ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】   作:サルオ

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第十章 心のかたち、人のかたち
96.


 

《第1日》

 

 崩壊した発令所はシーンと静まり返っていた。いつものスタッフの喧騒や、使徒出現の際の蜂の巣を突いた騒ぎなどがまるで嘘のように、耳に痛い静寂があたりを満たしていた。

 

「エヴァ零号機、弐号機の損傷は、ヘイフリックの限界を超えています」

 

 伊吹マヤの報告を感慨無く聞いていた赤木リツコは、使徒によって砕かれた発令所のメインモニターを見つめながら、「そう」と小さく呟いた。

 

「時間がかかるわね。全てが戻るには」

 

「幸い、MAGIシステムは移植可能です。明日にも作業を開始します」

 

「でもここは、もうダメね」

 

 リツコは破損したコンソールに軽く指を這わせると、ふうと一つため息をついた。

 

「破棄決定は、もはや時間の問題です」

 

 マヤ、リツコと共にその場に居合わせたオペレーターの青葉シゲルも、発令所の惨状を前にして、その声音に潜む落胆を隠せていない。

 

「そうね。とりあえずは、予備の第二発令所を使用するしかないわね」

 

「MAGIは無くとも、ですか?」

 

「そうよ。埃を払って、午後には仕事を始めるわよ」

 

「・・・椅子はキツいしセンサーは固いし、やりづらいんですよね、あそこ」

 

「見慣れた第一発令所と造りは同じなんですが・・・・・・」

 

「違和感ありますよね」

 

 崩壊した発令所を後にした三人が、ネルフの廊下を進む。背後の二人は新しい、と言っても予備として前から存在していた第二発令所に対する愚痴をぼやくが。

 

「今は使えるだけマシよ。・・・使えるかどうかわからないのは、初号機ね」

 

 

 

 

 目の前にある、まるでミイラのような様相の巨人。上半身を包帯でぐるぐる巻きにされた初号機は、瞳孔の開いた右目を晒しながら、不気味に笑みを浮かべている。

 

 その巨人の前では、葛城ミサトと日向マコトが静かに肩を並べていた。ミサトは巨人に目を向けたまま、横にいるマコトに問いかけた。

 

「ケージに拘束・・・大丈夫でしょうね?」

 

「内部に熱、電子、電磁波ほか、化学エネルギー反応無し。S²機関は完全に停止しています」

 

「にもかかわらず・・・・・・」

 

 ミサトが腕を組みながら、初号機を睨み付ける。

 

「この初号機は3度も動いたわ」

 

 ミサトの脳裏に甦るのは、暴走した初号機の拘束場面。

 

 第三新東京市を、アンビリカルケーブルも付けずに、電力の供給が叶わない状況で闊歩した巨人。

 

 その進行を、使徒の迎撃システムによって拘束していく第三新東京市。

 

(まさか対使徒迎撃要塞都市のシステムが、暴走したエヴァを止めるのに役立つなんて・・・)

 

 いや、

 

(最初からそのつもりの、防護システムだったとしたら?)

 

 ミサトの疑問に、答える者はこの場にはいない。ミサトは折れた左腕をさする。自分の思いもよらないところで、全ては仕組まれている。そんな気がしてならない。

 

 今、この場にジョルノ・ジョバァーナがいたら、彼はなんと答えるだろう。あのニヒルに笑う金髪の不良少年は、自分にどんな道を示してくれるだろう。

 

(・・・って、ダメね私。中学生のガキンチョに、頼ろうとしてる。そんなんじゃダメよね?ジョルノ)

 

 ミサトは軽く頭を振って、初号機のケージを後にした。

 

 

 

 

「いやはや、この展開は予想外ですな」

 

 先のスタンド使いとの戦闘で大怪我を負った加持は、全身に包帯を巻いた痛ましい姿をしていた。それでも、彼がニヒルな笑みを絶やすことはない。この広すぎるネルフ司令室、つまり、碇ゲンドウの執務室において、ポケットに手を突っ込んだまま碇ゲンドウと会話を許されるのは、彼くらいのものだろう。

 

「委員会、いや、ゼーレの方にどう言い分けするつもりです?」

 

「初号機はわれわれの制御下ではなかった。これは不慮の事故だよ」

 

