憧れを星座に繋げて   作:赤瀬紅夜

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憧れを星座に繋げて

 秀華高等学校

第三十一回秀華祭の体育館ステージにて

 

「えー……私たち結束バンドは普段学外で」

 

 待ちに待った体育館で、演奏が始まろうとしていた。カメラを持って泣きじゃくる男の人……を囲むようにして結束バンドにエールを送っている家族。最前列で鬼殺しの空き瓶を並べる酔っ払いお姉さん。それらの異様な観客たちすらも圧倒し、僕の目を釘付けにした。

 

 一瞬の静寂の後、リードギターによって演奏が始まる。

 その中に……気になる子がいた。正面で歌いながらギターを弾く女の子。真剣な眼差しとまだ慣れ切っていないギターの演奏。それでもなお楽しそうに笑顔を浮かべる姿に目が釘付けになった。赤い髪にパッチリとした黄色の瞳。花柄のギターストラップを着けてマイクに音を乗せる。

曲が終わり、余韻に浸る暇もなく惜しみない拍手と歓声が上がる。

 

「……喜多(きた)郁代(いくよ)

 

 手の中で握るウォークマン(WALKMAN)に熱が籠ったように感じる。探し回ってようやく見つけた。輝いてキラキラしている星座の様な女の子に、この時僕は惚れ直した。

それはもしかしたら……僕が勝手に抱いている憧れだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

『高下 聖』

この名前を見せると、大抵の人は読めないから教えてと言われる。

苗字は高下(たかした)。名を(ひじり)と言う。だからこそ僕はこの名前が嫌いだ。読みにくくて時代錯誤な名前なんて誰も呼びたがらない。

……一人を除いては。

 

「聖くん……その、今日も練習に付き合ってもらっても良いかしら?」

 

申し訳なさそうにして両手を合わせる女の子……喜多郁代は隣の席から身を乗り出してきた。彼女とは入学式で鉢合わせてから今まで仲良くしてもらっている。

 

「ぼっちちゃんとの練習だよね? 勿論、付き合うから」

「ふふっ、きっと後藤さ……ううん、ひとりちゃんもきっと喜びそうだもの」

「そうかな……あの子、中々にシャイな性格だと思うけど」

 

 何気なしな掛け合いをしながら、空き教室に向かう。そこには、天才ギタリストが……人間のカタチをギリギリ保っていた。半分くらい溶けてスライムになっている。ヤバいな、もしかしたら人間じゃないかもしれない…………。

 

「もう〜!また溶けてる」

 

郁代の方はというと慣れたもので、ぼっちちゃんを形成して行った。ベタつくのもお構いなしに、ヒトガタにピンク色のスライムを組み立てる。

しばらくしたら、ぼっちちゃんが意識を取り戻した。

 

「……大丈夫?ぼっちちゃん」

「あっ、ハイ……練習ですよね、二人の邪魔はしませんので」

再び溶けようとするぼっちちゃんを救出する。肩を掴んで言い聞かせる。

「そもそも、僕が二人の練習にお邪魔させてもらってるだけだからさ」

「早速始めましょ……ひとりちゃんも、ほら。放課後もいつまでいれるか分からないもの」

 

ぼっちちゃん……後藤ひとりがギターを手に取り演奏を始める。それに続くようにして郁代も演奏を始めた。

 後藤ひとりは中学生の頃から独学でギターをモノにした天才ギタリストだ。コミュ症だし、学校指定の制服よりもピンクの芋ジャージを着てくるし、時折人外になるが一度ソロで弾かせたら右に出る者がいない程の腕前だ。

対して、喜多郁代はつい数ヶ月前にギターを始めた。厳密にはギターと間違えて多弦ベースを買ってしまい、結束バンドの加入時にとある人からギターを受け継いで練習を始めたのだった。

 

 

「そろそろこっちも始めますか」

 

 二人が練習しているのを横目で見ながら、今後の予定を確認する。ライブハウスでの演奏の予定は今のところ無いから、どう売り出すかかな……。結束バンドの中で、僕は演奏を一切出来ない。作詞作曲も齧ったほどしか分からないし、何よりもセンスがない……気がする。

 

 それでも、どうしてこの子達と一緒にいるかと聞かれたら理由はある。僕は結束バンドのサポートをしているのだ。中世ヨーロッパでパトロンが居たように、多少の資金援助と困ったことがあった際に……彼女たちをフォローする役割を(にな)っているのだった。

 

「虹夏ちゃんが管理してくれるから、あんまりやることは無いんだけど」

 虹夏ママさまさまだ……口が裂けてもそんな事は言えないけど。学校に持ち込んだノートPCに今までの記録を残そうとしたところで、スマートフォンが僅かに震える。

 

「……山田リョウか」

 

 ギターを奏でていた郁代の手が止まる。文字通り、静止した。

 

 

「リョウ先輩から!? 聖くん、変わって……」

「だ、大丈夫だから……距離も近いしっ、その練習してて」

 

