男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
何時間経っただろうか。もう軽く2時間か3時間はこうしてスマホと睨めっこを続けている気がする。
「日曜日空いてる? って聞くだけなのに……私のヘタレ」
文面を考えるのに1時間。後は送信ボタンを押すだけの状態で1時間……いや、もう2時間か。本当になんで私は本当にッ!!
「えいっ!!」
このままウダウダして居たって何も進まない。そう決意を決めて、目を瞑って送信ボタンを押した。
暫くしてチラリと確認すると、力男とのチャット欄に緑色の吹き出しが1分前に表示されている。
{今度の日曜日、空いてる? 空いてたら一緒にお出掛けしない?}
無難なはずだ。ああ、無難なはずなのだ。なのに不安で手の震えが止まらないのはどうしてだろうか。
「……既読、付かないなぁ」
3時間経つのは一瞬だったのにこの2分間は異様に長く感じてしまう。私ってこんなに単純な人間だったのかと改めて自覚する。重くて単純とかラジウム原子かな?
布団の上で足をパタパタと上下させながら、羞恥から勝手に声を出す口を枕に埋めて力男からの返信を――その前に既読を待つ。
さらに5分ほどたった頃、無音ながらに今の私にとっては何よりも目立つ”既読”の文字が先程の吹き出しの横に付いていた。
そして、それに喜ぶ前に緑の吹き出しが1つ上に流され、反対側に白い吹き出しが現れる。
{オッケー☆⌒d(´∀`)ノ}
相変わらず古い顔文字を使ってるなぁ、なんて一瞬考えて、OKされたという事実に気付いて思わずスマホを放り出す。そして、枕を抱いて足をバタバタと上下させて喜びの衝撃を逃がす。
あまりにバタバタさせ過ぎて、少し息切れしてきたあたりで枕を手放してゴロンと仰向けに寝転ぶ。
「やった!」
そして、小さくガッツポーズをして珍しく(私にとっては)大きな声で喜びを口にする。
どんな服を着ようか、何をしようか、どこに行こうか……今からとても楽しみだ。
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「……早く来すぎちゃったかな」
集合場所と決めた駅の前で力男を待つ。集合時間まであと30分……早く来すぎたとかそういうレベルじゃない気がする。日曜日なのに特撮を録画で済ませてリアタイで見ないなんて私も変わったなぁ。
「それにしても、見られてるなぁ……」
周りから絶えず感じる視線。その理由は悲しいことに明白だ。
チラりと近くのガラスを見れば、綺麗に着付けられた着物を身に着けた自分の姿……こんなの目立つに決まっている。
日曜の朝早くのため、人通りが少ないのがせめてもの救いだけど……陰キャの私にはその少しの視線ですら辛い。溶けちゃいそうだ。
うぅ……デートの服装をお祖母ちゃんに相談なんてするんじゃなかった……確かに綺麗だけどこれはちょっとまだ恋人じゃない人相手だと引かれる気がする。折角のデートなのに、ちょっと気分が沈んでしまう。
「……ちょっと、怖いなぁ」
「あ!! おはようかんざ、し……」
急に後ろからいつもの爆音挨拶が聞こえてきたかと思えば、いつもと違って尻すぼみしていく。もしかしなくても引かれちゃったかな……と声のした方向を振り返ると、唖然とした様子の力男が居た。
いつも見ている学生服とは違ってしっかり自分のポテンシャルを理解した服装の彼に思わずキュンとしてしまうが、残念ながら今はこの胸の高鳴りを堪能できる気分ではない。
「……」
「……」
近付いてきた彼との無言の時間が辛い。きっと力男の事だから私の事を傷つけないような言葉を探しているのだろう。いくら彼が一般に大和撫子と言われるような女性が好きとは言え、やっぱり付き合っても居ないのに着物は気持ちが悪――
「あのっ! えっと……その、滅茶苦茶綺麗っつーか……その着物めっちゃ可愛いと思う……っす」
「ミ゜」
いつもあんなに馬鹿みたいに大きな声で喋るくせにいっちょ前に恥ずかしがって声が不安定になってて……そんなの本心だって解っちゃうに決まってるッ!
反則だ……反則だ反則だ反則だ反則だ反則だ反則だ――反則だァッ!! ああもう、さっきまでとは違う生温い視線が嫌だ! 辛い! 恥ずかしい!
