「……なるほど、ゾアノロイドに襲われて子供たちとはぐれてしまったと……」
「はい……かれらには優秀なナビたちがついてはいますが、見知らぬ土地に飛ばされてしまったことには変わりないですし……早く合流しなければ、と思って」
「それで貴方が死にかけていたら本末転倒というものでは?」
「いやまったく、ごもっともで……」
自己紹介のあと、かくかくしかじかと大まかな事情説明を行い……さすがに信じられるとは思わないので
PETの3Dモニターに表示した顔写真で確認してもらうが、ふたりとも見覚えはないようだった。
ここは避難民が集まり一時的な集落を形成している場所らしい。
その中にもしかしたら知っているものがいるかもしれないから、と部屋を飛び出していった麻波を見送って、八神はこっそりと視線を向ける。
……じとり、とこちらをねめつける目。
パイプ椅子にどっかりと足を組んで座ったまま無言でこちらを見てくる火野に、八神は内心で頭を抱えていた。
本当にこれに関しては心当たりがない。どうしたものかとPETへ視線を向けるが、ヒートマンも首を振るばかりで。
少しピリついた空気の中、手持ち無沙汰に中身の減ったボトルを弄んでいた時だった。
「……お前、そのナビをどこで手に入れた」
突然、低く唸るような声で火野が口を開いた。
顔を上げた八神を睨んだまま、言葉は続く。
「そいつは、ヒートマンはオレの……オレが持ってたナビだ。あの時、オレの目の前でデリートされた……なのに、なんでお前が連れている」
「!」
八神が目を見開いた。
ビヨンダードにもヒートマンがいたという事実に、八神はようやくこの視線の理由を察する。失われた自分のナビをまったく知らない人間が引き連れていたら、そりゃあ警戒もするというものだ。
しかし、そうなるとこれは、詳細を隠したのは悪手だったかもしれない。いや初手で出すには難しい内容だったので仕方ないのだが……
「あー……どうしよ」
『洗いざらい吐くしかないんじゃねぇか、コレ』
「だよなぁ……えー……」
こそこそとヒートマンに相談するが、ド正論でばっさりと切り捨てられる。
今度こそ実際に頭を抱えながら、どこから説明したものかと八神は思考を巡らせるのだった。
「……あー……と、ですね……貴方は、ビヨンダードという概念を知っていますか?」
「……研究所にいた頃、論文を見たことがある。どこぞの研究者が提唱した“こことは異なる平行世界の概念”……だったか? ……まさか」
「そのまさか、ですね。私や子供たちはそのビヨンダードから来た……厳密には、巻き込まれて飛ばされてきたものたち、です」
それを聞いて、今度は火野が頭を抱える番だった。
怪しい相手からの「異世界から来ました」発言。頭がおかしいんじゃないのか、と突っぱねようにも彼の横に浮かぶナビの存在がその言葉の真実みを補強してしまっている。
その様子を若干憐れみ……そりゃ急に言われても混乱するよなぁ、という顔で見ながら、八神は自身のPETを手にとった。
「……少し前、こちらの世界に突如電脳獣が現れました。それ以降、こちらへの侵攻を目的としたゾアノロイドを名乗るナビからの襲撃が散発し……つい先日、グレイガ軍のゾアノダークマンからの襲撃時、空間の亀裂……フォッサアンビエンスが発生。それに巻き込まれる形で我々はこちらへと来ました」
PET内のデータから電脳獣襲撃時の映像や、現れたゾアノロイドたちの画像……ゾアノフレイムマンを見た瞬間、火野の表情が僅かに変わったように見えたが……を3Dモニターに表示しながら八神は淡々と説明を続けていく。下手をするとあちらの火野と同じ対応をしてしまいそうになるので。
……そうしてひと通りの説明を終えた八神がひとつ息を吐いてPETの3Dモニターを消し、頭を抱えたままの火野の様子を伺うように声をかける。
「……えーと、大丈夫……ですか?」
「おう……つまり、そのヒートマンは“
「ええ。このヒートマンはあちらの火野……氏から、私が借り受けている状態になります。このPETとナビのエンブレムが異なっているのはそのせいですね」
そうか、と呟いたきり、俯いて黙り込んでしまう火野。
時間にして数十秒程度そのまま固まったのち、ゆっくりとその顔を上げた。
「……最後に、ひとつ聞かせてくれ。……そっちのオレと、お前は……どういう関係なんだ」
そう問われ、視線だけでヒートマンを見る八神。
視線を受けたヒートマンは、ひとつ息を吐くような動作を見せてPETへと消えてしまう。
さてどう答えようかと八神は天を仰いで……思い浮かんだ言葉に口角を上げたまま、火野へと向き直りこう答えた。
「……そう、ですね……一言で言うなら……“悪友”、ですかね?」
「……ハッ、そうかよ……」
互いの……概ね一方的な思い違いが解け、少しだけ緩んだ空気を切り裂くように、突如甲高い鐘の音が鳴り響く。
