〜命懸けでダンまちの世界を生で見てきます〜   作:赤音友利

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〜07〜

 

 

 ────幾度とない咆哮が轟いていた。

 

 山羊の様な2本の大角。馬面とでも言うべき醜悪な顔面。

 

 怪物はその巨躯を進撃させ、無数の黒い塊が、鈍器を持つ太い腕を振りさげた。

 

「盾ェ、構えぇッーーー!!」

 

 指揮官の号令と共に、鳴り響くのは数多の衝突音。

 

 その突撃の威力を語るように、盾を構えた者達の踵は地に埋まる。

 

「前衛、密集陣形(たいけい)を崩すな!後衛組は攻撃を続行!」

 

 前衛、後衛に二分される部隊の中、陣の中心ではためいているのは一本の旗だ。

 

 そこに刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる道化師(トリックスター)のエンブレム。

 

「ーーーーーーーーーっっ!!」

 

 何十にもなる地層を積み重ねたこの場所は、『深層』。

 

 それぞれが雄叫びをあげながら、人とモンスターが戦闘を繰り広げている。

 

「ティオナ、ティオネ!左翼の支援急げッ!」

 

 この戦場にて、誰よりも戦場を把握し、指揮を振る小柄な少年ーーー小人族の団長は矢継ぎ早に的確な指示を出す。

 

 彼の指揮によって、この戦場は幾度となく立て直されていた。

 

「も〜っ、体がいくつあっても足りなーいっ!」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで団長の指示に従いなさい」

 

 アマゾネスの姉妹は、疾走し3体のモンスターを一瞬で切り伏せる。

 

 しかし、モンスターの大群はいくら屠れど押し寄せてきていた。

 

「リヴェリア〜ッ、まだなのぉー!?」

 

 後衛組の一団から、美しい声が絶えず紡がれていた。

 

「【ーーー間もなく焔は放たれる】」

 

 白銀に輝く杖を構え、翡翠色の長髪を(なび)かせるのは、絶世の美貌を持つエルフ。

 

「【忍び寄る戦火、免えぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 玲瓏な声で呪文を紡ぎ、力強く、詠唱を続ける。

 

 流れる様な詠唱に誰もが力を振り絞る。しかし、相手の怪物は違った。

 

「ーーーオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!」

 

 怪物『フォモール』は吠える。

 

 迫り来る巨影は、尋常ならざる膂力(りょりょく)によって、前衛の一角を吹き飛ばした。

 

「ーーーベート、”グレイ”、穴を埋めろ!」

 

「ちッ、グレイッ!蹴り飛ばしてやるから行って来いッ!」

 

 こじ開けられた防衛線に、遊撃を務めていた狼人(ウェアウルフ)とハーフエルフは、阿吽の呼吸で連携し、急行する。

 

 それまで前衛に守られていた魔道士達は青ざめ、フォモールは頭上高く、骨の棍棒を振り上げた。

 

 「レフィーヤ!?」

 

 山吹色の髪をしたエルフに、黒い影が覆い被さる。

 

 対面しているのは、先程仲間の防壁を突破した超大型。

 

 彼女の瞳には、振りかぶられた鈍器が映り、走馬灯の如く思考は停止する。

 

『フゥーッ……!』

 

(ーーーーーっっ!!)

 

 フォモールが棍棒を振りかぶろうとした。

 

 瞬間。

 

 冷気と斬撃。

 

「えっ?」

 

 彼女の視界に映ったのは、黒と、碧色に光る魔力粒子。

 

 フォモールの身体は真っ二つに切断され、灰と化した。

 

「大丈夫か?レフィーヤ」

 

 身の丈よりも大きな剣を片手で持ち、ヒュンッと音を鳴らして、血飛沫を振り落とす。

 

 少女が呆然としていた。

 

 グレイは、少女の安全を確認した後、指示に従いすぐにその場を離れた。

 

 後方に侵入した残りのモンスターに肉薄し、大剣を振り抜く。

 

 舞を踊るように、銀の軌跡を宙に描き、残ったフォモール達を全滅させる。

 

「前衛に加勢するよっ!」

 

 いまだに、攻めかかってくるフォモールの大群。

 

 それらを相手に、時には凍てつく冷気を纏った魔法で、鏖殺(おうさつ)

 

 煌く銀の大剣を閃かせ、斬殺。

 

 自身の身体を巧みに操り、磨きぬかれた技術でもって、戦場を縦横無尽に踊り続ける。

 

「........きれい」

 

 ぽつり、と声が漏れる。

 

