男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
時間が経つのはあっという間だ。努めていつも通りであることを意識しながら学校生活を送っていればいつの間にやら件の決闘当日。概ね中学生時代と同じようなことしかしてなかった力男は大丈夫なのだろうか。
「えっと……xをここに入れて計算したらyが出る……答えは-13!!」
「阿智サーン、どうして問題にチットも出てきてないマイナスが出てきてるんですカー?」
大丈夫だね、うん。
「えっとね、まずxをここに入れて計算までは合ってるんだけどこのxは二乗だからそれを忘れちゃいけないよ? あと足し算と引き算を凡ミスで間違えてる」
「解った! ありがとう! ……16万4324!?」
「どこで間違ったんだろうね、そこまでいかれると私にも解らないや」
答えは23になる筈なんだけど……せめてこう、見て解る間違い方をして欲しい。
頭を抱えてる力男の隣で頭を抱えたくなりながらもどこをどう間違えたかを見つけて、そこを正すという事を続ける。出来るだけ本人の力で説かせなきゃ身につかないからね、数学は。
「更識さん凄いよね」
「なんというか、指導力が高い」
「慣れてるんだよきっと」
こうしてなにやらクラスメイトからヒソヒソ言われるのにも慣れてきた。生暖かい視線で中学の時のクラスメイトと同じようなこと言われてるのが解るんだからねちくせう。
この1週間、中学の時と違って授業中に力男の解らないところを教えられるのはかなりありがたいことだと実感した。幸いにも先生方は力男が飛び級をするには足りていない頭脳なのを理解して、私が授業中に教えるのを認めてくれているので遠慮なく教えられる。
それでも、テストを受ければ3割取れれば御の字と言ったところ。むしろ3割も取れるようにした私に泣いて感謝して欲しいレベル。されたら困るんだけどね。
そんな事を考えながら力男に教えていると、今日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。これで帰りのHRが終わったら決闘ですってよ奥さん。
「ハーイ、ジャアこのまま帰りのHR始めマース」
中学時代だったら早く帰れるからとそれなりに嬉しかった6時間目担任の授業からの帰りのHRという流れ。今は早く終わるからそれが憎たらしくてしょうがない。
なにか重大な連絡でもあれば良いのにと思った私を裏切るかのようにそんなものは無く早々に帰りのHRは終わった。決闘ですよちくせう。
「アリーナ行こうぜ!!」
「分かってるから……」
クソバカ大声の力男に連れられてアリーナへ向かう。
1週間前はさ、決闘を応援しようと思ったよ? 今でもそりゃあ応援してる。でも冷静に考えるとさ、代表候補生をここで力男がボコボコにして良い物なのか……って思ったらもうダメだよね。
自国の最新鋭機に乗った代表候補生がISに関してはズブの素人の一般筋肉ゴリラにボコボコにされるなんてことが起こったら……色々問題になりそうな気がしまくりだ。
だから私は決闘が憂鬱なのだ。
「ねぇ、力男……」
「どした!?」
「やるからには、本気でやるんでしょ?」
「そりゃあな!! 向こうも本気だろうし!」
「そっかぁ……なら、頑張ってね」
「応!!」
はぁ……憂鬱だ。
================
最初の試合、織斑一夏とセシリア・オルコットの対戦カードが終わった後。比較的軽症な織斑一夏と阿智力男の対戦カードが組まれるのは至極当然の事であろう。
アリーナに最適化を果たした白式が飛び込んで来る。それと同じくして生身の力男もアリーナの中に飛び込んで来る。
「っておい! ISはどうしたんだよ!?」
人知を超えた超兵器を纏う男の前に現れたのは高校の制服のみを纏った男。その差は歴然であり、その危険性も歴然だ。
「あの馬鹿はもう……」
「2人とも頑張れ~」
全校生徒が集まっている、もしくは見ていると言っても過言ではないアリーナの中で、あのような危険行為を行う力男に対して簪は溜息を吐く。その隣では本音が呑気に2人の応援をしている。
「ISをどうしたかってぇ!? そりゃあ、テンションを上げるためにここで纏うんですよォ!! 先輩!!」
普段とは違い挑発的な口調の力男はそう叫び、右手を左肩に置く。置かれた右手は、着ている制服をしっかり掴んでいる。
そして彼は勢いよく来ていた制服を剥ぎ取り、上半身を――いや、背中に宿る鬼の貌を完全に露にする。
「ご、如く……龍が如くの脱ぎ方だ……!」
物理法則を無視した早脱ぎに、簪は思わずそう漏らす。
力男を横か前方向か……とにかく彼の背中が側が見えない生徒達はムキムキイケメンの上半身が見えたことに黄色い声援を上げる。幸いにも本気状態じゃない彼の体は、まだ顔と合わせて見てもキモくは無い。
対して、彼の背中が見える生徒達はその背中から感じる圧に誰一人として言葉を発せない。いや、悲鳴を漏らした生徒は居たか。
そんな様子を一瞥すらせずに、声高々に彼は叫ぶ。
「お見せしよう! 先輩が焦がれた俺のISをナァ!!」
いつの間にやら彼の手には玩具のベルトのようなものが握られていた。いや、形こそ玩具のようだが色を含めた見た目はそうとも言い辛いか。
そんなベルトを彼が露出した腰に当てれば――
「オー、グメント……?」
――そこには化け物が立っていた。
全身は黒いISスーツのような素材の物で覆われており、さらにその上から拳と腹、脚部のみを最低限な上に攻撃に特化した黒い装甲が覆う。
背中で風に揺れるのは、全ての光を吸収しているのではとすら錯覚する黒いマント。
腰からは黒い装甲に覆われた尾が、眼前の白いISを穿つ機会をじっくりと執拗なまでに窺っているように見える。
そしてその顔はたった今、巨大な赤い複眼を持つ黒いマスクに覆われる。
ジャゴンッっとマスクの口の部分が金属音と共に閉じられる。赤い複眼が怪しく光り、化け物の全身に蜘蛛の巣のように水色の線が走る。
「それが……力男のISなのか……?」
自分のISとは正反対のそれを見て思わずといった具合で一夏は漏らす。
それに対して化け物はファイティングポーズを取り、突き出した右腕を開いてかかって来いと武者を挑発した。