……時は遡り、八神がスレを建てながら熱暴走をはじめる少し前。
教会地下電脳から脱出したセレストは、ネットワーク回線内を駆けていた。
“穴”を閉じ切る前に入り込んだ暴風に流され、本来向かう予定だった座標からはかなり逸れてしまっている。
軌道修正しようにも、一緒に流れ着いてしまったウイルスたちがいてはそれもままならない。
「チップフォルダ
外付けのチップフォルダからバトルチップデータを読み込んで展開。振り向きざまにぶっぱなし、背後から襲いかかろうとしたウイルスを吹き飛ばして距離をとる。
それを数度繰り返し、ウイルスは少しづつ数を減らしてはいるものの、しつこく追いすがるものたちがまだ残っていた。
「っ、く……!」
ついに集中が途切れたのか、散るポリゴンの奥から迫るウイルスへの反応が遅れ一撃を喰らう。
その勢いで吹き飛ばされ、電脳の壁面にぶつかり……その壁を突き破った。
想定外のことに僅かに目を見開きながらも、反射的に受け身をとって床パネルを転がるセレスト。
ここがどこなのかを確認する間もなく、追ってきたウイルスがまっすぐに襲いかかってくる。
この距離ではチップの展開は間に合わない。ハイロゥを盾に受け止めようと身構えた瞬間。
「〈ロックバスター〉!」
横から撃ち込まれたエネルギー弾が的確にウイルスを撃ち落とした。
そちらに視線を向ければ、そこに居たのはバスターを構えた青い少年型のネットナビ、ロックマンの姿。
「キミは……いや、まずはウイルスたちをどうにかしないと! 熱斗くん!」
『おう! バトルチップ〈スプレットガン〉、スロットイン!』
チップデータが展開され、換装された腕から放たれた弾丸がウイルスの群れの中心で炸裂してまとめて吹き飛んでいく。
そこから逃れられたウイルスもロックマンと共にいた仲間たちにより仕留められていき、あれだけ苦戦していたのが嘘のようにあっさりと片付いてしまった。
「……皆様、ご助力感謝致します」
頭を下げて感謝を述べる。
偶然たどり着いたここは、綾小路家にある“秘密基地”の電脳。
たまたま彼らがいてくれたおかげでウイルスたちを迅速に処理できたものの、そうでなければ大変なことになっていたかもしれないとひっそりと冷や汗をかいていたのは秘密である。
「ううん、無事でよかったよ。えっと……セレスト、だよね?」
「ええ、直接お会いするのは久方ぶりですね、ロックマン様。それに、光様も」
『熱斗、知ってるの?』
『ああ、セレストは八神さんのナビなんだよ。ほら、N1の時応援に来てくれた牧師さんの』
『あの人、ナビ持ってたのか……』
「あー! 思い出したです! ほら、N1グランプリの会場でプラグインした時、僕らを助けてくれた!」
「そ、そうでガス! 確かにあの時いたナビでガッツ!」
「ああ、覚えておられたのですね。その際はご挨拶もできず失礼致しました」
ふわり、と笑うセレストの姿に、何かが刺さる幻聴が聞こえた、気がした。
「ハワ…」
『が、ガッツマン?どうした?』
『惚れっぽいナビを持つと苦労するわねー』
「はは……」
「ぼ、ボクはAKIちゃん一筋ですから!」
『そういう問題じゃないだろ……』
「それよりも、一体何があったの? あんなにウイルスに追いかけられるなんて」
「……それは……」
ロールの疑問に、セレストはどう答えようかと少し悩む。主に八神の正体に関わる部分について。
さて、どこまで話したものかと考えていると、モニターウインドウ越しの熱斗がハッと何かに気付いたような素振りを見せる。
『もしかして、八神さんに何かあったのか?』
「……ええ、実は……教会の管理システムに、侵入者が現れまして。八神はサーバーごと外部接続を遮断して彼らを閉じこめ、その接続パスコードを私に持たせ逃がしたのですが……」
「侵入者って、一体どうして……」
「……恐らく、私たちがゴスペルのことを探っていたから……でしょうね」
『えぇっ!? ど、どうして八神さんが……いや、そんなことよりその侵入者がゴスペルの手先かもってことは、八神さんがヤバいんじゃ……!』
「そ、そうだよ、どうしよう熱斗くん!?」
慌てたようにモニターウインドウを見上げるロックマンに、どうしようって言われても……と同じく慌てている熱斗。
それを一喝したのは、この秘密基地の持ち主であるやいとだった。
『そんなの考えるまでもないでしょ! 行くわよ、全員PETに戻って! みんなは座って!』
言うが早いかやいとがグライドをプラグアウトさせる。
座って、という言葉に、熱斗たちの表情が若干引きつった。
『も、もしかしてアレで行くのか!?』
『つべこべいわない! 置いてかれたいの!?』
「え、えっと……セレストはとりあえず僕のPETに! いいよね、熱斗くん!」
