ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」   作:サルオ

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 ネルフ本部が大騒ぎになってしまったが、僕とシンジ君はそんな騒ぎなどどこ吹く風といった様子で、葛城邸に帰ってきていた。

 

 ネルフを出る途中、いろんな職員から腫れ物を触るような目で見られたが、知った事じゃあない。堂々と徒歩で、僕たちは歩き続けた。

 

 僕とシンジ君の脱獄。それを止めることの出来なかったネルフという組織。その力関係を理解した一般職員の皆さんが、僕たちをどうこうできるハズもない。ゴンツガワさんをはじめとした警備員のおじさん達ですらが、僕たちの事を素通りさせてくれた。

 

 もしかしたら、今回の使徒との戦いの事を、ネルフの皆さんも快くは思ってなかったのかもしれない。エヴァを乗っ取った使徒に、人質に取られた少年を見捨てる決断をした組織に対して、全員が思うところがあったのかもな。

 

 まぁ、それはいい。僕としても組織に属する人間全てを敵に回すつもりは無いしな。

 

 問題は、葛城邸のリビングで待ち構えていた女傑たちの対処だ。

 

 すごく懐かしい空気だ。この緊迫した空気。綾波さんとの食事の時間を思い出す。

 

 まぁ、今、目の前にいる綾波さんは、空腹の時のソレよりも険しい殺気に満ち満ちているんだが。それはもう、僕が対応を一つでも間違えたならば、すぐにでも飛びかかってきそうな険悪さだ。

 

 さて、横のシンジ君はというと・・・・・・、

 

「あ、アスカ・・・ギブ!ギブだって!」

 

「だまらっしゃい!バカシンジ!今日は絶対逃さないからね!?あんた、ネルフを出て行く気でしょ!?アタシを置いてッ!!」

 

 ラングレーにチョークスリーパーを決められていた。シンジ君が僕に救いを求めるように手を伸ばすが、すまん。僕にはどうしようもできないな。

 

 ダイニングの椅子に座ってビールを飲んでいるのは葛城さんだ。左手が折れているからかギプスで固定されているが、ビールの缶を右手だけで器用に開けるとはな。やはり飲み慣れている人は違う。

 

 もっとも、葛城さんの目はマジだ。視線だけで僕を射殺すような、今まで見た中で一番ヤバい視線だ。

 

「ジョルノぉ〜・・・・・・わかってるわよね?」

 

 葛城さんの横にいる綾波さんが瞳を煌めかせて身構える。完全に襲い掛かる直前の獣だぞ、これじゃあ。

 

「まいったな。まずは何から話したらいいんだ?葛城さん」

 

「そぉねぇ〜。ネルフ脱獄の件は、はっきり言ってどうでもいいわ。今回の鈴原くんの件、私も思うところはあったからね。それよりも、アメリカに渡って行方不明になったはずのあんたが、どうやって日本に戻ってきたのか。そこから聞きたいものだわね」

 

 そこから、か。それを話すのは僕としてはやぶさかではないんだが、どう説明したものかな。

 

 初めて僕の『スタンド』を説明したときよりも難しい。なにせ『体験』してきた僕ですら、実際のところ何が起こったのかをしっかりと理解していないのだから。

 

 そんな悩む素振りを見せた僕の横で、シンジ君がラングレーの魔の手から逃れたようだ。

 

「シンジ!もう一度聞くわよ!?あんた、アタシを残してネルフから出ていくつもりなんでしょ!?」

 

「それは・・・・・・」

 

「はっきり言いなさいよ!意気地なし!!」

 

「出ていく・・・ああ!出ていくんだ!出ていくよ!父さんのいるネルフに、僕はもう一秒たりとも居たくないんだ!わかってよ!」

 

「そんなのわかってるわよ!アタシが言いたいのは、碇司令とアタシと、どっちが大切なのって事よ!」

 

「そんなのアスカに決まってるだろ!」

 

「じゃあここに居なさいよ!ネルフに行かなくてもいいから、アタシの側にいてよ!アタシを置いてかないでよ!ママみたいに!!」

 

「それを言うなんて・・・・・・」

 

「待て、シンジ君。それにラングレー」

 

 二人の怒りがヒートアップしているのを横目で確認した僕は、まずは二人の熱がこれ以上あがらないように「待った」をかけた。

 

「このカオスな状況。ここでいくら言い合いをしても、解決するような事柄じゃあない。それに、僕たちは情報を共有してなさすぎる。まずは一旦落ち着いて、僕の話を聞くところから、始めてみないか?」

 

「ジョルノ君・・・」

 

「ジョバァーナ・・・・・・ちッ!」

 

 ふぅ。ラングレーの舌打ちはともかく、とりあえず、二人は落ち着いてくれたみたいだな。まぁ、一時の気休めでしかないだろうが、今の混沌とした状況がこれ以上ややこしくならないならまだベターだ。

 

「本当は、トウジ君にも話をしておきたいんだが、彼は今入院治療中、ですよね?葛城さん」

 

「ええ。あんたが治療してくれたから、命に別状はないし五体満足、簡単な検査入院みたいなものよ。退院しようと思えばすぐに出られるわ」

 

「それなら良かった。まあ、無理させて聞かせるような話でもないしな」

 

 僕はそう言うと、葛城さんの横を通り過ぎてリビングの床に座り込んだ。それを見た綾波さん、シンジ君、ラングレーもまた、渋々とではあるがリビングの床に座り込む。

 

「さて。どこから話したものか」

 

 とりあえず、渡米した事については詳しく話す必要はないだろう。彼らが知りたいのは恐らく、僕がなぜ行方不明になったか。あの時、ネルフアメリカ第二支部で何が起きたか、ってところからだろうな。

 

「僕がこれから話すことは、とても荒唐無稽な話だ。俄かには信じられない事だろーと思う。ただこの話は、人智を超えた、恐ろしいスタンド使いと出会った。僕の話はそこから始めなくてはならない」

 

 僕はそう口上を切ると、アメリカ第二支部での出来事を説明し始めた。

 

 みんながどれだけ理解できるかは彼ら次第だが、まずは起こった事実を話さなくてはならない。

 

「さて──」

 

 僕はゆっくりと、アメリカ第二支部を巻き込んだスタンド使い同士の邂逅、そして、その顛末を話し始めた。

 

 

 

つづく


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