ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
シンジ君が荷物をまとめて葛城さんの家を出たのは、その日の昼過ぎだった。
「長い間、お世話になりました」
葛城邸の玄関先で、シンジ君と僕はお世話になった葛城さんにそろって頭を下げていた。
「もう一度、考え直すつもりはないの?」
「ありません」
葛城さんの問いに、シンジ君が即答する。
「何度聞かれても、同じです」
シンジ君の意志は固い。ここで折れる事はまず無いだろう。
葛城さんもソレをわかっているからこそ、深くは追求してこなかった。
「・・・・・・アスカは、呆れて来ないでしょうね」
「・・・そうね。どっか外に行ったまま帰ってこないみたいだし」
「彼女らしいです。安心しました」
「らしい?」
葛城さんの眉がぴくりと揺れる。
「あなた、それ本気で言ってる?元保護者として一つだけ言わせてもらえるなら、あなたはアスカを振ったのよ?あなたとアスカの会話は、そーいう事になるのよ?」
「わかってます・・・・・・わかってるつもり、です」
そこで項垂れてしまうのがシンジ君だ。こういう所はシンジ君の性格ゆえの欠点というかなんというか。
「そっちの金髪不良イタリア人。あんたもよ」
「僕の場合は、そうだな。葛城さん。あとはよろしく頼みます」
「レイは『あんた』を慕っているのよ?恋人とかではなく、一緒に住んでいる『家族』としてのあんたを」
「わかってますよ。それでも僕は、シンジ君と共に行く。それはさっきも言った通りだ。それに、綾波さんならきっと大丈夫だ」
僕の答えに、満足したわけではないんだろう。だが、葛城さんはふうとため息を一つ吐いてから、
「あんたら二人とも、そうやって愛想ばかりついてるとこれから先、辛いわよ。特に、シンちゃん」
その言葉を聞いたシンジ君は少しだけ目を逸らした後、しっかりとした眼差しを葛城さんに向けていた。それが、シンジ君の答えだ。
「・・・・・・分かってると思うけど、これから先、あなた達の行動にはかなりの制限がつくから」
「だろーな」
「わかってます。・・・・・・あの・・・」
「ん。なぁに?」
「一つだけ教えてください。なぜトウジなんですか?フォースチルドレンが」
そうだな。それは僕も気になっていた事だ。エヴァンゲリオンを動かせる人員てのはシンクロ率などの才能面が大きく影響するハズだ。
本来なら世界中を探しても見つかるか見つからないか、といった確率のハズのパイロット。それがなぜ、シンジ君のクラスメートが選ばれたのかは疑問が残る。
「第4次選抜候補者は、全てあなたのクラスメートだったのよ。・・・私も最近知ったわ。全て、仕組まれていたことだったの」
・・・・・・なるほどな。
「本当に、ネルフという組織はゲスの集まりだな。改めてよくわかりましたよ」
「そうね。ジョルノの言う通りよ。私もネルフは、一筋縄では行かないって思ってたんだけど、ね」
「そんな・・・クラスのみんなが・・・?」
シンジ君のショックは大きいだろう。トウジ君やケンスケ君。それに恐らくは洞木委員長なんかも候補なんだろう。彼らがエヴァに乗って戦う可能性がある、という事は、欠員が出れば補充はそこからされる、という事だ。
本当に、クソみたいな組織だな。
「シンジ君が気に病む必要はない。例え君がエヴァに乗り続けていたとしても、きっと新型のエヴァが生み出されれば誰かが乗せられる。ネルフとはそーゆー組織だ」
「・・・・・・そう、だね。そうかもしれない」
シンジ君は俯いたままだった。恐らく悩んでいるんだろう。自分の代わりに、誰かがパイロットとしてエヴァに乗り込まないといけないかもしれないという葛藤。
だが、それ以上に、『自分の父親』のした事が許せない。それがシンジ君の出した答えだったようだ。
