憧れを星座に繋げて   作:赤瀬紅夜

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前回の投稿からかなり時間が経過してしまいましたが、第ニ話の投稿です!
全四話で投稿する予定なので、また来週をお楽しみに。




ボクらは出会ってしまった

 ライブハウスSTARRYにて、高下聖はある人物に呼び出されていた。

 

「……で、どうせ付き合って無いんだろ?」

 

 奇を衒うことなく、直球で言われた。ボクと郁代が付き合っているということは、このライブハウス内では知られていなかったはずなんだけど……。冷や汗が頬を伝っていく。

 伊地知星歌(せいか)……彼女は結束バンドの虹夏の姉であり、このライブハウスを経営している張本人だ。経済面もチームとしての実力も未熟な結束バンドだが、それを見越して星歌さんはバイト先としてこのライブハウスを手伝わせていた。結束バンドは彼女が課した試験を乗り越えたことで、STARRYを拠点として活動をすることが出来るのだった。勿論、ボクもここで働いている。

……ここは何とかして誤魔化さないと。

 

「喜多ちゃんとは何もないですよ」

「誰も喜多郁代の話はしてないけどな」

「あ……」

 

 綺麗に墓穴を掘っていた。星歌さんの前では誤魔化すことは出来なさそうだ。そうなれば、もう本人に理由を聞いた方が早いはず。幸い、あの子たち(結束バンド)はまだバイトに来ていないみたいだし。

 

「どうして付き合って無いと分かったんですか」

「女の勘……じゃなくて、山田から聞いた。その時は噂程度だったけどな」

「あの人は本当に……」

 

リョウさんは相変わらずよく分からない上に有害だった。面白半分でやったんだろうけど、何か裏がありそうな気もするから読めない。溜息が口から漏れ出る。

 

「恋愛事にはまあ口は出さないでおく……が、結束バンドの役に立ちたいなら話がある」

「話……ですか」

「ああ。虹夏がお前が経理や費用を少し負担してくれているって喜んでいたんだ。それでちゃんとお金の管理とか、バンドの方向性を見失わないように軽く教えておく必要があると思ってな」

「……バンドの方向性」

 

 虹夏ちゃん経由で経理の話は伝わっているとは思っていたけれど、バンドの方向性に触れてくるとは思わなかった。というか、ボクと郁代の関係は何も言われないんだな……。

 

「まず山田の様な金に目が眩むのが一番ダメだ」

 

 そこから始まり、星歌さんはバンドの運営について語り始める。バンドがうまくいくには何を気を付ければいいのか、解散するには何がキッカケになってしまうのか。恋愛事が仲間内では修羅場になってしまう危険性や、実力の差がチーム内で離れてしまった時にどう対処するのか。音楽のバンド経験も無いボクと星歌さんは二人で話し込んでいた。

 

「……ま、アタシ自身上手く行ってた訳じゃないから。後のことはまあ、もっと詳しい人紹介しても良いし、自分で調べることも大事だと思う」

 

 これは星歌さんなりのアドバイスなのだと、話し終えた表情から察した。この人自身の過去を知っている訳じゃないけど、思うところは多いのかもしれない。

 

「釘を刺しておくが、誰にも手を出すなよ」

 

 その声は今まで聞いた中で一番低く……力強かった。沈黙に耐えきれないところで、ライブハウスの扉が開かれる。そこからぼっちちゃんを始め、いつもの面々が雪崩れ込んでくる。その中には当然、気まずそうな彼女の姿もある。数日前に付き合っていることを結束バンド内に広めてしまってから、ボクと彼女を繋ぐ心の距離は……星座の様に近い様に見えて、実際にはとても遠い距離間になってしまった。

 

「早かった……な」

 

 星歌さんはこれで話は終わったとばかりに、ボクからは距離を取ってしまう。バイトの時間でもあるし、持ち場に戻るべきだろう。ボクはそう考えて結束バンドの面々とは反対方向……つまり、ライブハウスの外に向かって歩き出す。仁王立ちした喜多さん……いや、郁代に進行方向を遮られた。

 

「待って……その、この前のことはごめんなさい」

「前のことって……そんなみんなもきっと気にしてないと思うし」

「だって付き合ってるって、私と聖く……聖とは特別だって知っちゃったもの!」

「ライブハウスでも周知の事実にするの⁉」

 

 ボクの声を聞いて、慌てて口を塞いでいるが遅い気がする……。うん。郁代はボクらが付き合っていることをライブハウス中に流布させてしまった。リョウさんは電話口で聞いただけのはずだけど、しっかりと事情は把握しているみたいだ。何故かボクの肩をバシバシ叩いてくる。なんだこの人。力を入れてるのか、めちゃくちゃ痛い。

 

「ヒジリのことは任せたよ。郁代は出来る子だから」

「そ、そんなことは……!」

 

