早朝、アイリスの導きのもとディメンショナルエリア研究所へと旅立った一行。
鬱蒼と茂る森を抜け、峠の上で一時休息をとっている時だった。
ザザ、とノイズ混じりの声が熱斗のPETから漏れる。
「……パパ!? パパ!」
「光博士か!?」
雑音まみれで聴き取りにくいが、確かにその声は元の世界にいるはずの光博士のものだ。
熱斗が必死に呼びかけるが、どうやらあちら側ではこちらの声を受け取れていないらしい。やがて聞こえていた声もノイズに呑まれ、ぷつりと途切れてしまった。
「……あちら側でも、こちらと連絡を取ろうと手を尽くしているのだろう」
「うん……ちょっとでもパパの声が聞けただけでもよかったよ」
「そうだな……光少年、ちょっと今の通信ログ貰ってもいいか? 接続アドレスからあっちと繋がりやすい周波数帯が算出できるかもしれん」
わかった、と差し出されたPETにタッチペンで触れ、データリンクを行い受信ログを写し取る。
3Dモニターを開きデータの解析を行うためペンを走らせながら、八神はひっそりと別の事に考えを巡らせていた。
「(やっぱり、技術レベルではどちらもそれほど差はないはず。それなのにこっち……特にゾアノ連中のビヨンダードへの解像度といい異世界への接続技術といい、そっち方面に発達しすぎてる気がする。……まるで、“
確かに“ビヨンダード”という概念自体は自分たちの世界にもあった。しかしそれはあくまで仮説であり、その存在に関しては確証は得られていなかったはずだ。
それなのに電脳獣が率いる両軍は当たり前のようにこちらの世界の存在を認知し、侵攻のために少なくない軍勢を送ってきている。その存在に確証がなければまず行わないだろう暴挙……連中はどうやってこちらの世界が確実に存在していることを知ったのだろうか。
そんな微かな違和感に内心で首を傾げながら、八神は出発を促す声に作業を中断して立ち上がった。
峠を越え砂漠へと入り、もう少しで研究所へたどり着けるかというところでの突然の襲撃。
トリルを狙うゾアノヤマトマンと大量のゾアノ兵に囲まれ、進むにも引くにもこの包囲を突破しなければならない。
「バトルチップ〈エアレイド〉〈バーンスクエア〉、スロットイン! ライカ殿、雑魚散らしは俺たちがする。そちらはロックマンの支援を!」
「了解、サーチマン!」
チップをPETに送り込む。現れたゼロプレーンが空から弾丸をばら撒き、炎を纏ったヒートマンがゾアノ兵の群れへと飛びこんでいくのを横目に八神が指示を飛ばす。
数の多いゾアノ兵を相手取るなら範囲攻撃の多いヒートマンの方が適任だ。故にサーチマンをゾアノヤマトマンに苦戦するロックマンの方へ向かわせ、八神はゾアノ兵へと向き合った。
ゾアノ兵の掲げるエンブレムは
「ディンゴ少年、極力広範囲に攻撃できるチップを選べ! バトルチップ〈スプレッドガン〉、スロットイン!」
「おう! バトルチップ〈ブーメラン〉、スロットイン!」
広域に広がる弾丸が群れの中心めがけて撃ち込まれ、そこから何とか逃れたものは外周を旋回するように飛ぶブーメランが薙ぎ払っていく。
続けざまにヒートマンの〈ヒートウェーブ〉が地を走り、運良く熱波を凌ぎきったゾアノ兵へ叩き込まれる〈トマホークスイング〉。
思った通り、このゾアノ兵は通常のゾアノロイドよりもかなり弱い。見た目通りの量産型、ということだろう。
……しかし、とにかく敵の数が多い。以前遭遇したビデオマンの複製ウイルスのように無限供給というわけではないだろうが、それでもウイルスよりは耐久があるせいで相対的に同じぐらいの労力を強いられている。はっきり言ってめんどくさい。
それに、いくら広域をカバーできると言っても限界はある。砂漠のど真ん中、全方位遮蔽物のない環境なのも良くない。
それ故にフリーとなったゾアノ兵のバスターが、無防備なオペレーターに向けられるのも仕方の無いことだった。
「っ……アイリス!」
狙われた熱斗を庇い、アイリスが凶弾に倒れる。一瞬そちらへ気を取られたロックマンがゾアノヤマトマンに打ち据えられ倒れ伏した。
それにより傾きかけた戦況はしかし、合流した炎山とメイルの助力と獣化したロックマンの力によりゾアノヤマトマンを退けたことで一気に終息へと向かっていく。
熱斗の腕の中でコピーロイド……アイリスだったものが電子パーティクル化し消えていった。
皆が驚き衝撃を受ける中、それが流れる先を視線で追った八神はふむ、とひとつ呟いて熱斗の肩を叩く。
「あのコピーロイドが“向かった先”は俺たちの目的地と同じだった。おそらく、そこで全てわかるんだろう……立てるか?」
