いまは、早くテストを終えたトウジと会いたい。そして一緒に訓練して、頑張り合うんだ。

 

 そう考えると、楽しくならずにはいられなかった。

 

 

 

 

 朝。日が上りかけていた街を、鈴原トウジは暗い顔で歩いていた。これから松代に向かって、そこでエヴァンゲリオンのテストを行うのだ。昨日、シンジから勇気をもらったと思っていたが、それでもトウジの心のモヤは晴れてはいない。

 

 肩に掛けた荷物が重い。三泊四日。それがトウジに与えられていた時間だった。

 

 重たい荷物に、解消されぬ胸のしこり。トウジの視線は自然と下を向いた。

 

 ふと、人の気配を感じたトウジは顔を上げた。まだ6時前だ。こんな早朝から、一体誰だろうと道路脇の街路樹に目を向ける。

 

 見慣れた後ろ姿がそこにはあった。

 

「委員長?」

 

 委員長、洞木ヒカリの肩がビクッと震える。トウジの目の前で、木陰に隠れるようにして立っていたのは、トウジのクラスメートの女の子だった。

 

「あ、おはよう・・・」

 

「なんや、お前。なんでそんなトコ隠れとんのや?」

 

 問い掛けられたヒカリの頬がほのかに赤くなる。

 

「別に・・・・・・委員長として、ちょっと気になったから。昨日呼び出されたあと、それきりだったし・・・・・・」

 

 なんだ、そんなことか。気の抜けたトウジは肩の荷物を背負い直した。

 

「そりゃご苦労なこっちゃな。・・・でも、余計なお世話や」

 

「な、なによ!人がせっかく心配して・・・・・・何よ?その荷物。どっか行くの?」

 

「悪い委員長。ワイ、今急いでんのや」

 

 まるで逃げるように、トウジはヒカリの横を通り過ぎた。トウジは目を伏せたまま、ヒカリと目も合わせない。

 

「そ・・・そう・・・・・・」

 

「んじゃな」

 

 ヒカリの手の中にあった小包。ヒカリはそれを胸に押さえたまま、トウジが去り行くのを見送る。

 

 渡せなかった。そんな落胆と共に、ヒカリが肩を落とした瞬間、

 

「委員長」

 

 背後から、トウジの声がかかった。

 

 ヒカリは急いで背後を振り向く。そこには柔らかい笑みをたたえた、トウジが真っ直ぐにこちらを見ていた。

 

「ワイ、2、3日学校休むけど、帰ってきたら委員長にもちゃんと話すわ」

 

 話す?一体、なんの話をしているのだろう。

 

「ワイら鼻つきあわすとケンカばっかやったけど、帰ってきたら」

 

 トウジの笑みが深くなる。その表情には、優しさと親愛が溢れていて。

 

「もう少し、仲良うしようや」

 

 その言葉に、ヒカリの胸の内がカッと熱くなった。

 

「鈴原!」

 

 ヒカリが一歩踏み出す。いつもなら、それに合わせてトウジが一歩引くだろう。そんな関係が、今までの二人だった。

 

 しかし、今日は違った。トウジは引かず、ヒカリの目の前で微笑んでいるままだ。

 

「こ、これ・・・・・・」

 

 ヒカリが手にした小包をトウジに差し出す。トウジは無言でそれを受け取った。

 

「あ、余っちゃったのよ。お姉ちゃんとノゾミの分のお弁当。だから、良かったらって思って・・・・・・」

 

 恥ずかしくて目を合わせられない。ヒカリの頬は急速に熱を帯びていく。手作りのお弁当を渡せた嬉しさが半分、恥ずかしさが半分だ。

 

「その、要らなかったら、このまま持って帰るんだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・いや」

 

 トウジの言葉に、ヒカリはハッと顔を上げた。

 

「ほんま、おおきに。朝メシ抜いとったんやワイ」

 

 心の底からの感謝を込めて、トウジは笑っていた。

 

「このお返しは、いつかちゃんとせなな」

 

「そ、そんな、こと、考えなくていいから・・・・・・!あまり物を詰め込んだだけ、だし」

 

「まぁそう言ってくれるなや。ワイだって、なんかしらの漢気を見せんとな」

 

 トウジはニカッと笑うと、大事そうに弁当箱を抱えた。そのままトウジは振り返り、駅までの道を歩き始めた。

 

「あんがとなぁ!委員長!お陰で勇気もらえたわッ!」

 

「は?勇、気・・・・・・?」

 

「なんでもあらへん!この礼は必ず返すわ!」

 

「う、うん!」

 

 ヒカリの返事を背に受けながら、トウジは思わずといった風に走り始めた。先ほどまでの不安や恐怖は、もうトウジの中からは消え去っていた。

 

「学校で、待ってるからね・・・鈴原」

 

 ヒカリは朝日の登り始めた街を、トウジの姿が見えなくなるまで、ずっと眺めていた。

 

 ヒカリの呟きは、トウジに届いたのだろうか。わからないが、ヒカリの胸には、確かにトウジへの想いが溢れかえっていた。

 

 

 

つづく

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