ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
怖い。怖くて仕方ない。エヴァに乗ってきて、初めて感じた戦いへの恐怖。
初めての使徒戦も確かに怖かった。けれど、あの時はジョルノ君が横にいたし、なにより、使徒がエヴァを乗っ取るなんて事もなかった。
目の前で、パイロットが人質に取られている状況での戦闘。一歩間違えれば、パイロットの、いや、トウジの命が失われてしまうかもしれない、この状況。
こんなの、僕は想像すらした事がない。
(怖い、ごっつ怖いんや。見てみぃ。震えとる。震えが止まらん)
昨日の夕方、僕に震えながら縋ってきたトウジの姿が甦る。
(碇!ジョルノ!どついてすまんかった!ワシの事もどついてくれ!)
トウジと出会ってからの今までの思い出が、脳裏に甦る。
(すまんかったな、シンジ。ワイ、お前の気持ちも知らんと、偉そうに殴ったりして・・・・・・)
僕の目尻に、涙が浮かんでくる。
悲しみと、怒りで、目の前が真っ白に染まる。
『シンジ!どうした、何を突っ立っている!?』
はっと、僕の視界がクリアになった。父さんの叱責を受けて、僕の意識が目の前のエヴァに向けられる。
そこに、エヴァ参号機の姿はなかった。
「はっ!?」
瞬間、初号機の上に覆い被さる影があった。瞬時に視線を上げればそこには、大地を蹴って高く飛び上がったエヴァ参号機が、夕陽に照らし出されながら飛び掛かってくるところだった。
「う、うあッ!?」
僕は初号機が手にしたパレットライフルを盾代わりに構える。そこを強い衝撃が襲った。エヴァ参号機が全身の体重を乗せた両蹴り。それがパレットライフルをいとも簡単に破壊して、初号機の胸に叩き込まれた。
「ぐあっ!?」
初号機が吹っ飛ばされる。背中に強い衝撃。どうやら初号機は勢いそのままに大地に叩きつけられたようだ。
「こ、この・・・!」
僕はすぐに起き上がり、再び使徒を視界の中に収める。その瞬間、僕の目に敵の背中から覗くエントリープラグの姿が飛び込んできた。
(トウジ!!)
初号機を素早く立ち上がらせ、僕は再度、徒手空拳で構えた。
「トウジ!トウジ、応えてよ!!無事だったら返事してくれ!何とかして助けるから!!」
僕の声が、聞こえてないはずがない。トウジが無事、だったならば。
だけども、目の前の参号機は右手をゆっくりと掲げて──、
「!?」
その腕が、まるでゴム人間のように伸びて飛んできた!狙いは初号機の首!
「くぅ!」
僕は襲い掛かってきた右手を躱す。だけどそこに畳み掛けるように、参号機の左腕も飛んできた!
「〜〜〜ッ!舐め、るなぁ!!」
初号機の右拳が、飛んできた左腕を叩き落とす。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
・・・・・・いいよ。わかった。僕のやるべき事が、今この瞬間、明確になった。
(覚悟を決めろ・・・暗闇の荒野に、進むべき道を切り開けッ!!)
僕は初号機の胸を拳でドンッと叩く。それだけで、僕の胸の中に熱い何かが込み上げて来るのがわかるッ!
「トウジは助ける。使徒もやっつける。両方やらなくっちゃあならないってのが、パイロットの辛いところだね・・・・・・」
僕は初号機を奮い立たせ、大地を強く踏み締めた!
「覚悟はいいか・・・・・・僕はできてる!」
初号機が、大地を蹴った!
「うぉあああああああああああ・・・!!」
田園を破壊しながら、僕は初号機を使徒に向けて突撃させた!使徒が迎え撃つように両腕を伸ばしてくるけど、
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァーーッ!!」
初号機の拳のラッシュで、それらを叩き落としていく!
使徒の両腕も止まらない!それどころか速度を徐々に上げながら、初号機を捉えようと拳が迫ってくる!
