光正博士の話を聞き終えた子供たちの横で、八神はひとり頭を抱えて唸っていた。
四年前、突然姿をくらまして消息不明になった
そして当時まだ友人同士であったふたりの間に何故か妙に強いコミュ力で入り込み、自身の研究知識を分け与え研究者として道を示したという。そうして自然に誘導を重ねられた結果気付けば光正博士とDr.ワイリーはライバルとして対立し、最終的にこの獣化因子騒動へ繋がった……と。
どうせあのクソ親父のことなので「その方が面白いデータが取れそうだから」とか「天才同士がぶつかり合えばその分素晴らしい()研究が進む」とかそんな理由でやらかしたのだろう。本当にあのクソ親父はクソ親父。
まあ、それはいい。いや全くもって何も良くないが話が進まないのでちょっと横に置いておいて。
今一番八神の頭を悩ませているのは、光正博士の零したもうひとつの情報の方だった。
──曰く、
《
八神和正がどこからか得た外宇宙の古代ネットワーク技術を応用して構築したそれは、現在その所在は一切不明であり情報閲覧端末《偽・天眼》からのみアクセス可能……なお今はその《偽・天眼》にもアクセスできない状態だがそれは別の話。
八神自身このプログラムの所在をずっと探していたのだが、あちらの世界では欠片も痕跡を見つけられずじまいだった。
それが、実はクソ親父と共にビヨンダードへ行っていたというのだ。
……アメロッパ軍基地跡で見たフォッサアンビエンスの光景に、妙に見覚えがあった理由がようやく分かった。《偽・天眼》で接続した先の電脳空間だ。セレストが居なくなって接続できない期間が長かったせいですぐに気付けなかった。
しれっと世界を超えて接続できている点からは目を逸らすことにする。デューオ(の母星)の技術は世界一なのだろう、たぶん。
ちなみに、八神和正はライバルとして決別したDr.ワイリーと共に出奔したらしい。当然《天眼》を持ったまま。
しばらく頭を抱え蹲ったまま唸っていた八神が、はぁーーー……と長く大きく息を吐き出して唐突に立ち上がる。
そしておもむろに外へと飛び出そうとしたところを、慌てた子供たちに取り押さえられた。
「待って待って待って八神さんどこ行こうとしてるの!?」
「決まってんだろあのクソ親父いっぺんぶん殴りに行くんだよどうせワイリー研究所に居んだろあいつ」
「落ち着けって! 今のアンタの体調であんな距離踏破できるわけないだろ!」
「それに両博士が
「うるせ~~~知らね~~~~~いいから行くんだよ俺はァ~~~~~」
「だから落ち着いてってばぁ!!! ライカぁ! 八神さん止めるの手伝ってくれよぉ!!!」
「仕方ないな……八神牧師、失礼!」
「ヴッ」
腰と腕にぶら下がる熱斗とディンゴを引きずりながら進もうとしていた八神は、ライカの腹パン一発により無事沈められる。
そのまま未だ目覚めないバレルの横に転がされた八神は、鳩尾の痛みに悶えながら
夜食を片手に今後の方針を考えていた彼らの耳に警報音が響く。
そこに居たのは、研究所を取り囲んだ大量のファルザー軍とそれを率いるゾアノクラウドマン。
反射的にナビを実体化させたディンゴ、メイル、熱斗の三人に頭を抱えながら、八神たちはアイリスに教えられた研究所の武装設備を作動させるためメインルームへと向かった。
二台の銃座に二人を座らせ、八神はコントロールパネルからシステムチェックを行う。
モニターを流れていく文字列を追いながらキーボードを叩くが、その一部に欠けを見つけ思わず舌打ちを漏らした。
「……システム作動を確認。エネルギー経路も確保……ダメだ、照準プログラムがイカれてる! 修復にちょっと時間をくれ!」
「この状況でそんな時間は……そうだ、八神牧師!」
ライカに呼ばれ顔を上げた先に飛んでくる緑のPET。慌てて受け止めて、何のつもりかと問う前にPET画面に映るサーチマンが口を開く。
『自分が照準プログラムの代行を行います。PETの接続を』
