男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
今日はついに卒業式……本当なら今までの思い出を思い返して少しセンチメンタルな気持ちになるのだろうが、ちょっと今の私はそれどころではない。
「更識さんソワソワしてる……」
「やっぱり阿智君に告白するのかな?」
「俺、オタク君の気持ちが解った気がする……これが、尊い?」
「そう、それが尊いだよ武藤君」
クラスメイトが何か言っている気もするが頭に入ってこない。IS学園の入試の時よりも緊張する。
今日私は、卒業式が終わった後に……告白、するんだ。力男に思いを伝えるんだ。
うぅ……ずっと心臓がバクバクしてる。ウィザードの変身ベルトよりもうるさい気がする……というかうるさい。止めてしまおうかな?(混乱)
「……緊張、するなぁ」
まさに一世一代の行動だ。世の中で中学生にして何度か告白してる女子って本当にすごいと思う……でもその回数別れてるって考えたらそうでも無いかな。願わくばこの告白が、私の人生最初で最後の告白であって欲しい。
「はーい、みんな廊下に番号順2列で並んでー! 体育館行くよー!」
担任の先生の言葉にハッとして席を立つ。とりあえず、今は一生に一度の中学生の卒業式を堪能しよう。堪能って言い方はちょっとおかしいとは思う(自問自答)。本当に混乱してるなぁ、私。
「そっかぁ、今日で卒業かぁ……」
「ちょっと美也子~! まだ卒業式始まってないのに泣かないでよ~!」
周囲に意識を向ければ、既に泣いてしまっている女子や相変わらずヘラヘラとしている男子。本音の方に目を向ければ、どうやら彼女も泣いているようだ。その様子を見て居も涙の一つも出ない私は薄情な人間なのだろうか。
綺麗に並んで体育館に入る。数回行った予行練習通り、キッチリ綺麗に整列して軍隊のように行進して椅子に座る。こういう所に日本人っぽさが出るのだろう。
ふと、在校生の席を見た。彼を探すが見当たらない……彼の出席番号からしているはずの場所には空席が置いてある。
まさか、来ていない?
嫌な想像が溢れ出そうになる。ま、まぁ極論家に行って告白すればいいのだから問題は無い。無いったら無い! よって無問題だ。
……まぁ、卒業式に校舎裏で告白というロマンチックなシチュエーションに憧れが無いと言えば噓になるのだけども。
「かんちゃんリッキーの席の方見てるね~」
「ちょっと残念そうな顔してる気がする……やっぱり告白するつもりだったのかな?」
「居ないね、阿智君」
後ろの方で本音を含めた数人がコソコソと話している声が聞こえて来た。なにやら嫌な予感がする……私ってば今日嫌な予感を感じ過ぎだ。
そんな私の嫌な予感はよそに、卒業式は恙なく進行する。1人1人と席を立ち、檀上まで行き、卒業証書を受け取り、1礼をして檀上から席に戻る。みんなに続いて、名前を呼ばれた私も返事と共に席を立ち、壇上に向かう。
「3年F組、更識簪。あなたが本校の教育課程を全て終了した事をここに証します。以下同文です」
卒業証書を受け取って礼をする、そして壇上から降りる。ふと来賓席を見ればお祖母ちゃんとお姉ちゃ――んと目が合いそうになったので、思わず顔を伏せてしまう。
色々と思うことはあるが、とりあえずお花見デートの時に尾行して来たのは暫く許す気は無い。いくら泣いていたって許す気は無いのだ……恥ずかしいから止めて欲しいなぁ。
席に戻って、張りつめていた緊張を解いて息を吐く。予行演習していたとはいえやっぱり緊張はする。ここで失敗したら陰キャの私は視線だけで粉微塵だ。
「続きまして、在校生代表の挨拶です。在校生代表、阿智力男さんお願いします」
「はい!!!!」
……マジで? え、居て嬉しいとかそういう前に心配。本当に心配。
卒業生、それも私のクラスがザワザワとしているのは十中八九、力男が在校生代表の挨拶をするからだろう。
そんな私達の心配をよそに、力男はいつも通り自信満々に胸を張って歩いて壇上に上がる。こういう時自信満々なのってすっごいフラグに見えるから本当に心配だ。
「……卒業生の皆さんおはようございます! 私です!!!!」
マイクがあると言うのに相変わらずの大声に卒業生の中から笑いが起こる。
これはダメかもわからない……と思ったが、そんな予想と反して完璧に挨拶は進む。こういう時、しっかりキメられる所とか本当に大好き(脳死)。
私の脳が焼かれている間にも、挨拶は続いて行く。5分か10分経った頃、手に持っていたカンペを置いた力男が先程までとの真剣な顔から打って変わっていつもの笑顔に変わる。