 先程、グレイに助けられた少女は、その光景に目を奪われる。

 

 それは少女だけでなく、この場にいる多くの者は、その卓越した剣技に畏怖を憶える。

 

「【汝は業火の化身なり】」

 

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 一度も途絶える事なく、紡がれ続けていた詠唱が完成へ至らんとする。

 

「前衛班!直ちに後方へ下がれ!」

 

 間もなく終わりが訪れる。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣ーーー我が名はアールヴ】!」

 

 白銀に輝く杖を振り上げ、ロキファミリアが誇る最強の魔導士、リヴェリアは魔法を発動させる。

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 放たれるは、大炎。

 

 地面から天井にまで届こうかという大炎柱は、フォモール達を次々に呑み込んでいく。

 

 熱気と火の粉が舞う空間は、灼熱の世界と化していた。

 

 

 

 

 現在地、50階層。

 

 多くの冒険者が集う迷宮都市『オラリオ』においても攻略における最前線と言える場所である。

 

 そんな場所にグレイ達、ロキファミリアの面々は安全地帯(セーフティーポイント)である50階層にて腰を休めていた。

 

 ”モンスターが産まれない”特別な場所であり、ダンジョンでも数少ない貴重な場所でもある。

 

 グレイも他の者に漏れず、木に寄り掛かり休んでいた。

 

 「グ、グレイさん!」

 

 自分の名前を呼ばれ、グレイは声の方に視線を向ける。

 

 そこには山吹色の髪を後ろでまとめた少女が立っていた。

 

「さっきは、助けてくれてありがとうございました!いつも....その、迷惑をかけてしまって、すいません....」

 

「迷惑とか思ってもないよ?怪我が無いなら何よりだよ」

 

 レフィーヤは悔いるように、顔を歪めて頭を下げる。

 

 それを察したグレイは、レフィーヤの頭に手を伸ばした。

 

「大丈夫だよ。ーーーレフィーヤはよくやってる」

 

「っ!」

 

 頭を撫でられているレフィーヤは、顔を若干染めた。

 

(あぁ........この人の近くはやっぱり安心する)

 

 レフィーヤに何かあると、兄のように寄り添い、助け、守っているグレイが見せるこの光景は、もはやロキファミリアの日常と化していた。

 

「おい、いつまで続けるつもりだ?」

 

 と、横から声がかかる。

 

「あ、ベートさん!お疲れ様です」

 

 気付くとそこに居た狼人の青年、ベートは半眼でこちらを見ていた。

 

「あ、あの....ベートさんも今日は本当にすいませんでした!」

 

「....」

 

 グレイとベートはロキファミリアの遊撃部隊である。

 

 目まぐるしく移ろう戦場において、団長であるフィンから独断での行動を、唯一許されている2人組であり、団員を助けるために動く事も非常に多い。そのため、レフィーヤはこの2人に助けられる事が多かった。

 

「チッ........、謝るくらいなら一度でも吠えてみせろや」

 

 そう言って、ベートは離れていった。

 

「....私、ベートさんに怒られてばっかりです」

 

「ハハ、....まぁ今のはレフィーヤには資格があるって、認めてるからこそだと思うけどね」

 

「資格ですか....?」

 

  資格とは何の事を指しているのか........。ロキファミリアが食事を終わろうとするその時まで、そのことが頭の片隅から離れないでいた。

 

 

 

 後始末をし、場も片付いたところで、見張り以外のもの達は小さな輪を作って、団長であるフィンに視線を向けた。

 

「今回の”遠征”の目的は、未到達階層の開拓、これは以前と変わらない。けど今回は、冒険者依頼(クエスト)をこなす必要がある」

 

 ここで言うクエストとは、冒険者に発注される依頼の総称である。

 

「内容は51階層、『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取すること」

 

 それを聞いたティオナは、げんなりとした声を出す。

 

「....うぇ〜、面倒くさー。本当にやらなきゃダメ〜?」

 

「派閥の付き合いもある。無下にすることはできない」

 

「....チッ」

 

 リヴェリアの返答に、ベートが舌打ちをする。

 

 ある程度、不満が出尽くすとフィンは話を切り出した。

 

「このクエストには、少数精鋭の班を二つに分け行動する。今から言ったメンバーで編成する」

 

 第1班:アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤ

 

 第2班:フィン、ベート、グレイ、ラウル

 

「ガレス、君はリヴェリアと共に、待機組の守護を頼む」

 

「引き受けた」

 

 ガレスは目を瞑り、頷く。

 

「ラウル、よく見ていてくれよ?」

 

