………………
…………
……
「何故、何故だ! 私は“奴”とは違う、違うはずなのに……!」
リーガルが構築した電子の檻の中で、八神は崩れていく
結局、“
時空タワーを制圧し過去に存在するデューオの彗星へとアクセス、奪った13の紋章を用いてそのコントロールを掌握する。
……そして今、それを奪い返したデューオによる制裁を受けているのだ。
もしかしたら多少は対策をしていたのかもしれないが、結局はそんな些細な抵抗も無意味だったらしい。生命力を奪われ枯れていくリーガルを、八神はただ無感情に見ていた。
「お、のれ、おのれ……! ォ、オオォォオオォ……!」
ずるり、と吐き出されたリーガルが手を伸ばす。
干からびた指先が檻を掠めて、ぱたりと落ちた。
「……まあ、そう簡単に変えられるわけが無い、か」
ぱちん、と弾けるように消えた檻から出て、転がる亡骸を一瞥し顔を上げる。
その視線の先で、分解された地球が淡い光と共に散っていくのが見えた。
時空タワーでの攻防中、突如引き下がっていくリーガルとそれに引きずられていくメイルを追い、パストトンネルへと飛び込んだクロスフュージョンメンバーたち。
そうしてたどり着いたデューオの彗星の中で、彼らはその圧倒的な力の前に為す術なく倒れていく。
彼らに渡された13の紋章は消え、地球を救う手立ては失われた。
……だが、彼らの、共に支え合う“正しい人間とネットナビ”の姿を見たデューオは、その“理解できないココロの繋がり”に対して僅かな興味を持ち、それを理解するためにバレル大佐の提案に乗り彼らと融合、長い旅路の果てに“地球の抹殺”を修正する……というのが、
だが、僅かな歪みはここで大きく響いてきたようだった。
──興味深い。だが、容易くそれを受け入れるわけにはいかない。
「何故だ? 俺たちを理解するのならこれが確実なはずだ」
「理解できていないからこそ、だ」
かつり、と後ろから響く足音。
そこに立っていたのは、シスター型のナビを引き連れ、黒いカソックを翻す一人の男。
「や……八神さん!?」
「どうして……行方知れずになっていた筈では」
「……リーガルだよ。あいつに連れ込まれたんだ。……そんなことはいい。今はこちらの話だ」
頭を振って、集団の中を突っ切りデューオの前、熱斗やバレルの元へと歩み寄る八神。
……やはり、“八神”の存在がノイズになってしまったのだろう。知識を得たリーガルが余計なことを吹き込んだのかもしれない。厄介な置き土産を残していったものだ。
ならば、それを正すのは“八神”でなければならない。それが“転生者”として介入したものの責務だ。
「デューオは人間を理解できていない。……つまり、お前たちとリーガルの違いも分かっていないんだ。だから下手に融合すればまた乗っ取られるのでは、と危惧しているんだろう」
「そんな……バレルさんがそんなことするわけ……!」
「そうだろうな。だから……デューオよ。今お前の持つ情報に対し、俺は異を唱えよう。それはリーガルたちを介して間接的に得た“歪曲された情報”であると!」
デューオを見上げ、宣言する。
……勿論、それを証明する手立てなどはない。悪魔の証明を求められる前に、畳み掛けるしかない。
「だからこそ俺は、今この場で証明の機会を要請する。彼らの“正しいクロスフュージョン”の在り方を今、ここで、お前自身の目で見定めることを! ……そして彼らがそれを証明した時、お前はお前の意志を以て、人間との融合を受け入れると確約しろ!」
──……いいだろう。人間とネットナビの融合、その正しい在り方の証明を。それがただネットナビを使い潰すだけの行為では無いことを証明せよ。
そう言って、僅かに下がりそこで静かに佇むデューオ。
この場を見定める体勢に入ったことを確認して、八神はゆっくりと振り返った。
「……さて、と。交渉は成立させた。あとはお前たち次第だ……しくじるなよ?」
「しかし、証明とは……八神牧師、我々に何をさせようと言うのですか?」
「簡単なことだ。お前たち自身の手で、“間違ったクロスフュージョン”を打ち倒す。正しさを証明するにはそれが手っ取り早い」
そう言って懐から1枚のチップを取り出す八神。
