男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
ざあざあと雨が降る。荒れ模様な空を見ながら今日はさすがに簪は来ないだろうと力男は考える。そんな事を考えながら両足で天井に張り付いて腹筋しているのが世界最強の中学生である。
「29998……29999……30000ッ!!」
日課後の暇つぶしに行っていたトレーニングを終わらせて、クルリと天井から降りる。こんな筋肉馬鹿でも可愛い彼女が出来るのだから驚きだ。
次はどんな
咄嗟に愛用のカジュアルスーツを手に取った力男は、自室の窓を開け放ち外へ飛び出す。平然と2階から飛び降りているが膨大な筋肉の前に重力加速度なぞ無力なので問題は無い。
飛び降りてすぐに家の敷地から飛び出して道に出る。
「か……簪ッ!!!!????」
「……」
まだまだ肌寒い3月末。それもかなりの大雨の中、彼の恋人である簪が傘もささずに歩いていた。雨に濡れて乱れた髪で顔は見えないが、明らかに血色が悪く震えている。
「えっとどうし――言ってる場合じゃねぇなこれ!!!! 後で殴って良いからすまん!!!!」
「あ……」
持っていたカジュアルスーツを簪に被せて、片手で抱き上げて飛ぶ。先程開けた自室の窓にキレイにホールインワンして暖房の温度を上げて窓を閉める。
このままではまだまだ寒いだろうからと、濡れているカジュアルスーツと簪の上着を脱がせて上から毛布をかぶせる。
「タオル……持ってくるから待っててくれ」
「……」
あまり大きな声を出すのが良くないかもしれないと、力男は声を落として簪に語り掛ける。
簪が僅かに頷いたのを見て、力男は部屋の扉を勢いよく開いて1階に飛び降りる。部屋の目の前から飛び降りてすぐ目の前に風呂場がある事に感謝しながら、力男は何枚かタオルを手に取る。洗濯したててでどれもフッカフカのモッフモフで良い匂いだ。
何枚かのタオルを回収し終えたら風呂場から出て垂直に飛び上がり2階に上がる。そうしたらその勢いのまま部屋に飛び込んで着地する。部屋を出てから戻るまで実に6.43秒での出来事であった。
「ほら、タオル。これで体を拭いてくれ」
「…………ん」
タオルを受け取った簪は、ポタポタと水の滴る髪をタオルで拭き始める。その間力男は部屋に置いてあった保温ポットを手に取り、いつの間にか置かれるようになっていた簪のマグカップにお湯を注ぐ。半分くらい注いだら一旦止めて、適量のココア(味のプロテイン)を中に入れて少し勢いをつけてまた注ぐ。
シェイカーに入れて振ると、万が一にも零したときが怖いのでこうして零れにくい方法を取ったのだ。あとはスプーンで軽く混ぜて完了だ。
「粗ココアですが……」
「……ふふっ、ありがとう」
ようやく笑った簪に、ホッとした顔でココアを渡す。ホッとした顔でホットココアをわた――(以下略)
髪を拭き終えた簪は、受け取ったココアに口を着けてズズズと啜る。そして、ほぉっと冷えた体に暖かさが広がっていくのを感じて吐息を漏らす。
「……そうだ服!!!! どうしよ俺のしか貸せない!!!!」
「力男の服……うん、力男の服で良いよ」
「マジで? 良かった!! じゃあ服はここに入ってるから!!!! 着替え終わったら言ってくれ!!!!」
思い立ったが吉日どころか思い立った時には行動が力男の常である。故に、自分の服でも良いと簪が言った瞬間にはすでに扉を開いて外に出ていた。そして、言い終わった瞬間に扉を閉める。
ようやくいつもの調子に戻りつつある力男を見て、彼の自分への思いやりを感じた簪は、ポワポワと幸せな気分になる。と、なると体の寒さが目立ってきてしまう。
早く拭いて着替えようと、着ていた服を脱いでいく。
「……やっぱり、力男も大きい方が良いのかな……?」
簪は自身の膨らみを見て思わず呟く。自分のモノが一般的に大きい方なのは自覚しているが、如何せん布仏姉妹や自身の姉のモノがかなりの巨大さを持っているからか不安になってしまう。
もし、
「異性の部屋で裸でお出迎えとか……エロ漫画じゃあるまいし」
遠いどこかで青い髪のどこぞの姉がくしゃみをした。
体を拭き終えて、タオルで体を隠したまま力男の言っていた場所で服を探す。服を物色しながら簪は思わず呟く。
「どれもこれもサイズが大きい……」
例えば簪が今手に持っているシャツなんて腰の部分を纏めてしまえばワンピースにできそうだ。あんまり洗い物を増やしても申し訳ないしこのシャツを着ることにしよう、と簪は服の袖に手を通す。
シャツを着る過程で、簪はシャツから力男の匂いがすることに気付いて少し深呼吸する。この匂いを嗅いでいるとちょっと落ち着くかもしれない、でもなんか別の何かが暴れ出しそうなので即座に止める。
「……やっぱりブラが無いとダメかも」
何がとは言わないが形が見えてしまい恥ずかしい。だが、彼女のブラジャーは濡れていて使えたものでは無い。と言うか今は居ているパンツも少し濡れていて気持ちが悪いくらいだ。流石に下を脱ぐ勇気は簪には無いので履いたままだが。
とりあえずタオルを巻いてブラジャーの代わりにして、濡れてしまった洗濯物を纏めて畳む。そして、終わったと力男を呼ぶ。
「オッケー!! じゃあ洗濯物乾燥機にぶち込んでエッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!??????」
阿智力男、14歳にして彼シャツのエロさを知る。
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「私の専用機の開発計画がね、凍結されちゃったの……」
「え……規約違反とかしたのか!!!????」
そうだった。最近はデートとか告白とかで忘れていたけれど、力男はバカだった。凍結を凍ってしまう事ではなくアカウントがBANされることと考えているあたり本当にバカだと思う。
来年から大丈夫かなぁ……私はIS学園の寮に入るから勉強を逐一教えてあげられない。進級できるかがかなり心配――
そうだ、私はIS学園に行くのだ。付き合って1ヶ月も経たずに遠距離恋愛だなんて……ちょっと私には耐えられないかもしれない。なんでよりによって今気付くんだ私!
