みこの羽化   作:xor

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誰も来ない神社

 今は中学一年の夏休み。

 

 私はいつものように、寂れた神社へ行く。神社は家の裏手にある小さな山の中にあり、家からは10分もかからない。細い石の階段をしばらく上って小さな鳥居をくぐると、神社が見える。誰も来ない神社にしては立派な建物だと思う。私一人くらいならこの神社でもなんとか生活できるかも。トイレとお風呂が付ければの話だけど。

 

 小学6年生の時にこの場所を知ってから、私はここがお気に入りで、毎日のように通っていた。最初見た時は砂埃やら蜘蛛の巣やら虫の死骸でひどく汚れていたけど、私が掃除したから、今ではきれいになっている。今でも、週に一回くらいは軽く掃除するようにしている。

 

 神社の縁側に座り、左を向くと、木々の隙間から私のよく知る住宅街が見下ろせる。私だけ別世界に来たような気分で、すごく気分が良い。今日もここで好きなだけのんびりしてから、家に帰って数学の宿題でもやろう。いつもと変わらない日常…、だと思っていたけど、今日はいつもと違うことが起こった。いつもは誰も来ない神社なのに、人が話しかけてきたのだ。

 

「ねぇ、君、よく神社に来てるよね。名前は何て言うの?」

 

 私の右隣に可愛らしい少女が座っていていた。年齢は私と同じか、少し上くらいだろうか。小麦色の長い髪に、和服姿が凄く様になっていて、思わず見とれてしまう。いつの間に側にいたんだろう…。いろいろ疑問は湧くが、とりあえず名乗ることにする。

 

内見(うちみ)みこ、です…」

 

「みこちゃんか。私はウカ。この神社に住んでる神様だよ」

 

「か、神様ですか…」

 

 どうやら、ウカと名乗るこの女の子は、中二病を患っているらしい。かわいそうだ。私も中二になったら、ウカのように成れ果ててしまうのかな。私はウカに憐れみの視線を向け、親友になってあげることを決心した。私も人付き合いは苦手だけど、ウカの病を分かってあげられるのは、きっと私しかいない。

 

「ウカさん、そういうのは他の友達に言ったら駄目ですからね。最悪、いじめられちゃうかもしれないですよ」

 

「いや、そういうのじゃないから!」

 

 そういうのじゃないと言われても、どう見ても人間だし…。でも確かに、ウカの持っている雰囲気は他の人とは少し違っていて、神秘的な魅力が無いこともない。こんな感じの神様がいてもいいのかもしれない、と一瞬思ってしまう。でも、

 

「さすがに神様にしては威厳が無さすぎると思います…」

 

「失礼過ぎるよ!?」

 

「…」

 

「憐れみの目で見るな!」

 

 そんなやりとりをした後で、私はウカと少しの間おしゃべりして過ごした。といっても、ほとんどウカからの質問に答えるだけだったけど。「みこちゃんはどこに住んでるの?」とか、「なんでこの神社に通ってるの?」とか、「中学校では楽しくやってるの?」とか…。私は、神社のすぐ近くに住んでることや、神社の神秘的な雰囲気が気に入ってること、それから、中学校では友達ができなくて孤立していることなど、正直に答えた。ウカは私の話を楽しそうに聞いてくれて、それが私も楽しくて、自然に笑みがこぼれていた。学校で孤立し、両親は仕事で遅くまで帰らず、いつも寂しい思いをしていた私は、ウカとの出会いに少し救われていた。

 

 のんびり神社で過ごしているうちに、日は高くなり、気温もどんどん上がってきた。顎から汗が滴り落ちる。昼食もまだ食べてなかったので、私は家に帰ることにした。

 

「私、お昼ごはん食べなきゃいけないので、そろそろ家に帰りますね」

 

「そっか。今日はもう神社には来ないの?」

 

「そうですね。宿題もやらないといけないので…。また明日にします」

 

「分かった。じゃあまた明日会おうね、みこちゃん。今日は楽しかったよ」

 

 私は「うん、また明日」と返事して、縁側から立ち上がって歩き出す。ウカはまだ神社に残るようだ。ウカがまた明日も会おうと言ってくれたことが嬉しくて、少し明日が待ち遠しい。私が鳥居をくぐる直前、突然ウカに呼び止められた。

 

「あ、ちょっとまって。大事なこと言うの忘れてた」

 

「…?」

 

 立ち止まって、ウカの方に振り返る。ウカは立ち上がって、微笑みながら私の方を見ている。

 

「みこちゃん、いつも神社を掃除してくれて、ありがとうね」

 

 私は「え、あ、どういたしまして…」と気の抜けた返事をして、そのまま帰路に就いた。帰る途中、ずっとウカのことが頭をめぐっていた。ウカは初対面のはずなのに、なぜか私の神社事情をよく知っている。

 

 それこそ、ウカが本当に神様で、ずっと私のことを見守っていたかのように。

 

 

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