そこから漏れ出る黒い気配に、ゆりこの表情が変わった。
「それは……まさか、ダークシンクロチップ!? どうして貴方がそれを……いいえ、そもそもそれはもう存在しないはず!」
「っ、八神さん!?」
「前拉致られた時に入れられたやつの残滓データだよ。どうやら自動修復機能持ちだったらしいな……まだ完全ではないが、気付いたらこうなっていた。どう処理したもんかと悩んでいたが、今はそのおかげでこうやって世界を救う足掛かりになれる。何があるか分からないものだな」
「やめなさい! それを使えば貴方たちは……!」
忠告を無視しチップを握りこんだ八神の手から、濃度を増し可視化された闇が漏れ出す。
その使用を止めようと動く彼らだが、八神の周囲に闇が渦巻き接近を許さない。
傍に侍るセレストは沈黙したまま、目を伏せて佇んでいる。
……リーガルは、八神が死を恐れていると言った。
確かに、“あの時”まではそうだった。誰も“
だが、今は。あの地球には、“八神聖司”を知るものが、“
だからこそ今、彼らのためにこの命を使うことに、なんの躊躇いもありはしない。
「……さあ、証明の時間だ。本気で地球を救いたいというのなら、お前たちの力を、絆を! その覚悟をここに示してみせろ、
ごう、と吹き上がる闇が激しさを増す。
握りこんだチップから、黒い光が放たれる。
「ダークシンクロチップ、
八神とセレストの姿が、完全に闇へと覆い尽くされる。
闇は黒い光となって、天を貫かんばかりに立ちのぼっていき──
……黒、黒、黒。
暗く重い闇の中を漂う八神は、ふと目を開く。
目の前には、同じように揺蕩う
赤と紫、ふたつの視線が重なり合う。
「……悪いな、こんなところにまで付き合わせて」
「ふふ……前にも言ったでしょう? 私は貴方の半身だと。貴方の想いは私の想い。貴方は貴方の思うままに」
目を細めるセレストに、八神もふっと笑みが零れた。
伸ばした手が、セレストの胸に刻まれたナビエンブレムに触れる。
……セレストの身体が、端から崩れ分解されていく。もうすぐ、ひとつに“還る”のだろう。
「はは……そう、か。……ありがとう、セレスト。……じゃあな」
「ええ。……さようなら、八神」
そんな軽い別れの言葉を最後に、その姿は完全に解け崩れていった。
崩れた残滓が八神を包み、ゆっくりとその中へ溶けこんでいく。
手の中に残されたナビエンブレムを胸に掻き抱いて、八神は再び目を閉じた。
……黒い光の柱が、突如砕け散る。
その中から現れたのは、鎖に繋がれた繭のような黒い球体だった。
やがて、糸が解けるように繭が開く。
外を覆っていたそれは、黒く染まった大翼だった。本来の形とは違い逆さまに生えたそれがゆっくりと広がり、その内に隠していた姿が次第に顕になっていく。
それは、セレストの外装に酷似した装甲に包まれた八神だった。
ウィンプルのバンドを模した額当ては大きく幅が広がって目元を隠し、イヤーパーツからはアンテナに代わり黒い羽が生える。
後頭部に広がるベール部分もまた黒翼へと姿を変え、闇の残滓を払うように大きく広がった。
その身に不釣合いなほどに肥大した異形の両手には光輪が嵌められ、まるで枷をかけられた罪人のよう。
下半身を覆う黒い翼もまた逆さまで、その内に繋がる鎖はおそらくは両脚に繋がっているのだろう。
背負う光輪の棘は、まるでその背を貫いているかのようで。
ダークシンクロチップにより歪められた、八神聖司とセレストのクロスフュージョン──CFセレスト・ネフィリムが、ここに降臨した。
その姿を唖然と見上げる彼らの中から飛び出す、ふたつの影。
「〈ニードルキャノン〉ッ!」
そのうちのひとつ、いつの間に姿を変えたのかCFニードルマンが、その両腕の針を乱射する。
それは直撃する前に展開された光輪の盾により打ち払われ届かない。
……その背後に、もうひとつの影が迫る。
着弾した〈ニードルキャノン〉の煙に紛れるようにその背へ回り込んだCFシャドーマンは、素早く二刀を振り上げた。
「〈ヤミウチ──むっ!?」
振り下ろされようとした刃が、突然空中で静止する。
その刀身に絡みつく光輪……〈バインドハイロゥ〉が、その動きを阻害したからだ。