「ラッシュの速さ比べ!」
だけど、それなら──!
「僕の方が!速い!!」
エヴァとエヴァの拳同士が空中で幾つもぶつかり合う!その衝撃は空気を割って、夕焼けに染まる山々に轟音が響き渡る!
「まだだ!まだ、まだまだ、まだまだまだまだまだまだだァァーーッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!という轟音と共に、弾けた衝撃波が周囲の大地を切り刻んでいく!だけど僕の拳は止まらない!初号機の拳が、敵のラッシュを切り分けながら少しずつ距離を縮めているのがわかる!
『グオオッ!!』
使徒が唸り声を上げながら後退する!それを逃すほど、僕はお人好しじゃないぞ?
「はぁーーーーーッ!!」
一瞬で距離を縮めた初号機!目の前には、使徒に乗っ取られた参号機!
その腹に、初号機の右拳が叩き込まれた!
『グアッ!?』
「トウジ!少し痛いだろうけど我慢してくれ!!」
参号機の体勢が崩れた!いまだ!!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァアア!!」
拳のラッシュが参号機を捉えた!やった!
そう思った瞬間、使徒の姿が目の前から消えた!
「え!?」
視界の端に映った影を追えば、参号機が跳躍して初号機を飛び越えたところだった。使徒はそのまま大地に降り立ったかと思うと、すぐに跳躍を繰り返す!
あまりにも素早いその動きに、使徒の姿がブレて見える。まるで残像!簡単に捉えることはできないだろう。
だけどね。
「無駄ァッ!!」
僕は初号機の背中に接続されていたアンビリカルケーブルを手に取ると、まるで鞭のようにソレを振るった!使徒をケーブルで打ち据えて、可能ならばそのまま捕えられるように!
ビシッビシッとケーブルが大地に叩き付けられる音が木霊する!ケーブルは参号機を捕らえようと何度も空を切るけども、僕の諦めない心が遂に参号機を捕えた!
その一瞬で十分だ!僕は初号機を操り使徒を雁字搦めに縛り付けると、距離を縮めて渾身の蹴りを参号機の顔面に繰り出していた!
メギャアッ!と装甲の潰れる音が響く。きっとトウジにもダメージはフィードバックしているだろう。けど、今は我慢してくれ!
「捕えた!ここからプラグを引っこ抜けば!」
初号機の右手が参号機のエントリープラグに伸びる!届く!
そう思った瞬間、僕の視界が強制的に上を向かされていた。
「ぐ、ぐふ!?」
え・・・な、何が起きたんだ・・・?
視界が揺れる。目に映る景色がグニャグニャに歪んでいて、気持ちが悪い。
『初号機!顎部装甲に亀裂発生!』
『シンジ君!踏みとどまって!』
マヤさんの声が聞こえる。なに?顎?顎に何かされたのか?
加速する思考の中で、僕はどうにか使徒の姿を視界に収める。その姿はケーブルに雁字搦めにされながらも、右腕を上空に振り抜いていて──、
『グオオオオッ!!』
勝ち誇ったように、使徒が雄叫びを上げた。
(まさか、顎を打ち抜かれた・・・?まず、まずい・・・・・・脳が揺らされて)
初号機がたたらを踏む。その瞬間、使徒を捕えていたケーブルが緩む。
緩んだケーブルから使徒の姿が消えた。僕はその姿を追おうとしたけど、視界が揺れて定まらない。マズい!
右側頭部に、強い衝撃!使徒の攻撃が、初号機に叩き込まれたようだ!
「ぐ、ぐあ!?」
『ガルオオオオオオオオオオ!!』
お返しとばかりに、使徒の拳のラッシュが初号機に叩き込まれていく!僕は身を縮めて、耐える事しかできない。
『グオオ・・・・・・』
参号機の開かれた顎部が、まるで僕を嘲笑うかのように歪む。
「・・・・・・ふぅーーー」
おい。まさか、この程度で勝った気になってるんじゃあないだろうね?
