Switch2~~~~~(買えてない)
八神がようやく駆けつけた時には、そこは既に戦場だった。
各所から火の手が上がり、周囲は熱気に包まれている。
ちいさな青いナビ……
『……やっぱファイアマンかよ』
「当たってほしくはなかったがな……っ、火野!」
地面に座り込んだ火野を見つけ、そこへ駆け寄る八神。
力無く項垂れたまま動く様子のないその肩を掴み顔を上げさせれば、ひどく弱々しい目が八神を見上げた。
「火野……ここは危険です、一度離れて……」
「……あいつは、ファイアマンは、オレのナビなんだ……なのに、あいつは、オレのこと忘れて……もう、完全に……」
ぶつぶつとうわ言のように呟いて、その視線がゾアノファイアマンの方へと向く。
「……止めねぇ、と……オレが……オレはあいつの、オペレーターなんだ……」
よろよろと立ち上がり、歩き出す。
その先で、ゾアノファイアマンの狂爪をもろに喰らったアクアマンが吹き飛ばされ、ジジ、とその姿がブレる。
「も……もうだめ、っぴゅ……」
「アクアマン!」
シュン、とその小さな姿が消え、舟子の持つPETへと帰っていく。デリートこそ免れたようだが、もう戦うことはできないだろう。
戦う力を失った彼女に、ゾアノファイアマンが迫る。ざり、と地を踏みしめる音がいやに響いた。
「ファイアマンッ!」
ぴたりと足が止まる。
獲物を狙うような視線を受けながら、火野はそれでも一歩踏み出した。
「もうやめろ、ファイアマン! もうこれ以上、電脳獣なんかに使われてんじゃねぇ!」
「黙れ! 人間風情が……貴様から焼いてやろうか!」
まっすぐに向けられるアーム。チリチリと漏れ出る炎が今にも吐き出されんとする中で、火野は逃げることなく正面からゾアノファイアマンを見据えている。
ヒノケン先生、と舟子が悲鳴にも似た声を上げた。
その光景を前にして、八神は。
「……仕組みとしては現実に重なった電脳に対してプラグインしているようなもの。あっちのPET自体に特殊な仕様はない……なら、このPETでもいけるはずだ」
『おい? 何を……』
視線の先で、〈ファイアアーム〉から容赦なく放たれる炎が火野へと迫っている。
懐から自身のPETを掴み取り、迷いなく構えた八神がプラグインボタンを押す。
「ヒートマン.exe……トランスミッション!」
ピィッ、とプラグイン時特有の赤外線レーザーが放たれ、炎と火野の間へと割り込み……実体化したヒートマンの放つ火柱が、正面から火炎放射を受け止めた。
ごう、と炎同士が混ざり合い、一瞬大きく噴き上がって爆ぜるように打ち消し合う。
舞い散る火の粉越しに、二体のナビが睨み合った。
「よし、成功だな」
「成功だな、じゃねぇよ無茶振りしやがって!」
ぎゃん、と吠えたヒートマンをまあまあと宥めながら、八神は火野の横に並び立つ。
突然のことに呆けたままの火野をちらりと見上げて、改めて正面へと視線を向けた。
現れた乱入者に対し、警戒し威嚇するように翼パーツを広げるゾアノファイアマン。
グルル、と唸り声を上げながらこちらの出方を伺っているその様子は、野生の獣そのものだった。
刹那、飛び出したふたつの
ガッ、ガキン! と何度か打ち合い、弾かれるように距離が離れた。
「バトルチップ〈メガブーメラン〉、〈マシンガン〉スロットイン!」
送られてきたチップデータを両腕に展開し、ヒートマンが一気に攻めかかる。
弧を描くブーメランに誘導され、逃げた先へは無数の弾丸がばら撒かれる……だが、ゾアノファイアマンは元のナビには存在しない飛行能力で三次元的な回避力を見せつけてきた。
〈マシンガン〉の弾をバレルロールで回避し、空からヒートマンを睥睨する。このまま空中戦に持ち込めば勝てるとでも考えたのだろうか。
……その考えは、すぐに覆されることとなる。
