男性操縦者の背中には鬼の貌が宿ってる 作:ラウラペロペロ部部長
「……はぁ、辛いなぁ」
IS学園入学初日。早速私は憂鬱な気分になっていた。
親友とも呼べる本音とは別のクラスになり、朝に力男が挨拶をしに来ることも無いし、ましてや昼休みに一緒にご飯を食べる事も無い。放課後に勉強を教える事も無くなった。
本当に辛い。こんな事になるんだったらもっと早くアプローチして告白しておけば良かった。
私のような陰キャが知り合い0の状態から人間関係を構築するなんて不可能に近いのに、何で私はひとりぼっちで4組に居るのだろうか。私の学生生活の終わりを感じる。
「ハーイ、みんな席についてー! HR始めマース!」
担任の先生の声で呆けていた意識が現実に引き戻される。教室の前方に目を向けると金髪の明らかに外国人だと分かる女性が立っていた。見た目的にアメリカとかその辺の人かな?
「ワタシの名前はエドワース・フランシィ! 担当教科は数学デース! 気軽にフランシィ先生と呼んでくだサーイ!」
イエーイ! とテンション高めで自己紹介をするフランシィ先生。私の対極みたいな人だなぁというのが第一印象だ。
「それじゃあ! 皆さんも簡潔に自己紹介をお願いしマース!! じゃあ最初はアt――サンは居ないから井出さんからドウゾ!」
誰か遅刻でもしているのだろうか、と思い見まわす。すると私の隣の席が空いていた……席って名前順じゃないの? と思って自己紹介を聞くがこの席の人以外は名前順に並んでいるようだ。
この席の人は何をしたのだろうか……身長が高すぎるとかかな? 力男もあの身長だから、席替えの時に絶対一番後ろになれて最高! って言ってたし。
「では次は更識サン!」
「あ、はい……」
先生に言われて立ち上がり、自己紹介を始める。
「更識簪です、一応日本代表候補生をやらせていただいてます。よろしくお願いします」
パチパチと拍手が聞こえる。そしてその拍手の裏にヒソヒソとした声も聞こえてくる。断片的にしか聞こえないが良い内容ではないだろう。
その後も何も問題なく自己紹介が進んでいく。1人10秒ほどの簡潔な自己紹介なので、5分もすればクラス全員の自己紹介は終わる。そんな時だった――
視界の端で海が爆ぜた。
10m……いや、20mはあるだろうかという水飛沫がここからでもハッキリと見える。怪獣でも来たのかと一瞬考えたが、それにしては何もいない。爆発でも起きたのかと思ったがそのような音は一切聞こえなかったし聞こえない。
ふと、一瞬太陽に光が遮られた。
何にさえぎられたかを確認する前にドンッ! という音がした。
「……嫌な予感がする」
すでにクラス内は騒然としている。廊下からも声が聞こえてくるので他のクラスも騒がしくなっているのだろう。
特徴的な、吸盤を剥がすような音がする。色々と言いたいことが出てくるが今は一旦置いておこう。私の席の近くにある窓の鍵を開けて、全開にする。今時全開になる窓なんて珍しい。
窓が開けられたことに気付いたのだろう。特徴的な音が近づいて来る。
バンッと窓のフチに手がかかる。さながらホラー映画のようだ……現にクラスメイトは恐れ戦いているし、フランシィ先生も明らかの警戒している。私が凄い異質に見える。
「すんません遅れました!!!!」
ピョンっと窓のフチに飛び乗った力男が笑顔で挨拶する。窓から登場とかスパイダーマンじゃないんだぞとツッコミたくなったが我慢だ我慢。
「ア、阿智サン……ちょっとHRの後来てくださいネ?」
「分かりました!!!!」
いつも通り元気にクソデカボイスで喋る力男。そんな異常人物に対してクラスは相も変わらず騒然としている。誰だってそうなる、私もそうなりかけてる。
「エット……とりあえず自己紹介をお願いできマスカ?」
「分かりました!!!! 阿智力男です!! 2人目の男性操縦者らしいです!! よろしくお願いします!!!!」
「ハイ! じゃあ更識サンの隣の席に座って貰えるカナ?」
私の隣かぁ……もう驚かな――私の隣!?!?!?!?!?!?
え、無理、死ぬ。本当に死ぬ。幸せの供給過多で死ぬ、タダでさえ落とされて上げられてて落差で死にそうなのに追撃を仕掛けないで欲しい。
「よっこらせ……それじゃあ、よろしく簪!」
「ん‶う‶…………よろしく……」
私の隣……一番端っこの後ろに座った力男の笑顔で軽くノックダウンされそうになる。でもとりあえず言わせて欲しい。
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「エット、阿智サンはどうして窓から入って来たんデスカ?」
「モノレールに乗り遅れたので泳いできて乾かすために空中に飛び上がって着地しました!!!!」
「ワタシ日本語結構上手だと思ってましたケドそんなこと無かったかもしれまセン……」
フランシィの言葉に、力男以外のクラス全員が心の中で「そんなことは無いです」と否定する。なんせ日本人からしても意味の分からない事を言っているからだ。
「スイマセン、もう一度、分かりやすくお願いしマス」
「うーん……モノレールに乗り遅れたから、泳いでここまで来て。そのままだと濡れてるから、空中に飛びあがって乾かしてから壁に張り付きました!!」
「ワカリマシタ、モウイイデス……」
文字通り頭を抱えるフランシィ。そんな彼女を意に介さず自分の席に戻る力男。こんなものだから1組の1人目とは違い彼に質問しに行こうとする勇者は現れない。それどころか喋りかける者も居ない。
力男は、間違いなく最悪のスタートダッシュを切った。
「そう思う、私なのであった……」
「何か言ったか?」
「なんでもない」
まぁ、そんな力男と仲良くしてる私も、もれなく最悪のスタートダッシュを切ったわけだけど。
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「文字通りの規格外……か」
「本土からIS学園まで泳いでくるなんてどうかしてマス」
放課後、職員室で教師たちは話し合う。内容は勿論世界最強の規格外についてである。
「はぁ……入学試験の時からこいつは本当に私達を困らせてくれる」
織斑千冬は、そう言って一束の資料を手に取る。
「水中から垂直に100m飛び上がり、水上を走り、凹凸の無い壁に張り付くことすら出来る身体能力……すごいな、書いてある事の9割……8割は私でも不可能だ」
「逆に2割は出来るんですか先輩……」
恐怖の声を無視して千冬はさらにパラパラと資料を捲っていく。
「そして、極めつけにIS搭乗時間40秒で二次移行……本当に規格外だな、ヤツは」
資料が再び机の上に置かれる。開かれたページに書いてあるのは彼のISについての情報。
「しかもその二次移行が第三世代から第二世代への退化なのだから本当に驚きデス……本当にワタシが彼を1年間担当するんデスカ?」
残念ながら、とは誰も言わない。ただ皆が皆フランシィから目を逸らす。
「うぅ……これがジャパニーズ貧乏クジ……」
フランシィはちょっとだけ泣いた。