 その場から動こうとしない二人の話を遮るように、虹歌さんが声を掛ける。このままだとライブハウス内の清掃や準備が滞ってしまうのを察知したのだろう。

 

「はぁ……お前らはさっさと仕事しろ」

 

「分かった、今から行く」

「……またね。聖くん」

「ああ、うん」

 

またね……これは出会ったときに交わした言葉でもあった。

 

 喜多郁代と高下聖の出会いは、ボクが小学三年生の頃まで遡る。田舎から東京に引っ越して来たばかりで、学校は名前のせいで揶揄われてツマラナイ。その日は気まぐれで、普段は近寄りもしない道を通って帰ろうとランドセルを揺らしなら歩みを進めていた。……それが迷子への下り坂とも知らずに。

 

「ここ、どこ……?」

 

 完全に迷子だった。当時のボクはスマホなんてものを持っていなかったし、日が落ちかけた街は大きな怪物に変身するように、暗く大きく変貌していき……恐怖の感情を胸に刻み込ませようとしていた。そんな怪物に対して何もできないボクは途方に暮れて、公園のブランコに座って震えていた。もう家に帰れない……死ぬのかもしれない。そんな恐怖を戦う力も残っていない。そんな負の感情に苛まれる中……彼女は現れた。

 

「迷子なの?」

 

 顔を上げると赤髪に利発的な顔立ちの女の子がいた。黄色とも緑色とも見える二つの目が不思議そうにボクの顔を覗き込んでいる。この時点でボクは名も知らぬ女の子が好きになり始めていた……と思う。赤いランドセルを背負っていることから同じ小学生だということは分かった。しかし、知らない女の子……しかも見た目も可愛いと直感した子に心配されてしまった恥ずかしさが、恐怖の怪物をどこか遠くに追いやった。

 

「……うん」

「おうちはどのあたりにあるの?」

「あっち」

 

 元来た道を指さした。すると、女の子はボクに手を伸ばして来た。その意図が分からないボクは、何もできずに綺麗な手を見つめていたように思う。

 

「悲しそうな顔をしてるから、手……握っていいよ」

「あ、ありがとう」

 

 しばらくしてからそんなことを言われ、ブランコから降りて女の子の手を握る。僕よりもちょっと柔らかくて、暖かだった。

 

「私の名前は喜多郁代っていうの……えっと、きたちゃんって呼んで欲しいな」

「きたちゃん……うん、覚えた。ボクは高下聖って言うの」

 

 名前よりも苗字で呼んで欲しいという女の子……きたちゃんにボクはどこか親近感を覚えていたのかもしれない。ボクは揶揄われていた名前も含めて、自己紹介をした。お互いに変な名前

 

「ねえ……ボクの家の場所、わかるの?」

「分かんないから……一緒におうち探そう。私も迷子なの」

 

 恐怖の怪物はすぐに戻ってきた。ボクがこの子を守ってあげないといけないと理解し、心を奮い立たせてきたちゃんの手を引っ張った。真っ暗になるまで歩き回ってやっとボクの家……高下家に辿り着いた。きたちゃんは隣のクラスの子で、母親が連絡したらすぐにお迎えが来た。

 

「……また、会おうね」

「うん、また学校で」

 

 それから違うクラスでもたまに会ったり、遊ぶことも多くなった。それは今でも変わらない。どうして付き合うフリをすることになったかは……郁代がついてしまった嘘が原因でもある。恋人でもないのに二人でいることも多いボクらは、きっと幼馴染という関係の方が近いのだろう。こんなハッキリしない状況に甘えてしまっている自分が情けない。

 

「バイト頑張らなきゃ……ちゃんとボクの言葉で告白したいし」

 

 今日は道行く人をライブハウスまで誘導できるように呼び込みをしたり、ライブが始まったタイミングで買い出しに向かうことが業務だ。高校に通いながらできるバイトの種類は限られている。これ以外には飲食店で働いているくらいだし、それを見積もっても学生同士のバンドで資金を調達していうのは難しい。

 

「結束バンドとして、頑張ってみたい」

 

 実際に演奏ができるわけでもないけど、例え裏方でも彼女たちの手助けがしたい。その為なら何でもする。ボクは秀華祭のあの日、喜多郁代も含めた四人に惚れ込んでしまったのだろう。応援したいと心の底から渇望したのはあの日が初めてだった。

 

いつの日にか別れが来るから……そうなったときに、笑顔でお別れが出来るようになりたい。できれば別れたくないのが正直なところだけど。夕焼けの街でボクらは出会ってしまった。それから何年たっても彼女が放つ星の様な輝きは、未だにボクの心を掴んで離さない。




 感想等ありました気軽にどうぞ!
喜多ちゃんだけでなく色んな子の魅力が出せれたならよかったなと思います。
次回は喜多ちゃんがメイド服を着ます……嘘です。
それではまた!
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