ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
加持さんの操るオープンカーが爆音を奏でて街を爆走する。
「悪いがこっからネルフ本部まで直で行くのは危険だ。回り道さしてもらう、ぞ!」
僕たちの前方では使徒が暴れ回っている。
加持さんはそう言うが早いか、思い切り車のハンドルを切った。僕たちエヴァパイロットの四人は必死に車体にしがみつく。ギャリギャリギャリとタイヤが嫌な音を立てて軋んだ。
「安全運転はどこに行ったんですか」
「『安全を確保するための運転』だ!少々荒っぽくなるが我慢してくれ!」
なるほど。それは屁理屈ってやつだな。僕は横の綾波さんが吹き飛ばされないように、彼女の肩をしっかりと掴んだ。
助手席に乗っているシンジ君も同様、ラングレーの肩をがしっと掴む。途端、ラングレーの赤みを帯びた金髪が、ブワッと逆だった。
「ごめんアスカ!我慢して!」
「・・・・・・別に、嫌じゃないから」
「何!?聞こえないよアスカ!!」
「〜〜〜もうちょっと優しくしなさいっつったのよ!バカシンジ!!」
コイツらは・・・・・・毎度毎度イチャイチャして周りを苛立たせることしかできないのか。僕は綾波さんの横でしてしまいそうになった舌打ちを必死に我慢した。
「さて、と」
加持さんが荒っぽい運転をしながら、僕たちに語りかける。
「少し、昔話をしてもいいかな?」
「いまのこの状況で、か?」
「そう冷たい事を言うなよ。なに、この車は、今は一番近くのシェルターに向かっている。そこは駅の地下にあって、リニアレールでジオフロントまでのアクセスもばっちりだ。なるべく早く現場までお届けするつもりだから、その間の慰みにでもってヤツだよ・・・・・・俺という、バカなスパイが生まれた理由を、なんだか君たちに話したくなったってだけさ」
荒れる車体に揺られながら、僕らは加持さんの言葉に耳を傾けてみることにした。その様子を横目で確認した加持さんがポツリと語り始める。
「いつか、ジョルノ君には話したな?俺は『時代に弟を殺された』って」
「え!?」
「そ、そうなの!?加持さん」
ああ。そういや言っていたな。僕と同盟を結べるかどうかの瀬戸際で。あの時は深く聞きはしなかったが。
「君たちが生まれた14年前、俺と4つ下の弟は両親をセカンドインパクトで亡くした孤児だった。・・・ま!当時はそんな奴らはゴロゴロしていたがな!ストリートチルドレンってヤツが町中に溢れていた。俺と弟も、御多分に洩れずってヤツだったのさ」
加持さんの、予想外に壮絶な人生にシンジ君とラングレーが息を呑んだようだ。まぁ、僕の経験からしてみれば『だから?』といった可愛いものだが。
「だが、そんな子供達がそう簡単に生きていける時代じゃなかった・・・俺たちは盗みで食糧を手に入れるしか無かったのさ。そして、あの日・・・・・・」
乱暴な運転をしながらも、加持さんの目が曇ったのがわかる。
「俺たちは、軍の食糧倉庫に手を出した」
場の空気が、一気に重くなった。
「もちろん、バレたら命はない。だが、俺たちは運が良かったのかな?何度盗みに入っても軍には見つからず、何度も同じ場所から食糧を手に入れていた。弟も含めて数人分の子供の口だ。大した量じゃない。『きっと見逃してくれてたんだろう』なんて、俺たちは甘い考えを抱いていた・・・」
だが違った、と加持さんは続けた。
