ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 僕の携帯がけたたましく鳴り響いたのは、ちょうどケンスケと学校の屋上で昼飯を食べ終わって一息ついた時だった。

 

 僕は特に気にした風もなく、携帯電話の通話ボタンを押して電話に出た。

 

「はい?」

 

『よかった!繋がって・・・シンジ君!?今すぐアスカとレイと一緒に本部に戻って!』

 

 この声は、マヤさん?

 

『大変な事が起こったの!!』

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓がざわりと音を立てて震えた気がした。

 

 な、なんだよ。一体何が起きたんだ?

 

 僕は目の前に突き付けられた現実を見ないように、静かにマヤさんに問い掛けた。

 

「何が、あったんですか・・・?」

 

『エヴァンゲリオン参号機の実験を行っていた松代で爆発事故が起こったの!!』

 

「松代で事故!?」

 

 そんな、バカな!!

 

「じゃあ、ミサトさん達は!?」

 

『まだ連絡は取れてないわ!とにかくすぐに本部に来て!!』

 

 マヤさんの焦りが、電話を通して僕にも伝わってくる。

 

『事故現場に未確認移動物体を発見したわ!恐らく使徒よ!』

 

 その言葉を聞いた途端、僕は横のケンスケを置き去りにして走り出していた。

 

「お、おい!シンジ、どうしたんだよ!」

 

「ごめんケンスケ!使徒だ!」

 

「・・・!!お、おう。がんばれよ!」

 

 ケンスケの声援を背中に受けたけれど、それどころじゃない。僕の心臓がドクンドクンと早鐘を打っているのがわかる。

 

 アメリカ第二支部の消滅・・・。

 

 ジョルノ君の安否不明・・・。

 

 いやだ!もう、そんな事は起きないでよ!

 

 僕は祈るようにして、ネルフ本部までの道のりを駆け抜けていた。

 

 リツコさん、トウジ!ミサトさん!!

 

 

 

 

 ネルフ本部にたどり着いた僕は、発令所内の蜂の巣を突いたような騒ぎに圧倒されていた。

 

『爆発事故の被害状況は!?』

『不明です!』

『救助および第三部隊を直ちに派遣!戦自が介入する前に全て処理しろ!!』

 

 飛び交うアナウンスを聞きながら思った。まだネルフ本部も、今回の事故の状況が把握できていないんだ。

 

「未確認移動物体は!?」

 

 冬月副司令の声が発令所の上の階から聞こえてくる。多分だけど、隣に父さんもいるはずだ。

 

「本部に向かい接近中!」

「パターンオレンジ!依然、使徒とは確認できません!」

 

 ここに向かっている・・・・・・やっぱり爆発の原因は、使徒?

 

 ざわりと全身の毛が逆立った。

 

 青葉さんと日向さんの大きな声での報告を聞きながら、僕は発令所の上階にいる父さんに呼びかけた。

 

「父さん!!」

 

「第一種戦闘配置」

 

 父さんは僕の呼びかけを無視した上で、ネルフ全体に指示を飛ばした。

 

『総員、第一種戦闘配置!!』

 

『地・対地戦用意!!』

 

『エヴァ全機!発進!』

 

「聞こえたな、シンジ・・・」

 

 上階から、父さんの声が聞こえてきた。顔は見えないけど、父さんが僕に意識を向けているのがわかる。

 

「エヴァに乗れ、シンジ」

 

「で、でも、トウジやミサトさん達は!?」

 

「今は使徒の殲滅が最優先だ。葛城三佐達の救援は別動隊が行う。お前はエヴァに乗って使徒を倒せ」

 

「でも!」

 

「くどい。今はお前のできることを全力でやれ。お前に求められているのは、使徒の殲滅だ」

 

「・・・・・・・・・・・・わかり、ました」

 

 僕は『父さん』ではなく、『碇司令』として対応した。父さんは別動隊を出したって言っている。なら僕は僕で、使徒の相手をしなくてはならないだろう。この判断は妥当とも思えなくはない。

 

 もっとも、僕の心中はそれどころじゃなかったけど。

 

 僕は唇を噛み締めると、ミサトさんやトウジ、リツコさんの無事を祈りながら、エヴァのケージに向けて再び走り出した。

 

 

 

 

『エヴァ全機、迎撃地点に緊急配置!』

『了解!至急リニアレール・ルート132へ連絡!』

 

