パパ活を辞めたい先生と、それをさせない生徒達 作:ベロベロベ
今回からシリアス的なのに戻ります。
プロローグ
「おはようございます先生♡」
「ああ、ハナコ。おはよブホォ!?」
先生は思わず口に含んだコーヒーを噴き出してしまった。今日のシャーレの当番は目の前の少女、浦和ハナコ。以前トリニティ総合学園で教鞭をとった際に仲良くなり、その縁でシャーレに加入した彼女には非常に厄介な性質があった。
それは人前で何の恥じらいもなく脱ぐ事。学校内を水着で徘徊するならまだ良い方であり、下手をすれば噴水前で唐突に全裸になってしまうというとんでもない暴挙に出て、最終的にはお縄につくという奇行を繰り返している生徒だ。
そして今日も今日とて彼女はフルスロットルだ。目の前に現れた彼女の肢体には布はついている。しかしその面積が余りにも少ない。隠さねばならない箇所をギリギリ隠せていないその恰好は最早全裸よりも悪趣味だ。間違っても男性の前でする恰好ではないそれに先生は勢いよく体を翻した。その背中に柔らかい感触が押し付けられる。
「ちょ、ハナコ!?」
「ふふ……どうでしょうか先生? この間少々特殊なお店に行く機会があったのですが……、その時に見つけてしまいまして。気に入ったので買ってきちゃいました♡」
「着なさい! 上から服を着なさい! というか制服はどうしたの!?」
「置いてきちゃいました♡」
置いてきた!? と先生は思わず口に出そうとして必死に抑えた。今ここで声をあげればとんでもない事になるのは間違いない。というのも今回はここにもう1人生徒が来ているのだ。
「ダメダメダメ!! エッチなのはダメ!」
「あら先生どうしました? いつもなら何だかんだ受け入れてくださるのに、そんなコハルちゃんみたいに騒いで……」
ハナコの発言に先生は嫌悪感に襲われた。考えてみればそうだ。ハナコの情欲を煽られる体つきとそれを加速させる彼女の行動はいつも彼の本能を刺激していた。何なら今も勢いよく聳え立っている。しかし今回は、今回だけは何が何でも負ける訳にはいかないのだ。
その理由は直後にハナコにも伝わる事になる。扉をノックする音が聞こえた瞬間、先生は有無を言わさず彼女を抑えて机の下に隠す。そして何事も無かったかのようにコーヒーカップを手にして啜り始めた。
「ど、どうぞ」
「失礼します」
扉が開くそこから現れた生徒をハナコは知っていた。というよりもキヴォトスに住んでいるならば知らない方がまずおかしいと言えるレベルに有名な人物だ。恐らくは連邦生徒会という組織と同等の知名度を誇っているのではないかと思われる彼女は一礼し、一歩を踏み出して部室内に入る。
シャーレに所属している大多数の生徒とは異なるお堅い雰囲気を纏ってきた彼女の名は尾刃カンナ。ヴァルキューレ警察学校の公安局長にして『狂犬』の異名を持つ生徒である。
「先生。本日限りではありますがあなたの補佐を担当させて頂きます尾刃カンナです。まだまだ至らない点も多いと思いますがよろしくお願いいたします」
「う、うん。よろしくね、カンナ」
まさかの人物の登場にさしものハナコも机の下で驚きを隠せなかった。同時にあれだけ先生が自身の誘惑の拒絶していたのにも納得がいく。確かに彼女が来るとなれば間違ってもいつもの様な事をする訳にはいかない。明確な逮捕権がある彼女の前であんな事やそんな事をしてしまえば、それこそ先生は終了してしまうだろう。
ハナコという少女は実に聡明な少女だ。その気になればトリニティ総合学園をひっくり返せると豪語し、確かな実力を有する彼女がその程度の事をわからないはずがない。
しかし、否だからこそ。
(面白そうな事になってきたじゃないですか…………♡)
「ちょ…………!?」
誰よりも今回の重要性を理解しているからこそ、ハナコは自身の行動を決めた。先生が履いている黒いスーツのズボン、その股座にある茶色のファスナーをゆっくりと開けていく。
「先生? どうされました?」
「い、いや別に……。それじゃあ早速始めようか………………」
「はい。よろしくお願いします」
ぬめりとした生暖かい感触が全体を塗りたくる様に駆け巡る。不快でかつ快感であるという矛盾を孕んだそれは不思議と病み付きになってしまうものであり、口から吐息が漏れてしまう。
カンナに幾つかの書類を手渡しながら、先生は視線だけを机の下に向ける。影に潜み彼の膝の間でほくそ笑むハナコの姿は恰好も相まって上級の力を持つ淫魔の様だ。
主の導きに従う事を美徳とする学園の生徒とは思えない程淫乱であるというのは出会った当初からではあるが、最近はそれに拍車がかかっている様に感じる。少なくとも当初は精々センシティブな発言を連呼したり、衣服を唐突に脱いだりしていたくらいであり、ここまで直接的な手段に出る様な少女ではなかったはずだった。
(ううぅ……!)
