ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
暴走、と言うべきなんだろうか?
『帰って』きたばかりの僕の目に飛び込んできた光景。それは、見慣れたはずの初号機が夕焼けと返り血に染まりながら、無闇やたらと拳を振るって、目の前のエヴァっぽい機体を破壊尽くしているというものだった。
敵か?まぁ、たぶん敵だ。使徒なんだろーな。まぁ、ここはそんなに気にしなくっていい事なのかもしれない。アレだけ初号機が暴れてるんだからな。
だが問題はそこじゃあない。問題なのは、初号機を操ってるはずのシンジ君の悲鳴がさっきからうるさい、って事だ。
ナイスタイミングと言うべきか否か、僕はとんでもないタイミングでこの世界に『帰ってきた』って事みたいだな。
おっと、すまない。自己紹介が遅れた。
僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人。15歳の中学生だ。
実はこの『世界』とは違う『異世界』から来た事だとか、今の今まで別の『宇宙』を旅してた事だとか、いろいろと説明しなくっちゃあならないことが山ほどあるんだが・・・。
まぁ、自己紹介している時間はあまり無いのかもしれないな。それらの説明はまたの機会にしておこう。目の前では初号機がエヴァっぽい機体からエントリープラグを引き抜いてるところだ。
もしかして、アレに誰か乗っているのか?だからシンジ君は、さっきから必死になって初号機を止めようとしているのか?
なんてこった。だとしたらマジの暴走じゃあないか。最初の頃に葛城さんから『エヴァは暴走するかも』なんて情報を得てはいたが、こうまで酷いとは思わなかったな。
初号機の右手に力が込められる。
『やめろォォオオオオオオオオオ!!!』
シンジ君の悲鳴が響き渡る。
だが、このくらいの事態なら、ある程度『コイツ』を使いこなせるようになった僕にとっては大した問題じゃあない!
『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム!!』
瞬間、握りつぶされたエントリープラグの景色が一瞬だけ僕の目に映ったが、無駄なんだ。『このスタンド』の前では、全ての事柄が『無駄』になる。
エントリープラグには何も起きていない。何か起こっていたとしても、それは『真実』ではないからだ。
実際に到達した『真実』は目の前の光景だ。僕は初号機に握り締められたままのエントリープラグに腰をかけると、ゆっくりと初号機と向き直った。
「やれやれ、って感じだな。シンジ君。どうやら初号機が暴走しちまっていたらしいが・・・・・・」
目の前の初号機が、息を呑んだように止まった。
そうそう。ところで──、
「今、何回目だ?シンジ君。『できるわけがない』と心の中で何回唱えた?」
4回以上じゃあない事を願う。もっとも、シンジ君に限ってそんな事はないだろうがな。
『ジョルノ君ッッ!!』
「その様子からすると、やっぱりコイツには誰かが乗ってるって事らしいな」
僕は拳でコンコンとエントリープラグを叩く。
「守っておいて正解ってところか」
『うん・・・・・・うん!それには、トウジが乗ってて、父さんが無理矢理・・・ッ!』
「・・・・・・・・・なんだって?」
おいおい。マジか、あの髭。そんな切羽詰まった状況にシンジ君を放り込んだのか?トウジ君がエヴァに乗ってるってところも、想像だがネルフの差し金っぽいな。
なんでそれが使徒に乗っ取られたのかとか、そんな些細なことはどーでもいい。それよりも、あの髭オヤジには後で一発食らわせなくっちゃあならないみたいだ。
それと、このエントリープラグにトウジ君が入ってるなら、早いとこ助け出さなくては。
『え・・・あッ!!』
「ッ!な、なにッ!?」
僕がエントリープラグに耳を当てて、中の様子を探ろうとした瞬間だった!プラグのあちこちにあった隙間から、暗い水色をした謎の液体が飛び出してきた!
「こ、これは・・・ッ!?」
『逃げて!ジョルノ君ッ!』
まさかコイツが、このスライムみたいなのが使徒か?
だとしたら随分と──、
「貧弱な使徒だな」
僕に絡みついて来る粘菌のような使徒に、僕はため息を吐きながら『スタンド』を繰り出す。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアアア!!」
『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の拳が、粘菌状の使徒に叩き込まれる!触れてみた感覚でわかる!コイツは、この使徒の生命力自体は大した事はない。下手したら洗剤か何かで洗い落とせばすぐにでも死滅してしまうような儚さだ。
そして、僕の憶測は正しかったらしい。拳を叩き込まれた使徒の体は、まるで勢いよく消毒液をかけられたバイ菌の様に、煙を上げてこの世から跡形もなく消えてなくなった。
・・・・・・うん。マジに雑魚だな。僕一人でどうにかなるレベルの使徒なんて初めてだ。
だがスタンドと一緒だ。『最弱』がもっとも恐ろしい。そんな事態はこれまで幾度となく味わってきた。この使徒も、そういった類の『ハマったら抜け出せない』ような能力を持っていたんだろう。
もっとも、僕の『スタンド』に殴られた使徒が『どこに行くのか?』、それはもはや僕にもわからない事だがな。
『・・・え?なに?やっつけた、のか?』
「ああ。どうやらそうみたいだな」
あまりにも呆気ない幕切れに、シンジ君が呆けた声を出す。これまでの初号機の死闘を僕は見てないが、初号機が暴走しちまうくらいには手こずった相手だという事はわかる。
「さて、シンジ君。使徒は倒した。後はこのプラグから、トウジ君を助け出すだけだな」
『・・・!・・・うん、うん!』
「ゆっくりでいい。このままエントリープラグを地面に下ろして──」
そこまで言ったところで、僕の視界が天地逆さまにひっくり返った。
「──な、なにッ!?」
『え!そんな!?どうして・・・!』
シンジ君の驚きの声と共に、僕は自分の身に起きた事態を察した。どうやら、エントリープラグから振り落とされたらしい。
目の前に初号機が叩き潰したエヴァンゲリオンの機体が迫ってくる!マズい、激突する!
