怠惰の魔女さん(1200歳)とか弱い人間くん 作:タスマニアたけしMK1a
「こんにちは!」
「帰れ小僧」
「嫌です!」
相も変わらず木々のざわめきと鳥のさえずりしか聞こえない森の奥深くにて、1人の少年と魔女のやりとりが繰り広げられている。
少年...は魔女と初めて会った時に比べ幾らか歳を重ねている。が、やはり魔女はなんの変化も確認出来ない。やはり美しい少女のように見える
「はぁ...ほんっとうにしつこいな君は。暇なのか?こんな何も無い家に何年も通って」
「楽しいですよ、色んなものが見れるので」
「それにしたって限度があるだろ、こんな狭い家にあるものなんて2日で見切れる」
「そんな事ないと思います!」
「うるさ...」
正直、魔女は少年の訪問を受け入れているのも事実であった。彼女がその気になればこんな魔力も無い子供1人追い出すことなぞ造作もないはずなのに、一向にやる気配がないのがその証左と言える。...まあ、それすら面倒くさがっていると言われればそれまでだが。
「はぁ、母親はどうだい?相変わらず元気かい?」
「元気ですね、今日も凄い張り切って仕事に行きました」
少年が初めてここを訪れた際に、要らないものだからと持たせたクッキーには魔女が掛けた治療の魔法が付与されていたらしく、彼の母親は見る見るうちに元気になって行った。
少年に母の治癒を頼まれた時はそんなことをしてやる義理はないと却下した魔女であったが、最終的には少年の母親の命を救った。善行をするのが恥ずかしくて隠したのか、本当にただの気まぐれだったのかは彼女本人にしか分からない
ちなみに母親は街で八百屋をやっているらしい。
「ところで魔女さん、そちらにあるティーカップはどうしたんですか?普段はカップなんて使わないで直飲みスタイルなのに」
「あぁ...数ヵ月後に魔女集会があってね、一部の魔女はマナーにうるさいからこうして練習してるのさ」
「へー、って他にも魔女っているんですね?どれくらいいらっしゃるんですか?」
「私の知る限りでは13人、他にいたとしても数人だろうな。ま、全員私より年下の若造共だがね」
「うわ...老害じゃないですか、やめた方が良いですよ年齢マウント」
「どつき回すぞ小僧」
怒った魔女が生み出した水の激流から走って逃げ回る少年、この光景もここ数年しばしば見られる物になりつつある。
おかげで少年の反射神経と体力は飛躍的に上がった。
「...そういえばなんで魔女ってなんでそんなに少ないんですか?世界には数億人、人が居るって言われてるのに、その割に少なすぎません?魔女も元は人なんですよね?」
「あぁ...昔はそれなりにいたが、魔女の血筋の血が薄まったり、大地から溢れる魔力が減っていたりして、魔女としての才のある者が生まれにくくなったのと.....」
「と?」
「恋愛脳が増えたからではないかと思っている」
魔女の口から出た突拍子の無い推論に少年は珍しく固まってしまった。
「恋愛脳...?どういう事ですか?」
「まず少年はなぜ魔女が長生き...と言うよりほぼ不死身なのか分かるか?」
「え?...なんかこう、魔力でこうして...」
「まあ魔力云々は当たりだな。正確に言うならば、我々魔女に力を授ける精霊によるモノだ。そも彼らは概念的な存在であるが為、寿命というものが存在しない、神に近い生き物だからな。そんな幾千年に渡り大地を漂う彼らにとって、自分と波長と合う人間なぞ超超超超超超レアなんだ」
「な、なんでですか?」
突如早口になり語り出した魔女にまたもや圧倒される少年、魔女はそれを無視して続ける。
「彼ら精霊と人間とでは、存在としての次元が異なる。人間の生きる世界が、1の世界とするなら、精霊の生きる世界は2だ。互いに干渉する事の出来ない隔離された世界。そんな空間に棲む彼らにとって、自身を認識できる人間...つまりは自身と波長の合う魔力を持つ存在というものはとても希少なんだ。故に精霊は自身の精霊としての概念を一部人間に譲り、半永久的に生き長らえさせる。要するに暇潰しに人間を使ってるだけさ」
「??????」
「以前話しただろう?要するに精霊に力を認められて、権能の一部を譲って貰ってこうなるんだ」
「は、はあ」
「で、ここから本題。端的に言えば彼らは純潔を好む。恋愛脳がどうたらっていうのは、要するに世界全体が昔に比べて平和になって、戦争に駆り出されることの多かった魔女も恋をする機会が増えたんだ。...まあ、あとはなんとなく分かるだろう?君もあと少しで成人だしな」
「それってつまり、純潔を失うと魔女じゃなくなるってことですか」
「そうだ。」
「じゃあ魔女さんは1200年物の拗らせ処女ババ...コッ!?」
「叩き潰すぞクソガキ...もうやったけど」
さしもの魔女でも少年のデリカシーのなさは目に余ったのか、いつもの水魔法で制裁を加えていた。
まともに魔法を食らった少年は白目を向きながらピクピクと震えていた。
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しばらくあと
「いたた...酷いじゃ無いですか魔女さん。」
「酷いのは君のデリカシーの無さでは?先程の感覚で話してたら一生結婚出来ないぞ少年」
「いやー申し訳ない...そういえばさっき聞きそびれたんですけど」
「ん?なんだ」
「魔女さんっていつも怪しげな実験してますよね、それってなにか目標があっての事なんですか?それともただの暇つぶし?」
「.........前者だな、間違いない」
「へぇー、それってなんなんですか?」
「秘密だ」
「えぇ、いいじゃないですか教えてくださいよ。僕たちの仲でしょ」
「勝手に訪問してくるクソガキとの関係なんぞたかがしれてるわ愚か者」
取り付く島もない魔女の返答に、少し悲しげな顔をする少年。そんな少年を見て魔女は少し狼狽えたが、それでも今回ばかりは譲れないらしい
「うーん、ま、いつかは教えてくださいね。今日も暗くなってきたのでそろそろ帰ります」
「あっそ、迷うなよ」
そっけなく魔女が返す。外に出ようとする少年はなにか思い出したようで、立ち止まり、少ししてからこう言った。
「はいはい....あ、そうだそうだ。僕将来は兵士になるって決めました」
「.....ダメだ」
「え、なんで魔女さんがダメって言うんですか、ひどい」
「君みたいな軟弱者には向かんよ、大人しく農夫にでもなるといい」
「嫌ですぅ~!もう決めたんですぅ~」
「あっちょ!まてこらガキ!!!.....本当にすばしっこいなアイツは」
少年はスタコラサッサと村に戻ったらしく、辺りにはこの1000年と少し、嫌という程味わってきた静寂に包まれていた。
「そうだ...私には目標があるんだ。そのために...」
魔女は今日もまた、怪しげな研究を行っている。
私が1番綺麗だった時、貴方は小さくなって帰ってきた