みこの羽化   作:xor

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嘘吐きな私

 炎天の下、学校からの帰り道をすたすた歩く。

 

 私は今日の出来事を思い出していた。結果的には先生にもあまり怒られずに済んで、しかも宿題も終わる目途が立った。これだけなら大成功だけど、最初に「宿題を家に忘れてきた」と言い訳してしまったことが心にひっかかっている。

 

 私は友達もいなくて、家族にも頼れなくて、ウカにほとんど依存しているようなものだ。それなのに、ウカの言いつけを一瞬で破るとか、私って結構クズなんじゃないかな。ウカに何と言い訳したものか…、と考えながら歩く。少し神社に行くのが憂鬱になった。

 

 私は学校がある日はいつも帰りに神社に寄っている。今日は久しぶりに、制服のまま神社へ向かった。ウカもいつもの調子で、神社でのんびりしていた。

 

「あ、みこちゃんお帰り。宿題のこと、どうだった? 怒られた?」

 

「ま、まぁ、はい…」

 

 やっぱり宿題のことは聞かれるのか。昨日私から相談したから当たり前かもしれないけど。学校からの帰り道いろいろ考えたが、「最初から先生に正直に話した」と嘘をつくことにした。このくらいは小さな嘘だと思うし、結果的に先生には本当のことを話してるし。

 

「それで、先生には正直に話したの?」

 

 私の後ろめたい部分をストレートに問われて、少し言葉に詰まった。私はウカから目を逸らしながら、「はい、正直に話したら、明日から居残りで宿題見てもらえることになりました…」と説明した。

 

 ウカの顔を見ると、悲しそうな表情をしていた。

 

「みこちゃん、私にも嘘つくんだ」

 

「…え?」

 

 ゴクリ、と唾を飲み込む。今のウカを少し怖く感じた。私の心を覗かれているような感覚になる。

 

「みこちゃんって、嘘つくの下手なのに、嘘つくことでしか人と話せないよね」

 

 そんなこと言われると思っていなくて、意味を理解するのに数秒を要した。ウカが私をまっすぐ見つめて、私はうつむいて地面を見ている。

 

 ウカの言うことは的を射ていると思う。私は何も持ってない人間だから、人と話すときに考えるのはその場を取り繕ってやり過ごすことだけ。そんな自分のことをずっと嫌いだった。そのことを面と向かって指摘されるのは辛い。というか、なんでそこまで私のことを見透かせるんだ。神様だからかな。

 

 私だって、取り繕わなくても堂々とできるような性格に生まれたかった。他人から嫌われてもいいやって思えるくらいに、自分を好きになれたらよかったのに。

 

 私は、小さく「その通りですね」と呟いて、神社を去ろうと振り返って歩き出す。振り返ったときには、目の奥から涙が滲みだしてきた。ああ、やっぱり、ウカに失望されるっていうのは、辛い。

 

「待って、ごめん、言い過ぎた! 私、みこちゃんを傷つけたくてそんなこと言ったんじゃないよ!」

 

 後ろからいきなりウカが抱き着いてきて、私は驚いて転びそうになった。慌てて姿勢を立て直して、地面にしっかり立つ。泣いてることがばれたくないから、顔を見せないように俯く。

 

 ウカは私に抱き着いたまま、慌てたような声で私に言った。

 

「お願いだから、私には本音を話してよ。初めて会ったときとかは、心を開いてくれてたじゃん。どうして私にも取り繕うようになっちゃったの」

 

「い、今でも心は開いてますよ…」

 

「そうかもしれないけど、やっぱり変わったよ。だんだん私に気を遣うようになってる気がする。そんなの、私は嫌だ」

 

「変なの…気は遣われるほうがいいじゃないですか…」

 

 そう私が言うと、ウカは私をもっと強く抱きしめた。

 

「みこちゃんのことが大好きだから、本当の意味で心を通わせたいの。気を遣わなくていい友達でいて欲しい。私がこの世を去るまでの短い間、みこちゃんと一緒に居たいと思ってるの。だから、お願い。もう一度心を開いてよ」

 

 ウカがこの世に入れるのは、あと二年ほど。そのことを今持ち出すのは、ずるい。

 

「…、そんなこと言われて、断れるわけ無いです」

 

 ウカが手を放してくれて、私はウカの方に向き直る。もう、涙は隠さないことにした。

 

