ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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 小さい頃に、ときおりテレビで流れていたロボットアニメ。

 

 地球のピンチに、謎の博士が作ったロボットに少年が乗り込み、そして勝つ。

 

 そんな非日常に。僕は辟易していた。

 

 なんでいきなりロボットに乗せられる?

 

 なんでいきなり操縦できる?

 

 なんでそんな簡単に、世界を救える?

 

 僕は当時、ひねくれた子供だったから、余計にそうだったと思うんだが。それにしても、あまりの非現実感に眩暈がしたものだ。

 

 当時の僕は、母親のいないところでよく父親に殴られていて。

 

 街の悪ガキ共からはなぜか目の敵にされて。

 

 僕はこの世のカスなのだと本気で思っていた。そして、それが変わる事など決してないと、当時の僕は心の底から思っていた。『あの人』に会うまでは。

 

 だが、そんな現実の非情な世界があるのに、アニメの世界ではロボットに乗って戦って、いとも容易く世界を救っていた。

 

 本当に笑い話だ。まさか、そんな世界で生きている少年がいるなんて。

 

 僕は、『恩人』に救われた。だけど、目の前の彼はどうだ?

 

 少年はただ怯えたように、僕や葛城さん、赤木博士へと視線を移す。

 

(だから、なんだな・・・?僕が呼ばれた理由は、君が僕と『同じ』だから、なんだな?)

 

 空気が重く、ゴゴゴゴ・・・とうねりを上げていく。

 

 限りなく、僕に近い。そして、僕が『あり得ない』と切り捨てた世界で、君は生きている。

 

 そして、僕と同じように『理不尽』と感じ、それでいて尚、君は逃げることができない。

 

 この少年の心を救うことは、僕の心を救うことだ。

 

 僕が自分で救えなかった過去の僕自身を、救うことになる。

 

 面白くなってきた。最悪で犠牲は必要だが、僕の『覚悟』とシンジ君の『覚悟』が、きっと道を切り開く・・・・・・!

 

 

 

 

「父さん・・・・・・なぜ、僕を呼んだの?」

 

『お前の考えている通りだ』

 

 震える声で、シンジ君が父親に問いかける。それを頭上の父親は、切って捨てた。

 

 その光景だけでもわかる。これはフツーの親子の会話ではない。たとえ仕事だったとしてもこんな一方的な会話はあり得ない。シンジ君の父親の態度は仕事の部下、いや、それ以下への対応だ。

 シンジ君は震えながら、それでもコミニュケーションを取ろうと父親に問いかける。

 

「じゃあ、僕がこれに乗ってさっきのと戦えって言うの?」

 

『そうだ』

 

「いやだよそんなの!何を今更なんだよ・・・父さんは僕がいらないんじゃなかったの!?」

 

『必要だから呼んだまでだ』

 

 シンジ君が拳を強く握る。そう。僕も同じだ、シンジ君。いつも僕は、父親に殴られるたびに拳を握りしめていた。

 

 君は、僕と同じなんだ。

 

「なぜ、僕なの・・・・・・?」

 

『他の人間には無理だからな』

 

「無理だよそんなの・・・見たことも聞いたこともないのに、できるわけないよ!!」

 

 シンジ君の声が震える。怒りと、悲しみで。実の親から向けられた、愛情の無い言葉故に。

 

『説明を受けろ』

 

「そんな・・・できっこないよ・・・。こんなの、乗れるわけないよッ!!」

 

 シンジ君は父親と目を合わせない。まるで叱られるように、ずっと俯いたままだ。

 

『乗るならば早くしろ。でなければ、帰れ!!』

 

 父親の叱責とも取れる怒声が、大きなフロアに木霊した。

 

 葛城さんも赤木博士も、あの巨大ロボットの周りで作業をしていた人員たちも、ことの成り行きを固唾を飲んで見守っている。

 

 だが、こんな状況で、責め立てられたシンジ君がどんな言葉を発せられる?実の父親から非情とも取れる宣告を受けて、周りの大人は助けもしない。そんな状況が、シンジ君にとってどれだけ重たいものなのか。

 

 シンジ君は俯いたまま、何も答えない。

 

 その時だった。ゴゴンッという振動と共に、フロア全体が大きく揺らいだ。

 

『奴め、ここに気付いたか・・・』

 

 シンジ君の父親が、シンジ君から目を逸らして状況を把握しているようだ。

 

「シンジ君!時間がないわ・・・!」

 

 フロア全体に、いや、施設全体に流れる緊急アナウンス。シンジ君の状況がどんどんと切迫していく。

 

 助けを求めるように、シンジ君は僕を、いや、僕の後ろの葛城さんを見た。

 

「・・・乗りなさい」

 

 ・・・ッ!?な、何を言ってるんだ、この人は!

