ミサト「あなたが碇シンジ君ね?」ジョルノ「いえ、違います」【完結】 作:サルオ
《第2日》
ネルフ本部内にある医療病棟のとある一室。そこでゆっくりと目を覚ましたのは、綾波レイだった。
「まだ、生きてる・・・・・・」
右手を天井に伸ばして自身の生を実感したレイは、その直後に襲ってきた強烈な空腹感に身を捩らせた。
空腹感に必死に抗いながら、レイは自分の覚えている最後の記憶を呼び覚ます。
(ジョルノが、碇くんが、助けてくれた・・・・・・あっ!)
そこまで思い出したレイは、使徒との戦闘がどうなったのか、彼らは無事なのかどうかを瞬時に危惧して飛び起きた。
「あら、起きた?おはよ。レイ」
そんな彼女に掛けられた言葉があった。それはこの病室の扉側、もう一つあったベッドの上から聞こえてくる。
レイが振り向けば、そこには全身に包帯を巻かれたアスカの姿があった。
「アスカ・・・」
「ふぅ。お互い、ひどい有り様ね」
アスカは自身とレイを指差しながら笑う。レイは気付いてなかったが、レイ自身も全身包帯ぐるぐる巻きの姿だったのだ。
「アスカ。ジョルノと碇くんは・・・?」
「さぁね。アタシが目覚めてから1時間くらいは経ってるはずなんだけど、どっちもお見舞いにも来やしないわ。どういう神経してるのかしらね、あの王子様たちは」
「王子さま?」
「はん!揶揄よ、揶揄。使徒に取り込まれたアタシ達を救い出してくれた、白馬の王子様ってところかしらね!もっとも?その評価もこの状況でチャラってわけ。お姫様の安否も確認しにこないなんて、王子様としてはマイナスよ!」
そう言ってアスカは空中に向かって舌を突き出した。まるでそこに、自身のつれない想い人がいるかのように。
「そう・・・、二人は、まだ来てくれないのね」
「レイ・・・・・・」
レイの落胆した声を前に、アスカはベッドから立ち上がると、ゆっくりと、優しくレイを抱きしめた。
「アスカ・・・?」
「大丈夫よ。大丈夫。二人はきっと、アタシ達に会いにきてくれるわ。だから、大丈夫なのよ」
アスカの優しい声音と抱擁。それが、レイにとってここまで心地の良いものだとはレイ自身も思わなかった。
だが、アスカの言葉の裏にある、その意味を感じ取れないほど、レイも幼くはない。
「何か、あったのね?アスカ」
「・・・・・・」
「ジョルノ達に、何が、起きたの?」
「・・・・・・レイ」
「アスカ。大丈夫。わたしは何を聞かされても、冷静でいられるわ。だから・・・・・・」
「・・・・・・そう、ね。あんた、見た目に寄らず強いもんね」
アスカは抱きしめていたレイから少しだけ離れると、レイの肩に手を置いて、まっすぐにレイと視線をぶつけた。
「あのバカ二人は、エヴァの中で溶けて、消えちゃったんだって・・・」
「・・・・・・え」
「今はそれをどうやって元に戻すか、リツコとミサトが必死になって考えてくれている。だからアタシたちは・・・」
「待つしか、ない・・・・・・?」
「そうね。信じて、待つしかないわ。あのバカ二人が、無事に戻ってくるのを」
その瞳に涙を浮かべながら、アスカは無理やりに笑った。それに応えるようにまたレイも、儚く笑ったのだった。
◇
《第3日》
「シンジ君とジョルノのサルベージ計画!?」
「そう。シンジ君の生命と言うべき物は、まだ存在しているわ」
ミイラのように包帯でぐるぐる巻きにされた初号機のいるケージにて、葛城ミサトは赤木リツコと伊吹マヤから驚きの計画を告げられていた。それは初号機に溶け込んでしまった二名の、魂のサルベージ計画。
「・・・ふん。今度は人命尊重?」
「今はシンジ君を失うわけにはいかないのよ」
「はん!シンジ君『だけ』ね。あんたらにとってジョルノは要らないってこと!ネルフが欲しいのはシンジ君の命ではなく、道具としての初号機でしょ!?」