先生はカンナの手前必死で平静を保とうと苦心する。表情筋を動かすまいと努め、唇を動かさずに歯を食い縛る。込み上げる解放への欲求を懸命に押し殺しながら、彼は書類の整理を続けていく。
(これは、思った以上に……)
我慢強い。率直な感想をハナコは思い浮かべた。彼女の知る先生はもっと弱弱しい存在だ。生徒に押さえつけられ、1人では何も出来ずただされるがままによがらされる脆弱な存在。ハナコに限った話ではないが、生徒達の
恐らくは両方、しかし後者の方が割合としては大きいだろう。
(先生、あなたは…………)
ハナコは聡明だ。今までの人生の中で他人の気持ちなど手に取る様に把握してきた。だからこそ彼という存在を信頼するに至ったのだ。しかしそれから時が経つにつれてわかってきた事も幾つかあった。だからこそ、彼女は動きを止めるどころか加速させるのだ。
「ぁ、や…………」
「先生……? 大丈夫ですか? 随分と顔が赤いですが……体調が優れないのでしたら仮眠室で……」
「だい、大丈夫! ぜんぜ、んっ! 平気だからぁ……!」
「そ、そうですか……?」
先生の額に汗が溜まっていく。体中の熱が一極へと集中していく感覚に襲われながら、彼は無心でペンを動かそうとする。脳内でヒフミとアズサに教わった『ペロロ様といっしょ!』という歌を爆音で掻き鳴らしながらひたすらに目の前に仕事と向き合う。その圧力は思わずカンナが気圧されてしまう程だ。
(ハナコやめて、やめてくれ…………!)
先生の思考は逃避から抗議、そして懇願へ。我慢の意志は既に制御すら困難な興奮と欲求という名の唾液に溺れかけている。這いまわる悪魔は苛烈に、しかし優しく諭してくる。堕ちてしまえ、と。
(嫌だ、嫌だ、いやだぁ…………)
先生のとってシャーレでの仕事とは今の彼でいるための最後の砦だった。コーヒー片手に生徒と言葉を交わしながらキヴォトスに貢献する。貢献すれば道行く人達から感謝が貰える。しかし今の快楽に従ってしまえばどうなる? 好意の視線は嫌悪に変わり、求めた熱は冷えていく。残るのは熱など微塵も感じない孤独と人々から冷たい視線。
かつて苦しんだあの日々に逆戻りだ。それだけは死んでも嫌だ。だから耐えるのだ。ここだけは絶対に失いたくないものがあるから。
(やだ、やだ、やだやだやだやだ…………)
こんな、こんな形で終わるなんて、絶対やだ。
しかし、彼のそんな思いとは裏腹に勢いは衰える事を知らない。そして遂に、その時は来てしまった。
「やだやだ、やだぁぁぁあぁぁぁぁぁ…………」
最後に口から溢れたのは、そんな言葉だった。
■
浦和ハナコは人間不信という訳ではない。彼女にとって人の心というものは証明不可能な式でも何でもなく、ただ読み解いていけば必ず解釈が可能なものであるからだ。読解問題というには少し難解かもしれないが、彼女にしてみれば誤差程度でしかない。人の心も文学も大して違いがないというのが彼女の意見だった。醜悪な人間もいれば、慈悲深い人間もいる。それが人間である以上、そこを非難するつもりは毛頭ない。
ただ、そんな人間達を前に自分は心を偽らねばならないというのが苦痛であったのは確かだ。一時期はそれが美徳だと言い聞かせていた時期もあったが、寂しい生き方だと断じられて辞めた。
例え嫌悪の目で見られたとしても自分自身をさらけ出して生きると決めたのだ。
そんなハナコにとって、先生はとても興味を魅かれる存在だった。
彼の心に偽りはない。ただ生徒の身を案じ、心を案じ、それらを脅かすものを許さない。少々甘さが過ぎるとは思えど彼女にとっては好ましい部分でもあった。
トリニティの上層部によって設立された補習授業部。そこでの生活はハナコにとってとても楽しいものであり、自分達のために尽力した先生に対して好意を抱くのにそう時間はかからなかった。
ただ1つ気になる事があった。
(どうして先生はそこまでして私達のために動くのでしょう)
それが知りたいがためにハナコは先生に尋ねた。返ってきた返答は、自身は先生であるからだというもの。
しかしそれだけではないというのを彼女は理解していた。立場だけでは人はああも動かない。命の危機にさらされる様な状態に陥って尚、生徒のために動く理由としては余りに弱い。だから先生の本心を知ろうと決めた。
いくつかの会話を経て確かに見えた彼の心は、例えるならば果てのない深淵の中に無数の触手が蠢いているかの様な、そんな形容し難い何かだった。求める心と留める心とでも言おうか。彼は他人からの感謝と認知を求め、またそれを手放すまいと執心している。それがシャーレの先生たる彼の本質だった。