と、とりあえず話を続けよう。まずは凍結を分かりやすく言い直さないと。
「……違う、そっちの凍結じゃなくて。えっとね……中止が一番近いかな?」
「へぇ……なんで!!??」
「――1人目の男性操縦者のせい」
嘘だ。
「その人の専用機を作らないといけないから、私のは無理だって」
「…………」
「どうすればいいのかな、私……」
本当に、どうすればいいのだろうか。代表候補生として頑張ろうにも専用機は無くて。ようやく付き合えた恋人相手に、私に都合のいい他人の風評被害を吹聴する。
本当に私自身が嫌になる。
私の言葉に、力男は何やら考え込んでいる。こんな私のために色々考えてくれるなんて、やっぱり力男は優しい。
互いに無言で、30秒は経っただろうか。何かに思い至ったらしい力男が口を開く。
「じゃあ俺の専用機あげるぜ!!!!」
「え? ……え!?」
え? 力男にも専用機がある――よねぇ。男性操縦者のデータなんてどこも欲しいだろうし。しかもアニメのキャラクターよりも人間辞めてる人間なんだから価値はさらに上がるだろう。
でもこの最強馬鹿にISなんて物を渡すのは最強馬鹿よりも馬鹿だと思う。テロ国家に核兵器を送り付けることに等しい。
「ISとか邪魔だし要らないからあげても良いだろ!!!!」
前言撤回。やっぱり最強馬鹿の方が馬鹿だった。いくら力男が筋肉の権化だとは言え、ISが邪魔だって事は……(ここ2年間の記憶を思い返す)……あるかもしれない(震え声)。
まぁ、とりあえず。
「それはいろんな意味でダメ」
「分かった!!」
「分かって偉い……はぁ、落ち込んでるのが馬鹿らしくなっちゃった」
専用機の計画が凍結されたからなんだ。そんな僅かなマイナスよりも凄まじいプラスがあっただろう。良いことがあった後には悪いことがあるものだ。
いや、そうは言っても納得は行かない。倉持技研を襲撃でもしたい気分だ。口に出したら力男がやっちゃいそうなので出さないけど。
「でも、どうすればいいのかな……」
話が戻ってしまった。こういうところだぞ、私。
「そうだ!!!! 無いなら作ればいいんじゃないか??」
「そんなこと言ったって…………いや、良いかも」
お姉ちゃんも1人で自分の専用機を作ったらしいし。私に出来ない道理は無い。
そう、お姉ちゃんに出来たんだから……私だってやって見せなければならない。そうすれば、きっと私も認めてもらえるはずだから。
「うん、私が自分で作ろう……! 作って見せる!」
「おお!!!! 俺もなんか手伝うぜ!! 何するのかわからんけど!!!!」
「それは……」
さも当然のように助力を申し出てくれたのに、私は1人で作らなければお姉ちゃんに認められない――ほんの一瞬だけそう思ってしまった。
いや、思うだけでなく無意識で口に出してしまったらしい。
「へー!!」
「ご、ごめんなさ――
「でもさ! 2人で簪のお姉ちゃんよりも100倍凄いIS作ったらさ!!!! 俺達2人とも簪のお姉ちゃんよりも50倍天才って事になる!!!! いや、俺はバカだから簪が90倍で俺は10倍だな!!!!」
やっぱり、バカだ。気持ちが良いほどにバカだ。
笑顔でとんでもない事を言ってのける力男に釣られて私も笑顔になってしまう。本当に力男と付き合えてよかったなぁ。
「それはそうとさ!!」
「うん、なに?」
「メッチャ腹減った!!!!」
これまた笑顔で言う力男に、分かったと言って立ち上がりキッチンに向かう。
今日は何を作ろうか。そんな事を考えながら階段を下りる。そう言えば自然な感じで私にご飯をねだって来たなぁ……ちょっと、いやだいぶ嬉しい。
「美味しいご飯、作ってあげないとね」
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簪が出て行った後、力男は自分のベッドに倒れ込む。さっきまで簪が座っていたからか、簪の匂いが僅かにする。
「……メッチャ可愛かったなぁ」
自分のあのシャツも着る人によってあそこまで破壊力が出るのかと、力男は驚愕の余韻に浸るのだった。