 

 葛城さんの想定外の回答に、シンジ君は再び俯いた。

 

「・・・いやだよ。せっかく来たのに・・・・・・こんなのないよッ!!」

 

「シンジ君・・・、なんの為にここに来たの?」

 

 葛城さんが僕の頭から銃口を離し、シンジ君の前まで行って、シンジ君の顔を覗き込んだ。覗き込まれたシンジ君はハッと顔をあげるが、すぐに葛城さんから目を逸らした。

 

「だめよ、逃げちゃあ・・・・・・お父さんから、何よりも自分から!」

 

「わかってるよ・・・・・・でも、できるわけないよ!!」

 

 

 

 我慢の限界だった。

 

 

 

 

 

「君の言うとおりだ!シンジ君!!」

 

 

 

 

 

 僕は胸を張って宣言する。

 

「シンジ君、胸を張るんだ。『できるわけがない』!それは全くもって正しい!葛城さん、何のためにここまで来たかって?父親から逃げちゃあダメだって?違うッ!シンジ君は『逃げないために』ここに来たッ!!」

 

「ジョルノ、君・・・?」

 

 シンジ君や他のメンツが驚いたようにこちらを振り向く。だが、悪いが知ったこっちゃあない!僕をここまで腹立たせるとは、ネルフという連中には頭が上がらないよ。

 

 だがな──、

 

「シンジ君!君は『父親と対峙するためにここに来た』!!あの手紙とも呼べないような『こい!』の一言しか書いてないメモを前に!君は、父親の真意を確かめるために来たッ!そうじゃあないのかッ!?碇シンジ君ッ!!」

 

「!!」

 

「君は『勇気』を出してここに来た!何のために?父親の真意を確かめるためだ!逃げちゃあいけない?違うッ!これは『見限る』と言うんだ!シンジ君!君が父親を見限っちゃあいけない事なんてないんだッ!」

 

 シンジ君が目を見開いた。驚きで。まるで、そんなこと考えもしなかったという様に。

 

「君が乗れるわけがない!軍の人間が動かせなかった兵器が、訓練も受けてない君に動かせるはずがないッ!君が言ったとおりなんだシンジ君!君の答えは、何も間違っちゃあいないんだ!帰れ、だって?上等じゃあないか。君の父上が『帰っていい』と言ってるんだぜ?だったら何も後ろめたく感じる必要はない!ここからすぐにでも、僕とシンジ君で帰らせてもらおうッ!!」

 

「ちょっと!ジョルノ・ジョバァーナ君!何を勝手に決めて・・・」

 

「勝手?悪いが葛城さん。これは貴女がたの司令官が言った言葉だ。貴女がどれだけの権限を持っているかは知らないが、貴女の方が司令官よりも権限を持っているとでも?」

 

「くぅぅ〜!!揚げ足ばっかり取って!」

 

「ミサト!どうするの?」

 

「〜〜〜ッ、シンジ君!アナタはどうしたいの!?このまま、お父さんに認められなくてもいいの!?」

 

 何を言ってるんだ!この人はッ!!

 

「葛城さん!それは問題のすり替えだ!今はシンジ君が乗るか乗らないか!それだけの問題じゃあないのか!」

 

「黙ってて!こっちだってねぇ、人類の存亡を賭けてんのよ!乗るか乗らないか、ですって!?乗らなけりゃあ人類が滅ぶのよ!?そんな事もわかんないの!?」

 

「〜〜〜ッ!!貴女って人は・・・・・・!」

 

『もういい』

 

 僕たちの頭上から、再び声が落ちてくる。

 

 見上げればシンジ君の父親が、呆れ返ったようにこちらを見下ろしてくる。サングラスで隠れた目線じゃあよく分からないが、あの男の目には、僕も、そしてシンジ君も、同じように『価値の無いもの』として映っている。そんな感じだ。

 

『冬月、レイを起こしてくれ』

 

『使えるかね?』

 

『死んでいるわけでは無い』

 

『・・・・・・わかった』

 

 サングラスの男とは別に、老人のような声が通信に流れた。その次に流れてきたのは──、

 

『レイ』

 

『・・・・・・はい』

 

『予備が使えなくなった。もう一度だ』

 

 少女の声。

 

 ・・・・・・待てよ。予備だって?自分の息子をこんな死地に呼び出しておいて『予備』だって?

 

 思わず叫び散らかしそうになる僕の腕を、シンジ君が止める。

 

「シンジ君!」

 

「いいんだ。ジョルノ君。もう、いいんだ・・・」

 

「良いわけあるか!あの男は、君を・・・!」

 

「ジョルノ君!!」

 

 シンジ君の大声に、僕は思わず勢いを止めてしまった。シンジ君の目に、涙が溜まっている。

 

「いいんだ。いいんだよ。あんなんでも、僕の父さんなんだ・・・・・・だから・・・・・・」

 

 シンジ君はそう言うと、俯いてしまった。事の成り行きを見守っていた赤木博士が叫ぶ。

 

「初号機のシステムをレイに書き直して、再起動!」

 

『了解。現作業中断!再起動に入ります』

 

 僕の手を握るシンジ君を他所に、葛城さんと赤木博士が僕らから離れていく。それを俯いたまま、震えながら必死に耐えているシンジ君。

 

 ・・・・・・僕がもうちょっとだけ冷静で無かったなら、きっと口汚く罵っただろう。こんな少年に寄ってたかって、何様のつもりなんだ、と。

 

 そんな僕らの下に、ガラガラと何かを引く音が聞こえてきた。

 

 僕とシンジ君が音のした方向に目を向けると──、

 

「!?」

 

 包帯でぐるぐる巻きにされた少女が運び込まれてきた。

 

「ま、まさか・・・あの娘、なのか・・・?ロボットに乗って戦うのが、あんな傷だらけの女の子・・・!?」

 

 血管がブチ切れそうだ。

 

 女の子はベッドの上で起き上がると、苦しそうに肩で息をしている。

 

 どこまで──、

 

 どこまで僕を怒らせたら気が済むんだ!

 

 ネルフッ!!

 

 

 

つづく

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