「わかりました。ミサトさん。僕の代わりに誰か来たら、よろしくお願いします」
「・・・鈴原君のことは、いくら言葉で謝っても取り消されるミスではないわ。でもシンジ君。正直私は、あなたに自分の夢、願い、目的を重ねていたわ。それがあなたの重荷になってるのも知ってる。でも私たちは、ネルフのみんなは、あなたに未来を託すしかなかったのよ。それだけは、覚えておいて」
「勝手な言い分ですよね」
「本当にな」
僕とシンジ君両方からの軽蔑の眼差しにも、葛城さんは動じなかった。
「わかってるわよ、そのくらい。・・・本部までのパスコードとあなた達の部屋はそのままにしておくから」
流石にくどいな。そうまでして僕たちに戻ってきて欲しい葛城さんの気持ちもわからないではないが。
「無駄ですよ、片付けておいてください」
シンジ君の言葉が葛城さんの言葉を、スッパリと切って捨てた。
「僕はもう、エヴァには乗りません」
そう言って、シンジ君は自分の荷物を肩に下げると、
「さようなら。ミサトさん」
別れの挨拶と共に、葛城邸を後にした。
◇
頭が痛いってのは、こーゆーのを言うんだろう。
「あら。遅かったじゃないバカシンジ。それからおまけのチョココロネ」
「・・・・・・それはもしかして僕の髪型の事を言っているのか?」
「他に誰がいるってゆーのよ」
まぁ、いない。いないんだが、なんというか、誠に遺憾だ。
「アスカ?それに綾波も・・・・・・」
「一応聞いていいか?君たち二人して、なんで僕たちが電車に乗ろうとしている駅にいるんだ?おまけにそんな旅行カバンまで持って」
「ジョルノに付いていく事にしたの」
・・・・・・やはりな。綾波さんが鼻息をふんす、ふんすと鳴らしている。ありゃあ初めての遠出に興奮している小学生の顔だ。ダメだと言っても絶対付いてくる気だ。僕にはわかる。
「シンジ。あんた、このアタシから本気で逃げられると思ってんの?アタシが本気を出したらどーなるか、予想できなかった?」
「え!?いや、でもアスカはエヴァのパイロットとしてのプライドが・・・」
「そんなの、あんたとユニゾンしてからだんだんと薄れていったわよ。アタシにとっての一番大事がなにか、あんた、わかってなかったよーね」
いつかの黄色いワンピースを着て、腰に手を当てて胸を張るラングレーの姿に、シンジ君も開いた口が塞がらないようだ。
「さ!早く行きましょ?あんたの育った場所ってのが、アタシ地味に気になってたのよねぇ」
「旅行。たのしみ」
旅行では無いんだがな。
「だ、ダメだよ!アスカや綾波までいなくなったら、誰が第三新東京市を守るのさ!?」
「いなくなるあんたが言ったって全然説得力ないわ!だいたいあんた、アタシたちにこの後の使徒の全部を押し付けるわけぇ!?」
「う!」
まぁ、それを言われると痛いな。シンジ君もぐうの音もでないみたいだ。
「ほら見なさい!あんたにも罪悪感って奴があんのよ!だったらアタシとファーストが何しようが、あんたに咎められる筋合いはないッ!!」
うん。まぁど正論だな。反論の余地がない。彼女たちを残らせるなら、それは僕たちも残らないと筋が通らないからな。
いや、参った。彼女たちの行動力というか凄みというか、それを見誤ってたわけだな。
うん、参った参った。
「ジョルノ君」
「ん?なんだい?」
「こうなるってわかってたでしょ」
さて。なんの事やら。
まぁ、ともかく、だ。
こうして僕たち四人の、ささやかな小旅行が始まろうとしたわけだが。
『ただいま東海地方を中心に、非常事態宣言が発令されました。住民の皆さまは、速やかに指定のシェルターへ避難してください。繰り返します、ただいま・・・・・・』
そんな僕たちの後ろ襟を引っ張るように、街全体に聞こえるような大音量で、緊急警報が鳴り響いた。
つづく