自分の親友の素直すぎる回答に、ミサトの沸点が一気に急上昇した。怒りに震えるミサトは、張り手ではなく、拳でもってリツコに殴りかかりそうになる自分を必死に抑えていたが、
「否定はしないわ」
その一言に、ミサトの臨界点がプチンとキレた。
「待ってください!葛城三佐!」
そこに割って入ったのがマヤであった。鬼の表情のミサトに割って入るのは多大な勇気が必要であっただろう。マヤの目には恐怖の涙が浮かんでいた。
「シンジ君の肉体は!自我境界線を失って、量子状態のまま!エントリープラグ内を漂っていると推測されます!」
ミサトを抑えながらのマヤの説明に、ミサトは湧き上がる怒りをなんとか抑えながら耳を傾けた。
ふーっ、ふーっという荒い息を吐き出しながら、
「つまりシンジ君は私たちの目では確認できない状態に変化していると?」
努めて冷静に、ミサトはリツコに切り返した。
「そうです!プラグの中のLCL成分は、化学変化を起こし、現在は原始地球の海水に酷似しています!」
だが、それに応えたのはマヤであった。その対応に、ミサトはまたもキレかけたのだが、
「生命のスープ。シンジ君を構成していた物質は、すべてプラグ内に保存されているし、魂と言うべき物もそこに存在している・・・」
リツコはあくまで冷静に、ミサトに切り返した。
「これから私たちは、シンジ君の肉体を再構成して精神を定着させるわ」
「・・・・・・あんたねぇ!さっきからシンジ君シンジ君て、ジョルノの事はどう考えているのよ!」
「可能であれば、彼も再構成させる。というより、シンジ君の副次効果で彼も再生させられる、ってとこかしら」
「リツコ!!」
ここにきてとうとう、ミサトはリツコの頬を張った。バチン!という鋭い音がケージ内に木霊する。
「あんた、ジョルノと仲良かったじゃないのよ!何度も一緒に仕事してたじゃないのよ!それなのに、ジョルノはあんたにとっては『ついで』なの!?」
「・・・・・・私の仕事の範疇ではない、ということよ。ミサト」
「──ッ!絶対、助け出しなさい!シンジ君も、ジョルノも!でなきゃそんな計画、認められないわ!」
「貴女の許可なんて必要ないのよ。この件に関しては、すでに碇司令から承諾を頂いているのだから・・・・・・」
リツコは張られた頬をさすりながら、
「すでに決定事項よ」
残酷な事実を、ミサトに突き付けていた。
▼△▼△▼△▼△
どこだ?ここ?
なんだ、コレ?
なんだ、これ?
なんだ、これ・・・?
よく、わかんないや。
僕は初号機のエントリープラグにいたはずなのに。
遠くで、誰かの、幼い子供の泣き声が聞こえる。
あれは・・・僕だ。僕が泣いてる。
そして、あれは、父さん?
「行かないでよ!父さん!僕を置いていかないで!」
そうだ。幼い僕は、そう言って父さんに泣き付いた。
「わがままを言うな。叔父さんの、先生の所で良い子にしていろ」
「母さんはどこ!?母さんは、どこに行ったの!?」
「・・・・・・母さんは死んだ」
「嘘だ!!」
「嘘じゃない・・・・・・お前も見ていたはずだ」
そう言って、父さんは幼い僕の後ろを指差した。
僕はその指に従って、背後に視線を移した。
そこにいたのは、
「母さん?」
いや、違う。
目の前には、無機質な目を爛々と輝かせながら、包帯でぐるぐる巻きになった、僕の見知ったもの・・・。
これは・・・・・・エヴァだ。
「シンジ」
父さんの声が、遠くから聞こえる。
「コレに乗って戦え」
なん、なんで・・・・・・。
「お前がパイロットだ」
嫌だ!!
何を今更、なんだよ!父さんは僕がいらないんじゃなかったの!?
そう叫んだ瞬間、僕に迫り上がってくるLCLの波。
「必要だから呼んだまでだ」
嫌だ・・・・・・嫌だ!!