『誰かに愛して欲しい』。言葉に直せばたった9文字。しかしそれが形成する奈落は信じられない程に深く、先生は無数の腕を持ってその最下層に座っている。そして得られた『愛』や『感謝』を彼は必死に掴んで離さない。
いつかの友人の話を思い出す。
楽園の証明。その場所が本当に楽園であれば入った人間は戻ってこない。戻ってくればそこは楽園ではなかった事になる。
では当人が執着してしがみついているからと言って、端から見てそこが楽園と言えるのだろうか。楽園は如何にして楽園であるのか。答えは簡単だ。求めているものが無限に手に入る世界。それが唯一無二の楽園。先生にとっての楽園は『愛』が手に入る場所。しかし先生という立場がそれを阻害している。生徒を肉欲の対象としてはいけない。そんな考えが彼の欲を抑圧しているのだ。
だったらそこから引きずり下ろせば良い。何もかもを失わせた後で伝えるのだ。
「あなたを愛する者はここにいる」と。
そうすればきっと先生は『先生』である必要もなくなる。そうすればきっと真の意味で彼と本心で向き合えるだろう。そのための場所ももう用意してある。
なんて言い訳を考えながら、ハナコはひたすらに彼の精神を味わい、吸いつくすべく絡みつかせる。
我ながら滑稽だった。結局は先生を自分達だけのものにしたいという欲求でしかない。しかし『先生』を奪ってしまえばキヴォトス全域が敵となる。だからその立場を無くしてしまえばいいという、どこまでも自己本位な我儘だ。
(でも仕方ないですよね先生……? だってあなたが言ったんじゃないですか。私がどんな事をしても見捨てないでくれるって。だから私のこれも赦してくれますよね? アリウスやミカさんにそうした様に)
この後も徹底的に犯して搾って嫐って溶かし、『先生』を1人の人間にまで堕とす。そのためにカンナを呼ぶ様に細工までしておいたのだ。彼女と先生の付き合いはそう長くない。そしてヴァルキューレは先生が如何な立場であろうと逮捕する権限を有している。逮捕されたなんて話になれば当然彼は解雇。浮浪人と化した彼を善良な一生徒が手を差し伸べるのに何の問題もない。それを妨害するというのなら、それこそ害悪だ。
(私は言いましたよね。これからもあなたを困らせ続けるって)
あと少し。その事を認知した瞬間、ハナコの行動にも熱が籠る。先生の心が悲鳴をあげているのがよくわかる。喪いたくないと必死にしがみついている。
(ほんの少しの試練ですよ先生。これを乗り越えさえすれば、極上の楽園へ連れて行ってあげますから)
「やだやだ、やだぁぁぁあぁぁぁぁぁ…………」
まるで愚図る赤子の様な泣き声に下腹部が熱くなるのがわかった。後少しで終わらせられる。先生を解放させられる。
後一押し。そう思った矢先。それは告げられた。
「――――もう、その辺りにしておけ」
それを言ったのは他ならぬカンナだった。彼女は怒るでも驚くでもなく、ただただ淡々とハナコに対して告げていた。
「先生の精神を壊す気か? お前だって都合の良いラブドールが欲しい訳ではないだろう?」
カンナの視点から見た先生は既に子供の様にすすり泣いている。顔は涙と鼻水でグシャグシャになっており、大人の威厳など感じられない。
怒るだの驚くだのを通り越して、最早憐れみしか感じる事が出来なかった。
「気がついていたんですね」
「そうする様に仕向けたんだろう?」
「…………わかってたんですか」
「なんて恰好をしているんだお前は」
ティッシュで口元を拭きながら、ハナコは机を下から姿を現す。煽情的という言葉を彼方に追い越しているその服装にカンナは呆れるもすぐに話を元に戻した。
「噂には聞いていたが……。初めてだぞ、噂の方がまだ甘かったという事態は」
「ふふふ♡ 噂というのは人の感情から発せられるものですから。その中心にいるのがどんな人物かによって如何様にも変化するでしょうね」
「それで、この状況に対して申し開きがあるなら聞いてやるぞ。性的暴行に至った理由について言い訳するがいい」
「あら暴行だなんて。互いに合意の上ですよ? 私達はお金を払って先生を気持ちよくしてるだけです♡」
「ここは学園都市だ。大人だの子供だのという言い訳は通じないぞ」
カンナの視線は鋭い。狂犬という2つ名にも納得してしまう程の眼圧。並みの生徒ならば委縮してしまうだろうが、しかしハナコには通じなかった。真正面から向き合っている時点で甘いとしか言い様がなかった。