「足元がお留守だよ?」
スコン、と。
初号機の足が使徒の両足を軽く払った。
ズズン、と音を立てて使徒が大地に倒れ込んだ。
「最初の使徒戦の時を思い出すよ。あの時もこんな風に足を払って、使徒が地面にすっ転んでたっけ?お前のコアがどこにあるかは分からないけど・・・・・・」
僕は初号機の右脚を高く振り上げ──
「お前を再起不能にしてから!トウジを助け出す!!」
その脚を、足元の使徒に振り落とした!!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァ!!」
踵のラッシュだ!ジョルノ君直伝の!参号機はズタボロになるかもしれないけど、トウジを死なせるよりはマシだ!
勝った!!
ずぎゅる・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・は?」
僕の目は、おかしくなったんだろうか?
目の前の使徒の背中から、人間の腕のようなものが生えてきている。それも、『四本』も。
「な、なんだって!?」
咄嗟に距離を取ろうとした初号機の脚を、使徒の腕のうちの一本が掴んだ。途端、グシャッと初号機の右脚が握り潰しされる!
「アアアアアアアアアアッ!?」
い、痛い!くそ、この使徒!?
使徒の腕を振り解こうと僕がもがいた瞬間、初号機の身体が思い切り引っ張られる!
「ご、ごふ!?」
一瞬の浮遊感を味わった直後、初号機は大地に叩き付けられていた。
「く、くそ!腕が生えてきた!全部で『六本』の腕!?これじゃあ・・・・・・」
僕の顔から血の気が失せる。阿修羅像じゃないんだ!そんなの・・・!!
さっきまでとは打って変わり、僕が下!使徒が上!そこから繰り出されるのは!!
『ガルオオオオオオオオオオ・・・!!』
六本の腕による、拳のラッシュ!!
「う、うああああああああああああ!!」
初号機の身を縮めて、必死に攻撃に耐える!だ、だけどこのままじゃあ・・・・・・!
「うッ!?」
ガードが緩んだ隙を突かれた!使徒の腕のうちの二本が、初号機の首を掴んで絞め上げてくる!
「お、おが・・・ご・・・!?」
く、苦しい!息ができない!
『生命維持に支障発生!パイロットが危険です!』
必死に腕を振り解こうとしているのに・・・。
『グオオアアアアアアアアアア!!』
残り四本の腕が!これでもかというほどに拳を叩き込んでくる・・・!
「うが、ごふ!?ぐ、あああ・・・・・・!」
首を絞められている状態で、初号機のボディに何度も拳が叩き込まれる。僕の中に僅かに残っていた酸素が、無理やりに吐き出されていく・・・・・・。
『いかん、シンクロ率を60%にカットだ!』
『待て』
『しかし碇!このままではパイロットが死ぬぞ!?』
『シンジ』
と、父さん?
『ここまでだ。お前は失敗した。作戦を次のフェーズに切り替える』
な、何を言って・・・・・・?
『パイロットの命は諦めろ』
!!?
『初号機とパイロットのシンクロを全面カット』
なんだって!?