警鐘だ、と八神が気付くより早く表情を引き締めた火野が立ち上がり、廊下の先からバタバタと足音が近付いてくるのが聞こえた。
「ヒノケンくん!」
ばん、と飛び込んできた麻波の顔も険しいもので。明らかな緊急事態の気配に、場の空気が張り詰めていく。
「獣化ウイルスの群れがこちらへ迫ってきている。私と舟子くんは迎撃に向かうから、ヒノケンくんは彼を連れて皆の避難誘導を頼む! では!」
「了解ッス! おい、行くぞ」
「あ、ああ……」
必要事項だけを言い残し再度飛び出していった麻波を追うように、火野も部屋の外へと向かう。
呼ばれるまま立ち上がった八神も、僅かな目眩に眉根を寄せながらそのあとを追いかけていくのだった。
建物の外へ出た彼らは、集落を駆け回りながら住人たちに安全な場所へ向かうよう指示を出す。
そうやってひと通り集落内を巡り終わり、残っている人間が居ないかを確認している時だ。
「ヒノケンせんせー!!!」
「なっ……!? お前らまだ避難して、ヴッ」
振り返った先に居たのは、わあわあと騒ぎながらこちらへと駆けてくる子供たち。
どす、と火野の腹に飛び込んだひとりが泣きそうな顔を上げる。
「だ、だってしゅーこせんせーが……」
「たいへんなんだよ! ゾアノロイドがウイルスと逆の方から!」
「火がぶわーって! アクアマンとガスバーナーみたいな赤いやつが戦ってて!」
口々に騒ぎ立てる子供たちの声に耳を傾けていた火野の顔色が変わる。
そっと肩を押し引き剥がした子供たちと目線を合わせながら、確認するように口を開いた。
「……そのゾアノロイド、今どこに居る?」
「え、えっと……あっちの方……」
指差した先では、僅かに黒い煙が上がっている。
そうか、と呟いて立ち上がった火野の視線はそちらへ固定されたまま。
「お前ら、自分で避難場所まで行けるな! オレは舟子センセーの方を見てくる!」
「あ、え?」
「ヒノケンせんせー!?」
それだけ言い残し走り出す火野。
突然のことにどうしよう、と狼狽える子供たちに、八神はそっと声をかける。
「きみ達は、避難場所へ向かってください。私が彼を追いますから」
「え、でも……」
「それに、きみ達が彼を追いかけて、危ない目にあってしまう方が、彼も困るでしょう?」
「う……確かに、ヒノケンせんせー怒ると怖いし……」
「そうだな……」
「おじさん、ヒノケンせんせーを頼むな!」
言うが早いか駆け出した子供たちを見送って、八神は火野の向かった方へと向き直った。
……ひっそりと「おじさん」呼びにショックを受けつつも、不調を訴える身体をねじ伏せながら走り出す。
「……どう、思う?」
『……“ヒノケン”があんな顔する
隣に現れたヒートマンの言葉にそうだな、とだけ答えて、八神は可能な限り足を速めた。
集落の外周では、バリケードが音を立てて燃えている。
獣化ウイルスの足止め用に設置されていたそれらは、ウイルスよりも強力なゾアノロイドを前にその役割を果たすこともできず脆くも崩れ去っていく。
ごう、と無数の火柱が村へと迫る。
その前に立ち塞がった青いジャージの少女とちいさな青いナビは、その炎に引くことなく立ち向かわんと声を張った。
「ッ……お願い、アクアマン!」
「ぴゅるるーーーっ! 〈スイドウカン〉っぴゅ!」
掛け声と共にどこからともなく現れたポップな配管から、ドパン!とその見た目にそぐわない勢いで吐き出される大量の水。
壁のように迫る火柱と放水が正面からぶつかり合い、やがてそれらが相殺エフェクトへ変化し消えていく。
それを何度繰り返しただろうか、舟子は手にしたPETをぐ、と強く持ち直す。
集落の反対側から迫る獣化ウイルス達を相手取っている麻波先生は大丈夫だろうか、アクアマンのHPは、村の人たちはちゃんと避難できただろうか、それから、それから……
ぐるぐると頭を過ぎる不安を振り払うように頭を振って、まっすぐに相手を見据える。
今度はこちらの番、とアクアマンへ指示を出そうとした目の前に割り込んできた赤に、舟子は思わず声を上げた。
「ひ、ヒノケン先生っ!?」
「おい! オレだ、ヒノケンだ! 分かるか!? 」
慌てて手を引く舟子へは目もくれず、火野はただ目の前に立つゾアノロイドだけを見つめ声を張り上げる。
「思い出せ、オレを、オレたちを……目を覚ませ、ファイアマンッ!!!」
その視線の先で、ただ無感情に頭部のガストーチから炎を揺らすファイアマン。
その胸に刻まれたナビエンブレムは燃え上がる炎ではなく、
狂炎と共演。なんちって。
当作でビヨンダードのヒノケンさんちはグレイガ堕ちのフレイムマン、ファルザー堕ちのファイアマン、中立のまま死んだヒートマンという地獄の様相でお送りします。これがヒノ虐。
しれっと先生呼びなのは避難所の有志が子供たちに勉強を教えているから(入れるタイミングがなかった)。
あとしゅーねーちゃんもアクアマンも護るべきものがあるので元よりしっかり者になっているという裏設定。