「……なるほど、了解した。少し待て」
確かにサーチマンの性能であれば、プログラムを即席で修復するより早く正確に動かせるだろう。
PETとコントロールパネルの有線ポートに配線を繋げば、すぐにモニター内へとその姿が移動する。
「プログラムの接続部はここ。形式は座標指定……たぶん〈サテライトレイ〉の照準形式が近いはずだ、いけるか?」
『問題ありません。接続開始……
「こちらも確認した。……他機能にエラーは無し。二人とも、どうだ!?」
「……よし、動いた!」
「これならいけるか……?」
トリガーが引かれるたびに放たれるエネルギー波が指定された座標空間へと広がり、そこに存在している獣化ウイルスやゾアノ兵らを消滅させていく。おそらくはディメンショナルジェネレーターの機能により現実世界に重なっている電脳空間に対して作用することで、本来あちらの存在であるウイルスやナビ型のゾアノ兵が空間のギャップに巻き込まれ存在を維持できなくなる、という仕組みなのだろう。
効果範囲も広く、これならばこの無数の敵兵を相手にしても何とかできそうだ。
……あくまで現状ならば、という条件付きではあるが。
研究所に備えられた武装の力もあり、施設を包囲していた敵をある程度一掃した頃だった。
甲高い咆哮と共に空を割り現れた紅色の怪鳥……電脳獣ファルザーにより、戦況は一気にあちら側へと傾いていく。
ナビたちの攻撃はほぼ効果がなく、武装システムもその素早さに追い付けず当てることができない。
打つ手がない中で何らかのプログラムを再構築していたアイリスが、一拍何かを考えるように目を閉じて、覚悟を決めてトリルを呼んだ。
「……トリル。あなたの力を貸して」
「うん! ロックマンをたすけるよ!」
「ありがとう。……八神、さん。このプログラムの最終調整と、接続処理をお願いします」
「え。……あ、ああ。了解した」
突然こちらへ振られたことに驚きつつも、今はその時間も惜しいと入れ替わるようにコントロールパネルの前へと向かい操作を引き継ぐ八神。
それにちらりと視線だけを送って、アイリスはトリルを連れて外へと走り出していった。
ディメンショナルエリア発生装置を利用した拘束プログラム、そして獣化ロックマンの力により、武装設備を犠牲にしたものの無事ファルザーごとゾアノ兵団を撃退することに成功した一行。
施設電脳へ送り込んでいたサーチマンをPETへと戻してライカへと返却し、不要なシステムをシャットダウンしていく。
事後処理まで済ませたことで八神もようやくモニターから解放され、ひとつ大きく伸びをした。
「……驚いたな。まさか、あのファルザーを撃退するとは……」
「! バレル大佐……」
戦闘による衝撃によってかようやく目を覚ましたバレル。その彼からもたらされたのは、カーネルがグレイガの手に落ちたという情報であった。
ここまでに倒されてきたゾアノロイドの獣化因子を吸収し、想定以上に強力になっている電脳獣。まともにぶつかり合えば、これまで以上に厳しい戦いを強いられることになるだろう。
これ以上奴らを暴れさせる前にこの戦争を終わらせる必要がある。そのためには、多少無理をしてでも急いで光正博士の言うワイリー研究所へと向かう必要がありそうだ。
時刻は既に深夜帯を過ぎ、あと数時間で日の出を迎える頃。
激しい戦闘もあったことだし、流石にこれ以上子供たちを起こしているのは忍びないからと彼らを先に休ませて、八神とバレルは出立の準備を始めるのだった。
……途中、八神のことを聞いたバレルが一瞬殺気立ったのは完全な余談である。本当に全部クソ親父が悪い。
翌朝。
準備を整えた彼らの前に、獣化因子を植え込まれゾアノロイド化したカーネルが現れる。
アイリスの力……獣化因子への干渉能力により何とか退却させることはできたものの、バレルの負傷により彼らはまた一時的に別行動をすることになるのだった……
そろそろBEAST編も最終局面。今年中にはケリがつくかな……つくといいな……