動きの止まったCFシャドーマンへと腕が振るわれる。
肥大化した腕による裏拳。それだけでも十分な威力を持ちそうなそれを〈カワリミ〉で凌ぎ、仕切り直しと地へ降り立った。
「ゆりこ、ミヤビ!」
「……覚悟を決めなさい。ここで私たちが負ければ、すべて終わりよ。八神牧師の……彼の決断を無駄にしないために!」
「で、でも……」
「……やろう、熱斗くん」
「ロックマン……?」
顔を上げる熱斗。目の前に立つロックマンの目には、決意が宿っている。
「八神さんは僕たちを信じているんだ。なら僕は、それに応えたい。それに、今ならまだ間に合うかもしれない。岬刑事とプリズマンみたいに、あのふたりを救えるかもしれない!」
「! そう、だ……そうだよな、まだ助けられないって決まったわけじゃない!」
振り返った先で、炎山とブルース、ライカとサーチマンが頷いた。
1歩踏み出したバレルが、熱斗の肩をしっかりと掴む。
「熱斗くん。……未来の俺は、結末までは教えてくれなかった。だからこそ、俺たちのより良い未来を掴むために……共に戦おう」
「バレルさん……よし!」
パン!と両手のひらで頬を叩いて気合を入れる。少し強く叩きすぎたのか赤くなっているが、それはご愛嬌。
右手には
PETを持つ熱斗の手に重ねられたロックマンの手。ふたりはまっすぐに視線を合わせて、頷き合う。
「行くぞ、みんな!」
「「「応!!!」」」
号令とともに挿入されるシンクロチップ。
共鳴し重なり合うふたつのココロが、ひとつのカラダへと収束していく。
白い光が弾け、再び13の戦士が並び立つ。
彼らの見上げる先で、CFセレスト・ネフィリムはゆっくりと翼を羽ばたかせた。
『……解析ナビデータ、
広げられた手のひらの上、ふわりと浮かび上がる無数のナビエンブレム。
異形の両手が、手のひらを合わせるように躊躇いなくそれらを握り潰した。
両手の間から滴り落ちる黒い雫が地に落ち、ぐにゃりと歪む。
「え……」
「ガッツマンに、グライド……?」
「あっちには……デザートマン!?」
「お、俺たちのナビもいるぜ!?」
生み出されたのは、漆黒に染まった無数のナビたち。
見知った顔のもの、かつて敵対したもの、そして今彼らと融合しているはずのもの。
表情の見えないそれらがゆっくりと顔を上げ、見えないはずの視線が合った。
……そこからは乱戦、の一言に尽きる。
生み出される無数の影は、意思なき人形のようにただ愚直に攻撃を繰り返す……その単調さ故に御することは容易いが、その数の暴力は十分な驚異足りえるものだ。
それに、その姿もまた戦い辛さを助長する。偽物であるとわかっていても、知った顔を倒すことに躊躇いを抱くのは当然のことだった。
「んもう! なんなのよこいつら、うじゃうじゃ湧いて来ちゃって!」
「ヒュウ、キリがないなこりゃ……」
「やはり、大元を断つ必要があるな……熱斗!」
CFブルースが目の前のサンダーマンの影を切り払い、少し離れたCFロックマンへと呼びかける。
「〈スプレッドガン〉! ……なんだよ炎山!」
「このままではジリ貧だ、早いところアレを止める!」
「私も行こう! このまま道を切り開く!」
CFカーネルが右腕のガントレットサーベルを振り上げた。
神速の斬撃、〈スクリーンディバイド〉が進行方向の影たちを吹き飛ばす。
「援護する、行け!」
「アイツらの邪魔はさせねぇ! 〈ナパームボム〉!!!」
「行かせるかよッ、〈トマホークエアレイド〉ッ!!!」
開かれた道を駆ける彼らを追おうとする影は、CFサーチマンの〈スコープガン〉による援護射撃とCFナパームマン、CFトマホークマンの全力の一撃により次々と消し飛ばされていく。
それでも追いすがろうとする影の眼前を、鉄球が掠めていった。
「ここより先には行かせません!」
「通りたいならワタシたちを倒してからにするネ! でも誰も倒させはしないヨ!」
「私だって、偽物なんかに負けないんだから!」
皆の援護を受けて、彼らはようやくそこへとたどり着く。宙に浮かぶCFセレスト・ネフィリムが、3人を見下ろした。
ここまで近付いたことで彼らはようやく、広がる翼と異形化した腕のせいで大きく見えるだけで、その等身は八神と大して変わりは無いことに気付く。