「みこちゃん…、泣いてたの? 私がさっき酷いこと言ったからだよね。ごめん…」

 

 ウカさんは悪くない、と咄嗟に言いそうになった。でも、気は使っちゃダメなんだった。私は言葉を飲み込んで、手をぎゅっと握りしめた。

 

 私、ウカのためなら、本音を話せると思う。

 

「ほんとに、泣いちゃうくらい傷つきました。でも、ウカさんの言うとおりだと思っています」

 

「ごめんね…」

 

「その後、私のこと大好きって言ってくれて嬉しかったです。私もウカさんのこと大好きです」

 

 そう言って、今度は私の方からウカを抱きしめた。ウカもハグに応えてくれて、ウカの手が私の背中を押さえた。耳にウカの髪が触れる。

 

「ウカさん…、私ってつまらない人間だし、クズだけど、嫌いにならないで欲しいです…」

 

「…つまらなくても、良い子じゃなくても、ずっと好きだよ。だから、安心して」

 

「っ…」

 

 ウカが私の頭を撫でてくれた。誰かからこんなに優しくされるなんて、いつぶりなんだろうな。私は、また目に涙を浮かべていた。今日は泣いてばっかりだな、私。

 

 ウカと抱擁している最中に、私のお腹がグゥと鳴った。

 

「お昼ご飯、食べに帰る?」

 

「…そうですね。そうします」

 

 ウカの腕が離れる瞬間、なんとなく名残惜しい感じがした。私はカバンを肩に掛けなおし、ウカに「お昼ご飯食べたら、また来ます」と言って、神社を後にした。ウカは微笑みながら手を振って見送ってくれた。少しウカの頬が紅潮していた。ハグしたのが恥ずかしかったのかな。

 

 

 

 

 家に帰って私一人、冷蔵庫の中から適当に食材を選んで炒める。今日は本当にいい日だ。今までの嫌なこと全部忘れるくらい、私の気持ちは晴れやかだった。ウカと親しくなれて、ハグしてもらえて、ウカが私のこと大好きだって言ってくれた。良い子じゃなくても好きだって言ってくれた。そう思うと寂しさなんて感じなくて、お昼ご飯もテレビを点けずに食べていた。ご飯って、こんなに美味しかったのか。

 

 お昼ご飯を食べ終えて、洗い物を済ませた後、私は再び神社に行った。

 

 

 

 

 神社で、私は今日あったことを全部ウカに話して、ウカのアドバイスを守らなかったことを謝った。ウカは笑って許してくれた。そして、徐々に他の人にも心が開けるようになるといいね、と言ってくれた。

 

 夏の終わりの強い日差しが木々の緑を照らして、キラキラと輝く。気温はどんどん高くなっていって、一時間ぐらいウカと話した頃には、もう私は汗だくになっていた。そんな私を心配してか、ウカが「もう帰ってクーラーで涼みなよ」と言って、私もそれに従った。もう少し神社に居たかったな。でも、ここで熱中症にでもなったら本当にやばい。誰にも見つけられずに死んじゃうかも。だから、素直に帰るしかなかった。

 

 

 

 

 

 明日からは学校も6時間目まである。居残りもあるから、神社に居れる時間は短くなっちゃうな。日没もどんどん早くなってくるだろうし。

 

 冬休みが楽しみだ。またウカと毎日何時間も神社で遊びたい。雪が降ったら、雪だるま作ったりもできそうだ。初詣もあの神社でできる。今から三か月以上先の話なのに、今からすごくワクワクしていた。

 

 次の日からは、私は学校に行って、放課後は2時間ほど宿題をやって、帰りに神社に寄ってから家に帰る、という生活を送った。宿題は先生に監視されてるのもあってすごく集中できた。1時間で4ページくらい進められた。家に帰ってからもちょいちょい進めていたのもあって、水・木・金の三日だけで宿題を終わらせることができた。橘先生が最後に「頑張ったな」とボソッと言ったのが結構嬉しかった。

 

 これで、もう私の心配事は一つも無くなった。強いて言うなら、両親のことは心配事といえるかもしれないけど、こんなのもう慣れっこだ。それに、私にはウカが居てくれる。ウカにはもう怖気ずに本音を話せる。ウカの方も、前より私に親しく接してくれている気がする。私は今、すごく幸せだ。

 

 

 

 

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