男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
IS学園入学式の翌日、1組では早速波乱が起きていた。
「決闘ですわッ!!」
「ああいいぜ! 四の五の言うよりわかりやすい!!」
クラス代表を決める話し合いの中で、唐突に決まった1人目の男とイギリスの代表候補生の決闘。そんな面倒臭い事態に若干頭を抱えている教師2人。
そんな惨事が起きているとは露知らず、私は力男を追って走っているのだが。
「うそ、はっや……!? いや、速いのは知ってたけど……でもやっぱ、はっや……!?」
息も絶え絶えになりながら力男を追って走る。50mを4.7秒で走り切った男はやっぱり違う。それはそうと彼女が必死に追ってるんだからちょっとは待つくらいしてほしい。というか授業中に急に教室を飛び出て走り出さないで欲しい。
そんな私の心の声が(当たり前だけど)聞こえないかのように力男は走る。世界最強なんだから息も絶え絶えで言葉を発するのがやっとな彼女の気持ちくらい読心なりなんなりで読み取って配慮して欲しい……やっぱり、私の力男への愛が丸裸にされるのは嫌だから読心はダメ。
「いよっ!」
今まで物理法則を無視してるんじゃないかって程の前傾姿勢で走っていた力男が、急ブレーキをかけてどこかの教室の前で停止する。靴から鳴っちゃいけない音が鳴ってたよ今、踵からブレーキ音だったよ今。
止まった場所は……1組の教室かぁ。嫌な予感がするけどとりあえず。
「やっと、やっと止まっ――
「その決闘! 俺も参加するぜ!!」
問題児め……!」
学校中に響くんじゃないかという大声が私の耳を突き抜ける。
はぁ……授業中に教室飛び出して? そして他の組に乗り込んだかと思えば決闘に参加すると大声で叫ぶ……間違いなく問題児だよこれは。
そんな問題児が大好きでいつも一緒に居る私も問題児か……悪い気分はしない。
「だ、誰ですのアナタ!?」
1組の教室の中からの大声が再び耳を突き抜ける。力男ほどの大声じゃないから大丈夫だったけど、もし仮に力男よりも声が大きかったら鼓膜が破れてたね間違いない。
1組の中を覗き込んでみたら全員が全員力男のことを凝視していた。世界最強もしっかりと力男のことを見ている。そんな中で一際目立つのは先程叫んだのであろう金髪の女子ともう1人の男性操縦者だ。
「やっほ~リッキーにかんちゃ~ん」
「あ! こんにちはのほほん先輩!!」
それと糸目の萌え袖少女の本音。こうして要素だけ並べてみると裏切りそうな要素盛りだくさんだね本音って。
「あれ……お前、力男か……?」
「ん? なぜ俺の名を知っているだ!?」
「力男、多分世界中が知ってるよ? 有名人だし」
男性操縦者って滅茶苦茶レアなんだよ? 力男とそこで今しがた力男の事を呼び捨てにした織斑君しか居ないんだよ? そこらへん理解してるのかな……してないだろうなぁ。
「覚えてないのか? 同じ小学校だった――」
「えぇ……あ!! 思い出した!!」
え、知り合いだったの? と私を含めた全員が驚く。と言うか知り合いを忘れたのかこのバカは。まぁ、バカだから忘れるよね……。
私が1人納得している中で力男は言葉を続ける。
「イキリ剣道部鈍感先輩だ!!!!」
「問題児ィ……!!」
大声でもう1人の男性操縦者をバカにした力男の隣で、私は頭を抱えた。バカが他人をバカにするんじゃないよ……そんなところも私は好きなんだけどね! 私のバカ!
「その呼び方……やっぱり力男だな!」
「あ、前からこの呼び方してたんだ」
よく考えなくても失礼だけど良いのかな? もし良しとしてるのであれば織斑君聖人過ぎない? 少しでも私の専用機の責任を転嫁しようとした事を恥ずべきかもしれない。悪は倉持ハッキリ分かんだね。
割と真面目に倉持技研ヤバくね? と私が半ば現実逃避していると力男が手を打ち鳴らす。
「話が逸れた! 決闘だ決闘!! するんだろ決闘!! やろうぜ決闘!!」
「ま、待ちなさい! 急に入って来たかと思えば大声で喚き散らして……非常識ではありませんこと!?」
織斑君と同じように立ち上がっていた金髪盾ロールのお嬢様が叫ぶ。さっき聞こえた大声はこの人だったのか。
そして力男が非常識だという点は全く持ってその通りだし私も心から同意したい。常識のある人間は壁を走ったりしないからね、うん。
「知らんのか!? 日本の男は決闘が大好きってのは常識なんだぜ!!!!」
「そんな訳無いでしょ……」
そんな訳あってたまるか。日本の全男性が力男みたいなのだったら今頃日本が世界征服を成し遂げてる。
「そんな訳無い、よね?」
「でも織斑君が決闘って言いだしたし……」
「ニッポンのオトコノヒトってクレイジー?」
だから1組の人達はそんな勘違いを止めて欲しい。
まぁ、うん……これくらいの年齢だと普通は異性の事は深くは知らないからそう勘違いしちゃうのも仕方がないかもしれない。それこそ私みたいに2年近く異性に付き纏われるくらいしないと……こういう言い方するとなんか力男がストーカーみたいに聞こえるなぁ。
「いや、そもそもこの決闘は1組の代表を選ぶっていう決闘でな? 俺とオルコットさん以外は参加する意味が――」
「面白い、私が阿智の参加を認めようじゃないか」
「「えェッ!?」」
私と金髪盾ロールのお嬢様の声が重なる。2日目にして鬼教師と一部で話題になっていた織斑先生がこの状況を りつけるでもなく”面白い”と。さらには”決闘への参加を認める”と。
「もちろん、阿智相手の勝敗はクラス代表の決定に計上しない。そして当然だが阿智には勝利したところで何もメリットが無いが……」
「俺は戦えれば十分です!!」
「フッ、そうだろな。では決闘は1週間後の放課後に第1アリーナで行う! そうと決まればさっさと自分のクラスに戻れ!」
「分かりました!!」
そう言って力男はノーモーションで走り始める。また走るのかとウンザリしながら私も走り始めようとしたところで――
「へ?」
――文字通り目にも留まらぬ速さで力男に抱き抱えられていた。
うん……ん? んんんん!?
「り、力男!? なんでいきなり抱き抱え…… お姫様抱っこしてるの!?」
「だって疲れてるだろ?」
「確かに疲れてたけど! この前も言ったけどTPOを考えて――」
「飛ばすぞ! 舌噛むなよ!?」
とりあえず、今夜覚えてろ。それだけ言おうとした私は、しっかりと舌を嚙んだ。すごく、すごくすごく痛い。