ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第九章 男の戰い
82.


 

 ネルフ本部内に鳴り響く、耳障りな警告音。

 

 同時に繰り返される緊急用アナウンスは、先ほどから同じ言葉を馬鹿みたいに繰り返している。

 

『繰り返す!ネルフ本部隔離房棟より二名が脱走した模様!脱走者はサードチルドレン、碇シンジ!ならびにサブパイロット、ジョルノ・ジョバァーナ・・・・・・!』

 

 本当、呆れ返るってのはこの事だな。ネルフってヤツはとことん情報統制ができていないらしい。一般の職員にも聞かれる全体アナウンスでもって、自分達の無能ぷりを曝け出しているんだからな。

 

 更に言うなら、その情報伝達自体も遅すぎる。なぜなら──、

 

「命令違反。エヴァの私的占有。稚拙な恫喝。それによる本部施設の一部破壊。これらは全て犯罪行為だ」

 

 僕たちはすでに、ネルフの中心人物の目の前にいるんだからな。

 

「加えて此度の懲罰房棟からの脱走・・・何か言いたい事はあるか?」

 

「父さんこそ・・・・・・」

 

 本部司令室。その無駄に広すぎる執務室の中で、シンジ君が実の父親と相対している。実の父親の無感情な言葉に対し、制服を着たシンジ君の右手がゆっくりと握られていく。

 

「僕に言いたいことがあるんじゃないの?」

 

「何のことだ?今、質問しているのは私だ」

 

 碇司令が問い返した瞬間、

 

「ッ!?」

 

 シンジ君の拳が、碇司令の左頬を打ち抜いていた。

 

 

 

 

 

 僕の名前はジョルノ・ジョバァーナ。日系イタリア人。15歳の中学生だ。

 

 出身はイタリアのネアポリスだが、どーゆーわけか、今は『異世界の日本』に来ている。それだけでも意味がわからん、てなると思うが、実はそれ以外にも『異なる宇宙の辿り着く先』なんて更にわけのわからない場所にも行ったりしてたんだ。まぁ、その説明はまた今度にしておこうと思うが。

 

 さて、今の目の前の状況だが、冒頭でも語ったように、僕らは収容されていたネルフの隔離房棟から脱獄して、碇司令のいるネルフ司令室にまでやってきた、というわけだ。

 

 なぜ僕らが隔離房棟に収容されていたかというと、シンジ君については碇司令の言葉の通りだ。エヴァンゲリオンを私的に占有して暴れた。これは事実だ。

 

 もっとも、なぜ大人しいはずのシンジ君がそんな暴挙に出たのか。それをしっかりと聞いたのなら、ここまで付き合ってくれている貴方たちも『致し方ない』と思ってくれると思う。

 

 シンジ君が暴走した理由。それは、彼が乗っていたエヴァンゲリオン初号機を碇司令の命令で暴走させ、シンジ君の友人である鈴原トウジ君を殺害させようとしたからだ。

 

 すごいな。文字に起こしてみるとマジに外道の所業だ。これで捕まるのがシンジ君の方なんだから、ネルフという組織の異常性はわかってもらえると思う。

 

 じゃあ僕の方はなぜ捕まっていたのかって?こっちはもっと単純だ。碇司令の逆鱗に触れた。それだけだ。とてもシンプルな理由すぎて、笑いが込み上げてくる。こんな組織があってたまるか。

 

 もっとも、僕が捕まったのはワザと、なんだがな。シンジ君を独房から連れ出すため、敢えて捕まって同じ隔離房棟に入れられたってわけだ。

 

 別に、脱獄自体は大したことじゃあない。僕の持つ『スタンド』と呼ばれる超能力を用いれば、脱獄なんてのは朝飯前なんだ。

 

 独房の扉に『生命』を与えて『木の蔦』に変えた。こう聞けば、脱走なんて楽勝だと思ってくれるだろ?

 

 さて、なぜ僕らがわざわざ脱獄してまでこの司令室にやってきたのか?それはもっと単純だ。たった一つのシンプルな答えだ。

 

 

 

 碇司令は僕らを怒らせた。

 

 

 

 たったそれだけ。そして、それだけで十分なんだ。

 

 シンジ君に頬を打ち抜かれた碇司令が、椅子から転げ落ちる。なかなか腰の入った、いいパンチだ。成長したな、シンジ君。

 

「ぐぬ・・・・・・!し、シンジ、貴様・・・」

 

「もう一度だけ言うよ?僕に言いたい事があるんじゃないの?父さん」

 

「貴様、タダで済むと・・・!」

 

「思ってないよ。でも、そんな事はどうでもいいんだ。そんな事を気にするくらいなら、父さんに会いに来てない。僕とジョルノ君で、何もせずにこのままネルフから脱走すれば良かったんだからね」

 

「このッ!!」

 

 おっと、立ち上がってきたか。しかしコイツ、何を拳なんて握りしめてるんだ?そいつを振りかぶって、どーするつもりなんだ?