手は組まれたまま、生成される光輪が降り注ぐように3人へと迫る。
緩い追尾能力を持つ……セレストのものと同質なら、この中に拘束能力を持つ〈バインドハイロゥ〉も混ざっているのだろう。それらを撃ち落としながら、CFロックマンは声をかけ続けた。
「っ……八神さん、セレスト!」
「……ダメだ、今の彼らに俺たちの声は届かない……!」
「なら、全力で叩き起すだけだ! 〈ネオバリアブル〉!」
眩い光彩を放つ幅広の剣を携え、CFブルースが跳ぶ。
目にも留まらぬ連撃と〈ソニックブーム〉を交えたラッシュに展開される光輪の盾が次々と割られ、すり抜けた斬撃が組まれたままの腕を打ち据えた。
『ッ……』
思わず、と言った様子で息を詰め、腕を振り払い距離をとるCFセレスト・ネフィリム。
組まれた手が解かれたことで雫の流出が止まり、影の増殖が止まる。
再度召喚に移ろうとしても、それは〈チャージショット〉と〈カーネルキャノン〉に阻止されて叶わない。
ならばと両腕を振るい、光輪を操る方向へとシフト。
その制御が加わったことで速度の増した光輪を叩き斬りながら、CFブルースが地に降りた。
「やはり、反応はある……ならばまだ間に合うはずだ!」
「そうだ、絶対に助ける……! あの時みたいにシンクロチップを壊せば、何とかできるはず!」
見上げるCFセレスト・ネフィリムの胸に光るナビエンブレム。
ネットナビにとっては中核部分であり、クロスフュージョン体であればPETが収められた、最も重要な器官と言えるそれ。
熱斗自身にも経験がある。その場所を打ち砕けば、クロスフュージョンは解除され八神とセレストは開放されるはず。
……その狙いに気付いたのか、CFセレスト・ネフィリムが身を守ろうと翼を閉じる。
ならば、その防御を抜けるだけの火力をぶつけてやればいいだけだ。
「いくぞ、炎山!」
「ああ! バトルチップ〈ソード〉、〈ワイドソード〉、〈ロングソード〉、スロットイン!」
「バトルチップ〈メガキャノン〉、トリプルスロットイン!」
「「プログラムアドバンス!!!」」
CFブルースの手の内で、3種の剣が収束しひと振りの光剣へと練り上げられる。
CFロックマンの両腕を包むように、大口径の砲塔が構築されていく。
「〈ドリームソード〉ッ!!!」 「〈ギガキャノン〉ッ!!!」
放たれる極太の砲撃が、閉じた翼を弾き上げる。
その隙間をこじ開けるように振るわれた光剣が、最後の防壁を斬り開いた。
晒されるナビエンブレム。……だが、そこまでだ。
彼らが放った一撃には、その威力相応の
このままでは彼らが次の一撃を放つよりも早く、再び防御態勢を整えられてしまうだろう。
足りなかった……!と、2人の少年の顔が歪んだ。
は、と何かに気付いたかのようにCFセレスト・ネフィリムが顔を上げる。
視線の先に舞うCFカーネルがマントを掴み、投げ捨てた。
ばさりと広がり視界を塞ぐそれの向こうから、一条の光が迫る。
「はあぁっ! 〈アスパイア……ブレイク〉ッ!!!」
その切っ先は、寸分の狂いもなくナビエンブレムを、その十字架の中心を刺し貫いた。
……その瞬間。
ふ、と、CFセレスト・ネフィリムの……八神の口角が、僅かに上がっていたように、見えた。
強制CFかと思った?自分の意志だよ!でも大元の原因はリーガル。
▽八神の死ねなかった理由
“
だが、今はもうオリジナルの顛末を知るものがおり、別の個として受け入れられたことで八神は“自身の生”を生きようとしている。
……つまり今現在は、世界のため自身を犠牲にすることになんの躊躇いも無い状態である。
▼CFセレスト・ネフィリム
八神聖司とセレストがダークシンクロチップにより
チップに含まれるダークオーラの影響により身体の一部が異形化しており、複数の黒い逆翼を生やし、その身を戒めるように光輪と鎖に繋がれた姿をしている。
ネフィリムとは、
“間違った”
グリゴリは堕天し、4大天使に捕らえられ征伐された。
捕らえられた堕天使たちは地の底へと封じられたが、その内の指導者とされるものは、ひとり天と地の狭間に吊るされているという。
次回、(たぶん)Stream編最終回