「あれは、あの日は、俺が当番の日だった」
加持さんの瞳が遠くを見つめる。
「俺は、哨戒中の軍人に見つかり、拷問を受けて、銃を額に突き付けられた」
「・・・・・・!」
ラングレーとシンジ君が息を呑む。
「アスカにも話したことはなかったな・・・・・・俺はね、アスカ。シンジ君。死ぬのが怖かった。今まで生きてきて、あれほど怖かった事は他になかったよ」
「・・・・・・しゃべった、んですか?」
シンジ君の震えた声が加持さんを問いただす。加持さんはそれに、無言で以って答えた。
「それから、どうなったの?」
ラングレーの問いに対し、加持さんはようやく口を開いた。
「・・・・・・俺がソイツらからなんとか逃げ出して、仲間の元に戻った時には、ちょうど軍の車が逃げるように去っていく所だった」
加持さんが、寂しそうに笑う。
「俺はね、弟と、その時つるんでた仲間たちの命を犠牲にして、生き延びたんだよ」
ヴォン、と、車のエンジンが唸った。
「もちろん俺は、後悔の嵐に苛まれた。自ら命を断つことも考えたよ。──だが、こうも思った。『セカンドインパクトさえ無ければ、弟は死なずに済んだのではないか』ってな」
加持さんの言葉が、この空間の全てを支配していく。
「それからさ。俺がセカンドインパクトの正体を追い始めたのは。政府の流した情報は信憑性に欠けていたし、もし裏で糸を引いてる連中がいたら、許しておけない。もう二度と、俺たちみたいな犠牲者を出しちゃいけない。そんな風に考えているのさ。セカンドインパクトの正体を突き止めるのが、弟に対する俺の贖罪だと思ったんだ・・・・・・」
その言葉に、静かに、しかし確かにグスッと涙を飲む音が聞こえた。恐らく僕の前に座る、シンジ君とラングレーだ。
確かに、辛い出来事だ。それ自体は同情を誘うような、悲しい出来事だったな。それは僕も同意する。
だけど、な。
「だから?」
僕の言葉に、シンジ君とラングレーが息を呑んだのがわかった。
「ジョルノ君!?」
「ジョバァーナ!あんたねぇ!」
「二人が激昂する気持ちはわかっているつもりだ。だが冷静に考えてくれ。『それを話す事で、加持リョウジは僕らに何をさせたいのか?』それを見誤ると、利用されるだけだせ?二人とも」
僕の言葉に、前席の二人がハッとする。
「・・・はは!!さすがだなジョルノ君!全てお見通しってワケだ」
「加持さんが僕にその詳細を話さなかったのは『無駄だとわかっていた』から、だろ?」
「当たりだ。ジョルノ君。君がいると本当に俺はやり辛い!」
「嬉しそうに言うもんじゃあないな、加持さん。ちなみにだ、シンジ君とラングレー。この男が今何をしようとしていたか、わかるか?それは『同情を誘って、あわよくばエヴァパイロットを操ろうとしてた』って事だ。特にシンジ君は『エヴァには乗らない』って言ってたんだからな。同情を誘い、君をエヴァに乗せて使徒の殲滅に参加させたかった。そんなところか?加持さん」
問われた加持さんは苦笑を浮かべて無言。僕の言葉を聞いた二人の方が、再び息を呑む。
うん、やっぱり二人にとっては、今の身の上話はかなり効果的だったようだな。ここで釘を刺しておけて良かったといったところか。
いつの間にか加持さんの運転する車は、第三新東京市の外れにある駅地下のシェルターに辿り着いていた。
そこに辿り着いた、と言う事は、加持さんの昔話は終わりだな?