「飛べんのがテメェだけだと思うなよ!」
「!」
ぶわりと炎を纏い飛び出すヒートマン。
元々備え付けられたフロート機能と炎の噴出による擬似的な飛翔は荒削りだが、相手の意表をつくには十分だったらしい。ゾアノファイアマンがぎょっと目を見開き、その動きが一瞬止まる。
その隙を見逃すほど八神も甘くは無い。素早く掴み取ったチップを3枚、連続してPETへ挿入した。
「バトルチップ〈ファイアパンチ〉、トリプルスロットイン! ……プログラムアドバンス!」
「オラァアッ! 〈フレイムフック〉!!!」
「グッ……ガアァッ!?」
炎を纏った拳が光り輝き、硬度と威力を増したワンツーパンチがゾアノファイアマンを叩き落とす。
地に叩きつけられ、それでもまだ戦意を失わず起き上がろうとするその姿に、ヒートマンは警戒を解かず八神の前へと立ち塞がった。
「グゥ、ルルル……!」
「舟子くん、ヒノケンくん!!!」
再び始まる睨み合いを打ち破るように、駆けつけてきた麻波の声が響く。
その横を併走するように駆けるナビがこちらを視認した瞬間一気に加速し、ガシャンと胸部の排熱口を開いた。
「クォォォッ! 〈ブラストハリケーン〉ッ!」
ゴウッと勢いよく吐き出された炎混じりの嵐が迫る中、咄嗟に翼を広げ空へと逃れたゾアノファイアマンがこちらを見下ろす。
……2対1は不利と悟ったか、舌打ちのような音を立て飛び去ろうと踵を返した。
「くっ……ブラストマン!」
「ハァッ! ……無理だ麻波、遠すぎる!」
放たれた
同じようにゾアノファイアマンを見上げていた顔がこちらを向き……覚悟を決めたような顔で、ひとつ、頷いた。
「そうか……バトルチップ、〈ダブルポイント〉……〈トレインアロー〉、スロットイン」
送信されたチップデータを確認して、ヒートマンがひとつ舌打ちを漏らしそれを展開する。
「チッ……炎ナビに、水チップ使わせんじゃねぇよ……!」
ぎしり、と〈ダブルポイント〉により動作の重くなった身体を無理やり動かして、換装された腕を向ける。
弓越しに見えるその姿に僅かに目を細めて……ヒートマンは、そのトリガーを引いた。
ぽつり、ぽつりと落ちる雫。
いつの間にか降り出した雨が、燃え残った家屋を濡らし残り火を消していく。
それは撃ち落とされ、半ばデータ分解の始まったゾアノファイアマンにも例外なく降り注いでいた。
「……ファイアマン」
それを見下ろすように立つ火野が、ちいさくその名を呼ぶ。
……獣化因子に侵されたナビを、元に戻す手段は存在しない。
だからこそ火野は“この結末”を許容した。これ以上奴らに使われるぐらいならば、このまま解放してやりたいと望んだからだ。
それでも、やはり自身のナビを見送る喪失感に慣れることはない。今までも、きっとこれからも。
ギリ、と歯噛みする火野の耳に、微かな声が届く。
「……ヒ、ノケ……様……」
「っ……!」
「ヒノケン、様……も、しわけ……あり、ま、せ…………貴方、は、どうか……息災……で……」
キュル、と分解されたデータが集束し、ゾアノロイド特有のデリートエフェクトを残し消失する。
伸ばし損ねた手を強く握りしめて、火野はその場へ膝を付いた。
その背にかける言葉はない。しばらくひとりにしてやろう、と各々やるべき事を成すためにその場を離れていた。
最後まで残っていた八神もまた、宙へ解けていくデータ残滓を見送り踵を返す。
……雨はまだ、止みそうにない。
翌日。砂漠には珍しい雨は一晩中降り続き、炎の気配をすっかり洗い流していた。
集落に残る襲撃の痕こそ生々しいが、幸い人的被害はなく人々は復興作業に精を出している。
その光景の裏で、八神は出立準備を整えていた。
譲り受けた旅道具と食糧を詰めた背嚢を背負い、見送りに立つ麻波と舟子へと振り返る。
「色々と、お世話になりました」
