ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 ふぅ、参ったな。

 

 腹が減って仕方がない。家に帰ったらあっつあつのピッツァが食べたいな。

 

 あぁ、そうそう。その前に綾波さんに好物のフルコースを振る舞ってやらねばならないんだった。彼女と約束したからな、飛行機に乗る前に。

 

 そんな事を考えていると、大量の食事を作らなければならないという憂鬱な気持ちと共に、なんとも言えない懐かしさが僕の胸に込み上げてくる。

 

 懐かしい、か。僕はこの世界に来て、自分の居場所を作れたんだな。僕は一人が好きな性格だから別に困る事は無いんだが、今更ながらにそんな事を感慨深く噛み締めてみる。

 

 僕はこの世界に『帰ってきた』と言ったな。そう思えるくらいには、僕もこの世界に『愛着』が湧いてきたって事なんだろう。

 

 シンジ君たちと過ごした日々は、決して無駄では無かったと断言できる。僕の顔に、自然と微笑みが浮かぶ。

 

 そんな他愛のない現実逃避をしながら──、

 

 

 

 

 

 ドグシャアッッ!!

 

 

 

 

 

 僕はもう何度目かもわからないほどに、初号機によって叩き潰されていた。

 

 

 

『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』

 

 

 

 瞬時に僕のスタンドが発動する。僕が叩き潰されたという『事実』が、実際に起こる『真実』によって上書きされた。

 

 要するに、『僕が今の攻撃を生き延びた』という真実だ。実際の所は、初号機の攻撃を『無かった』事にして、逃げ回っているだけなのだが。

 

 正直、参った。いや、流石に浅はかすぎたって事だな。

 

 目の前の巨人に対して僕の取れる行動なんて、せいぜい子供に見つかった蟻が一生懸命に逃げ回る程度の事が精一杯だ。情けないとは思うが。

 

 最初はもっと積極的に攻めていたんだが・・・身の程を弁えろって教訓だな、これは。

 

『ジョルノ君ッ!避けてッッ!!』

 

 シンジ君の悲鳴に振り向けば、僕に再び迫ってくる初号機の握り拳。

 

 それを僕は、

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァッ!」

 

 『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の拳のラッシュで、押し留める!

 

 

 

 

 

 ドグシャアッッ!!

 

 

 

 

 

 まぁ、無理なんだが。

 

『ジョルノ君!?』

 

 僕の体は初号機の拳によって弾き飛ばされ、林の中を勢いよく吹っ飛ばされていく。一際大きな木にしこたま背中を打ち付けると、そこでようやく僕の体は止まった。

 

 もっとも、背骨は今のでイカれただろうがな・・・。

 

「がっふ、うごあ・・・がはッ!!」

 

 血反吐を吐きながら、僕は地面にズリズリと崩れ落ちた。体中に木の枝が突き刺さっており、今の僕はなにかの生花みたいな状態だ。

 

 問題は背骨、だよな。息をするだけで激痛が僕を襲う。これは完璧に致命症だ。

 

 スタンドエネルギーは心許ないが、やるしかない・・・!

 

『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』

 

 くそ。この『レクイエム』!ここまでの連続使用は初めてだ。想像以上に消耗が激しい!これ以上はやりたくはなかったが、ここでやらなければ、僕は二度と動けなくなるだろう。

 

 『スタンド』が発動し、僕は吹き飛ばされる前の位置へ。背後から迫る初号機に目を向けながら、回避行動に移る。

 

 初号機の拳は僕に当たる事なく空を切った。

 

「ちぃ・・・!」

 

 さっき初号機のパンチに合わせて放った拳のラッシュ。一発でもいいから、当たっていて欲しかったんだがな!

 

「ATフィールド・・・これほどまでに厄介だったとは・・・!」

 

 僕の『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』。これの拳が一発でも当たれば、僕の勝利は確定する。初号機の中のダミープラグだったか。その発動自体を『無かった事実』にしてしまえば、エヴァの暴走はすぐに収まるだろう。

 

 だが、そんな僕の甘い考えの前に立ち塞がったのが文字通りの壁、ATフィールド。

 

 同じく心の力であるスタンドエネルギーで中和する事はできるはずなんだが、いかんせん、巨人と人間の出力に差があり過ぎる。

 

 その壁を取っ払う事ができない限り、初号機の暴走を止める事は難しいだろう。

 

『くそぉ!父さん、いい加減にしてよ!使徒はやっつけたんだ!もう初号機の暴走を止めてよ!!』

 

 シンジ君が必死に碇司令に呼びかけてはいるが、たぶんあの男の事だ。だんまりを決め込んでいるんだろーな。

 

 碇司令にとって、僕という存在は消しておきたい異物だ。ヤツの『人類補完計画』とやらにとって、僕はなんとしてでも排除しておきたい存在なのだろう。

 

 なんならこの場でエヴァの暴走のせいにして、僕を消し去ってやろうという魂胆が透けて見えるぜ。

 

 だが、本気で参った。なぜなら碇司令の思惑は、このままでは達成されてしまいそうなんだからな。

 

 初号機が両手を振り上げる!拳のラッシュが飛んでくる!!

