男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
男はこの世界の人間では無かった。男は世界から追い出された存在であった。
男は鍛え過ぎたのだ。鍛えに鍛え、鍛え過ぎた結果……男は元居た世界から追い出され、今いるこの世界へと流れついた。
そんな事が起こっても男は鍛え続ける。目指すは憧れの男達、そして世界最強。
自分が既にそこそこぶっちぎりで世界最強な事実は気にしないのだ。と言うかアホだから気付いてないのだ。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!! あ、シュウさんおはようございます!!!!」
「あら、おはよう力男君。今朝も元気ねぇ、頑張ってね」
「ありがとうございます!!!!」
馬鹿が馬鹿でかい声で叫び、道行く人に挨拶しながら投稿する。彼の走り去った後には小さな竜巻が発生しているが、その竜巻すら力男の背筋が放つ衝撃波で消滅する。
突然だが人間が水上を走る為には1秒間に20回は水上を足で叩かなければならない。
だが、樹を引きながら水上を走る事の出来る力男は秒間40回は地を踏みしめることが出来る。彼の巨大な身長から彼の歩幅は1.5mッ! 故に彼の最高速は秒速60m、時速にして216kmにも及ぶのだ!
最も、最高速に至るまでの加速にも相応の時間がかかるため50m走などは精々世界記録を2周り更新する程度である。
そんな馬鹿げた速度で走る力男に対して、至って普通に対処するのがこの街の住人だ。もはや名物になってるまである。
「おはようみんな!!!!」
「――――――――――」
「……?」
教室の扉を開き、普段通りの声で挨拶をする力男。それに対して誰もがシーンとした教室内。全員が全員、力男の顔を見て唖然としている。
10秒ほどたって、クラス全員が力男に駆け寄る。
「おおおおおおおおお前!? どうして学校に来れたんだ!?」
「政府の人が阿智君は政府で保護するから学校には来ないって言ってたよ!?」
「お前マジでISの適正あったのか!?」
「ああ! 適性はあったししっかり終了式まで居るぞ!!」
先程とは打って変わって大騒ぎとなった教室。力男のクラスメイトだけではなく別のクラスからも野次馬がやって来ている。
「力男君! 保護の件はどうなったの?」
「ん!? ああ! 俺より強い奴が居れば保護されてもいいと言ったんだがな!! 皆俺より弱かった!!」
「「「でしょうねェ!!!!」」」
政府の人間の名誉ために言っておくが、彼らも強い。一般人20人相手なら余裕で勝利できるくらいには1人1人が強かった。
ただ、世界中の人間が寄って集ってようやく瀕死になるかもしれない男相手に、たかが一般人20人を倒せる人間数十人では分が悪かったのだ。力男に勝つためには織斑千冬と篠ノ之束にISを持たせて協力させるくらいはしなければならないだろう。
「それじゃあ! かんざs――更識先輩に挨拶しに行って来る!!!!」
「おう、行ってらー」
「やっぱり行くのかぁ……」
荷物を置いて、危険にならない程度で教室を出た力男の背中を見てクラスメイト達は言う。力男が簪に毎朝襲撃――もとい、挨拶しに行くのは彼らにとってこの2年ですっかり見慣れた光景である。
「やっぱり、更識先輩の事好きなのかな、アイツ」
「甘いわね男子! あれはむしろ無邪気に距離を詰める純粋後輩男子にドギマギしてるクール系先輩女子って感じよ!」
「更識先輩が力男君の事好きって結構女子の間じゃ有名だよ~」
「男子の間じゃ力男に恋愛の概念がない説が主流だぜ!」
念のため言っておくが、力男は恋愛への興味とか性欲とかは普通にある。むしろ人一倍どころか2倍くらいはあるだろう。
さて、ところ変わって3年生のとある教室では力男の話題で持ちきりだった。お察しの通り、簪の在籍しているクラスである。
こちらでも2年ですっかり見慣れた光景となった朝の爆音挨拶魔こと力男の襲来。しかし、昨日のIS適性検査の結果から今日は力男が来るのかどうかという話がされている。
「まぁ、どうせ来るんだろうけど」
「来るだろうね~」
ボソリと、誰に言うでもなく簪は呟き、それに彼女の親友である本音が相槌を打つ。そしてその2秒後に爆音で扉が開き、力男が笑顔で言う。
「おはようございます!!!! 簪――更識先輩!!!!」
「そこまで言ったら言い直す意味無い……」
「おはよー、リッキ~」
「おはようございます!!!! のほほん先輩!!!!」
毎朝恒例となった爆音挨拶によって今日も学校が始まるなぁ、と実感する簪のクラスの面々。
「あ~……おはよう、力男君」
「はい!! おはようございます!!!! それじゃあ昼休みに!!」
挨拶を終えた力男はいつものように爆速で自身の教室に帰る。2年間毎朝挨拶のためだけに簪のクラスに力男は来るのだ。これで簪に恋愛感情を持っていないのだから、力男に惚れてしまっている簪が可哀そうである。
「……かんちゃん本当にリッキーと付き合って無いの?」
「は!? あ、いや……」
唐突な親友の言葉に思わず大きな声を出してしまい、委縮する。そしてブンブンと手と首を振って否定する。
「ま、
「へ~……」
この様子だとまだ進展は0に近いだろうなぁ、と本音は考える。自分の主である楯無の命令とは言え親友の恋愛事情に首を突っ込むのはやはり罪悪感が……
(まぁ、女の子はコイバナ大好きだから良いかな~)
罪悪感など、無かったのである!
================
昼休み 力男と共に 昼ご飯
更識簪
「何考えてるんだろうな、私……本音も居るのに」
「美味い!!!!」
「いよっリッキーいい食べっぷり~」
「ハッハッハッハ!!!! 褒めても何も出ないっすよのほほん先輩!!!! 飴ちゃんあげる!!!!」
「やったぁ~」
親友を餌付けする想い人と、想い人に餌付けされる親友を見ながら昼ご飯を食べる。これがNTR……それもBSSというモノかぁ。
いや、別に力男と本音にそんな気が無いのは分かっている。ただ、やっぱりモヤモヤしてしまう……私、嫌な子だなぁ。
「どうした簪!!!??? 暗い顔して!!!! そういう時は筋トレだ!!!!」
自己嫌悪に陥りかけた私に心配そうに聞いてくる力男。相変わらず凄い量を食べるのに一口が小さいなぁ……可愛いなぁ……まぁ、それはそうとして――
「やだ、しない」
「何故だ!!!!」
そんなの力男のために決まっている。私は知っているのだ、目の前のこの男がどちらかというとか弱い可愛い系の女子が好きなタイプな事を。力男のクラスメイトの女子と男子両方から聞き出したから間違いない。
我ながら必死過ぎだと思う。力男の好みに合わせるために髪だって伸ばし始めたし……重い女なのかなぁ、私。
いや、それがどうした更識簪! この前どんな手を使っても力男とコイビトになると決意を決めたばかりでは無いか! 幸いにも推薦でIS学園には合格しているから受験勉強の必要は無い。だから卒業までにどうにか私を意識させて……
……卒業式に、一世一代の告白するのだ。
「うん、頑張ろう」
「筋トレを!?」
「違う」
「俺は悲しいぜ!!!!」
私を意識するようになったら、力男は私に筋トレをするように言うのはやめるのかなぁ……いや、力男だし言いそうだ。私にはわかる。
伊達に2年間一緒に行動してないのだ。もはや力男の行動が大体読めるレベルで力男のことは分かるし。
……やっぱり私は重い女だ。