 キラキラした彼女らしい視線を振り切って教室から出る。郁代はリョウさんの事になると人が変わったようになるのだった。

 

 

 そう、それはあの時と同じで……。

 

 

 

 秀華祭でのライブ後、結束バンドのメンバーに囲まれることになった。とはいっても、舞台から飛び降りてロックを極めた後藤ひとりを除く三人のことだが。

 

「そんなに見てくれてるなんて……リョウ先輩のこと、あなたも気になってるのね」

「いや、違くて……僕は喜多さんのことが」

「パシリなら誰でもいい。焼きそばパン買ってこい」

「ちょっとリョウ!変なこと言わないの」

 

わちゃわちゃと三人が言い合う。それを何とか制して僕は言葉を紡いだ。

 

「皆さんの音楽が好きで……僕でよければサポートできないかなって」

「サポート……あ」

 

 不思議そうに首を傾げる喜多さんは、何かに気付くと顔を背けた。その行為をすぐさま察知した虹夏ちゃんは僕を目でしっかりと捉えた。

 

「え~、また何しちゃってるの……って、君……結束バンドに支援したいってコト!?」

「本当にパシリじゃん」

 

 リョウは黙ってて……そんなやり取りを始める二人を他所に、言い訳がましく話し始める。

 

「結束バンドを無理に動かそうとか、何かを変えようとかしてるわけじゃないから」

「そ、そうよね……うん。聖くんはそんなことしないものね」

「喜多さんだってみんなに迷惑掛けたくないでしょ」

 

すとっぷ、すとーっぷ!と割り込みながら虹夏ちゃんは僕と郁代が『自然と近付いていった距離』を引き離す。惑星同士が惹かれ合う重力を振り払うように、僕と育代の間に物理的な距離が生まれる。

 

「ちょ~っと舞台袖行こうか」

「え、行くの?」

「良いから……リョウも来る!」

 

 舞台袖に集まり、僕ら四人は顔を合わせる。そこで虹夏ちゃんは思いっきり息を吸い込んで発言した。

 

「何!? キミたちは付き合ってるってことなのかなぁ~!?」

 

 思い切り僕と郁代の両者を指さしながら叫んだ。なんかもう、頭の上にあるドリトスが浮いていた。いや、アレはアホ毛なのかな。そんな現実逃避をしている間に、喜多さんがぶっちゃけた。

 

「……はい。えっとその、付き合ってますから」

「えっと、喜多さん!?」

「郁代って呼んでいいから」

「うぇ!? はい……その、郁代」

「か、顔が熱い……」

 

 そんな寸劇を見て、リョウさんは爆笑していた。この人にはバレているのかもしれない。そんなことがあり、秀華祭の後もこうして結束バンドと何物でもない僕との交流が生まれた。

後藤ひとり。ギターヒーローという名前で活動しているギタリストの少女……に近いナニカ。

伊地知虹夏。母性を感じるドラマー……そして結束バンドをまとめるリーダーだ。

喜多郁代。 ボーカルとギターを担当する、僕の隣の席であり何かと交流があった女の子。

山田リョウ。音楽の腕も良いし、顔が良い……が、問題ばかりのクズベーシスト。

……そして僕、高下聖は喜多郁代と偽装的にお付き合いしている恋人だ。

 

 今までのことを思い返すと頭痛がしてきたような気がする。自分のスマホから聞こえてくるリョウさんの声で回想から戻って来ることができた。

 

「それで、ヒジリ。いつ郁代に好きっていうの?」

「電話口でそれ言いますかね」

「あと、二人連れてSTARRY来る前にオレンジジュース無くなってきたから買ってきて」

「それ在庫がなくなったってことですか?」

「いや、飲みたいだけ」

 

 それだけ言うと電話は切れてしまった。……この人は本当に読めないな。

「マネジメントも頑張りますか……」

 

 溜息が出そうな口を抑えながら教室に戻ると、ぼっちちゃんと喜多さ……いや、育代の二人が練習に打ち込んでいた。オレンジジュースを買ってきて欲しいんだってリョウさんが……そう話すと、育代は何本買ってきたほうがいいのかしら、と指折りで数え始めた。真面目にギターを教えていたはずのぼっちちゃんは、バイプスあげて……なんて言いながら虹色に光っていた。ゲーミングぼっちじゃん。

 

「ひとりちゃん!?」

「あばばば……」

 

 仲が良さそうな二人を見ながら、僕は何時になったら彼女と本当の好き同士になれるのだろう……そんなことを考えてしまう。郁代が……いや喜多さんが僕に何気なく微笑んでくれた。

 

ああ、僕はこういう所にきっと……そんな風に憧れ、恋焦がれた星座にはまだ手が届かない。




喜多ちゃんにメイド服を着せたい(挨拶)

こう、思い付きのままに書いた話って納得できないことが多いんですけど、今回は妙にしっくりきました。
主人公の細かい設定は隠しておきました(え?)
続きが読みたいとか声が合ったら何かしら書くかも。

それではまた!
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