「うおおおおお!?」
僕は咄嗟にスタンドを繰り出して、潰れたエヴァの機体を殴り付けた!そこから柔らかいシダ系の植物が幾重にも生えてくると、クッション代わりとなって僕を受け止めてくれた!
「うぐぅ!」
それでもダメージはゼロじゃあない!大した高さから落っこちなくて助かった。初号機が屈んでエントリープラグを握りしめていた事が幸運だったようだ。
『ジョルノ君!?大丈夫・・・って、ああ!?』
シンジ君の悲鳴に、僕は視線を目の前の初号機に向けた。目の前では立ち上がった初号機がエントリープラグを掴んだまま、右足を高く振り上げてるところだった。
おいおいおいおいおい・・・!まさか!?
『逃げて!ジョルノ君!!』
僕目掛けて、初号機の右足が振り下ろされる!
「うおああああッ!?」
僕はそれを、潰れたエヴァの機体から身を投げるようにしてなんとか躱した!僕の背後でエヴァの機体がグチャッと潰れる音がした!
「なに!まさか、これは!?」
『暴走だ!まだ解けてない!くそぉ!父さん!?早く止めてよ!!・・・あッ!?』
シンジ君の悲鳴を無視するように、初号機は手にしたエントリープラグを放り捨てた。エントリープラグは弧を描きながら柔らかい田園に突き刺さって、なんとか止まったよーだ。
くそ!中のトウジ君が無事でいる事を願うばかりだが、こっちも他人の心配をしている場合じゃあなさそうだ!
「シンジ君!わかる範囲でいい!今、初号機に、何が起きている!?」
『せ、制御できない!父さんはダミープラグとかなんとか言ってたけど、僕にも何が起きているのか・・・ッ』
グラッツェ。それだけ聞ければ十分だ。よぉくわかった。つまりこの事態は、あの碇司令が招いたってことだな?
あの髭面は後でシメる!それは確定事項だが問題は・・・──!!
『逃げてジョルノ君!!』
ちぃ!初号機の拳が振り下ろされてくる!僕は両手を地面に当てると、最大出力で『生命エネルギー』を流し込む!
途端に地面が隆起し、土の下から急速に成長した木の根が爆発するように飛び出した!僕はその反動を利用して背後に跳び、初号機の拳からなんとか逃げ切った!
空中を跳びながら僕は考える。ダミープラグ。ダミーのエントリープラグ。つまり初号機は、偽者のパイロットに命令されて動いているってところか、憶測だが!
シンジ君の命令を受け付けないのも恐らくそのせいで、か。初号機には『碇ユイ』さんの魂が宿っているはずだが、それが暴れているって事は・・・・・・。
僕は地面に着地すると、服の襟を正した。目の前には拳を振り下ろしたままの姿勢で僕を睨む初号機の姿。
全く、吐き気を催す邪悪ってのはまさにこの事だ。碇ゲンドウ。『碇ユイ』さんはお前の愛する妻なんじゃあないのか。
お前や冬月副司令は、『碇ユイ』さんが大事なんじゃあなかったのか?
今の状況。『碇ユイ』さんの魂を偽物の命令で騙し、エヴァの体内に愛する息子であるシンジ君がいるにも関わらず、その制止の言葉すら届かせずに暴れさせる。
「吐き気を催す『邪悪』とはッ!なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ・・・・・・!!自分の利益だけのために利用する事だ・・・父親が何も知らぬ『妻と息子』を!!お前だけの都合でッ!」
僕は夕陽を背中に浴びながら、僕の横に『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』を出現させる。
「碇ゲンドウ。あんたが僕の『心』に対して誠実であったことは一度もないが、あんたはシンジ君と『碇ユイ』さんの魂を侮辱した!!」
それだけで十分だ!
目の前の初号機が立ち上がる。その目には、敵意の炎が未だに煌めいている。完全に僕を敵だと見なしたようだな。
暴走するエヴァンゲリオンとの戦闘なんて考えた事もなかった。しかも、生身での戦闘なんてのは、な。
だが──!!
「シンジ君・・・少しだけ待っていてくれ。今すぐになんとかしよう」
ダミープラグとやらに囚われたシンジ君と『碇ユイ』の魂は!!今、この場で解放するッ!
つづく