 

『無駄ァ!!』

 

 ゴシャッと。

 

 僕の『スタンド』の拳が碇司令の右頬を打ち抜いた。

 

「ぐふ!?」

 

 立ち上がったはずの碇司令が、再び床面に倒れ込む。今度は簡単には立ち上がってこれないだろう。僕の『スタンド』で本気で『殴った』からな。今の碇司令は感覚が暴走して、ゆっくりとした動きしか取れないはずだ。

 

「ん?」

 

 僕は部屋の隅で転がってる奴らに目を向ける。碇司令のボディーガードであった黒服たち。今、そいつらは、黒服に『生命』を与えて変化させたガラガラヘビに全身を絡め取られて身動きが取れなくなっている。

 

 そいつらの目線と僕の視線がバチッとぶつかった。

 

「何見てるんだい?うらやましいかい?君たちも殴りたいのか?」

 

 僕の飛ばした圧に当てられたそいつらは、弱々しく視線を逸らした。

 

「父さん。そんな状態じゃあきっと話したい事も話せないだろうから、僕が一方的に喋るよ?いいね?」

 

 そんな僕を他所に、シンジ君はシンジ君で碇司令まで近づくと、ゆっくりとしゃがんで碇司令に話しかけた。

 

「何か言いたい事はあるか?って聞いたよね。あるよ。腐るほど、ある。だけどもう、僕はそんな段階は過ぎちゃったんだ。言葉では言い表せない。僕は本当に、怒ってるんだ」

 

 シンジ君が碇司令のかけていたサングラスを指で摘んで放り捨てる。その様子に、碇司令の表情が強張ったのを僕は確かに見た。

 

 対するシンジ君の瞳には、きっと漆黒の殺意が宿っているんだろう。当然だな。親友を殺されそうになったんだ。実の父親だろーと、それは許される事ではない。

 

「僕はもうエヴァには乗らない。ここにも居たくない。使徒が攻めてこようと知った事か。僕が居なくても、父さんならなんとかできるんでしょ?」

 

「し、シンジ・・・・・・」

 

「ダミープラグでも何でも使って、勝手にやってよ。でも覚えておいて。もし父さんが僕の大事な人達を傷付けるような真似をしたら、僕は何度でも戻ってくる。何度でも、だ。その度に、僕は父さんを殴り付けてやる。今度は前歯全部折ってやる」

 

「ジョルノ・ジョバァーナが居ないと何もできないのに、か・・・?」

 

「居なくても、やる。僕一人でだって、やってやる。それだけの事を、父さんは僕にしたんだ」

 

 すっ、とシンジ君が拳を振り上げる。

 

 その拳が、碇司令に振り下ろされる瞬間だった。

 

「やめろ!シンジ君!!」

 

 僕たちの背後から、聞き慣れた色気のある男の声が聞こえてきた。

 

 僕とシンジ君は背後に振り返る。そこに居たのは想像通りの人物、加持リョウジさんだった。

 

「加持さん・・・・・・」

 

「シンジ君、やめるんだ。そんな事したって何にもならない。意味の無いことをするもんじゃ無い」

 

「意味がない?」

 

 僕はため息を吐いた。

 

「加持さん。躾、って言葉を知らないんですか?子が親を躾てはいけないっていう法律はないんですよ?」

 

「気持ちはわかるがジョルノ君。シンジ君を煽るのはやめてくれ。君もわかっているはずだ。人類を守るのに、エヴァは必要なんだ」

 

「その言葉だと、碇司令は要らないって事になるんじゃあないですか?」

 

「・・・・・・相変わらず揚げ足を取るのがうまいな、ジョルノ君。碇司令はネルフの中核だ。碇司令が居なくなれば、エヴァの運用はままならない」

 

「本当に?心からそう思ってるんですか?加持さん」

 

「ジョルノ君・・・・・・」

 

 加持さんに問い詰める僕を、シンジ君の言葉が止めた。

 

「もういいよ。言いたいことは言えたから」

 

「満足、できたのかい?」

 

「まさか。でも、満足はしてないけど、こういうのって、きっと満足はできないんだ。どこかで僕が拳を下ろさないと、きっと物事は進まないんだと思う・・・・・・」

 

 そう。それでいい。シンジ君の言う通りだ。怒りに終わりはない。より精神的に大人な人間が、どこかで拳を下さなければ、争いってのは終わらないんだ。

 

 もちろん、精神年齢が子供の碇司令には無理だろーがな。

 

「それがわかっているなら、僕から言う事は何もないな」

 

「うん。行こうか、ジョルノ君」

 

 シンジ君は立ち上がると、僕の服の裾を摘んで出口に向かう。加持さんの横を通り過ぎ、司令室のドアに手をかけたところで、背後から碇司令の捨て台詞が聞こえてきた。

 

「出て行け・・・・・・お前には失望した」

 

「それはこっちのセリフだよ」

 

 シンジ君は振り返る事なく、司令室を後にした。

 

 僕はシンジ君を追う前に、加持さんに問いかける。

 

「同盟はまだ有効だと思ってますか?」

 

「そう願いたいもんだ」

 

 苦笑する加持さんを一瞥し、僕もシンジ君の後を追った。

 

 まずは帰ろう。僕たちの家に。

 

 僕たちの家族である彼女達にだけは、別れを伝えなければならないだろうからな。

 

 

 

つづく

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