男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる   作:ラウラペロペロ部部長

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阿智力男といふ男

 薄暗い部屋の中で、1人の男が居心地悪そうに座っている。部屋の中には比較的ラフな格好をしているその男の他に、黒いスーツとサングラスをした屈強な男も4人ほど直立不動で待機している。

 

 男の目の前に置かれていたコップが空になった頃、部屋の扉が開かれて水色の髪をした女が部屋に入室した。

 

「お待たせして申し訳ありません。では、聴取を始めさせていただきます」

「は、はい」

「本日お話しいただきたいのは”阿智 力男(アチ リキオ)”……2人目の男性操縦者のことです」

「はい、存じています」

 

 お茶、出してあげてと近くの男に言った後に女は口を開いて男への質問を始める。青年の手にはペンと手帳が持たれており、彼の話す2人目の情報を一字一句残さずに記録しようという思惑が見て取れる。

 

「では、彼について知っていることを何でもいいので教えてください」

「分かりました」

 

 女に促されて、男は喋り出す。

 

「初めて彼を見た時は気弱そうな男の子という感じの印象でした。オドオドしてて、ずぅっと親の後ろに隠れているような感じ……分かります?」

「ええ、続けてください」

「そんな感じだったので彼が12歳になるまでは彼についての記憶は殆どありません。ですが、彼が12歳になってからはきっと、誰も彼のことを忘れられなくなったと思います」

 

 少し深呼吸して、男は言葉を続ける。

 

「久しぶりに見た彼は別人でしたよ。身長は12歳……小学校6年生にして170センチメートルはありましたし、その四肢には鍛え上げられた筋肉がハッキリと見て取れました。それに何より彼の首! 頭と同じ位太くて、あれを見た時は驚きましたよ」

「そうでしょうね」

「彼のことで特に記憶に残っていることと言えば、1年前の公園で起こった事件っすね」

 

 ノッて来たのか男は饒舌になって行く。それに比例するかのように女の顔はドンドン険しくなっていく。

 

「去年の7月の終わりに、私達の暮らす住宅街の子供たちが良く遊んでいる公園で子供たちの集団が川に落ちてしまったんですよォ。原因は今でもイマイチよく解ってはいないんですが、それでも一大事ですわ」

「落ちた子供は13人で年齢は平均して10歳。そんな子供が急に川に落ちて、落ち着いて対処できるはずがない。私達大人でも無理だと思います」

 

 男の口がさらに饒舌になって行く。

 

「そんな時、彼が来たんですわ。彼が川に落ちて溺れている子供を見つけてからのことは、恐らく私が死んでから地獄に落ちても忘れることはできないでしょう」

「バッっという音と共に彼は上に着ていた制服を脱ぎ、近くに居た眼鏡の女の子に渡したんですよ。その瞬間、周囲の音が一切消えたんですわ。これ、比喩とかじゃなく本当に消えたんですよ」

「溺れかけてた子供達も、ガヤガヤしていた野次馬達も、悲鳴を上げていた親御さんも、恐らくうるさく鳴いていたセミさえも全員無言で彼を見ていたと思います。なんせそこには筋肉の権化とも言うべき姿の彼が居たんですから」

「お嬢さんは物を持つ時、親指とそれ以外の4本の指で挟むような感じで掴むでしょう?」

「ええ」

「お嬢さんだけじゃありません。この世に存在する人間すべて、そして猿なんかの手を持つ生き物でさえ手を広げて、指で挟むようにして物を持ち上げるんです。そう、彼以外はね」

 

 一息入る。

 

「彼、ピタッと手の指をくっつけた状態で樹に手を当てたんです。太さは1m、高さは10mくらいはあったと思います。そんな樹に手を当てて何をするんだろうって考えてたらね……抜いたんすよ、樹を」

「度肝を抜かれましたよ。でも、そんなのは序の口でした。彼の体、大きくなってたんです。四肢は50cmあるんじゃないかって位太くなっていましたし、着ていた服はズボン以外はじけ飛んでいました。身長も2メートルは越していたと思います」

「そんなんですから周りに居る人間は皆驚愕して口を金魚みたいにパクパクさせてたんすわ。そんなのはお構いなしに彼はその樹を片手で川に投げたんですわ。そして目にも止まらぬ速さで子供達に駆け寄りました。そう、駆け寄ったんですよ!」

「片足が沈む前にもう片足を前に出す……そうすれば水の上を走れるなんて戯言を彼はやってのけたんです。そして自分で投げていた樹に着地して、子供達を全員樹の上に乗せました。そして、その樹を片手で引っ張りながらまた走って陸に戻ってきたんすわ」

 

 男の興奮は最高潮に達しているのだろう。机をドンッと叩き鼻息荒くして言葉を続ける。

 

「陸に戻された子供達に我に返った親御さんは駆け寄って抱きしめていました。泣いていた親御さんも居た気がします。そんな感動的な光景を背に、メガネの女の子に預けていた制服を羽織って、彼はその子と共に公園を去っていきました。そこで私は見たんです、制服を羽織る直前の彼の背中に……鬼が居たのをね」

 

 

 

================

 

 

 

「片手で樹を引き抜いて、水上を走る……にわかに信じられないわね」

 

 男を帰した後、聴取を行っていた女”更識楯無”はメモを見返しながら言う。

 

「それにしても、簪ちゃんの交友関係は把握するようにしていたんだけど……まさかこんなどこの馬の骨とも分からない男が簪ちゃんの周りに居るなんて……簪ちゃんよりも1歳年下だから見逃しちゃったのかしら」

 

 今度からはしっかりとそこら辺も見ておかないと、と一歩間違えれば犯罪者なセリフを吐く日本の暗部の長。しかし、こんなのでも仕事はちゃんとするから長なのだ。

 

「……織斑先生(世界最強)に勝てないと言わせる正真正銘のイレギュラー。どうしてよりによって簪ちゃんと仲が良いのかしらねぇ」

 

 愛しい妹に対して何をするとも分からない存在が、妹と親しくしているなんてお姉ちゃん怖いに決まってる。等とふざけたことを言いながらもこれからどうするべきかを楯無は考える。

 

「とりあえず、簪ちゃんつながりで本音に近付かせて監視しておかなきゃね。なんせ相手は世界最強(織斑千冬)が認めた、正真正銘の世界最強なんだから」

 

 もっとも――

 

 

 

簪!!!! IS学園に行くなら鍛えようぜッ!!!!

「うるさい、やだ」

何故だ!!!!!!

 

 ――警戒する必要は、多分恐らくそこまで無いと私は思うのだが。

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