「八神さん……うん、大丈夫。行こう、みんな!」
襲撃を退けた後、再会を喜ぶ暇もなく砂漠を進む一行はやがて現れた建造物……周囲をパラボラアンテナ状のものに囲まれた研究施設へとたどり着いた。
周りに建つアンテナはよく見ればディメンショナルエリアの発生装置に似ている。どうやらここがディメンショナルエリア研究所で間違いないようだ。
しかし、その建物はひどく損壊しており人の気配がない廃墟と化していた。見る限りでは経年劣化による風化ではなく、ここ最近壊されたような風体だ。
内部もひどく荒れていて、そこここに瓦礫が転がっている。電気系統も反応がなく、照明のつかない屋内をPETのライト機能で照らしながら彼らは内部の探索を始めた。
目に付いた設備機材へ近付きいくらかの操作を試みる八神だが、さっぱり反応がない事に首を振りながら皆の方へと振り返る。
「……駄目だな。この辺の機材はほぼほぼ死んでる。奥の方に行けば壊されてないのもあるかもしれんが……」
「いったい、アイリスはオレたちに何を伝えたかったんだろう……」
「……あれ? ねえ、トリルがいないわ」
ふと気が付けば、先程まで足元をちょろちょろとうろついていたトリルの姿が見えなくなっていた。
慌てて周囲を見回し声をかける。……遠くから、楽しそうな笑い声が響いてきた。
『あっちの……突き当たりの部屋だ!』
声を頼りに進んだ先にあったのは、部屋の大部分を占めるポッド状の機材。
その裏に潜り込み遊んでいたトリル曰く、このポッドがトリルの生まれた場所……ネットナビの構築育成システムのようなものだったようだ。
【──ようこそ、ビヨンダードの諸君】
突然施設内のスピーカーから発せられた声に、弾かれるように顔を上げる。
その声と同時に周囲の機械が息を吹き返したかのごとく動き出し、壁面モニターと天井の照明が次々と点灯し始めた。
「誰だ!?」
「電気が……さっきまで何も反応なかったはず……供給が絞られてたのか?」
「っていうか、誰もいないんじゃなかったのかよ?」
にわかにざわつく一行の足元にピコン、と音を立てて表示される矢印。それは部屋の外、廊下の先にまで続いている。
「……ついてこい、という事か」
「行くしかなさそうだな……」
床に表示される矢印をたどり、行き着いたのはこの研究所のメインルームのようだった。
直接的な破壊は免れたらしい室内はしかし、衝撃により天井の一部が崩落しておりメインモニターも外れて傾いてしまっている。
相変わらず人の気配のないそこで、彼らはメインモニターに映されたひとつの映像を目の当たりにする。
──それは、とある日に行われたディメンショナルエリア実験の記録のようだった。
研究主任であろう男……
研究所を襲う大量のウイルス。暴走するディメンショナルジェネレーター。
そうして展開されたディメンショナルエリアが世界を覆うと同時に、無理やり重ねられた電脳空間と現実空間との差異により歪みが引き起こされたことで各地でそれを起因とした天変地異が頻発する……
【私の意志を継ぐものたちが行ったディメンショナルエリア実験は失敗に終わった。……ある科学者の妨害によって】
ヴン、とホログラムシステムが起動し、その中心に一人の老人の姿が映される。
白髪に豊かなヒゲを蓄えたその老人は、自身を“光正、その思考と記録のすべてを移植した人造頭脳”と名乗り、アイリスを通じて一行をここへと招いた理由を語り始めた。
……人間の思考を元にした人造頭脳、という単語にふっと八神の頭を過ぎる嫌な予感。
かつて似たようなことを考え、その研究をしていたものがどこかにいたような……?
そんなことを考える八神を置いて、彼らの話は進んでいく。
……そして、八神のその予感は最悪の形で的中していた。
「……それで、ディメンショナルエリア実験を妨害したある科学者とは?」
【……私の親友であり終生のライバル、Dr.ワイリー。……そしてもう一人。君達よりずっと前にビヨンダードよりこの世界を訪れ、その知を以て我々の征く道を舗装したもの……八神和正だ】
「………………………は?」
今明かされる衝撃の真実ゥ!!!
フラグは回収されるものだって偉い人も言っていたので……ネッ!!!
ちなみに時系列的には八神父転移して色々やらかし→Dエリア事故、戦争開幕(この時点で八神父はいない)→カーネルから感情データ摘出(≒アイリス誕生)なのでアイリスと八神父に直接の面識はないんですが、アイリスは色々と記録を見た上で“すべては八神父が起因”と認識したがゆえの牧師さんへの警戒でした。つまり圧倒的とばっちりである。