「先程も言いました様に『暴行』ではありません。先生と私は何度か行為をしていますし、他の生徒達ともしています。それは間違いなく互いの合意があります。証拠はここに」
ハナコが開いたのは机の引き出し。そこにある沢山の茶封筒には生徒の名前が書かれている。
『小鳥遊ホシノ』『シロコ』『十六夜ノノミ』『天雨アコ』『浦和ハナコ』『朱城ルミ』『生塩ノア』etc……。
その全てに電子マネーを渡した証拠の領収書が収められている。生徒達が先生に金銭を渡して行為に及んだという何よりの証拠だった。
「となれば私の逮捕理由は先生との性行為という事になります。幾ら恋愛が禁止ではないとはいえ、セックスは流石にアウトでしょうしね。…………ですがその罪状であれば真っ先に逮捕されるべきは誰かお分かりですよね?」
「…………………………」
「どれだけ腕力等が優れていようと私の立場は子供以上の何物でもありません。暴行であれば私達が加害者だとしても成り立ちますが、行為であればこうも言えます。『先生が私達を無理矢理犯して、挙句に金銭を巻き上げた』と。あなたは大人も子供もないと言いましたが、やはり立場というものは人の注目を集めますから」
「…………何が言いたい?」
「わかりませんか? ここで先生を逮捕してしまえばキヴォトスがどうなるか。様々な学園が『犯罪者の管理及び更生』に名乗りをあげると思いませんか? 通常なら矯正局送りになるでしょうが、先生は特殊な立場。勿論最終的な決定権は無視してしまえばいいのでしょうが……、そうすればどうなるかは私にも想像出来ません。最近ではカイザーコーポレーションも罰金程度で済ませたそうですね? 各学園からの圧力に対抗する力が今のあなた達にあるでしょうか?」
「私を脅す気か?」
「いえまさか。ただ、
ハナコはそう言って去っていく。途中女子生徒からの悲鳴があがったがそんな事を気にしている暇はなかった。
とりあえず今日のシャーレでの業務は中止だろう。窓を開けて空気の入れ替えを行い、先生を仮眠室に連れていき着替えさせる。大変な事に巻き込まれたものだと、カンナは心の中で毒づいた。
彼女は携帯電話を取り出す。それは自身がいつも使用しているものではなく、
「私です防衛室長。誠に遺憾ではありますが、あなたの策が有効になりうる状況になってしまった様です。……最早手段など選んではいられない。このままではキヴォトスが完全に崩壊してしまう」
カンナの表情は鋭い。そこに居るのは最早1人の生徒などではなく、一匹の狂犬だった。
「……確かに私は裏切り者です。しかしそれが何だと言うのです。 あなたは直にこの都市を背負う存在なのでしょう? だからこそ自身を背中から発砲した
電話のスピーカー越しに聞こえてくる憎たらしい声。彼女ははっきり言って小物だ、今後役に立つかと言われればそれはNO。しかし今だけは利用価値がある。この一件が終われば即座に裏切れば済む話だ。少なくとも、今のキヴォトスはマズい。
「私はもう妥協しない」
今まで彼女は数多くの妥協を重ねてきた。癒着に手を染め、目先の平和を言い訳にしてただ流されるままに。だが結局は無残に打ち砕かれ、彼女は三流の小悪党として舞台から落とされた。そしてまた似た様な行動をしようとしている。
しかし断言出来る。今の自分はあの時とは違う。先生を利用して丸く収めるのではない。キヴォトスを、そして先生を救うために使える物は全て使う。
思い出すのはカイザーに拉致された先生の檻の中の姿。まるで寒空の下に打ち捨てられた子犬の様に生気を失い、震える姿に彼女は驚愕した事を覚えている。
だからきっと何かあるのだ。複数の生徒と関係を持って尚晴れない何かが。それを否定するのではなく、共に見つめて手を引く。いつか自分の足で『その先』に辿り着ける様に。
目の前の困っている人を放っておけない。それが尾刃カンナの正義の
「やってやるさ…………!」
カンナは進む。どれだけか細い光でもそこには確かな熱がある。それだけで十分なのだと、先生から学んだ。だから進む。どれだけ冷たい現実が待っていようとも、この
――――――何かが始まる音が聞こえた気がした。
「………………というか浦和ハナコは公然わいせつ罪で逮捕出来たのでは?」
時系列は最終編終了、カルバノグ二章の少し前です。
シリアスかコメディか
-
シリアスがいい
-
コメディがいい
-
両方やって~