ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
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永遠に思われるかのような銀河の終焉と再生。すでに数えきれないほどの『時』が流れ、数多の宇宙がその終わりを迎えていく。
『時の加速』に影響されない全ての魂は、しかし、その永遠に思える『時』の流れの中で疲弊し、脆く崩れ去り、そして消え去っていく。
この無限の時の中で生き残っているのは二人だけ。すなわち、この事象を起こしているクソ神父ことエンリコ・プッチ本人と、『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』で奴を倒そうとしている僕だけ。
一発だ。たった一発で良い。掠りでもしてくれたなら、僕はこの現象に終わりを齎すことができる。なのに、宇宙的加速の中で動き続ける神父に対し、僕の拳が掠る事はない。
それでも、僕の心は折れなかった。目の前に君臨する邪悪。コイツを生かしておく事は、僕のこれからの人生で拭い去れない汚点として残るだろう。だからこそ、僕はこの神父と永遠に戦い続ける覚悟を決めた。
そして、幾つの『世界』が僕たちの目の前を通り過ぎただろうか。
突然にして、『時の加速』が止まったんだ。
「「!!?」」
僕と、能力を発動しているはずのプッチ神父が驚愕にその動きを止めた。
「な、なに・・・!?」
「なんだ、ここは・・・・・・これは、『私も知らない世界』!一体、ここは・・・!?」
時の加速の中で姿を消し去っていた神父の姿が、今ははっきり見える。それは神父が曝け出した致命的な隙だったが、僕も周りの光景にただ息を呑むことしかできなかった。
白と黒のモザイクのような空間。そして、その先に、『黒い十字架をいくつも重ねたような』、古びた巨大なオブジェが浮かんでいた。
「ここは、一体・・・・・・」
「まさか、ここはッ!?」
「ここは、全ての世界が行き着く場所。プラスの宇宙とマイナスの宇宙が唯一重なり合う究極点。全ての時が行き着く場所。すなわち、『時の最果て』・・・・・・」
「──!?」
「誰だ!?」
僕たちの頭上から、神秘的な、落ち着いた声が降ってきた。
僕とプッチ神父が見上げればそこには──、
「貴方達は、ここに『辿り着いてしまった』。数多の世界の終わりを迎え、罪を重ねて、貴方達はここに来た・・・・・・」
「な、まさか・・・・・・そんな・・・」
「『女』、だと!?貴様、いったい・・・」
『碇ユイ』!僕の目の前で佇んでいたのは、『僕の依頼人』だった!!
「あ、貴方は・・・・・・」
「ありがとう。ジョルノ・ジョバァーナ君。私の望みを聞き入れてくれて。ごめんなさい。貴方をこんな事に巻き込んで。でも、貴方は私の息子に『光り輝く道を照らしてくれた』。それが何よりも、私は嬉しいの」
『碇ユイ』さんは、優しく微笑んだ。そう。僕と初めて会った、あの時のように。
「本当は、ここまでの事を望んだわけではなかった。背負いきれない『罪』を背負った私と同じ場所まで、貴方を連れてくるつもりはなかった。でも・・・・・・貴方は今、ここにいる」
この声、聞き覚えがある。この声は、僕と共に過ごした綾波さんの声・・・・・・。
そうか。綾波さんはこの人の「クローン」だったのか。僕の中で燻っていた疑問が、途端にゆっくりと溶けてゆく。
自然と浮かんでくる微笑みを、僕は止める事ができない。そうか。僕はやり切れたんだな。『碇ユイ』から託された依頼を。
そんな僕の横では、ここまで僕を連れてきてくれたプッチ神父が激しく狼狽している。
「馬鹿な・・・・・・まさか、逆、なのか!?ジョルノ・ジョバァーナに出会う事で押し上げられる『運命』は、私ではなくジョルノ・ジョバァーナの方だったのかッ!?」
きっとプッチ神父にも理解はしきれないだろう。だが、この事象。これがプッチ神父にとってマイナスの出来事である、と言う事だけは理解できたようだな。
時の加速の止まったお前など、なんだ?日本の諺では「まな板の上の鯉」って言うんだったか。
「神父様、あなたがどなたかはわからないけれど、あなたが齎してくれた『運命』は、私とジョルノ君を再び引き合わせてくれた」
『碇ユイ』さんが慈愛の籠った微笑みをプッチ神父に向ける。それを向けられた神父の瞳から、涙が溢れ落ちる。
「嗚呼、貴女は、マリア様なのですか?」
「ふふ・・・いいえ。私は息子のために世界を滅ぼした、罪深い女です」
「おお・・・・・・おおおおおおおお・・・・・・!」
プッチ神父は溢れる涙を抑える事ができずに、顔を両手で覆ってもだえていた。
「いいや!貴女はやはり聖母だ!主をこの世に送り出した聖母に違いない!私の信仰は、ついに聖母の御許まで近づく事を許されたのだ!これこそ至上の喜び!他の何を置いて、この喜びに涙しない事ができましょう!」
神父は顔を涙で濡らしながら、僕に感謝と敵意をない混ぜにしたような表情を向けた。
「ジョルノ・ジョバァーナ!今ここに!私の信仰は『成された』!しかし私の『使命』は成されていない!今この場で貴様の持った『矢』を手にして、人類を『幸福の世界』に導くのは私だッッ!」
「しつこい奴だ。ここまで来て、まだ僕とやり合うつもりなのか?今のお前はもはや、僕と対等ではないというのに・・・・・・」
「いいえ、ジョルノ君。ここでは、私も含めた『3人』ともが対等なのよ」
・・・・・・なに?どういう意味だ?