 フィンはそう言って、視線を向ける。

 

「...ウッす?」

 

 その後、数時間の仮眠を経て51階層へと出発した。

 

 

 

 

 

「ベート、グレイ、今回は君ら2人に任せていいかい?」

 

 フィンはラウルを見た後、ベートに視線を向けた。

 

「そういうことか、チッ...行くぞグレイ」

 

「了解でーす。じゃあラウルさん行ってきますね!」

 

 ベートの掛け声と共に、戦闘は始まった。

 

「さて、ラウル。君には伝えなければならない事があるんだ」

 

「えっと....それはどういったものっすか?というか、俺たちは参加しなくていいんすか?」

 

 本来、カドモスとは非常に強力なモンスターであり例え第1級冒険者が複数いたとしても苦戦を免れないモンスターである。

 

 力だけなら、階層主(Lv.6相当)である”ウダイオス”よりも上だとされるほどなのだ。ラウルが疑問に思うのも当然であった。

 

「ああ、それの事だが....君はあの光景を見てもその言葉がもう一度言えるかい?」

 

「....っっ!?」

 

 青年は目の前の光景を見てーーーー絶句する。

 

 それはまさに驚愕の絵図だった。

 

 そう、あまりに圧倒的すぎる。

 

 狼人のベートは、持ち前の俊足を活かしカドモスの周囲を韋駄天のように駆け回る。

 

 一撃一避(”ヒット”アンド”アウェイ”)

 

 Lv.4のステータスを持つラウルですら視認することさえ不可能な程の神速。

 

 ある事がきっかけで、現在Lv.6にランクアップしている”都市最速の片割れ”の敏捷は眼で追う事さえ許されない。

 

「グレイッ!よこせ!」

 

 そしてこの戦場で動くもう1人の影。

 

「どーッぞ!」

 

 こちらも大概おかしかった。

 

 今や都市最速と謳われているベートにピンポイントで魔法を付与し、さらには連携までこなす。

 

 その剣技は、神の絶技だと言われても遜色がないほど美しい。

 

 魔法の汎用性についても同じである。ある時は氷の槍を投攻し串刺しに、ある時は結界を創造して攻撃を防ぎ、ある時は氷剣を創り出す。二刀の大剣は敵の身体を、縦横無尽に切り刻む。

 

 その魔法の汎用性も、素のステータスも、駆け回る俊足も、振るわれる剣技も全てが連携し2人はそれぞれが実力以上の力を発揮する。

 

「ーーーースゲェっす」

 

 ラウルは改めて自覚する。

 

 ロキファミリアには、自分よりも強い冒険者は数多く存在する。自身よりレベルの低いレフィーヤでさえ、状況が整いさえすれば自分は何をしても勝つ事はないだろう。

 

 頂点に君臨する”4人”や幹部。とりわけその中でも異彩を放っているのが、アイズとグレイだった。

 

 ーーー規格外の魔法。

 

 ーーー天才が磨き上げた剣技。ーーー神才が鍛え上げた剣技。

 

 今一度認識させられる、絶対的な差。それを見たフィンは言った。

 

「彼等が、君には遠く見えるかい?」

 

「..........」

 

 全てを見透かす小人族は、青年の心をも見通す。

 

「一つ言おう。僕が今君に見せたいものは”ソレ”じゃない」

 

「っ!!」

 

 ラウルは、心臓が掴まれたように錯覚する。

 

「確かに彼等は強い。その身ひとつで倒して退けるだろう」

 

 勇者は語る。

 

「しかし、彼等は決して万能なんかじゃない」

 

「守りたいもの、全てを救えるわけじゃない」

 

「何故かなど言うまでもなく、明白さ」

 

 勇者は、青年の隣に立つ。

 

「戦場の全てを把握する事は、いくらその身が化け物じみていたとしても決して不可能だからだ。彼等は目の前の強敵と命を賭して戦っているのだから」

 

 けれど、それが出来るものがいる。

 

 戦場を先読みし、正確な指示を飛ばし、支配する。

 

 それがーーー

 

「指揮者....」

 

 ラウルは、思考する。

 

 とてつもなく強力な、手駒がこの盤面にはすでに揃っている。それを生かすも殺すも自分次第。

 

「ああ、それでいい」

 

 フィンは、自身の後釜として選んだラウルを見ながら微笑する。

 

(考えるんだ、ラウル。それこそが指揮を振るものの本懐であり、本質だ)

 

 フィンは、今も繰り広げられている戦闘を見ながら、思いに耽るのだった。

 

 

 

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