『カット、ですか?』
『そうだ。回路をダミープラグに切り替えろ!』
「ま、待てよ、父さ・・・・・・」
『しかし、ダミーシステムはまだ問題も多く、赤木博士の指示もなく!』
『構わん。今のパイロットよりは役に立つ。やれ!』
「待てよ父さん!!」
僕が渾身の力を振り絞って叫んだ瞬間、僕の首に掛かっていた負荷が途端に消えた。
「か、はぁ!?う、ごほごほ・・・」
同時に、エントリープラグ内の明かりも消えて、外の景色が全く見えなくなった。
「な、なにを・・・・・・」
僕の乗っている操縦席の後ろから、ヒュイインと甲高い音が聞こえてくる。まるで何かの機械が作動したかのような。
エントリープラグ内が赤く照らされ、外の景色が再び映し出された。
それはまるで、血の赤のような。
「なんだ・・・・・・何をしたんだ!父さん!」
『信号、受信を確認』
『管制システム切り替え完了』
『全神経ダミーシステム直結完了』
『感情素子の32.8%が不鮮明、モニターできません』
『構わん。システム開放、攻撃開始!』
父さんの言葉と共に、初号機が再び動き始める。
僕の意志を、完全に無視して。
首を絞められ、身体中を殴られながらも、それらの攻撃をものともせずに初号機はその膂力でもって無理やりに立ち上がった。
『グ、オオオ!?』
目の前の参号機が、驚いたように身を捩らせる。その参号機の首に初号機の両腕が飛んだ。
『ゴ!?ガ・・・・・・』
ギリギリ、ギリギリと、初号機が参号機の首をお返しとばかりに絞め上げていく。
違う。絞めてるんじゃない。
これは、首を折ろうとしてるんだ!
『これが、ダミープラグの力なの?』
マヤさんの声が聞こえて、僕はようやく我に帰った。
「何だよ、父さん・・・・・・何だよコレ・・・・・・何やってんだよ!!」
僕が叫ぶのと同時、参号機の首からごきりと嫌な音が聞こえ、参号機の全身から力が抜け落ちた。
『グゥオオオオオオオオオオオオオオ!!』
初号機が吼える。
『システム正常!』
『さらにゲインが上がります!』
発令所の音声が通信を流れて来るけれど、僕はそれどころじゃない!
初号機は僕の意志を完全に無視したまま、使徒を持ち上げると地面に叩きつけた。首を折られた参号機は、まるで死体のように力を失っていて──、
その顔に、初号機の拳が振り下ろされた。
ゴシャ、という音を立てて潰れる頭部。
「トウジ!!」
潰れた頭部から血飛沫と共にエヴァの目玉が飛び出す。鮮血が田園風景を汚していく。
「やめろ!やめろよ!こんなの!!トウジが!!」
暴走した初号機は止まらず、参号機の装甲を無理やりに引きちぎっていく。
剥がされた装甲の内側から肉と内臓が飛び出し、初号機の両腕が真っ赤に染まる。
それでも初号機は止まらない。
何度も何度も拳を参号機の体に突き立て、徹底的にエヴァの巨体を破壊し、蹂躙していく。
惨たらしい惨劇が、僕の目の前で起きていた。
「やめろ!やめろよ!クソぉ!止まれよ・・・止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ!!」
内臓を引きちぎり、手足を引き裂き、全身を返り血に染まりながらも初号機は僕の言うことを聞かない。
そして、
「はッ!?」
その右手にはいつの間にか、トウジの乗ったエントリープラグが握られていた。
「ま、まさか・・・・・・嘘だろ?やめろ・・・」
初号機の右手に力が込められていく・・・。
「やめろォォオオオオオオオオオ!!!」
僕の目の前で、エントリープラグはぐしゃりと握り潰された。
「うわああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・!!!」
『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム!!』
・・・・・・え?
目の前で潰されたはずのエントリープラグが、潰れていない。
一体、なにが・・・。
・・・・・・いや、違う。違うんだ。本当はわかってるだろ?僕。
僕の目尻に、涙が浮かんでくる。
こんなことができるのは──、
『やれやれ、って感じだな。シンジ君。どうやら初号機が暴走しちまっていたらしいが・・・・・・』
世界中探しても、彼しかいない・・・・・・!
『今、何回目だ?シンジ君。「できるわけがない」と心の中で何回唱えた?』
「うぅ、ぐす・・・」
涙を我慢するなんて、『できるわけがない』!!
「ジョルノ君ッッ!!」
夕日に照らし出されたエントリープラグ。
その上で、膝を組んで座っていた僕の友達、ジョルノ・ジョバァーナ君が、不敵に微笑みながら僕を見つめていた。
つづく