「い、行こ!」
「う、うっす!!!!」
周りからの視線に耐えかねて、力男の手を握り目的地の公園へと歩き始める。
気を取り直して、今日は桜の綺麗な公園でお花見デートだ。卒業式まであと1週間と言うところでの開花なので卒業式には散ってそうなのが残念だが、デートの口実にできたのでプラマイゼロどころかプラスだ。ありがとう日本の四季。
「えっと……今日はどこに行くんだ?」
「この近くの公園。そこでお花見する」
「え!? そうならそうと言ってくれたら準備したのに!! 俺最低限しかもの持って来てねぇ!!!!」
「大丈夫、私が持ってきたから」
事前に言わなかったのは少し不親切だったかもしれないけど……ちょっと驚かせたい事があったから仕方がない。
何を隠そう、今日はお弁当を作ってきたのだ。勿論事前リサーチとして、普段から力男が食べているお弁当の献立をしっかり記録して食べれる食材や料理を調べた上で彼のお母様に好きな食べ物やアレルギーまで確認した。
勿論材料も殆どがお高いものである。久しぶりに自分が
「ふふっ」
「?」
この点に関して、私は完ぺきだ! これで少しくらい力男も私の事を異性として意識してくれるはずだ。卒業式まであと1週間……割と真面目にここが正念場だ。
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最悪だ、と簪は思った。しばらく2人で歩いて、ようやく最初の気まずさが消えてきて、ようやく雑談できるようになった時に彼女は気付いてしまったのだ。自身の姉が自分達を尾行していることに。
一切の気配を消して完璧な尾行を行っていた姉だが、慣れない着物でフラついた簪を、力男が支えた時に漏れた敵意を仮にも日本政府直属暗部の娘である簪が察知できない訳が無かった。
これには華麗に自分を助けてくれた力男に対する胸キュンが一瞬で冷めてしまうレベルで簪はガッカリした。
どうして姉は私に付き纏うのか。私から力男を取り上げようとでもしているのだろうか。そんなのって無い、自分は何もかも持っているのに、私の大事な彼さえ奪うのか。
簪のマイナス感情が暴走し、自己嫌悪や不安に精神が苛まれ始めた瞬間。
「すまん、口と目を閉じててくれ」
普段の大きな声とは違い、凛とした声で言う力男。彼は自分の着ていた青のカジュアルスーツを簪に被せて、ポケットから自身のスマートフォンを取り出す。
この瞬間、自己嫌悪や不安が全て吹っ飛び幸せと困惑で簪の精神は完全に掌握される。下手したら自分の胸よりも大きさのある胸筋や、自分を抱き寄せる腕の筋肉……特に頬にあたる上腕二頭筋の感触。そして何よりも力男の匂いによって幸せと困惑はさらに加速する。
そして、簪の精神がトリップしている間に力男は行動を始める。
彼の筋肉が察知した追跡者の方向に、簪を抱き寄せた手とは逆の左手で持っていたスマートフォンを高速回転を加えて投げ飛ばす。圧倒的な筋力によって投擲――否、射出されたスマートフォンは遠心力によって即座に分解され、細かい散弾となり簪の姉……更識楯無に襲い掛かる。
「ちょっ!?」
しかし、流石楯無の名を持つ者だけはある。彼女はギリギリでスマートフォンの散弾を回避し、一瞬離した視線を2人に戻す。
「居ない、ですって――!?」
そう、居ないのだ。先程までそこにいたはずの2人が影も形もなく、忽然と居なくなっていた。
「この一瞬で一体どうやって……」
思わず呟く楯無。ふと振り返ってスマートフォンだったものを見れば、全てがコンクリートに突き刺さっていた。もしも避けれていなかったらと想像してゾっとする。
そして、これら一部始終を見ていたとある外国人の男性はポツリと呟いた。
「Is he SpiderMan?」
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「簪!! 着いたぞ!!」
「えへへ……――えっ!?」
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 私はお姉ちゃんに尾行されてると思ったらいつのまにか公園についていた……! 多分、筋肉で何とかしたんだろうなぁ。
とりあえず、どうしてこの一瞬で公園に来れたかについては気にしないでおくことにする。なんかSAN値が削れそうだし。
カジュアルスーツを力男に返して……改めて力男の全身を見る。メンズスキニーとワイシャツと言うシンプルな服装にカジュアルスーツを合わせたコーディネート。そしてもれなく全ての服が筋肉でパッツンパッツン……
もしかしなくても私よりも色気があるんじゃないだろうかこの後輩。
現国の先生が言っていた哲学的なエロと言う物が理解できた気がする。今ならダビデ像の価値だって解ると断言できる。
「ほら!! 行こうぜ簪!!!! 早くしないと場所が取られちまう!!」
「ふふっ、そうだね。行こうか」
そんなカッコよくてエロい恰好をしているのに、相変わらず子供っぽい彼に思わず笑ってしまうのは仕方が無い事だろう。
今度は私が手を取られて、公園内へと歩き始めた――
今更だけど手繋いでる!?