◆エンドロールのあとしまつ
アメロッパ・IPC社サーバー内。
その電脳内に不審な反応を検知したという報告を受け、炎山はサーバーへとブルースをプラグインさせた。
自社サーバーということもあり、勝手知ったる電脳空間とばかりに赤い閃光が迷うことなく駆け抜けていく。
「──まもなく、件のポイントへ到着します」
……ここまでの道中には異変らしい異変は見つからなかった。
それでも油断なく周囲に視線を走らせながら、反応があったとされるポイントへ向かうブルース。
特に問題もなくたどり着いたそこにあったのは、黒い羽根を模したようなデータ片だった。
「これは……」
『何かのデータ片のようだが……調べられるか?』
「……これ単体では機能しないコードの断片……おそらく、何らかのプログラムの破片かと」
『そうか。なら、そのデータはそのまま回収してくれ。こちらで解析にかけよう』
「了解しました」
拾い上げたデータ片を保存用フォルダへ移してプラグアウト処理へ移ろうとしたブルースが、ふと何かに気付いたのか振り返る。
『どうした、ブルース』
「……一瞬、なにかがいた気配を感じました。今はもういないようですが……」
『……後ほど、もう一度サーバーのスキャンをするよう指示を出す。お前はこのままプラグアウトを』
「はっ」
プラグアウトエフェクトを残しブルースが立ち去ったあと。
先程彼が視線を向けた先で、一瞬、僅かに空間テクスチャが乱れた。
──同時刻、シャーロ軍基地サーバー。
ターゲットサイトに捉えた目標へ、放った弾丸が吸い込まれるように着弾する。
途端に姿を表したのは、羽を広げた鳥を模したような白い鏃状の飛翔物体。
「目標、完全に消滅。損傷を受けると自動で完全消去されるプログラムが搭載されていたものと推測します」
『逃がしたか。アクセスログは……そちらも偽装されている。用意周到なことだ』
現状被害は確認されていないものの、軍のサーバーへ侵入を許したという時点でこちらが不覚を取ったことには変わりない。小さく聞こえた舌打ちは聞かなかったふりをして、再びスコープを覗く。
多少なりの痕跡が残っていないものか……と目標が消えた地点を目視で確認していると、ふとそこに小さな黒い何かが落ちていることに気付いた。
「……対象が消去された地点に、何らかのデータ片を発見しました」
『データ片だと? ……我が軍のものではないな。だとすると……』
「……罠の可能性を考慮しつつ、回収へ向かいます」
警戒しながらも近付けば、それは黒い羽根を模したデータ片であることがわかる。
即座に簡易的なスキャンを行うが、そこからは特に罠などが検知されることはない。
「……軍のデータベースに一致する形式はなし。特定は現状不可能です」
『奴が落としたもの……と断定はできないが、今は唯一の手がかりだ。このまま持ち帰るぞ』
「了解」
拾い上げたそれは、ふわりと風もなく揺れていた。
◇◇◇◇◇◇
「パパ!」
「来たか、熱斗」
シュン、と自動ドアが開くと同時に駆け込んできたのは光熱斗。
ネットセイバーとして呼び出しを受けた彼が訪れた科学省のメインルームで待っていたのは、自身を呼び出した父だけではなかった。
「あれ、炎山! ライカも、いつニホンに来てたんだ?」
「先日な。少々、こちらで調べてもらいたいことがあって来たんだが……」
「俺も同じようなものだ。今科学省で起きている問題が、我々の案件と繋がりがあるかもしれない、と」
「問題?」
ああ、と祐一朗がひとつ頷いてメインモニターへとある映像を映し出す。
そこに映っていたのは、所々大きく欠損しながらもそびえ立つ黒い塔のような建造物だった。
物理法則を無視したように崩壊した土台の上には、おそらくコアデータなのだろう光球とそれを包むようにパーツが巻きついている。
……まるで黒い翼が閉じているようなそれにどこか既視感を覚えながら、熱斗は口を開いた。
「パパ、これって……?」
「ああ、先日発生したキャッシュ事変……その事後処理の途中、キャッシュサーバーの跡地でこれが発見された」
「キャッシュの!?」
「直接関係があるかは調査をしてみないことには分からないが、このまま放置している訳にもいかないからね。そこで熱斗にお呼びがかかったというわけだ」
彼らに関しては本当に偶然だったのだけど、と笑う祐一朗。
そこに使えるものは使ってやろうという意思が見え隠れしていることに苦笑いして、熱斗は自身のPETを手に取った。
「……あれ、ところで八神さんは? こういうのの調査って八神さんの方が得意じゃないの?」
「実は今、八神くんに連絡がつかなくてね……休暇申請は受けているんだけど」
「そうなの? 教会の方も最近ずっと閉まってるからこっちにいるんだと思ってた……」
◆◆◆◆◆◆