『お、おう!』
「ええと……で、では、お邪魔致しますね……?」
そして綾小路家緊急発進シークエンス(車ver.)を経て、彼らと共に八神の待つ教会へと向かうのであった。
◇◇◇◇◇◇
やいと専用リムジンに揺られ……途中、通ってはならないところを通ったような気もするが気にしてはいけない。
ともかく、最短距離で秋原郊外に位置する教会へと辿り着いた光熱斗ご一行。
熱斗は真っ先に車内から飛び出し、教会の扉に手をかけ……ようとして、それが勝手に開いたことで盛大にたたらを踏む。
バランスを崩しながら教会に踏み入り顔を上げた先、扉のそばに立つ赤髪の男を認識した瞬間、ずびし!と指を指しながら盛大に叫んだ。
「あー! ヒノケン!?」
「光熱斗ォ!? 何でこんなところに!」
「それはこっちのセリフだ! ……まさか、お前がゴスペルの手先!?」
「ンなわけあるか! オレはWWW一筋だ!!!」
ぎゃいぎゃいと言い争いをはじめたオペレーターたち。それを差し置いて、ネットナビたちはローカルパブリックエリアで情報交換を行いはじめる。
「……なるほどな。ったく、しょっぱいヘマしやがって」
『それに関しては申し開きもごさいませんね……』
とりあえず落ち着いた後。かくかくしかじかと現状の説明を受けた火野は、盛大にため息を吐きつつ呆れたようにぼやいた。
「……って、ヒノケンも八神さんのこと知ってんの?」
「まあ……色々あってな」
『少なくとも八神に関連することに対しては、火野様方は味方と見て問題はありませんよ』
「ま、そういうこった」
「ふーん……それより、八神さんはどこにいるんだ? それが分からないんじゃ助けようもないよ」
何か誤魔化された気もするが、それを気にするよりも先にやるべきことがある、と熱斗は自身のPETにいるセレストに問いかける。
『八神は教会地下の管理室にいますが……そこに繋がる扉は全てロックされている上、外部接続を遮断しているのでプラグインして開けることも難しいですね』
「えぇー! それじゃどうやって助けるんだよ!」
『……電子制御されていない場所からなら、あるいは? 自然換気用のダクトであれば、出入りは可能かもしれません』
少し考える素振りを見せて、挙げられた案にそれだ、と一行は食いついた。
「よし、それで行こう! そのダクトってどこにあるんだ?」
『教会裏にある墓地ですね』
『えっ』
墓地、と聞いたロックマンの顔が引きつる。
それを気にすることなく、話のまとまった彼らは教会裏へと向かった。
ぎゃあ、と鳴くカラスが飛び立つ音に小さな悲鳴。
それをBGMに踏み込んだ教会墓地は、まだ昼間だというのに薄暗く雰囲気のある空間になっていた。
『ダクトの外蓋は、最奥にある無名の墓石です』
『な、なんで墓石なの……?』
『景観を乱さないためですね。アルミ製のダクトカバーに発泡剤などを塗布して、石材風に加工したものになっています』
「へー。つまり石より軽いってこと?」
『そうなりますね』
『そ、そういう問題じゃ……ひぇっ!』
風に揺れた葉音に肩を跳ねさせるロックマン。
場所が場所だけにビビりちらかしている彼を安心させようと、セレストはさらに言葉を重ねる。
『大丈夫ですよ。そこに遺骨は納められていませんから動かしても罰当たりにはなりません』
『あたりまえだよ!?』
残念ながら失敗したらしい。
ユーモアセンスは難しいですね……と内心で呟くセレストを連れて進む一行は、ようやく目的の墓石を見つけた。
……ツタが大量に絡みついている上、何故かガタガタと揺れているが。
「あ、アレ……だよな?」
『ええ、間違いなく。……ツタ掃除をサボったのが丸わかりですね。今度八神の尻を叩いて掃除させないと……』
「『突っ込むとこそこ!?』」
『冗談です。いえ、掃除させるのは冗談ではありませんが』
「グダグダ騒いでんじゃねぇぞ。アレを開ける必要があるならとっととやりゃいいじゃねぇか」
痺れを切らしたらしい火野がズカズカと件の墓石へと歩み寄り、絡んだツタを荒っぽくちぎりとる。
ブチブチと音を立てながら絡みついたツタが取り払われ、それが残り数本となった時。
「……!………、…の……っどらァ!!!!!!」
「ンがッ!!!!」
「うわぁっ!!?」「きゃあっ!!」
『うわあああああ!!!???』
突然、墓石が飛んだ。
躱す間もなく火野に直撃したそれがガゴン、と音を立てて転がる。
そして、墓石のあった場所からぬぅ、と手が伸びてきて……
「……え、火野? ……と、光少年!? え、何で!?」
そこから這い出てきた八神の、すっとんきょうな叫びが辺りに響いたのだった。
タイトルはほんのりアニメ風……に見えたらいいな!