「最後に!! 後輩から先輩へのアドバイスを一つ!! 鍛えましょう!!!!! 筋肉は裏切りません!!!!!! では、ありがとうございました!!!!」
パチパチと拍手が体育館に溢れる。もちろん私も拍手を忘れない。
これで卒業式は終わり。私にとってはこの後が本番だ……うぅ、やっぱりドキドキするなぁ。
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桜の花びらが宙を舞う。1週間前に卒業式には散って居そうだと思っていたが、思いのほか残って居てくれて良かった。
これから告白して、成功しても……あまり考えたくは無いけど、フラれたとしても。きっといつの日か甘酸っぱい青春の思い出として思い返すことが出来るようになるのだろうか。
彼のクラスの子にお願いして校舎裏に来てくれるように伝えてもらった。もう後戻りはできない。
卒業式という一大イベントに校舎裏に異性に呼び出される……多少、勘が悪くても告白だと察せるだろうけど、まぁ多分彼は気付かないだろう。バカだし。
「……まだ、かな」
風に吹かれるスカートを抑えながら呟く。もうこの制服を着ることも無いのかと思うと少し胸が締め付けられるような感覚がする。けれど、涙は出ない……私って薄情な女だな、やっぱり。
どれくらい経っただろうか。彼のクラスメイトの子に頼んでから5分、校舎裏に来てから3分くらい経っただろう。ふと、特徴的な足音が聞こえた。
異様な重さのある足音……そんな聞きなれた足音の方向を見れば力男が歩いて来ていた。過去最高に心臓が高鳴る。心拍数も心音も今ならギネスブックにだって乗るだろう。
「あ、簪――更識先輩!!」
「簪って言っちゃってる……」
いつものように私の名前を言ってから、学校では名字で呼んでという私からのお願いを思い出して言い直す。もうちょっと早く気付いてくれたらいいんだけどなぁ……そういうちょっと鈍い所も好きなんだけど。
「それで、何の用だ!!!??? 決闘か!!!!????」
「決闘って……今時そんなことする人なんて居ないよ?」
どこかの金髪女子がクシャミをした気がした。
「じゃぁ……なんだろ?」
力男は私の返答に不思議そうにする。本当に微塵も告白だとは思っていないようだ。ちょっと女としてのプライドが傷付いた……気がする。
まぁ、良い。これからフラれれば女のプライドどころか精神が吹っ飛ぶのだから問題ない。それに、お付き合い出来たら女のプライドなんて一瞬で回復するし大丈夫だ。今更小さな傷なんて気にしてられない。
「……ふぅ」
息を整える。不思議と心臓の高鳴りは鳴りを潜めた気がする。いや、これは力男に集中しすぎて他の全てが認識できていないのだろう。恋は盲目とはこのことか(違う)。
よし、覚悟は決めた、やるぞ。
「阿智力男さん」
「は、はい?」
「ずっと……ずっと前から好きでした。こんな私で良ければどうか付き合ってください!!」
「は――――」
言った……言ってしまった。お辞儀して右手を差し出すテンプレ中のテンプレの格好もしている。テレビや漫画、アニメでよく見たなぁと関係ないことを考えてしまう。
彼は、力男は今どんな顔をしているのだろうか? 見てみたいけれど見たくない。彼に引かれていたらと考えるととてつもなく恐ろしい気分になる。
数秒、本当にほんの数秒……だけど、私には数分にも数時間にも感じられた。
私の手が、彼の大きな手に握られる。思わずバッと顔を上げれば、頬を朱に染めた力男が恥ずかしそうにしながらも、しっかりと私の手を握っていた。
「お、俺なんかで良ければ!!」
彼らしい肯定の言葉。いつものように馬鹿みたいに大きな声で彼は言う。
「……あ」
彼が私の告白にOKを出したと脳が認識出来た瞬間。力が抜けて崩れ落ちてしまう。
力男が私を抱き寄せて支えてくれたが、足がガクガクして支えられていても立つのが難しい。
ポロポロと目から涙が零れるのが分かる。今日でこの学校とお別れという事実に先程とは違い涙があふれる。力男と恋人になれたという事実に更に涙があふれる。
「あ、ちょ!? な、泣かないで……」
「ご、ごめんね……でも、でも……うれしくて、かなしくて……」
我ながら言葉がまとまらない。力男よりも年上で、先輩なのに彼に背中をさすられながら泣いてしまう。でも、幸せで自然と笑ってしまう。
ああ、きっと私は明日には今日のことを思い出したくも無いと思うのだろう。恥ずかしいと考えてしまうのだろう。しばらくお布団から出てこれなくなってしまうかもしれない。
だけど、1年後か10年後かの、いつの日か。私はこの日のことを笑いながら思い返せるようになる。
だって、こんなにも嬉しくて、悲しくて――幸せなのだから。