キャッシュサーバーへは直接プラグインできないため、一度科学省の電脳を経由して向かうことになる。
先に自分たちの案件を済ませるためにブルースとサーチマンはあとから合流するということで、ロックマンは単騎でキャッシュサーバーへ繋がるルートのひとつを進んでいた。
以前のような妨害もなく歩みを進める彼を、突如どこからか迫る熱気が襲う。
うわあ、と短い悲鳴を上げながら飛びずさったその足元を炎が舐めていった。
その出処を探れば、そこにあったのは炎の小山。
ズン、と足踏みをしながらこちらを見据えるその姿は、かつて沈没船の電脳で相対したそれと同じもの。
「ヴォオオォ……」
「あれは……フレイムマン!?」
『なんだって!? ゾアノロイド……なわけないか。じゃあ誰が……』
『はっはァ! 腕は鈍ってねぇようだな、光熱斗ォ!』
ヴン、とフレイムマンの背後にウインドウが開き、オペレーターの声が響く。
燃えるような赤髪を揺らし口角を歪め笑うその男に、ふたりは目を見開いた。
『ヒノケン!? なんっ……何してんだよこんなとこで!』
『決まってんだろ? そろそろここいらで、お前さんらと雌雄を決してやろうと思ってなァ……』
「い、今そんなことやってる時じゃ……」
『おぉっと、逃げてもいいぜ? ただしその場合、科学省にいる連中がどうなるかは保証しねぇぞ?』
『ッ……お前!』
こちらを睨み構えるその姿に、ようやく本気になったか、と笑みを深める火野。
痺れを切らしたフレイムマンの咆哮と共に、戦いの火蓋は切って落とされた。
──キャッシュサーバーの前に、ひとつの影が降り立つ。
藍色みがかった黒い裾を翻し、見上げた先にあるのは崩落しかけた漆黒の塔。
その中心部にあるコア部位を睨めつけ、それは一歩足を踏み出し……その足元へ撃ち込まれた弾丸に動きを止めた。
「……動くな。そのまま手を挙げろ」
〈スコープガン〉を向けたままサーチマンが警告を飛ばす。その横ではブルースが油断なく〈ソード〉を構えている。
ロックマンから少し遅れてプラグインしたことでフレイムマンの襲撃を免れた彼らは、その動きからこれが時間稼ぎの足止めであると判断し別ルートからキャッシュサーバーへと向かっていたのだ。
想定通りそこに現れた侵入者を牽制したまでは良かったのだが……
両手を肩の辺りまで上げながら、それはこちらを伺うように首だけで半ば振り返る。
その横顔は目元を覆うウィンプル型ヘルメットのバンド部分で半分ほど隠されているせいで、ほとんど表情が読めない。
だが、背を覆うベールも、腰からふわりと広がる裾のシルエットも、彼らの中にとあるネットナビの姿を思い起こさせるには十分だった。
だが、今はそんな事にうつつを抜かしている状況でもない。僅かな動揺を振り払うようにかぶりを振って、ブルースが一歩前に出た。
「わざわざ囮まで使いここに来たということは、その塔について何かしら知っているということだろう。……“その姿”のことも含めて、洗いざらい話してもら──」
「ッ、ブルース!」
警告の声よりも早く聞こえた微かな風切り音に、反射的に〈ソード〉を振るう。
ギィン!と硬質な音を立てて逸らされた切っ先が自身の横数ミリを通り過ぎていくのを見ることなく、それが向かってきた方へ受け流した勢いのまま刃を振り下ろした。
一瞬感じた手応えは霞のように消えていく。
「貴様はっ……シャドーマン!」
「クク……いい反応だな。安心したぞ」
音もなく床パネルへと降り立ったのはシャドーマン。
腕を組んだままくつくつと笑うその姿には一切の隙が見当たらず、ブルースは身構えながら警戒度を引き上げた。
援護へ回ろうと銃身を構えたサーチマンはしかし、自身へと飛来する何かへと咄嗟に照準を合わせ撃ち落とす。それは侵入者の投げ放った光輪だった。
その姿だけでなく能力も酷似しているのか、と内心で舌打ちして、サーチマンは改めてその侵入者へと向き直る。
……その光輪が形だけでないのなら無視はできないだろう。威力はともかく拘束は下手に喰らうわけにはいかない。
「さて、お主らに恨みはないが……これも依頼だ。悪く思うな」
シャドーマンが腕を解き、刀の柄に手をかける。
同じように両手に携えた光輪を構える侵入者へ相対しながら、ブルースとサーチマンは背中合わせに立ち武装を構えるのだった。
約半年ぶりに帰ってきました。
なおこの章はEXTRA、つまり本編終了後の蛇足の話となります。オリジナル展開しかないよ!
厳密には書きたかったとこ寄せ集めみたいな感じになると思います。超展開に突っ込んではいけない。イッタイダレナンダ-というのも突っ込んではいけない。
更新速度は完全に不定期となりますが、気が向いた方はお付き合いいただければ幸いです。
当初の予定ではこれ含めて3話ぐらいでまとめたいなと思ってたんですけど……まとまるのか……?