僕の目の前で起こる惨劇。ケンスケを踏み潰した時の感触。トウジを殺しかけた、ダミーシステムの暴走。
なぜ、僕なの?
「他の人間では無理だからな」
無理だよそんなの!見た事も聞いた事もないのにできるわけないよ!
・・・・・・いや、違う。そうじゃない。
僕は知っていた。
幼い記憶。僕は、母さんに連れられて・・・。
そうだ。僕は、エヴァを知っていた。
僕の目の前で、エヴァに溶けて消えた母さん。
「嫌だ!やめろ!」
僕の目の前で、人類の未来を見せたいと言った母さん。
「やめて!やめてよ!!」
だから、僕はあの時、逃げ出したんだ。
「やめろ!やめろよ!父さん!!」
そうだ、あの時、僕は逃げ出したんだ・・・。
父さんと、母さんから。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・ッ!!」
僕は!!
僕は!!
僕、は・・・・・・!!
全てから、逃げ出したんだ・・・っ!!
▼△▼△▼△▼△
《第30日》
『現在、LCLの温度は36を維持、酸素密度に問題なし』
『放射電磁パルス異常無し。波形パターンはB』
『各計測装置は正常に作動中・・・・・・』
「あの・・・・・・バカ・・・・・・1ヶ月も戻ってこないなんて、よっぽどアタシに殺されたいらしいわね・・・!」
装甲。いや、エヴァンゲリオンの拘束具を纏い、すっかり元の姿に戻った初号機のケージにおいて、アスカは顔を顰めながら初号機を睨みつけていた。
その横には同じように可愛らしい眉を歪ませながら、レイが立っていた。彼女もジョルノの安否を気にしているのだろう。
「まさか、一生このまま、なんて事はないでしょーね・・・」
「・・・・・・ジョルノ」
二人の少女は共に初号機を見つめる。
その二人の背後に近づいてくる影があった。
「よっ!お二人さん。シンジ君とジョルノ君が心配かい?」
「・・・加持さん」
加持リョウジに肩を叩かれた二人は、少し驚いたように背後に振り返った。
「はん!ざーんねんでした!これでアタシの活躍の場が増えるって喜んでたのよ!」
「またそんな痩せ我慢して」
「アスカは、素直じゃないのね」
「ちょ!レイまでなんて事を言うのよ!アタシは、別に・・・」
「たまには素直にならないと、彼氏が戻ってきてくれないぞ?」
加持の揶揄いに、アスカが顔を真っ赤にして叫ぶ。
「ばッ!だ、誰が彼氏よ誰が!あんな、無責任なバカシンジだなんて・・・・・・・・・ッ」
「誰もシンジ君なんて言っちゃいないぜ?」
「〜〜〜!?」
「アスカ、顔が真っ赤よ。風邪?」
たじろぐアスカに投げかけられたレイの素直すぎる反応。アスカはにっちもさっちも行かず、腕を組んでそっぽを向いた。
その横顔に、その瞳に、涙が浮かぶ。
「おっと、揶揄いすぎたか。すまん、アスカ」
「別に!加持さんに謝ってもらっても仕方ないわよ。アタシが怒ってるのは、シンジになんだから・・・・・・」
アスカはそう言うと、その視線を再び初号機に戻す。
「・・・・・・アタシが素直になれば、あいつは戻ってくるの?」
「アスカ・・・・・・」
加持はそんなアスカのアタマをポンポンと撫でた。
「元気出せよ、アスカ」
加持はアスカの手を握りしめ、そして、横にいるレイの手を取り、二人の手を重ねた。
「確かにシンジ君とジョルノ君は心配だが、きっと彼らも必死で戦っている」
そう言って、加持は二人の頭を改めて撫でた。
「おまえ達はおまえ達で、がんばれ」
その真摯な眼差しに、アスカは思わず言葉を失った。
これでは・・・・・・これでは、まるで。
「じゃあな」
加持のその後ろ姿に。
「加持、さん・・・・・・?」
アスカは一抹の不安を覚えていた。
つづく