男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
試合開始のブザーが鳴り響く。
「ハァッ!!」
開始と同時に挑発を行う黒い化け物に白武者は吶喊する。
「良いねぇ! 俺好みだッ!!」
音速の片鱗にすら届く速度の白武者を、化け物は正面から迎撃しようと腰を落とす。蠍のような鋼鉄の尾と至高の武器である両の拳が白武者に向けられる。
「うおっ!?」
白武者の攻撃を左手で逸らし、右腕で白武者をぶん投げる。自動制御の鋼鉄の尾の出番は残念ながらなかったため、ちょっとしょんぼりしている気がしなくもない。
化け物によってぶん投げられた白武者は空中に飛ばされる。変な回転をしてしまったために姿勢制御が間に合っていないようで無防備を晒している。
むろんそこを逃す化け物ではない。
「じゃあ次は俺だ!!」
ドンッと化け物が踏み込んだ瞬間アリーナ全体が震え、その次の瞬間には既に化け物は白武者の背後でその拳を振りかぶる。赤い複眼はしっかりと白武者を捉え、鋼鉄の尾が白武者の足に巻き付く。
「ヤバ――」
掛け声なんてものはない。ただ無言で放たれた右ストレートが白武者の顔面に突き刺さる。
ISに搭載されたPICによって自動的に反作用を消されたその右ストレートの威力は強烈であった。具体的には殴った本人が引っ張られて一緒に地面に叩きつけられるくらいには。
とりあえず
「なんかタオパイパイみたいになった!!!!」
「それだと俺が丸太になるんだよ――なッ!!」
自身の上に立つ化け物に対して白武者は即座に攻撃を行い、化け物はそれを思いっきり踏みつけて跳躍することで回避しつつ攻撃する。
跳躍中、化け物の背中が白武者に向いたタイミングでその背中から4本の副腕が展開し、さらにその先に2丁のガトリングと1丁の機関銃、そして1丁のリボルバーが展開され地上の白武者へと発砲する。
8本の手足を持つ化け物はさながら蜘蛛のようだ。
「なんかこれスゲェ背中がくすぐってぇ!!」
エゲツナイ弾幕を背中から張りながら化け物は着地する。副腕は大きく伸びて曲がり、前方で回避行動をとる白武者へと狙いを定め続けている。
ちなみに普通であれば射撃の反動的に立つこともままならないはずだが、この化け物は自力で平然と立っているのでやっぱり化け物だ。
「嘘だろ!? あの見た目で射撃機体なのかよ!」
見た目が完全に特撮の怪人である機体の背後から生えて来る超兵器の類の武装。そしてそれから吐き出される光景と威力のイカれた弾丸達。見た目とのアンマッチさがかなりある。
しかも弾幕をばら撒きながら吶喊を行っているのだからもう笑うしかないだろう。
「いいなぁコレ!! 物量ってのは良いもんだぜ!!!!」
「ズルいぞお前! 俺なんてブレオンだぞ!!」
しかも頼みの綱である零落白夜は、この化け物相手では恐らく装甲で防がれるか避けられる。恐ろしいほどに手札の数が違いすぎる。
「使えるもん全部使うのが決闘ってもんだろうが!!」
「クッソ割と同じ思想持ってるから否定できねぇ!?」
弾幕をばら撒きながら吶喊してくる化け物に対して、白武者は大きく踏み込み刀を振り下ろす。
「再放送かァ!?」
「いいや違うねェッ!」
試合初めと同じように左手で逸らされた刀。しかし、それと同時に放たれた脚は今まさに殴り掛かっていた化け物の顔面に綺麗に突き刺さる。
「――そう、こなくっちゃァナァッ!!」
いつの間にやら背後に展開されていた武装は消え、鋭利な副腕と鋼鉄の尾が臨戦態勢を取る。
爆音と共にアリーナ全体が揺れ、足元を捲り上がらせて化け物と白武者はもみくちゃになりながらアリーナのシールドに着弾する。
「ISにあるまじき肉弾戦してるよ……」
「がんばれ~!」
お互いに壁に押し付け合い、拳と刀がぶつかり合う。どうやら密着状態で戦うことに関しては化け物の方が上手のようで、白武者が4回斬る頃には化け物は5回は殴っているし、白武者の刀は半分が避けられるか防がれるかしている。
そんな様子が文字通り目の前で繰り広げられていることに簪は呆れ、本音は変わらず応援を続ける。
「ああもう! しゃらくせぇ!!」
互いに互いを壁に殴りつけて20秒程経ったころ、痺れを切らした化け物がアリーナのシールドに両の足を付ける。その際左腕は白武者の首根っこを掴んで離さない。
「これでぇ……終いよォ!!!!」
先程にもあったが、化け物のパンチは強烈な威力を誇る。それが何も考えていない適当な物であったとしても、超兵器であるISにダメージを与えられるほどには強力だ。
もし、その化け物が本気でパンチを撃ったらどうなるのか? その疑問の答えはアリーナの観客の前に広がっていた。
試合終了のブザーが鳴り響く中、アリーナの中は砂埃で不明瞭だ。観客にとっては最後の瞬間、化け物が白武者を殴った瞬間を見た次の瞬間には砂埃なのだからもう何が何だか分からないといった感じだろう。
目が慣れている簪を除いて、とは前に付くのだが。
「うわ~……おりむー大丈夫かな~?」
「ISがあるから死にはしないと思うけど……あそこまで綺麗にストレートが刺さってたからノックアウトはしてるんじゃない?」
「かんちゃん見えたの!?」
「え、うん……いや、見えるのおかしいのか」
PICによって無駄な力を消された音速を超えるパンチ。人間の目には到底捉えきれないであろうその拳を視認できた簪は控え目に言って化け物である。
そのことをちょっぴし自覚した簪は溜息を吐いてから愛しの化け物を出迎えに行こうと観客席から立ち上がる。
「愛しの彼氏の出迎え~?」
「そうだよ」
「へ、へぇ……」
揶揄うようにして聞く本音にさも当然と言った具合で返して簪は観客席を後にする。残されたのはあまりにも自然に肯定されたために何故か恥ずかしくなってしまい、少し顔を赤くした本音だけであった。