 僕とアスカ、綾波はそれぞれのエヴァに乗って地上まで運び出されていた。僕たちはこれからリニアレールを使って、使徒が来るであろう野辺山に向かう。

 

「トウジやミサトさん達、大丈夫かな・・・・・・」

 

『あんた、さっきからそればっかよ!?ここでアタシ達が心配してもしょーがないでしょ!無事を祈るのは良いけど、今は目の前の使徒に集中ッ!』

 

「う、うん・・・・・・わかってる。わかってるよ。・・・ありがとう、アスカ」

 

『わかりゃあいいのよ』

 

『碇くん、今日の夕飯は、何?』

 

「え!こんな時にまでそんな話題!?」

 

『そう。葛城三佐達の夕飯、美味しいのを用意しなきゃ』

 

 ・・・・・・!

 

「そ、そうだね、綾波の言う通りだ。帰ってきたら、とびきりのご飯を用意しなくちゃね!」

 

『あんた、わかりやすく乗せられたわねぇ・・・・・・ファーストも恐るべし』

 

『ぶい』

 

 やっぱり、三人でいると心強い。そうだよ、大丈夫。きっと大丈夫だ。

 

 大丈夫、大丈夫、大丈夫・・・・・・。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、そうか?

 

 

 

 

 

 ・・・ダメだ!必死に自分に言い聞かせてはいるけれど、どうしても嫌な予想ばかりが頭をよぎってしまう。せっかくアスカや綾波が僕を励ましてくれてるのに、何をやってんだろう。

 

 僕は自分の頬を両手でバチンッと張った。

 

 信じろ、信じろよ!みんな無事だって!誰も居なくなったりなんかしないって!

 

 僕は初号機をリニアレールに移動させる。これに乗れば、僕たちは強制的に戦場まで送り飛ばされるだろう。

 

 初号機ごと寝転がって見上げた空は日が傾きかけていて、どこからかひぐらしの声が聞こえ始めていた。

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

「野辺山で映像捉えました!主モニターにまわします!」

 

 青葉の報告とともに、ネルフ発令所の巨大なモニターに使徒と思われる未確認移動物体の姿が映し出された。

 

 それを見た発令所の面々が、驚きの声を上げる。そこに映っていたのは──、

 

「こ、これは・・・エヴァ!?」

 

「やはりコレか・・・」

 

 冬月の冷静な声が発令所に小さく響く。予想していたとは言え、冬月も額を流れる汗を隠しきれてはいない。

 

 以前から懸念されていた、恐れていた事態が遂に現実となった。使徒によるエヴァンゲリオンの奪取。パイロット諸共を使徒の体内に取り込んで、ヒトに牙を向く人類の敵。

 

 冬月の動揺とは裏腹に、その隣で腕を組んだままのゲンドウはすぐに指示を飛ばした。

 

「緊急活動停止信号を発信。エントリープラグを強制排出!」

 

 その指示が飛んだ瞬間、画面の向こうのエヴァ参号機に変化が現れた。エントリープラグが爆音と共に、エヴァンゲリオンの体外へと排出されようとした。

 

 しかし、プラグの排出は叶わない。まるで粘菌のような使徒の身体によって、エントリープラグは文字通り絡め取られていた。

 

「ダメです!停止信号およびプラグ排出コード認識されません!」

 

「パイロットは?」

 

「呼吸、心拍共に反応はありますが、恐らく・・・・・・」

 

 ゲンドウの問いに対し、日向が焦りを隠さずに報告を上げた。それを聞いたゲンドウは一瞬だけ判断に迷った様子を見せたが、

 

「エヴァンゲリオン参号機は現時点をもって廃棄。目標を第13使徒と認識する」

 

 澱みない口調で、処断を宣告した。

 

「しかし!」

 

「予定通り野辺山で戦線を展開。目標を撃破しろ!」

 

 この瞬間。

 

 エヴァンゲリオン参号機のパイロットの命の保証は消えた。鈴原トウジが生きていようがいまいが、関わらず。

 

 彼の死は、ネルフの手によって決定付けられてしまった。

 

 

 

▼△▼△▼△▼△

 

 

 カナカナカナカナカナ・・・・・・。

 

 夕焼けが、辺りを赤く染め上げている。ひぐらしの切なげな声が山々に響き渡っている。

 

 僕達は初号機を中心に、零号機と弐号機が散開して敵を待ち伏せる陣形を取っていた。

 

 僕は初号機の中で、その瞬間を今か今かと待ち構えていた。

 

 使徒とこれまで戦ってきた経験なのか、僕の直感が唐突に僕に告げてくる。

 

(来る・・・・・・!)