僕は怪訝な表情を『碇ユイ』さんに向ける。彼女の顔から微笑みが消え、その視線が十字架状のオブジェに注がれる。
「ここは『ゴルゴダ・オブジェクト』。全ての運命を書き換えることのできる唯一の場所。この場所に来てしまったのなら、私たちは『自分を犠牲に願いを叶える事ができる』。でも、願いの重さは、皆、平等・・・」
『碇ユイ』さんの視線が僕たちへと戻ってくる。
「いま、この場に『3人の人間がいる』。これは大いなるイレギュラー。この場に置いて重要なのは、『それぞれの願いの重さは同じだ』という事。そして、『願い』を叶えられるのはただ『一人』という事」
『碇ユイ』さんはかぶりを振った。
「この場において大事なのは、『誰の願いが重くなるのか』?その一点のみ。私たちの願いがバラバラであるならば、誰かが降りるしかないの。たった一つの願いを叶えるために」
その言葉を聞いた僕は、ゆっくりと振り返った。そこに立っている、クソ神父を睨みつける。
「私の願いは『全人類の幸福と救い』だ」
「私の願いは『息子の救い』。さあ、ジョルノ君。貴方の願いを口にして・・・・・・」
本来なら、ここで僕も自分の願いを口にすべき場面なんだろう。だが僕は、やれやれといったふうに首を振った。
「こんなチンケな場所で叶えたい願いなんて僕には無いな。このジョルノ・ジョバァーナには『夢』がある!そしてソレは!僕自身の手で叶えるものだッッ!」
「───!」
「そうか!ならば君が『脱落者』だ!!」
プッチ神父が僕に踊りかかってくる。しかしそのスピードは、先ほどまでの比ではない。
「遅すぎるんですよ。プッチ神父」
僕はその拳を、ゆっくりと躱した。
その上で、僕は──!!
「『碇ユイ』さん。二つだ。貴女に確認したい事は、二つ。『僕に言いたい事はあるか』?そして、『僕に伝えてほしいメッセージはあるか』?」
「──!」
「ジョルノ・・・ジョバァーナァァアア!!」
『無駄ァァアア!!』
『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の拳が、ようやく神父を捉えた!
そして、『碇ユイ』さんはその目に涙を浮かべながら、
「依頼は、継続、してくれるの?」
「無論。これは僕に課した使命だからな。シンジ君は僕の『意志』で助けるッ!」
拳に吹っ飛ばされたプッチ神父が僕から離れる。そうならないように、僕は『スタンド』で神父の法衣を掴んだ。
「僕に叶えたい願いはない。ここに『戻ってくる事も二度とない』だろう。貴女とはまた会えるような気がするが、それはココではないッ!」
「・・・・・・そう。なら、伝えてくれるかしら」
『碇ユイ』さんの涙が、宙を待って光と共に消える。
「『待ってる』と、二人に伝えて!シンジとゲンドウくんが!二人して私に会いに来てくれるのを・・・!」
「ああ。必ず伝えよう」
僕は、目の前で『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の手から逃れようと必死のプッチ神父に目を向ける。
僕の『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』。ようやくだが、少しだけわかった。コイツの能力は、全てを0にする能力!
僕たちを取り巻く空間が、まるでビデオの逆再生のように巻き戻っていく!
失われたものは還ってこない。消え去っていった魂も、きっと。
だが、僕はそれでもこの能力に感謝しよう。
僕をシンジ君の所まで、連れ戻してくれる事を!!
「ま、待て!ジョルノ・ジョバァーナ!私たちがここまで来たのは!私の能力は『神』のご意志だッ!『神』が望んだ能力なのだッ!この時の加速が終わりを迎えたこの地で!私が死んだら『人類の運命』が変わってしまうぞ!きっと違う未来になる!ここで死ぬわけにはいかない!人々は時の旅で見た運命を見なくなる!『覚悟』を知る事がなくなるんだッ!『覚悟こそ幸福』という事を思い出してくれッ!ここで私は死ぬわけには行かないのだ───ッ!!」
「あんたのいう『覚悟』・・・・・・ようやく理解できたが、あんたの言う『覚悟』とは
僕は右腕を振りかぶる。
「『覚悟』とは!!暗闇の荒野に!!
「やめろォオオオオ!知った風な口をきいてんじゃあないぞオオオオ!!」
「自分を知れ。そんな都合のいい話が残されていると思うのか?お前のような人間にッッ!!」
「このちっぽけな小僧がああああああ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!!」
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
「無駄ァァアアアアアアアッ!!」
僕の『スタンド』によってボコボコに殴られたプッチ神父が、その身を光の粒子へと変えていく。その粒子は空中に霧散すると、ゆっくりと時の流れの中に消えていった。
「エンリコ・プッチはここにいようと思っても、いる事もできない。どこに行こうとしても、行くことはできない。死のうと考えても死ぬことはできない。しかし、生きようと思っても生きることすらできない」
僕はすでに遠く消えていく『碇ユイ』さんに振り返る。神秘的な素敵な笑顔を、涙で濡らした顔を見ながら、僕はつぶやいた。
「生でも死でもない、どこでもない、どこにも辿り着かない場所で反対に飛ばされながら、彷徨い続けるはずです」
僕の言葉が、彼女に届いているのかはわからない。
でも。
「僕は必ず、辿り着かせてみせます。貴女の願いごと、シンジ君を、貴女の下へ・・・・・・」
世界を覆っていた光が爆発する。
そして。
そして───。
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つづく