 

「グオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「くぅ・・・ッ!!」

 

 僕はその拳の雨を掻い潜り、初号機の足元まで勢いよく踏み込んだ!初号機の無防備な左足が、目の前にはある!

 

「無駄ダァ!!」

 

 隙だらけの左足に、僕の『スタンド』の拳を叩き付ける!

 

 ギギュィイイイン!!

 

 同時に目の前に展開される、八角形の赤い光の障壁・・・!

 

「ちぃ!ダメか!!」

 

 この無敵のバリア!絶対領域を謳っているだけはある!同じく心の力である『スタンド』すら通さないとは・・・!

 

 初号機の左足が振り上げられる!それは蹴りにも満たないただの身じろぎのような動作だったが、僕にとっては命取りだ。必死にソレを躱す!

 

「蟻とか、ゴキブリにでもなった気分だ・・・!巨人というものがこれほどに厄介だったとはッ!」

 

 初号機は地面に片膝を立てながら、僕の動きをゆっくりと視線で追ってくる。まるで子供が小さな虫をどうやって捕まえるか考えているかのように。

 

「グゥゥルル・・・・・・」

 

 唸り声を上げながら、初号機の掌が飛んできた!殴り飛ばす動きじゃあない!コレは!

 

「コイツ!地面を削り取りながらッ!?」

 

 子供の頃にやった事はないだろうか。蟻を捕まえるのに、ワザと周辺の砂を蟻に浴びせて弱らせてから捕まえる、という遊びを。

 

 それを人間大でやられると、飛んでくるのは人を殺傷できる土砂の弾丸だ!

 

「うおおおおおお!?」

 

 飛んでくる土砂を『スタンド』の拳で弾きながら、僕は初号機の足元を駆け抜けた!初号機の足の間を潜り抜け、死角である背後に回る事に成功した!

 

 僕が目指すのは、初号機じゃあない!そっちはすでに諦めた!僕が目指すのは──、

 

『いいぞ!そのまま行って!ジョルノ君!』

 

「ああッ!!」

 

 初号機の背中から、地面に垂れ下がったアンビリカルケーブル!初号機と繋がっている以上、アンビリカルケーブルに触れれば、僕の能力も伝達するだろう!

 

「よし!触れ・・・・・・!?」

 

 僕の指先がケーブルに触るかどうかの瀬戸際。

 

「グオアアアアアアアアアアッ!!」

 

「!?」

 

 初号機が雄叫びを上げながら、勢いよく立ち上がった!その反動で、巨大なケーブルが大きく波打つ!

 

 超重量のケーブルが地面をのたうち回る。そんなのが降ってきたら、こっちは間違いなくミンチになってしまう!

 

「くそッ!!」

 

 僕は暴れ回るケーブルから距離を取った!そして、それがまずかった!

 

「ッ!?しま──ッ」

 

 目の前に迫る、初号機の右手。それが土砂を撒き散らしながら僕に迫ってくる!避けようがない!

 

「くそ・・・無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!・・・・・・ッ!?」

 

 しまった!背後からも!?

 

 初号機は僕の前後、右手と左手両方を使って、土砂を巻き上げながら僕を捕らえようとしていた!その様はまるでブルドーザーだ!

 

「うあああ!し、しまった!うぐぅ!?」

 

 前後から迫る土砂を交わしきれず、僕の身体はサンドイッチのように挟まれた。

 

「う、うがあああ!?」

 

 ぐあ・・・つ、潰される!逃げようがない!土砂を諸共に、初号機の両手がとうとう僕を捕らえてしまった!

 

『ジョルノ君!』

 

「う、うぐ、くそ!手が、届きさえすれば・・・・・・」

 

 僕は土砂と初号機の両手に挟まれながら、『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』

の手を必死に伸ばす!奴から僕に触れてきているんだ。今ならATフィールドも働いていないと思いたいが──、

 

「だ、ダメだ・・・土砂が邪魔して、手が届かない・・・!」

 

 そしてそのまま、ギリギリと締め上げられていく土砂と僕の体。体中の骨が軋んで悲鳴を上げているのがわかる。

 

「ぐ、ぐぎ、ああああああああ・・・!」

 

 マズい!このままでは土砂に潰されて死んでしまう!『レクイエム』を使うか?だが、これ以上スタンドエネルギーを消費し続ければ、もう『レクイエム』は使えなくなってしまう!

 

 僕は必死になって、初号機の手に腕を伸ばした!あとちょっと、ほんのちょっとで良いんだ!頼む、届いてくれ!!