 

 僕は視線を上げて、前方の敵、夕焼けを背負って近づいて来る敵に、目を向けた。

 

『目標接近!全機、地上戦用意!』

 

 エントリープラグ内に日向さんのアナウンスが流れる。僕は一度大きく息を吐き出すと、目の前に現れたであろう敵に向けて全神経を集中させた。使徒を殲滅し、人類の平和を守るために。

 

 その僕の目に、信じられない光景が飛び込んでくるまでは。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」

 

 夕焼けを背に、現れた敵の姿は──、

 

「目標・・・・・・目標って、これなのか・・・・・・」

 

 僕は、僕の目に映った現実を受け止めきれずに呟いた。

 

「だって、これは、エヴァじゃないか!!」

 

 僕の目の前に立った敵。

 

 それは僕も初めて見た、エヴァンゲリオン参号機。

 

『シンジ。これはもうエヴァではない。使徒だ』

 

 な、なにを・・・何を言ってるんだよ、父さん。

 

 だって、目の前のエヴァが敵なら・・・・・・!

 

「父さん!パイロットは!?あれに乗ってるパイロットは、どうなってるんだ!?」

 

『シンジ』

 

 僕の呼びかけに、父さんの返した言葉は無情にみちていた。

 

『もう一度だけ言う。目の前の敵は、使徒だ』

 

 必死に保っていた僕の精神が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちる。

 

「アスカ!」

 

『そんな・・・使徒に乗っとられるなんて・・・』

 

「アスカ!パイロットは!?パイロットは乗ってるのか!?」

 

『ここからじゃわからないわ。でも・・・、乗ってるなら助けなくっちゃ・・・!』

 

 アスカの弐号機の位置は、ちょうど使徒の斜め背後だ。そこからの奇襲であれば使徒に取っても有利なはず。

 

『!?きゃあああッ!?』

 

「ッ!?アスカ!?アスカ!!」

 

 そんな事を考えた途端、僕の思考を置き去りに、物事は急激に進んでいた。アスカの悲鳴と共に、エヴァンゲリオン弐号機との通信が途絶えた。

 

「アスカ!?・・・アスカ!!」

 

 アスカからの返事はない。エントリープラグ内に表示されたウィンドウには砂嵐が流れていた。

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

『エヴァ弐号機、完全に沈黙!』

 

『パイロットは脱出!回収に向かいます!』

 

『目標移動!』

 

 よかった。アスカは脱出できたみたいだ。だけど。

 

『零号機へ接近!』

 

 今度は綾波か!!

 

『レイ。接近戦闘は避け、目標を足止めしろ』

 

 通信に父さんの声が流れる。

 

『了解』

 

『聞いたな?シンジ。急げ』

 

「・・・ッ!?綾波ッ!!」

 

 僕は思わず、初号機を操縦して駆け出していた。

 

「まだ撃つな!僕が行くまで待ってくれ!エヴァ参号機には、トウジが乗ってるんだ!」

 

 僕の必死の悲鳴に、綾波が息を呑んだのがわかった。綾波は、トウジが乗ってると言う事実に少なからず驚いているようだ。

 

 その僕の声に応えてくれたから、だろうか。

 

『あっ!?』

 

 綾波の悲鳴が、通信を流れた。

 

「綾波!?」

 

『あ、あああううぅぅ!?』

 

「綾波!?綾波!!」

 

『零号機左腕に使徒侵入!神経節が侵されていきます!』

 

『零号機、左腕部を切断!』

 

『しかし、神経接続を解除しないと・・・』

 

『かまわん。切断だ・・・!』

 

 綾波の身に何が起こったのか、僕にはわからない。

 

 けれど──、

 

『きゃあああああああ・・・!!』

 

 綾波の悲鳴が、エントリープラグ内に流れた。

 

「綾波ッ!父さん!!」

 

『シンジ。残るはお前だけだ』

 

 父さんの無慈悲な言葉と共に、僕の目の前に、エヴァンゲリオン参号機が姿を現した。

 

『お前が倒せ!』

 

 父さんの言葉を聞いた僕は──、

 

「あ、あああ・・・・・・」

 

 ただ、目の前に立った『敵』に、恐怖を覚えるだけだった。

 

 

 

つづく

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