「もう行ってしまうのか。少しぐらいゆっくりしてもいいと思うのだが」
「そうですよ。昨日の今日で、まだ疲れてるでしょうし……」
「お気遣い感謝します。ですが、子供たちのことも心配ですし……かれらが危険な目にあっているかもしれない中、私だけのうのうと安全圏にいるわけにもいきませんから」
ううむ、と唸る麻波。結局この周辺で彼らの目撃情報がなかった以上、八神が子供たちを探しに出るのを引き留める理由はここにはない。
仕方ないかとひとつ息を吐いて、麻波はひとつの方向を指し示した。
「このまま南の方へ向かえば海沿いの街に出る。そこは定期船の航路になっていて人の往来も多いそうだから、きっと何かしらの情報が集まることだろう。もしかしたら君の探すものたちもそこにいるかもしれないからな、行ってみる価値はあると思う」
「なるほど……重ね重ね、ありがとうございます」
「なに、君にはこの村を守ってもらった恩義もある。お互い様というやつだ!」
「……そうですね」
ふ、と笑い、外へ向けて歩き出す八神。
振り返った先で手を振る麻波たちへひとつ頭を下げて、八神は声を張り上げた。
「皆さん、どうかお元気で!」
「ああ、そちらこそ! 子供たちが見つかることを祈っているぞ!」
村から少し離れた、岩塊地帯。
村と砂漠との境目であり、八神が拾われたその場所を通り抜けようと進む彼の視界に、ふと赤が入り込む。
岩壁に背を預け、腕を組んだ男……火野が、伏せていた目を開け視線を向ける。
「……行くのか」
「……まあ、長居する理由もありませんから」
「そうかよ」
そう言って、ゆっくりとこちらへ向かってくる火野。
数歩離れた先で足を止めて、じ、と八神を見る目がふっと逸らされた。
「あー……その、ありがとよ。あいつを……止めてくれて」
「ッ……そんな、礼を言われることじゃ」
「いいんだよ。獣化因子に侵されたナビは、そうする以外に手がねぇんだ」
ぐ、と言葉を詰めた八神に力無く笑いながら、火野がひとつ息を吐く。
「……ファイアマンも、フレイムマンも、連中の手から逃れられたんだ。オレには、それだけで十分だからな」
そこから一言二言言葉を交わし、その別れ際。
ふと思い出したように八神が問う。
「……貴方は、これからどうするのですか?」
「あぁ……もう、心残りはねぇんだよな。……でも、なぁ……」
ハハ、と苦笑するように頭を搔いた火野が顔を上げる。
「“生きろ”って、言われちまったからな。ったく、どいつもこいつも、テメェの死に際だってのにオレの事ばっか気にしやがる」
「フフッ、愛されてる証拠では?」
「かもな。……こういうのも、オペレーター冥利に尽きる、って言うのかね」
ふ、と少し寂しげな表情を見せる火野に気付かなかったふりをして、八神は改めて向き直った。
「……では、そろそろ私は行きます。……どうかお元気で、ヒノケン先生?」
「ククッ、アンタに先生って言われんのはむず痒いな。……そっちこそ、ヒートマンをよろしく頼む……ってのは、
一瞬の間。
どちらからともなく噴き出し笑いながら、差し出した手を握り合う。
歩み出した黒い背をしばらく見送った火野もまた、今自身のあるべき場所へと歩みを進めた。
失われたものは戻ってくることは無い。
だがそれでも、遺された想いはその胸で燃え続ける。
その焱を宿したまま、彼はこの世界を生きていく。
これが牧師さんの「ビヨンダード2」回ってコト……主人公がどっちかわからん?そうかも……()
思ったより長くなってしまった。ここから本編に合流していきます。たぶん。
しれっと牧師さんの初PAです。ここで?
セレストでPAできなかったのはナビ本体のチップ読み込み機能を弄っていたせいなんですね。つまり別のナビでなら(タイミングさえ合わせられるなら)PAできるということ……