 

 そんな僕の願いも虚しく、

 

「グオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 初号機の腕が、土砂ごと僕を握りつぶそうとさらに力を込めてくる。

 

「うああああああああああああ!!?」

 

『ジョルノ君!!』

 

 ま、マズい!マズいマズいマズいマズいマズい!!『レクイエム』を使わなければこの状況からの脱出は難しい!しかし、これ以上無駄な消費をしたら、肝心の初号機を止めるだけのスタンドエネルギーが僕には残らないだろう。

 

「ぐう、と、届け・・・・・・届け、届いてくれぇ!!」

 

 僕の必死の抵抗も虚しく、僕は土砂ごと握り潰されていく!『スタンド』の指先は、後ちょっとで届くというのに・・・・・・!

 

「だ、ダメ、か・・・・・・うがぁ!?」

 

 ビシビシィ、と僕の全身の骨が砕ける音が体内に響いた。

 

 僕の意識が、次第に遠のいていく・・・・・・。

 

 その時だった。

 

『もうやめてよ!『母さん』!!』

 

 シンジ君の悲痛な叫びが山間の街に響き渡り──、

 

『ジョルノ!!』

 

 初号機の背後からもう一体のエヴァ、片腕だけになった零号機が、その巨体でもって初号機の右腕にしがみついた。

 

『綾波!?』

 

「ッ!!綾波、さん・・・・・・」

 

『ジョルノを死なせない・・・・・・死なせたくない!だから・・・ッ!』

 

 綾波さんの言葉と初号機がシンクロする。お互いがお互いの譲れない者を守ろうとする行動。

 

 それが呼び起こした『奇跡』なのか。

 

『しょ、初号機の動きが・・・・・・』

『止まったわ・・・・・・ジョルノ!!』

 

 片腕の零号機に背後から右腕を絡め取られた初号機の動きが鈍る!そしてその瞬間、僕を挟んでいた初号機の両手から土砂が砂のようにこぼれ落ちた!

 

「あ、危なかった・・・・・・だが」

 

 僕は今、初号機の両手にしがみついている。ATフィールドは、どうやら発動してないみたいだな?

 

「碇司令、あんたが望んでいた『結果』には、どうやらたどり着けそうにないな。なぜなら貴方の『息子』と貴方が大切にしている『少女』、そしてなにより!貴方の愛する『妻』が!ダミープラグを『拒んでいる』んだからなッ!」

 

 僕の横に、『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』が現れる。

 

 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァアアッッ!!」

 

 

 

 『レクイエム』の拳が、初号機の両手に叩き込まれる!『レクイエム』のスタンドエネルギーが、回路を伝っていく電気信号のようにダミープラグに向かって突き進んで行くのがわかるッ!!

 

 スタンドエネルギーが到達したダミープラグは、一瞬だけ断末魔を上げるようにして身じろぎして震えると──、

 

「グオ、グゥゥゥゥ・・・・・・」

 

 初号機と共に、その動きを止めた。

 

『と、止まった・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・ジョルノ』

 

 シンジ君と綾波さんが、僕を気遣うように声を掛けてくる。その言葉に、僕の心が一瞬だけ安堵したのを僕は感じた。

 

 

 

 だが、二人には申し訳ないが、声を掛けられた僕の心は別の事に囚われていた。

 

 

 

 

 

 ───なんだ?今のは。

 

 

 

 

 

 最後の、ダミープラグの、まさに断末魔のような、叫び。

 

 

 

 

 

 それを聞いたのは、恐らくこの場で僕一人なのだろう。

 

 

 

 

 

 まるで『()()()()()()()()』のような声を聞いたのは・・・!

 

 

 

 

 

 まさか、なのか?綾波レイのフラスコベビー論。そして、ダミープラグの断末魔。

 

 

 

 

 

 そこから導き出される答えは!

 

 

 

 

 

(綾波レイは『複数いる』!そして、恐らくは綾波さんのクローン・・・・・・その魂が、ダミープラグには使われているッ!!)

 

 

 

 

 

 僕の全身がざわりと粟立つ。全身の血液が逆流しているみたいだ。今まで生きてきて、これほどまでの嫌悪感を抱いた事はない。マジもんの吐き気が僕を襲う。

 

 僕が今、『無かった事実』として消し去ってしまったのは、綾波さんの魂と瓜二つの魂の残滓だった。

 

 コレほど、なのか?ネルフ・・・・・・。

 

 お前らは、人類を守るために、人の尊厳をここまで踏み躙れるのか?

 

『・・・・・・ジョルノ?』

 

「はっ!?」

 

 綾波さんの声が、頭上から降ってくる。見上げればそこには、零号機の顔が不思議な物でも見るように可愛らしく首を傾げていた。

 

 その仕草は、僕と一緒に暮らしていた綾波さんの動きそのもので──。

 

『おかえりなさい。ジョルノ』

 

「────ッ」

 

 彼女の無邪気な言葉に、僕の目尻に涙が浮かんだ。僕はそれを、彼女たちに悟られないように拭いながら、

 

「ただいま。綾波さん、シンジ君・・・・・・」

 

『〜〜〜!おかえり!ジョルノ君!!』

 

 無理やりに作った笑顔を、彼らに向けていた。

 

 それしか、できなかった。

 

 

 

つづく

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