 加持の追及に対し、まず言葉を返したのは冬月副司令。

 

「よって初号機は凍結。委員会の別命あるまでは、だ」

 

 次に答えたのがこの部屋の主、碇ゲンドウだった。

 

「適切な処置です。しかし──」

 

 ゲンドウの言葉に軽く頷きながら、しかし、それでも加持は問いただしたくてならなかった。

 

「ご子息と、ジョルノ・ジョバァーナを取り込まれたままですか?」

 

 加持の問いに対し、目の前の二人の表情は変わらない。しかして返ってくるのは沈黙のみ。

 

 加持にもわかっているのだ。この状況がゼーレ、ましてや、碇ゲンドウの望むものではなかった、という事くらい。

 

 碇シンジという、ゲンドウとユイの血を受け継いだ人間が取り込まれたままなのは、まだ理解できる。だが、計画の当初からイレギュラーとして現れたあの男、ジョルノ・ジョバァーナが取り込まれたのはイレギュラー中のイレギュラー。

 

 何より、あの厄介な男が、初号機の中に残されたまま、何の行動も起こさないのはどういうわけなのか。

 

 ゲンドウ自身の望む人類補完計画。それに紛れ込んだ異物。それが今度は初号機の中に留まったまま、何をしているのか。

 

 場の空気は、微妙な沈黙が支配したまま。加持はかぶりを振って、自身の問いを取り下げた。

 

 

 

 

 午後の第二発令所に、警告音が鳴り響いている。オペレーター達がコンソールに向かいながら、初号機の内部に閉じ込められたままのシンジとジョルノを、なんとかして救出しようと悪戦苦闘していた。

 

「やはりだめです。エントリープラグ排出信号、受け付けません」

 

「予備と疑似信号は?」

 

「拒絶されています。 直轄回路もつながりません」

 

「プラグの映像回線つながりました。主モニターに回します」

 

 日向マコトの報告と共にメインモニターに映し出された映像。それは、初号機の中に入ったままのエントリープラグ内の映像だった。

 

 もっともそこに、シンジとジョルノの姿はなかったが。

 

 だが、その痕跡だけは残されている。それは、シンジとジョルノの制服。それがプラグ内で、ただゆらゆらと揺らめいている様は、シンジとジョルノの死の可能性を十分に物語っていた。

 

「なによ、これ!」

 

 ミサトは息を呑み、瞬時に隣のリツコに問い掛けた。だがリツコも、この映像から得られる情報でしか物事を判断できないのは変わらない。

 

「これがシンクロ率400%の正体・・・!?」

 

「そんな、シンジ君は一体どうなったのよ!」

 

「エヴァ初号機に取り込まれてしまったわ・・・」

 

「何よそれ!どういうこと!?エヴァって何なのよ!!」

 

「人の造り出した、人に近いカタチをした物体、としか言いようがないわね」

 

「人の造り出した?あの時南極で拾ったものをただコピーしただけじゃないの!オリジナルが聞いてあきれるわ!」

 

「ただのコピーとは違うわ。人の意思が込められているもの・・・・・・」

 

「これも誰かの意志だって言うの!?」

 

「或いは、エヴァの・・・・・・」

 

 そう、絵空事のような判断を下した己の親友に詰め寄ったミサトは、その頬を張ろうと手を上げて、すんでのところで踏み止まった。ミサトの脳裏に、ある言葉が甦ったからだ。

 

(母さんが、助けてくれました・・・・・・)

 

 シンジが第12の使徒に取り込まれて、自力で脱出してきたときの記憶。シンジは確かに、『母さん』と、そう口にしていた。

 

 ミサトは振り上げた右手をゆっくりと下ろすと、リツコを睨みつけて怒鳴りつけた。

 

「何とかなさいよ・・・あんたが作ったんでしょう!?最後まで責任取りなさいよ!!」

 

 そう怒鳴ったミサトも、怒鳴られたリツコも、その表情は暗い。

 

 もし、初号機がシンジとジョルノを本当に取り込んだというのなら、それを救い出す方法は存在するのか。

 

 答えの無い問いを前に、ミサトとリツコを含めたこの場の人間全員が、口をつぐむしかなかった。

 

 

 

つづく

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