「全く、ジョルノ君は俺の想定の上を軽々と行くな。少しは手加減してくれてもいいんだぜ?」
「使徒は倒しますよ。ただ、あなた個人の事情に僕たちが必要以上に干渉する事はない。それだけだ。そうだな?シンジ君、ラングレー」
「ジョバァーナ・・・・・・」
「ジョルノ君、でも・・・」
「悪いが二人とも。何か勘違いしてるんじゃあないか?君たちがエヴァに乗って戦うのは『君たちの理由のため』であって、加持リョウジという個人の『理由』のためじゃあないんだぜ?」
僕の言葉に、綾波さんを除く二人がハッと顔をしかめる。
「加持リョウジは不幸な青年だった。それは否めない。だが、彼は『自分のために世界と戦っている』。そこに、無駄な感情を向ける必要はないんだ。それは僕の方でなんとかしよう」
「はははははは!!ジョルノ君。本当に君は、同盟相手としては最高だ!俺の思い通りにならないと思いきや、それでも君の目的は俺の目的と一致する!」
加持さんは大声で笑うと、車から降りたシンジ君の両肩をポンと叩いた。
「シンジ君。君が得たジョルノ・ジョバァーナという男は、『黄金の風』だ。君を清く正しく導いてくれるだろう。絶対、離すんじゃないぞ?」
加持さんは嬉しそうに、シンジ君に語りかける。言われたシンジ君は戸惑っているようだが、僕自身は微塵も揺るがない。
シェルター内部に僕らは足を踏み入れる。その場所は、ジオフロントまであと少しと言ったところだった。
「この通路の奥のリニアシューター、ルート18でジオフロントに戻れる。それに乗るか乗らないかは君たちの自由だ」
「加持さん、そんな言い方は無いだろう。どうせ僕たちはエヴァに乗るんだ。あるようで無い選択肢なんて提示するもんじゃあないな」
「・・・・・・そうだな。だが、これだけは言わせてくれ」
そう言うと、加持さんは僕を除くエヴァパイロット達に向き直る。
「ジョルノ君以外の君たちは知らないだろうが、ネルフの地下深くには最初の使徒とされるアダム、その遺骸が残されている。使徒が万が一、アダムと接触すればサードインパクトが起こるとも言われている。今度のインパクトでは、全人類の命が奪われるだろう。それを止めることができるのは──」
加持さんの表情が険しくなる。
「アダムより造られしエヴァ。使徒と同じ力を持つエヴァだけだ」
加持さんが、僕らに向けて頭を下げる。
「俺は君たちに頼むしか無い。だから、頼む。俺たち人類を守ってくれ」
・・・・・・ふう。まぁ、及第点といったところ、だな。
加持さんのお願いに対し、
「まっかせなさい!加持さん!アタシたちが何のためにいると思ってるの?」
「わたしも、守りたい。みんなとの絆だから」
「そうだね。僕は父さんの言う事は聞きたくない。けど、加持さんみたいな人達がこれ以上苦しまなくていいように──」
シンジ君は優しい笑みを浮かべて、加持さんを見遣った。
「乗るよ。僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジだから」
「・・・・・・ありがとう。シンジ君」
加持さんが顔を上げる。そのクシャクシャになった表情に、僕たちの胸に暖かな気持ちが生まれてくる。
「よし、シンジ君」
「うん、ジョルノ君」
僕たちは拳をぶつけ合う。
「いつも通りだな」
「だね。やっつけに行こう」
僕とシンジ君は、不敵に笑った。
今回もいつもと一緒だ。使徒をやっつける簡単なお仕事。僕もパワーアップしたからな。今回の使徒はきっと楽勝で倒せるだろう。
そう、確信した瞬間だった。
「いやぁ、良い事を言いますね。ジョルノ・ジョバァーナ」
部屋に潜んでいた『先客』が、何かを僕らに『投げつけた』。
「え?」
「シンジ君ッ!!」
僕の顔の横を通り過ぎて、投げ付けられたもの。僕はそれを視認できなかったが──、
「ぶふ!?」
「加持さん!?」
背後の加持さんがくぐもった苦鳴を上げる。
目の前に立っていた人物は、僕の背後の人達の動揺を無視して喋る。
「加持リョウジ。果たして、『選ばれる』んですかねぇ?まぁ、僕としてはどっちでもいいんですけど」
加持さんの喉元に突き刺さった『鏃』。
それが戦闘開始の合図だった。
つづく